五の軌跡   作:クモガミ

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第二章ー7 5月29日 旧都『セントアーク』

《午後12:00 『セントアーク』行き列車内》

 

『トリスタ』駅から出発してから約5時間。

列車内にアナウンスが流れ、間もなく目的地の『セントアーク』に着くことを知らせてくれる。

雑談やトランプ、ブレイドで時間を潰していたB班の面々は『やっとか』とボヤキつつも帝国の五大都市の一つがどんなモノか、気になって楽しみだった。

 

「ほらイビトさん。もうすぐ着きますよ」

「―――んん?」

 

そう経たない内に目的地に着くので、位置的に一番イビトの近くに居るエレカがイビトの身体を揺さぶって起こす。

あれからずっと眠り続けていたイビトはようやくその重い目蓋を開いた。

 

「―――あぁ、もう朝か?」

「もう昼よ……」

 

寝惚けているのか、起きて早々ボケをかましたイビトに突っ込むアリサ。

 

直後に列車は『セントアーク』に着き、七人は列車から降りる。

そして改札を通り抜けて駅から出ると。

 

「わぁ………!」

 

エレカが感嘆の声を上げる。

駅から出て広がる旧都『セントアーク』の景色に心奪われたのだ。

白を基調とした歩道に沿って立ち並ぶ様々な形をした建物。

その中に所々混ざっている旧世紀時代のものと思わしき歴史ある建造物。

街中に流れる大きな川と駅前に在る芸術的な噴水。

巨大な女神の像が建てられた教会。

ゴミも無く、綺麗に整備してある道々。

他にも『トリスタ』には無い大きな店やホテル、娯楽施設等が数多く並んでおり、そんな街中を縦横無尽に歩き回る多く人々と導力車。

どれも田舎育ちのエレカにとっては目移りする物ばかりだった。

 

「此処が『セントアーク』………凄いな」

「ええ、想像以上ね」

「観光スポットが他の都市より多いとはいえ、流石は帝国一の観光地。人で溢れかえっているな」

「あの人々の大半が観光客でしょうね。話通り凄い人数ですわ」

「――相変わらず、此処は賑やかだな」

「えっ? イビトさん以前にも『セントアーク』に来たことがあるんですか?」

「まぁな。それにしてもエレカ、お前【サザーランド】州出身なのに来たことないのか?」

「……はい。私仕官学院に来るまで一度も自分の村から出てことがなかったですから……」

「そうなのか………で、どうだ? 自分とこの州都は?」

「凄いです! 大きな建物が一杯並んでて! 見たこと無いぐらい人や導力車が多くて! 街全体が広くて綺麗で! とにかく全部が凄いです!」

「―――ハハ、気に入ってくれてようで何よりだ」

 

不意に爽やかな男性の声が聞こえ、B班全員は声のした方に顔を向けるとそこには金髪の青年が立っていた。

如何にも高級そうな装束を纏い、身体全体から気品が滲み出るその青年はかなり地位が高い人物だと推測出来る。

それを裏付けるように青年の後ろに従者らしき者が二人も立っていた。

ゼオラはその青年を見て眼を見開く。

 

「貴方は―――」

「ふふ。見知った顔もあるがまずは自己紹介からさせてもらよ。私はシュナイゼル・I・ハイアームズ、我が州の都市『セントアーク』へようこそトールズ士官学院《Ⅶ》組の諸君」

 

 

 

《視点変更/視点者=イビト》

 

 

 

「久し振りだね、ゼオラ君。前に会ったのは君が貴族界にデビューした時以来かな」

「はい、あの時はデビュー仕立ての私に色々と教えて頂きありがとうございますシュナイゼル様」

「なに先輩として当然のことしただけさ」

 

貴族特有の社交辞令を交わすゼオラとシュナイゼル侯爵。

俺達を迎いに来たように現れたこの『セントアーク』、いやこの【サザーランド】州の主であるハイアームズ侯爵家の長男『シュナイゼル・I・ハイアームズ』は自家用の導力車リムジンに俺達を乗せ、宿泊先に送ってくれている。

何故侯爵家の長男がそのようなことをするのかと言うと侯爵閣下は今回俺達B班の実習の課題を現当主の代わりに一通り選別してくれたそうで、ついでに今年設立された俺達特科《Ⅶ》組の顔を一目拝見したかったとのこと。

成る程と俺達は納得し、今日の課題内容が入った封筒を丁重に受け取る。

 

封筒を受け取ってチラリと俺は周りの様子を伺うとエレカだけがギコちない様子でソワソワし、眼の焦点が定まっていなかった。

まぁ無理もない。相手は地元の州を治める大貴族。

少し前まで辺境の地に住んでいた平民のエレカとは身分が違い過ぎる。

しかも貴族の中ではユーシスやゼオラと同格の地位を持つだけではなく、二人にはまだ無い威厳と優雅さを持っているシュナイゼル侯爵と対面していることと最高級のリムジンに乗っていることに極度に緊張しているのだろう。

情けないと思うが仕方のない事だろうし、エレカらしいと言えばエレカらしい。

少しは堂々としている留学生のガイウスを見習って欲しいものだ。

……我が物顔で踏ん反り返っているトモユキは別だが。

 

「イビト君も元気そうで何よりだ」

 

すると今度は俺に声を掛けるシュナイゼル侯爵閣下。

その接し方に俺は疑問を感じる。

 

「―――すいません、前にも一度お会いしたことが?」

「あぁいや、済まない。四年前に君が闘技場の大会に出ていたのを見たものでね」

「闘技場?」

 

一体それは何だと言わんばかりにガイウスは首を傾げる。

後で説明してやるとして、今の言葉を聞いて侯爵閣下が俺と会ったことがあるような口振りをしたことに合点がいく。

 

「成る程、そういうことでしたか。自分のような者の顔を覚えて頂いたとは恐縮です」

「謙遜することはないさ。当時の君は他の者よりも飛び抜けた強さを持っていた、その証拠に我が弟に勝ったぐらいなのだからな」

 

弟? 4年前のことだからあまりその時のことは覚えてないんだよな………。

しかし、その弟君は察するに俺と同じ年のようだからハイアームズ家で俺と近い年齢と言えば―――。

 

「……もしかして《Ⅰ》組のパトリック様のこと………ですか?」

 

俺が思い出すよりも早くエレカが勇気を振り絞るように恐る恐るハイアームズ家の三男坊の名を挙げる。

極度に緊張していても地元の州を治める大貴族と話したいという欲があったのだろうか、内気で人見知りなコイツが珍しく自分から声を出した。

これも修行の成果だとしたらちょっと喜ばしいものだ。

 

「そう、君達とは違う組だが良くしてやってくれたまえ。少し意地っ張りな弟だがな」

「―――仲良くなれるかどうか分かりませんが、善処します」

 

本当のことを言えばどうでもいいことなのだが、相手が相手なので当たり障りの無い返答を出す。

他の皆も前向きな返答を出し、侯爵閣下は安心したように『済まないね』と苦笑する。

そうこう話している内にリムジンは他のホテルよりも一際大きなホテルの前に泊まり、リムジンのドアが開く。

『さっ、着いたよ』と侯爵閣下は外へ出るように促し、俺達は先にリムジンから降りる。

目の前に立つ巨大なホテル、『セントアーク』の中でも圧倒的な存在感だがそれよりも眼が行ったのはこのホテルの名前だった。

記憶違いでなければ、このホテルは帝国が誇る最高級のホテルである。

 

「これが今回君達が宿泊するホテルだ、私が手配した物の中でも一番のホテルだ。存分に寛いでくれたまえ」

「な、何から何まで本当にお世話になります………」

「ハハハ、気にすることはないさ。それでは私はこれから帝都に出向かなければならない用事が有ってね。この辺で失礼させて貰うよ。実習頑張ってくれたまえ―――君達に女神の加護を」

 

そう言ってシュナイゼル公爵閣下はリムジンに戻り、空港の方へ去って行った。

リムジンの姿が見えなくなった途端、糸が切れたかのようにエレカが大きな溜息を零す。

 

「ふぁはぁ……緊張した……」

「大丈夫かエレカ?」

 

緊張した余り胸に手を当てて身体がくの字に曲げるエレカにガイウスが心配して声を掛ける。

地元の平民だから仕方ないかもしれんが、留学生のガイウスとはエライ対照的だな。

 

「いやはやとんだ大物が迎いに来てくれたもんだな」

「シュナイゼル・I・ハイアームズ。噂では貴族派切っての貴公子の一人だと聞く」

「ええ、そしてアルバレア家のルーファス様の友人でもありますわ」

「そのルーファスって言う人って、確かユーシスのお兄さんだったわよね」

「む、ユーシスに兄が居たのか」

「初耳です……」

「まぁ何にしても良く出来た人であることと相当な手練れだったな」

「……えっ? そんなことまで分かるんですかイビトさん?」

「――あの人、お前が話し掛けても全く驚かなかっただろう」

 

俺の指摘にエレカは『あっ』とその時のことを思い出す。

元々の影の薄さと気配の隠し上手も相まって存在感が極端に薄いエレカの存在を察知出来るのは学院の中でも数少ない。

そしてそのエレカの存在を察知出来る者達は決まって相当な実力者だ。

つまりあのシュナイゼル様は初めからエレカの存在に気付くぐらいの腕の立つ人物だということが分かる。

 

「さっ。無駄話はこれぐらいにして、早々にチェックインを済ますぞ。ホテルは待っててくれても実習は待っててくれないぞ」

 

話を切り上げて俺がホテルの中へ入ると後を追うように他の皆も中へと入る。

中に入ると床に敷かれた真っ赤なカーペット、大理石で作られた壁、天井にブラ下がった金色に輝くシャンデリア、貴族向けの雑誌に載っている数十万ミラも下らない椅子や器具、その他如何にも高級そうな物が至る所に在るホテルのフロアが眼に広がった。

今回の実習で俺達B班が宿泊するホテル、それは帝国屈指の高級ホテルで海外からの富豪や貴族がこぞって利用する程の人気があると言われている。

そんなホテルの中を見て、B班のある者は見惚れたり、ある者は興味深そうに、ある者は口を開いて驚いたり、ある者は感心そうに眺めていた。

 

流石の俺も帝国随一のロイアルホテルに圧巻されていると俺達のところにこのホテルの定員とメイドがゾロゾロと現われ、支配人らしき人物がその集団の前に出る。

 

「トールズ仕官学院の皆様ですね? ようこそお待ちしておりました。――ささ、お荷物をお持ちします」

 

と思った通り支配人だった人物が従業員達に荷物を預からせようとする。

随分待遇の良い出迎えだと不審に思った俺は支配人と従業員達を良く観察してみると彼等の視線はチラチラとゼオラに向けられていた。

どうやら彼等は【四大名門】の一つ、カイエン家のご息女であるゼオラが居ることよって俺達B班を特別扱いしているようだ。

 

自州ではないのに他州でもこれ程影響力が強いとは……。

流石はカイエン家、伊達に【四大名門】のリーダー格は張っていないか。

 

そう心の中で感心と呆れを俺が抱くとゼオラが一人だけ前に出て、

 

「結構ですわ。それよりもお部屋に案内してもらえません? 実習の為に荷物を置いてすぐに街に出たいのです」

「はい、かしこまりした。それではゼオラ様は最上階のスイートルームへ。ご学友の方々にはそれぞれ個室へ案内させて頂きます」

「それも結構です。今は学生の身、私も含めて過度な待遇は控えてください。――男子3名、女子4名でそれぞれ1部屋ずつ利用します」

「い、いえ……それでは余りにも――」

「い・い・で・す・わ・ね?」

「は、ハイ! 直ちにお部屋へご案内致します!」

 

有無言わさぬゼオラの気迫に負けた支配人は急いで部屋を用意しなさいと従業員達に指示する。

【四大名門】の者だから何処でも特別扱いされることが気に食わないというのも有るのだろうが、貴族である前に自分が一人の学生であることをしっかりと自覚しているゼオラに俺達は思わず感心してしまう。

 

そしてそう経たない内に俺達は自分達の部屋へと案内される。

前回と違って今回の部屋は男女別に別れており、部屋の中に入ってもまた驚かされる。

シートやクッション、木材に至るまで最高級の物で作られたベッド、各部屋に備わっている人数は入れる入浴ルーム、無料で利用出来るルームサービスの数々等、前回の実習で泊まった宿とは比べられないぐらい設備とサービスだった。

やがて一通り自分達の部屋を見て荷物の一部を部屋に置いて俺達B班はフロアに集まり、このホテルの感想を言い合う。

 

「流石は帝国一の高級ホテルね。設備とサービスが他とは一頭抜けてるわ」

「我が都市一の高級ホテルも中々のものですが、此処はそれ以上だと認めざるおえませんわね」

「都会は本当に凄いところだな、此処に来てから驚かされてばかりだ」

「私もです……。こんなホテルに泊まることなんて一生無いと思っていましたし………」

「ふふ、だったらこの実習にも少し感謝してくてはな」

「せっかく来たんだし、ルームサービスのマッサージを利用しようぜ!」

「あぁ良いわね! 今日の実習が終わったら呼びましょう」

 

トモユキの提案に乗っかるようにアリサは女子皆にマッサージを受けようと提案する。

その提案にラウラは首を傾げ、

 

「別に構わないがまだ若い我等には少し早いのではないか?」

「人よってはくすぐったいかもしれんが、腕の良いマッサージなら身体の疲れを取ってくれる。このホテルのマッサージ師の腕は超一級品だと聞く………日頃の溜まった疲れを取ってくれるのはまず間違いないだろうな」

「ホントかイビト? だったらこんな機会滅多に無いぜラウラ。受けてみようぜ、何事も経験だ」

「ふむ。そこまで言われると興味が沸いてきたな」

「俺も受けてみよう。トモユキの言う通りこんな機会滅多に無いだろうしな」

「勿論私も受けますわ」

「わ、私も!」

 

全員が賛成したことにより今日の実習が終わり次第、ホテルのマッサージを受けることになった。

実習に来たとはいえ、せっかく利用出来るのならば利用しない手はないだろう。

 

さて、そろそろ実習の方に移ろうと俺達はシュナイゼル侯爵閣下から受け取った封筒を開けて今日の課題内容を確かめた。

 

 

《特別実習1日目の課題は以下の通り》

・北ホーツネック街道に生息する大型魔獣の討伐【必須項目】

・お届け物の手伝い【必須項目】

・落とし物の捜索

 

 

「必須項目の一つは前回と同じ大型魔獣の討伐か、まぁこれは場所的に最後にやった方が良いだろう」

「二番目の課題は運送会社からの依頼みたいね」

「三番目は市役所からの依頼だな」

「ふむ。まずはどちらから手を付ける?」

「そうだな……一番目は最後にやるから下から順にやるとしよう」

「じゃあ最初は市役所に向かいましょう」

 

話が纏まると俺達B班は1日目の実習に取り掛かる為、市役所へと赴いた。




~~貴方に質問コーナー~~

このコーナーはあるキャラに自分のクラスメイトにどういうイメージ又はどう思っているのか?
そんなことを聞いていく、コーナーです。
では早速質問タイムに行きたいと思います、今回のターゲットはトモユキ!

Q1.リィン
肉の盾(トモダチ)♡。鈍ちんなのも程々にな。


Q2.アリサ
何とも分かり安い性格をした弄られ役。ストライプがお好きですね。


Q3.エリオット
頼りなさそうに見えるが肝は据わっている良い奴。女に生まれ変わってこい。


Q4.ラウラ
男の手一筋で育てられたようなお嬢様。純白が似合うね君は。


Q5.ガイウス
多分クラス1の人格者。見せてくれよ、本当のファンサービスを!


Q6.エマ
クラスのお母さん。俺等《Ⅶ》組のBL委員長!


Q7.ユーシス
一見偉そうだかなり天然なお坊ちゃん。この世に兄より優れた弟なんていねぇんだ!


Q8.フィー
猫みたいで可愛い奴。あと10センジュだな。


Q9.マキアス
顔は父親似だが父親とは真逆な性格。俺等《Ⅶ》組の油性ペン!


Q10.エレカ
トランジスタグラマー。召し使いには一年早い。


Q11.イビト
寝坊助だけどクラスの中で一番強い奴。何故だが妙に親近感を感じる。


Q12.ゼオラ
今時珍しい良い意味で貴族らしい大貴族。胸囲の格差社会を浮き彫りにしてくれる。


Q13.ルーティー
出るとこ出ていない不憫な子。くっ!


Q14.サラ
フィーよりも血と火薬の匂いが濃い20代後半の女性。頑張れ! 残り五年!

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