五の軌跡   作:クモガミ

21 / 30
第二章ー6 5月29日 B班の心配

《5月29日 6時40分 【トリスタ】駅内》

 

《実技テスト》から三日後、第二回目となる『特別実習』の初日。

俺達B班はリィン達A班よりも一足早く、駅内で自分達が乗る予定である列車を待っていた。

時間的には俺達の列車の方がリィン達の列車よりも来るのが早いので、A班よりも早く居るのは当然と言えば当然、なのだが。

 

「しかし、あいつ等ちゃんと全員集合してるのかね」

「そりゃあしてるでしょう。………多分」

「断言出来ないのが怖いですよね……」

「ふむ、今頃玄関のところで睨み合っているかもしれんな」

「あり得るますわね……十分」

「中々上手くいかんな。あの二人に関しては」

「zzzzzzz…………」

 

朝っぱらからA班がまともに集まっているかどうか心配する俺達B班。

 

約3名の仲はまだ改善されてないし、今頃寮で一悶着起こして『こんな奴と一緒に行けるか!』って実習に行くことを拒否してるかもな。

いや、そんなことをすれば停学ものだろうし、フィー以外皆真面目だからサボるのは有り得ねぇか。

 

すると噂のすれば何とやら、A班のリィン達がやって来る。

 

「あっ皆、おはよ―――」

「ふざけるなぁテメェ等!!」

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

挨拶をしようしたエリオットを遮るように怒鳴り声が駅内に響き渡り、ビクッ!!とリィン達の身体が硬直する。

今の怒鳴り声を上げたのは………ガイウスだった。

 

普段温厚で人格者である彼がそんな言葉を使ったことがとても信じられないと言った顔でフィー以外が口をパクパクする。

リィン達のその反応を見て俺は腹の底から沸き上がって来るものをつい吐き出してしまう。

 

「ぶっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 

腹が痛い!

余りにもリィン達の顔が間抜け過ぎて、可笑しくて堪らない!

もう笑いが止まらいんじゃないくらい笑いが止まらないぜ!

 

だが数秒経って、やっと笑いが収まり、俺は顔を上げてリィン達の方を見てみる。

彼等は何が起こった分からないかのようにポカーンと棒立ち状態だった。

どうやらまだショックのようで、俺は皆を立ち上がらせようと功労者であるガイウスの背中をバンバンと叩く。

 

「大成功だなガイウス! 最高だぜ!」

「む……上手くいったのか?」

「無論だって、見ろよあの顔! まさに傑作!」

「い、一体どういうことなんだ?」

 

A班の中で一人だけ口が聞けるようになっても、状況が読み込めないリィンは説明を求める。

その要望に対し、ガイウスが最初に答える。

 

「トモユキが後から来るリィン達を脅かせてやろうと言ってな。リィン達がやって来たらああ言えと」

「……つまり、トモユキがガイウスにあんな台詞を言わせたのか?」

「その通り! どうだ、度肝を抜かれたろう?」

 

ネタばらしをするとA班の面々はジト眼でこちらを睨んだり、呆れた表情を浮かべる者も居れば、ホッと安堵する者が居た。

 

「あぁ本当にビックリしたぁ~、ガイウスが突然あんなことを言い出すからとても信じられなくて夢かと思ったよぉ」

「わ、私もあの物腰の柔らかいガイウスさんがあんな乱暴な使うなんて、意外過ぎてもう………」

「……済まない、まさかにそんなに驚くとは思わなかった」

「それにしても偉く真に迫ってたよね?」

「ふっ………そりゃあ数週間前から仕込んでいたからな」

「ガイウスに何を仕込んでるのよアンタは……」

 

皆反応は様々だが、楽しんでくれて何よりだ。

俺のB班もウケたようだし。

 

「いや、ウケてないから」

「私達もポカーンでしたわよ」

「えっマジ? せっかくのガイウスのファンサービスなのにか?」

「ファンサービス? ガイウス、何のことだ?」

「うむ。俺にもさっぱり分からない」

 

《Ⅶ》組の皆には分からなかったぁ、残念だ………。

まぁいっか! 分かる人には分かってくれるさ!

 

「と、ところでイビトの姿が見当たらないんだが」

「あっはい。イビトさんならあそこに……」

 

とエレカが指で居場所を指し示す。

そこには壁沿いに設置されたベンチで眠るイビトの姿が在った。

 

「zzzzzz…………」

「………また徹夜したのか?」

「見ての通りな。しかも起こしに行っても全然起きないから俺とガイウスで寝たまま、イビトを着替えさせて此処へ運んで来たんだぜ」

「あははは………大変でしたね皆さん」

 

前回のことを思い出したのか苦笑する委員長。

一方でマキアスとユーシスは『こんな奴に負けたのか』と言わんばかりの表情を浮かべる。

 

すると駅内にアナウンスが流れる。

どうやら俺達が乗る列車が間もなく到着するとようだ。

 

列車が到着する前に俺とガイウスはリィンに近付き、マキアスとユーシスには聞こえない程度の小さな声で言う。

 

「(―――リィン、お前ならやれる筈だ)」

「(え……)」

「(あの二人の仲立ち、俺には無理だったがお前には何か出来ると思う)」

「(それって―――)」

「(まぁ頑張れ。応援してっから)」

 

ポンと肩に手を置いて

ついでに気付かれないように制服のポケットに手を忍ばせておく。

 

「よっしゃ、ホームに行こうぜ!」

「……えっと、それじゃあね」

「女神の加護を。お互い、頑張るとしよう」

「ああ、そうだな」

「そちらこそ気をつけて」

「じゃね」

 

リィン、委員長、フィーに見送られながら俺達B班はホームへと向かう。

その途中………。

 

「―――あっ、イビトさん。ベンチに置いたままです!」

「そうでした、忘れていましたわ! ――って、まだ寝てますわ!」

「だぁもう! 世話が焼けるな……ガイウス、運ぶの手伝ってくれ!」

「うむ」

 

そんなこんなで締まらないまま、俺達はイビトを運びながらホームへと向かい。

到着したセントアーク行きの列車に乗り込み、間もなく列車は発車するのだった。

 

 

 

……列車が発車してから数十分。

揺れる列車の中で俺達は実習地である『セントアーク』について軽くおさらいした後、和気あいあいと雑談を繰り広げていた。

各州の州都と『トリスタ』とはかなり離れているので『セントアーク』に着くには特急でも五時間も掛かるらしく。

その長い時間の間、俺達はお喋りで時間を潰そうというわけだ。

 

「―――ゼオラ、今日のお前はピンクだな」

「死にたいようですわねトモユキ?」

「あわわわわ、だだだ駄目だよゼオラ!」

「気持ちは分かるけど、こんなところで魔法は止めなさい!」

 

ズバリと言い当てるとゼオラはコメカミをピクピクとさせながら魔法を放とうとするが、両脇に居るエレカとアリサに止められる。

列車で魔法を放とうとするとは全く常識が無いな。

 

ちなみに席の並びに関してはまず俺、ガイウス、ラウラ。

向かい側の席にアリサ、ゼオラ、エレカ。

人数的な問題でイビトには反対側の席に座ってもらっている(未だに寝ている為)。

 

するとゼオラを何とか落ち着かせたアリサは『バリアハート』に向かうリィン達A班について持ち上げる。

 

「今頃どうしているかしらリィン達?」

「お? 気になるかリィンが。特にリィンが」

「な、何でリィンだけなのよ!? 私はA班全員を気にしているのよ!」

 

顔を赤くして反論するアリサ。

ちょっとからかっただけでそんな反応を見せるお前はホント弄り甲斐があるよ、うん。

 

「多分、リィンが二人の仲立ちをしていると思いますわ」

「あぁ、俺もそう思う」

 

今向こうではリィンが絶賛不仲のユーシスとマキアスの仲立ちをしていると推測するゼオラとガイウス。

 

「ふむ……だが、どう仲立ちするのだろうな? 並み大抵のことではあの二人の不仲を取り持つことは難しいと思うが……」

「そうね、せめて仲良くするのは無理だとしても実習中、いがみ合いせずに協力し合ってくれたら大分違うんでしょうけど……」

「そんな上手い方法が有るのかな……?」

「……思い付きませんわね」

 

流石に入試首席のゼオラでも二人を協力し合う良い方法は思い付かないようだ。

他の皆もこれといった方法が思い付かず、首を傾げるだけだった。

 

「全く、あの二人もリィンとアリサみたいに抱き合って仲直りすれば楽なのにな」

「そうねーーーって、抱き合ってなんかいないわよ!!」

 

バッ!と立ち上がり、顔を真っ赤に染めて否定するアリサ。

何時ぞやのパンツと同じ色になってるぞ、うん。

 

「―――俺なら二人の競争心に訴え掛けるだろうな」

「え?」

 

不意に反対側の席から眠っていたイビトが会話に参加して来た。

俺達が視線をそちらに向けるとイビトは眼を閉じたまま、話を続ける。

 

「……前回の実習で俺達B班の評価は〝E〟だった。そして今月の《実技テスト》であの二人はまたチームとして連携が出来なかった上に教官や俺との戦いで手も足も出せずに負けた」

「それがどうかしたんですか……?」

「………ユーシスはプライドの高い奴だ。マキアスも少なからずプライドが高い方だろう。そんな二人が実習やテストで散々な結果を出して気にしない程、達観している訳じゃない。当然悔しい筈だ、そこを上手く利用すれば良い……」

「―――成る程、読めたぞ」

 

そこまで言ってくれれば、イビトの言いたいことが分かる。

他の皆はまだ分かっていないみたいだから俺が代わりに説明するとしよう。

 

「なぁガイウス、エレカ。お前等前回の実習であんな評価を取ったけど、それについて悔しいと思わなかったか?」

「そ、そりゃあ……悔しいですよ!」

「あぁ俺もだ。覚悟はしていたが実際に落第点を付けられた時は何とも言えない悔しさを感じた……」

「だよな。じゃあ今回の実習では前よりも良い評価を得たいよな?」

「当然です! その為にも修行してきたんですから」

「勿論俺も今回は高い評価を得るつもりだ」

「ならリィン率いるA班よりも上の評価を目指すよな?」

「はい!」

「あぁ!」

「よし、これで分かったろう。イビトはお前等の〝そういう気持ち〟に訴え掛けて協力させようって言いたかった訳だ」

 

俺がそう言うと皆は解けなかった謎が解けたように『あっ』と眼を見開く。

全員、イビトが伝えたかった意味を理解したようだ。

 

「―――そういうことか。今回の実習でお互いに協力し合わなければ、前の実習と同じような結果と評価を出した上に我等B班に実習の評価で負けてしまう。そういう危機感を与え」

「同時に私達に負けたくない、前よりも良い成果を出したい、そんな競争心や向上心を芽生えさせて」

「自らの意識で協力し合わなければいけないことを二人に自覚させる。確かにこういう誘導の仕方ならあの二人を曲がりなりにも協力し合うかもしれませんわね!」

 

ラウラ、アリサ、ゼオラの順で丁寧に解説する。

俺もこのやり方なら上手くいくと思うが………。

 

「……まぁ此処でこんなことを言っても伝える相手が此処に居ないんじゃ意味はないんだがな」

「あっ………」

 

現実に引き戻すようにイビトがそう言うと皆は根本的なことに気付かされる。

そう、違う班の俺達がこの場でああすれば良い、こうすれば良いと考えても肝心なリィン達が此処に居なければ何の意味がない。

所詮、俺達は仮定の話をしていただけに過ぎないのだ。

 

そもそもさっきのあれはあくまでイビトが考えたやり方だ。

性格が似ていないリィンが同じようなやり方をするとは限りならない。

アドバイスするなら、駅で別れる前にするべきだったのだ。

 

そしていつの間にか周りの空気が重くなり、誰も口を開こうとしなかった。

気不味い空気を解こうと、俺は今日の女子達の下着の色を教えてやろうとしたその時―――。

 

「あの二人が同じ過ち繰り返す程、愚かとは思えない。きっと協力し合う筈だ、リィンがそうしてくれると俺は信じている」

「ガイウス………」

 

宣言するようにガイウスはリィンを信じていると言い、アリサを含めて女子達が眼を丸くする。

彼の眼は一つの曇りもないのだ。

彼は本気で言っているのだと俺達は悟る。

共に学院生活を始めてからたった約2月でガイウスはリィンを全面的に信頼しているのだ。

俺もそんな純粋な彼に尊敬の念を抱く。

 

すると女子達はガイウスのリィンに寄せる信頼に共感したのか、うんうんと頷き始める。

 

「そうね、リィンなら上手くやってくれる筈よ」

「うむ。私もそう思う」

「彼ならきっと何とかあの二人を纏めさせることが出来ますわ」

「皆もリィンさんを信頼してるんですね……」

 

そうだ、アイツはクラスの殆どから信頼されている。

性格が良いというのも有ると思うが、アイツにはリーダーの素質がある。

その証拠にアイツと行動を共にしたことがあるアリサ、ラウラ、エリオット、ゼオラ、ルーティー、そしてガイウスから強く信頼されている。

 

よくよく考えたら心配する必要などないのかも知れない。

リィンならきっと―――。

 

「こりゃあリィンが上手くやってくれることを祈るしかないな。なっイビト?」

 

と、俺がイビトの方に向き直ると。

 

「zzzzzz………」

「―――って、また寝てるし!」

「起きたと思ったら、全く何時まで徹夜していたのやら………」

「もう、イビトさんは………」

 

話の途中で再び眠りについたイビトに俺達は呆れる。

 

ゼオラに言う通り、一体何時まで徹夜で作業してたんだアイツは?

夜更かしは身体に悪いぞと言いたいところだが、当人が寝てやがるから歯痒いな……。

 

まぁそれは一旦置いておこう。

 

「さっきも言ったがリィンが上手くやってくれることを祈るしかないわな。ーーーもし駄目だったらポケットに忍ばせておいた〝秘密兵器〟が役に立つ筈だ……」

「なんだ、その〝秘密兵器〟と言うのは?」

「それはおまけで分かる」

「「「「「「???」」」」」」

 

何を言っているのか分からず、首を傾げるガイウス達。

分からないのなら分からなくて良い、分かる人には分かることなのだから。

そして俺はリィン達の話から違う話題に切り替えて、場を盛り上げるのに専念するのだった。

 




~~おまけ~~

その頃A班は、リィンがユーシスとマキアスを何とかお互いに協力し合うように説得するのに成功していた。

「ん?」

するとリィンは制服のポケットの中に何かが入っていることに気付く。
それを取り出すと折り畳まれた一つの紙切れが出てくる。

「リィン、なんだそれは?」
「分からない。何時の間にかポケットに入っていたんだ」

どうして自分のポケットにこんな物が入っているのだと疑問に思ったリィンだが、とりあえずその折り畳まれた紙を開いてみるとそこには文字が書いていた。
しかも、その文字の書き方に見に覚えを感じる。

「これ……トモユキの字だ」
「アイツのか?」
「なんて書いてあるの?」
「えっと………何々」

フィーに聞かれてリィンは紙切れの内容を読み上げる。


『A班の諸君へ。
どうせこの手紙を読み上げている頃には約2名がやられ役の下っ端ようにとても愉快な喧嘩しているだろう。
さぁそんなアホなことなど置いといて、どうだぁ今回の実習上手くいきそうかぁ?
無理だよなぁ? 約2名がお互いに戦術リンクを結べないくらい犬猿だもんなぁ?
まさに犬と猿! このメガネ犬と貴族猿を抱えたリィンがストレスで胃が破裂する瞬間を見られないのは残念だが、まぁ下剤でも飲んで耐えるといい。

ところでこの間の《実技テスト》、あれは面白いくらいぶ☆ざ☆まだったぜ。
戦術リンクを結べず、連携も出来ないどころか、教官やイビトに手も足も出せずに負けるとは………。
いやぁ悔しいでしょうな。ハッハッハッハッハ………このZAMAァ。

とても見苦しい限りだ。
B以下が寄せて上げてC以上見させる為に必死になるぐらい見苦しい。
m9(^∇^)プギャー!

ふっ、じゃあ精々頑張って、笑える小話を作っておいてくれたまえ。
( ´,_ゝ`)クックック・・・( ´∀`)フハハハハ・・・(  ゚∀゚)ハァーハッハッハッハ!!

                               トモユキ・サクラより。

P.S. 貧乳に価値なし。

P.S.のP.S. この前、委員長が皆の為に買ってきたプリン全部食べたの俺なんだ(笑)。』


「「「「「「「笑えるかぁああああああああ!!!」」」」」」」


ビリビリー!!と紙が破かれる音と共に七人の怒鳴り声が列車内に響き渡った………。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。