五の軌跡   作:クモガミ

24 / 30
第二章ー9 5月29日 迷子発見

《午後14:30 『セントアーク』ホーツネック街道》

 

飼い主兼友達のジョーン君に止めを刺されたダク男さんはなんやかんやで憲兵に捕まり、弁解の機会もなく収容所送りにされたのでした。

本当ならあのまま、ジョーン君達の家族の一員として幸せに暮らせたのに、どうしてこうなったのだろう?

 

ま、まぁ必須項目の運送会社の依頼を無事に完了した私達は最後の必須項目である大型魔獣の討伐の為、街から離れ、目的の魔獣が出現する地点に足を運んでいます。

 

「結局見付かりませんでしたわね、男爵夫婦のお子さん……」

「仕方ないわよ。都市中で憲兵達が探し回っていても見付からないぐらいなんだし」

「しかし、行方を眩ましてからもう随分経つ。領邦軍の捜索隊が出てこれだけの時間を掛けても見付からないとはおかしいぞ」

「もしかして本当に……」

「誘拐されたのだろうか……」

 

ゼオラ、アリサ、ラウラ、私、ガイウスさんの順で行方不明となった男爵夫婦の一人息子について話始める。

已然として見付からない男爵夫婦の一人息子に私達はイビトさんが話した誘拐事件に巻き込まれたのでは?とそんな気持ちが強くなっていた。

 

「いや、案外一人で街の外に出たのかもしれないぜ」

「それなら街で見付からないのも頷けるが、流石にそれは無いと思うぞトモユキ」

「そうかー?」

 

冗談っぽくとある可能性を出したトモユキさんだけど、イビトさんにアッサリと否定される。

私もトモユキさんが出した可能性は無いと思う。

街の出入口には外見張りの兵士が居る。

もし小さな子供が外へ出ようとしたら兵士が止める筈だから。

なので子供が一人で街の外へ出るのは限りなく無いに近い。

 

「分からんぞ、子供って言うのは時々大人の想像を越える行動をしでかすことがあるからな。その男爵夫婦の一人息子も俺達が思いがけない方法で街の外へ出たのかもしれねぇぞ」

「それは俺も覚えがある。俺の一番下の妹も時々眼を離すと、とんでもないことをする時があったな」

「お前等も小さい頃、何かとんでもないことをやらかして親を困らせたことがあるんじゃないかぁ?」

「うむ。私は父上にそんな迷惑なことは働いていないと思うが……」

「在ったとしてもそんな昔のこと、私は覚えていませんわ」

「そ、そうね。私も覚えてなんてないわ……」

 

あれ? 気のせいかな。

アリサだけ歯切れが悪かったような……。

 

「お?」

 

すると目標地点まであと半分のところでトモユキさんは何かを見付ける。

私達はトモユキさんの視線を追うと街道の外れに在る小さな休憩場に一台の運送トラックが止まっていた。

そしてそのトラックの運転手さんなのかな? トラックのすぐ横に運転手らしき人も居ました。

 

休憩場にトラックが在るのは別に不思議なことでは無いのですが、私達は運転手さんを見て不審に思う。

どうしてかと言いますと運転手さんは挙動不審そうにソワソワして、何処か様子がおかしいように見えたから。

 

「……何かあったのかしら?」

「うむ、少し気になるがどうする?」

「ん~聞くだけ聞いてみないか? 聞くだけならタダだし」

「まぁ、良いだろう」

 

トモユキさんの提案にイビトさんが同意すると他の皆も同意し、B班全員が同意したことで私達はトラックの運転手さんの元へ赴き、声を掛ける。

 

「こんにちわ、どうかしたんですか?」

「えっ? ………なんだ、領邦軍じゃないのか……」

 

こちらの姿を見るな否や、運転手さんは露骨に残念がる。

相手の反応に私達は首を傾げたり、お互いの眼を見合う。

 

な、何か悪いことでもしちゃったのかな? してないよね私達?

それにしてもこの人今、領邦軍って………。

 

「いや済まない。ちょっと大変なことが起こっちまってな……」

「大変なこと?」

「あぁ実は『セントアーク』での仕事が終わって本社へ帰る途中、この休憩場で休憩がたら一服しようとトラックを止めて降りたんだ。そしたらーー」

「そしたら?」

「小さい男の子が居たんだ」

「――えっ?」

 

そのキーワードを聞いて私達は耳を疑うと共に眼を見開く。

次の瞬間、私達の間に不穏な空気が流れ始め、まさかと思いつつも私はもっと詳しく聞いてみる。

 

「居たって、何処に?」

「信じられないかもしれないがそのトラックの荷台にだ。どうしてそこに居たのか分からないが、確かに小さい男の子がそこで眠っていたんだよーーーって、うわわっ!!? 君何時からそこに!?」

 

この人も私の存在に気付かなかったみたいで、私に声を掛けられてやっと存在に気付く。

相変わらず少し傷付くけど、これで今日二度目だけど、今はそれどころじゃないから流しておこう………。

 

「……その子はどんな服を着てましたか?」

「あと髪の色は?」

「え、ええっと………白いシャツと茶色のズボン、髪の色は桃色だったかな……」

 

男の子の外見を聞いて嫌な予感が的中した私達は顔を見合わせる。

 

「間違いない、きっと男爵夫婦の子よ!」

「どういう経緯かは知らんが、今までトラックの荷台に隠れていたのか。どおり見付からない訳だ……」

「まさかトモユキが言ったことが本当になるとはな………」

「運転手さん! その子は何処に行ったのですか?」

「そ、それが………分からないんだ」

「分からないって……」

「見付けてすぐにトラックの運転席に戻って車内の無線機で『セントアーク』の領邦軍に通報したんだ、それで荷台の方へ戻ったら眼を離した隙に居なくなっていたんだよ!」

 

い、居なくなっていた!?

ど、どうしよう! 早く見付けなきゃ!

街の外には魔獣が潜んでいるから、もし遭遇なんてしたら………!

 

「な、何てこと……」

「不味いぞ、街の外には魔獣が居る! 襲われる前に見付け出さなくては!」

「その子が居なくなったのってどれぐらい前の話ですか!?」

「すぐさっきだ、まだ3分ぐらいしか経っていない……」

「よし、それならまだ遠くへ行っていない筈だ! 今すぐにでも―――」

「待て! その子が何処に行ったのかは分からないんだぞ! まずはその子の足取りを掴むのが先決だ!」

「しかし……!」

「無闇に探して見付かると思っているのか! 頭を冷やせ!」

 

今にも駆け出してしまいそうなゼオラ、ガイウスさん、アリサ、ラウラをイビトさんが制止させ、冷静になれと宥める。

前回の実習でそうだったけど、イビトさんはこんな事態でも物事を冷静に見極めてる…………私より三つ年上だけど、どうしてあそこまで場慣れしてる感じなんだろう?

『特別オリエンテーション』や修行の時に言っていた〝前の仕事〟に関係してるのかな?

 

「その必要は無いぜ!」

 

そんなことを思っているとトモユキさんがトラックの荷台から出てきた。

さっきから姿が見えないと思っていたらそんな所に居たんですね……。

 

「あっ君! 勝手に入っちゃ駄目だろう!」

「細かいことぁ良いんだよ! それよりも皆、荷台からあの男爵夫婦と同じ匂いが在る! この匂いを辿って行けばその子を見付けられるぜ!」

 

匂いを辿るって………そんな犬じゃあるまいし。

……でも、不思議とトモユキさんなら出来てしまうような気がする。

 

「―――本当か、トモユキ?」

「あぁ、この首を賭けても良いぜ!」

 

親指を首に当てて、そう公言するトモユキさん。

その眼はとても嘘を付くようなものではありませんでした。

 

「イビト、トモユキの鼻は頼りになる。旧校舎の調査でもトモユキの鼻に何度も助けられた」

「そういえば前回の実習で離れたところからでも人や魔獣の存在を察知していたわよね」

「もしかするとエレカの存在を感知出来るのもその鼻のお陰なのか?」

「まぁな。自慢じゃないが俺の嗅覚は犬にも退けは取らないぜ」

 

つ、つまりそれって匂いで私の存在を感知してたんですか!?

確かに動物の方なら比較的に私の存在に気付いてくれるけど、まさか匂いで私の存在を感知してたなんて………。

 

〝匂いの訓練をクリアした兄さん達〟でもそこまでの境地に至っていないのに……。

ちょっと変態臭いけど、トモユキさんって凄い!

 

「―――よし、お前に賭けるぞトモユキ。早速男爵夫婦の息子の匂いを追ってくれ!」

「任しておけ!」

 

迅速に男爵夫婦のお子さんを追う鍵としてイビトさんに任されたトモユキさんはクンクンと鼻を鳴らしながら街道を歩き、私達を先導する。

その姿はまるで二本足で歩く、ワンちゃんみたいだった。

 

「おっ、街道から外れたようだな」

 

歩き始めてから50アージュ程街道を進んでいるとトモユキさんが街道から逸れる。

どうやら追っている男の子は街道から逸れたようです。

 

「ん?」

「どうしたイビト?」

 

トモユキさんが街道から逸れた途端、何かを見付けたのか、イビトさんがしゃがみ込んだ。

 

「これは……人間の子供の足跡だ。しかもこの足の大きさ、少なくとも5,6歳ぐらいの大きさだ」

「ビンゴ! 男爵夫婦の子に間違いないな!」

「あぁ。昨日の帝国全土に降った雨に感謝しなきゃな。地面が湿っているお陰で足跡がくっきりと残っている」

 

足跡を見付けたイビトの横から覗いてみると土の地面に子供らしき足跡が在りました。

しかも足跡は街道から外れた森の奥へと続く獣道に続いており、男の子はこの道の先へ向かったみたいです。

 

「っ! ちょっと待って下さい! この道の先って確か………!」

「え? ―――あっ、この先って私達が討伐する大型魔獣の出没地点じゃない!」

「「「「「!!」」」」」

 

ゼオラとアリサの言葉に私達はハッ!と気付く。

そしてすぐさま私は地図を取り出して確認すると二人の言う通り、この先は私達B班が討伐する筈の大型魔獣の出没地点だった。

 

えぇ!? よりにもよって大型魔獣が出現する場所に向かっちゃったの!?

ど、どうしよう………普通の魔獣でも十分危ないのに、大型魔獣にでも遭遇なんてしたら本当に危ない!

 

「急ぐぞ! 魔獣共に見付かる前に見付けるんだっ!」

「おう!」「はい!」「「ええ!」」「「あぁ!」」

 

イビトさんの指示に私達の力強い返事が重なる。

リンクしていなくても皆の『男の子を守らなきゃ!』という気持ちがハッキリと伝わる。

赤の他人だろうと人の命が掛かっているのなら、見捨てる者など私を含めて此処には居ない!

 

ゆっくり探している余裕は無い為、私達は即座に男の子の足跡を辿って森の中へ走り出す。

足跡がくっきりと残っているので走っていても足跡を見落とすことはなかった。

 

「―――待っ……てぇ……!」

 

程なくして森の奥から幼い子供の声が微かに聞こえた。

その瞬間、私達は無意識に走る速度を早める。

一刻も早く、男の子の安否を確かめる為と男の子の安全を確保する為である。

 

そして足跡を辿っていくと私達は草木の少ない開けた場所に辿り着く。

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

その空間の中央にクルクルと宙に舞う蝶々を無邪気に追い掛ける一人の男の子が歩いていた。

見た目年齢、髪の色、服装、全て男爵夫婦のお子さんの特徴と一致し、あの子がそうだと私達は確信する。

安否は言うまでもなく男の子には怪我等は一切無い。

次に周囲を見渡し、魔獣の姿が無いことを確認する。

 

私はホッと溜め息を溢した。

大事に至る前に男の子を見付けられて本当に良かったと心から思う。

皆も同じ気持ちのようで、安堵の表情を浮かべている。

 

「蝶々さん待って~~~。待ってよぉ~~~きゃははは」

 

そんな私達の心配を余所に男の子は未だに蝶々を追い掛け回っている。

楽しそうに追い回すその無邪気な姿はその年頃らしい無邪気さだった。

 

「はしゃいじゃって……ふふ、可愛いわね」

「ええ、そうですわね」

「こんな所まで足を運んだのはあの蝶々を追い掛けてきたみたいだな」

「……やれやれ、こっちが心配して駆け付けたって言うのに無邪気なもんだぜ」

「全くだ、蝶々を気に掛ける前に自分が今何処に居るかを気にして欲しいものだ」

「仕方なかろう、子供とはああいうものだ。しかし、これも女神の加護だな」

「はい、無事で本当に良かった……」

 

アリサ、ゼオラ、ガイウスさんは癒され、トモユキさんとイビトさんは呆れ、ラウラと私は今一度心から安堵する。

皆それぞれ思ったことを口にしたけど、蝶々を追い掛け回る男の子の無邪気に感化されたみたいで、私を含めて全員の表情が和んでいる。

その証拠にさっきまでの緊張と不安の心境が嘘のように何処かへ消えていた。

 

『さて、そろそろ親御さんの所へ返してやるか』とイビトさんがおもむろに男の子の方へ歩き出す。

 

「「「「!!」」」」

 

―――その瞬間。

イビトさん、トモユキさん、ガイウス、ラウラさんが〝何か〟を感じ取ったのか、ハッと眼を見開く。

 

直後に男の子の前方20アージュ離れた草木の茂みからガサッ!という物音が響いた。

 

「?」

 

男の子は物音に気付いてキョトンとし、蝶々から物音がしたところに視線を移す。

視線を移した瞬間――――茂みの影から4本の縄のように柔軟な枝が男の子へ伸びる!

 

――――危ない!!と叫ぶ前にトモユキさんが初めからそこに居たかのように男の子のすぐ手前に現れ、大剣の側面で枝を受け止めた。

 

「ぬっ!」

 

トモユキさんのお陰で男の子へ伸びた魔の手を何とか防がれましたが、4本の枝は妨害した大剣に絡み付き、大剣ごとトモユキさんを引っ張る。

トモユキさんは勿論そのまま大人しく引き込まれる訳がなく、足腰に力を入れて踏ん張った。

私達は男の子とトモユキさんを助けようと駆け出す。

 

――その時、ガサッ!と今度は右方の草木から物音が響く。

反射的に視線のそちらに向けると茂みの影から6本の根っこを足として立った植物系魔獣が姿を現した。

 

「あれは……!!」

 

魔獣の姿を見て、私は前回の『特別実習』時の事と今回の必須項目である討伐する予定の大型魔獣について思い出す。

あの大型魔獣は『ラフレフラ』。

北ホーツネック街道の外れに出没し、尚且つ私達B班が必須項目で討伐する筈の魔獣であり、前回の実習中に襲い掛かって来た魔獣でもある。

トモユキさんの大剣に巻き付かせた枝の持ち主も『ラフレフラ』で間違いない。

 

「………シュ!」

「ッ!!」

 

現れて早々『ラフレフラ』は茎の部分に咲いた禍々しい花から黒い種をトモユキさん目掛けて銃弾のように発射した。

あれは前回の実習で見たので、私とイビトさんとガイウスさんはあれの威力を知っている。

だからあれは避けるか、防ぐかしないと危ない。

でも今のトモユキさんは大剣に蛇のように巻き付いた枝のせいで種を防ぐのは不可能でした。

かと言って大剣を捨てて避ければ射線上、すぐ横に居る男の子に種が当たってしまうので、どちらにせよトモユキさんは防ぐことも避けることも出来ず。

覚悟を決めて男の子の盾になることを選ぶ。

 

―――しかし、その覚悟は無駄に終わる。

黒い種が二人まであと1アージュ程接近した瞬間、地面を滑るようにイビトさんがトモユキさんの右横に割り込む。

次に服の袖から刀身の無い剣の柄を取り出し、剣格からサーベル状の水の刀身が生えると飛んできた黒い種を全てその剣で叩き落とす。

そしてイビトさんはすぐさま振り向き、トモユキさんの大剣に巻き付いた枝を水の剣で切断する。

 

「怪我は無いな?」

「勿論だ。助かったぜイビト!」

「礼はいい、それよりもお前は前の奴を殺れ。俺はアイツを片付ける!」

 

そう伝えてイビトさんは種を撃ったラフレフラBの所へダッ!と駆け出す。

一方で向こうは自分に近付こうとする者を許す訳がなく、ラフレフラBは再び黒い種を撃つ。

イビトさんはそんな攻撃などものともせず、移動速度を落とすことなく降り掛かる黒き種を剣で弾く。

撃退どころか足止めも出来ずラフレフラBは慌てて縄のような枝で拘束しようと試みるがその前に懐への突入を許してしまい、剣で枝は全て斬り落とされ、更に茎を二枚に下ろされる。

身体を三つに裂かれたラフレフラBは絶命し、セピスへと朽ち果てた。

 

「やるなイビト! じゃあこっちも……!」

 

イビトさんに触発されて自分もやるぞ!と気力が増したトモユキさんは宝銃『トライデント』を茂みの奥に姿を隠れているラフレフラAにその銃口を向ける。

バシュン!!と『トライデント』から三つの光弾が発射され、茂みの奥に潜むラフレフラAに命中し、焦げた匂いと共にセピスへと朽ち果てた。

 

「やりましたわね!」

 

二人が2体のラフレフラを倒したのと合わせて私達は男の子の元へ到着し、ゼオラが無自覚にも危うい発言をしてしまう。

こういう時にそういう事を言うと大抵良くないことが………。

 

「ーーーいや!」

「まだだッ!」

 

ラウラとガイウスさんがそう言うと四方八方の茂みからガサガサ!と揺らぎ、茂みを掻き分けてラフレフラ6体とラフレフラの子供、『ラフレフラ・ベビー』の大群が現れる。

どうやら見事にフラグを回収してしまったようです………。

 

「ちょ、多くないっ!?」

「しかも囲まれちゃったよ……!」

 

更に悪いことに魔獣の群れに囲まれてしまい、視界が魔獣で埋まってしまう。

来た道も群れによって立ち塞がれ、退路を断たれて逃げ出すことは不可能になってしまう。

こうして私達はこの魔獣の大群と戦うことを余儀なくなるのでした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。