五の軌跡   作:クモガミ

19 / 30
第二章ー4 5月26日 実技テスト編

《午後14:00 トールズ士官学院 グラウンド》

 

私達特科クラス《Ⅶ》組はグラウンドに集まっていた。

先月に実技テストがあったように今月の実技テストが今日始まるからだ。

 

「―――さぁ先月に続いて《実技テスト》のお時間よ ヨハン教官、今回も記録係お願いね」

「はい、お任せくださいサラ教官」

「よし、じゃあもう説明とか不要でしょうからとっとと行っちゃいましょうか」

 

パチン!とサラ教官が指を鳴らすと、前回と同様、何もないところから戦術殼が現れる。

神出鬼没な登場にクラスの誰もが眼を見開いたけど、その登場の仕方は前にも見たことがあるので、私を含めてクラスの殆どは前みたく大きく驚くことはなかった。

でも一部、前回の《実技テスト》で酷く苦戦した者達は苦い顔を浮かべる。

 

「あ、相変わらず摩訶不思議っていうか……」

「謎の多いロボットだよね……」

「う~ん、どういう原理で姿を隠しているのか分かるか? イビト」

「色々と思い当たる技術はあるが、推測するよりも中身を見た方が手っ取り早い」

「だったらテストが終わったら解体してみっか!」

「そこ! これ借り物なんだからそういうのは許可しないわよ」

 

本当に解体しそうなのでサラ教官が早々と釘を刺す。

行動を抑制され、トモユキは『ちぇー』と残念がる。

 

「……先月と形が違うね」

「そ、そういえば……」

「前は肩まででしたが、今回は腕がありますわ」

 

フィーが指摘してくれたお陰で私達は戦術殼に腕が生えていることに気付く。

あれは攻撃のバリエーションが増えたと見るべきでしょうか。

 

「色々とイジるとこんな風に変えられるみたいなのよね~。仕組みはサッパリだけど」

「そんな大雑把な……」

「というか適当過ぎます………」

「あ、有り得ない……」

 

仕組みが分からないのに、どうしてそこまで形が変えられるのか?

ますます謎が深まる機械仕掛けの傀儡に不気味を通り越して呆れの声を漏らすリィン、エレカ、アリサ。

場の空気が呆れムードになったところで、引き締め直すようにサラ教官は『ゴホン!』と咳払いし、

 

「さーて、そろそろ始めるわよ。リィン、アリサ、ラウラ、ガイウス、前へ!」

 

第一陣は今呼ばれた四人のようだ。

 

「先鋒か」

「ふふ、腕が鳴るな」

「ええ、それにこのメンバーなら……!」

「万全の態勢で挑めそうだ!」

 

憂いや不安など一切なく、自信に満ちた表情で前に出る四人。

もし私があの四人の中の一人だったら、同じような顔を浮かべていただろう。

何故なら彼等の戦術リンクの練度は先月の『特別実習』が終わった時点でかなりのものになっているから。

リィン達と同じA班だった私が共に練度を深めていたのだから過大評価ではありません。

しかもこの間の自由行動日でリィン達は戦術リンクの練度を更に深めたとか。

戦術殼が前回よりも強化されていても、今のリィン達なら苦戦することはまず無い筈ですわ。

 

「準備は良いわね。――――それじゃあ始め!」

 

サラ教官が開始の合図を出したことで、第一陣の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

………そして私の予想通り、リィン達は苦戦することはなく、ものの数分で戦術殼を打ち倒す。

事前に出された課題も難なくクリアし、四人は各々の武器を納める。

 

「うんうん、良いんじゃない♪ 特別実習の成果と旧校舎探索の賜物かしら?」

 

四人の戦いぶりを拝見し、前よりも断然と練度の高さが上がっているいることに教官として嬉しいのか。上機嫌な表情を浮かべるサラ教官。

そんな表情のまま、すぐ傍にいるヨハン教官に耳打ちでリィン達の評価を伝える。

あの様子から見て分かるように、高い評価を伝えたようだ。

 

「ははっ、やったな」

「あぁ、良い連携だった」

 

拳と拳と合わせて勝利を喜び合うリィンとガイウス。

苦戦してなかっただけあって、二人とも余力を残しているようだ。

 

「うむ、もう一戦くらいしてもいいくらいだ」

「さ、流石にそれは勘弁して欲しいわね……」

 

同じく余裕を残しつつ、まだまだやる気に満ちているラウラに対し、アリサは少し疲れ気味だった。

これは彼女が他の三人と比べて基礎的な体力に大きな差があることを示している。

まぁ日頃から鍛えているリィンとラウラ、そしてノルド高原で逞しく育ったガイウスとでは、それだけの差が出るのは当然と言えば当然なのだが。

 

「さぁ、続けていくわよ! マキアス、ユーシス、エリオット! それにエマにフィー、前へ!」

 

第一陣が終わって、次の第二陣のメンバーが呼ばれる。

しかし、このメンバーは………。

 

「五人でやるんですか? まぁ残りの人数を考えたら妥当かな……」

「そ、それもそうですけど……」

 

チラッとエリオット、委員長、フィーがある二人の男子生徒に眼を向ける。

その二人とは勿論ーーー。

 

「……くっ……とっとと終わらせるぞ!」

「フン……貴様が指図するな」

「な、なんだと!?」

 

呼び出されて早々と口論を始めるマキアスとユーシス。

二人のやり取りをフィーは横目で眺め、『やれやれ』と呆れ声で呟く。

口論が大きくなる前にサラ教官が仲裁に入って何とか口論は止む。

あんな調子で大丈夫なのか?と外野の私達は心配且つ委員長達に同情しつつ、戦いの行く末を見守る。

 

「はいはい、準備は良いわね? ――――始め!」

 

そして第二陣の戦いが始まった。

 

 

 

………やがて数分後。

ユーシス達五人は戦術殼を倒し、第二陣の戦いが終わる。

けど、その戦いは決して誉められるものじゃありませんでした。

 

「はあっ、はあっ………」

「……リィンさん達よりも一人多かったのに……」

「……ま、仕方ないか」

 

フィーを除くメンバー四人が疲れ果てた様子。

戦術殼を倒すのに大変手間取り、体力と共に精神も大きく疲労したのです。

 

苦戦した理由を簡単に説明すると。

第一陣のリィン達と違って第二陣のメンバーは戦術リンクの練度が低い者が多かった為、まともな連携が出来ず、戦術的な戦いが取れていなかった。

しかし、それだけならまだ良かったのかもしれません。

実は苦戦した一番の原因があるのです。

言わなくても大体察していると思われますが、その原因というのはユーシスとマキアスにありました。

 

二人は戦いの最中、お互いに邪魔だと言わんばかりに互いの行動を阻害というより、足の引っ張り合いですわね。

剣で斬り掛かろうとしたユーシスをマキアスが誤射しそうになったり、マキアスのショットガンの弾をユーシスの導力魔法が消し去ったり、敵の攻撃を避けようとしたらお互いにぶつかったりと様々でしたわ。

勿論二人とも故意で足の引っ張り合いをしている訳ではないのですが、偶然にしろワザとにしろ、それが二人のわが溜まりを大きくし、戦闘中にも関わらず二人はいがみ合いをし始め。

挙げ句の果てには二人のフォローに回っていた委員長やエリオットの足も引っ張ってしまい、僅かに保っていたチームワークが完全に崩れ去ってしまう。

 

よって五人は大苦戦を強いられ、やがては壊滅寸前まで追い込まれましたが珍しくやる気を出したのか。

面倒臭がりのフィーが大奮闘し、そのお陰で奇しくも第二陣は勝利を納めました。

ですが、戦闘課題をクリア出来ず、何よりチームワークの『チ』も感じられない彼等の戦いは言うまでもなく、良い評価を貰えることはないでしょう。

 

「……分かってたけどちょっと酷過ぎるわねぇ」

 

こうなると予測していたサラ教官ですが、結果を目の当たりにして失望の色が顔に出ていた。

いつも飄々としているあの人が、あんな顔を見せるのはそれほど彼等の戦いは酷いものだったのでしょう。

 

「ま、そっちの男子2名は精々反省しなさい。この体たらくは君達の責任よ」

 

と教官から指摘されるユーシスとマキアス。

二人とも反論する言葉もなく、悔しそうに顔を歪めるだけだった。

 

「(何時になく厳しいな、サラ教官)」

「(まっ、これも教官としての務めだろ)」

「(私も教官がお二人を咎めるのも分からなくありませんわ)」

「(そうね、今回ばかりは仕方ないかもしれないわね)」

 

その様子を少し離れた場所から眺めながらヒソヒソとお互いの感想を話し合う私達。

話に混じっていない人達も似た感想を持っているようで、うんうんと頷いて同調する。

 

「はいはい! じゃあ次で最後よ……トモユキ、ルーティー、ゼオラ、エレカ、前へ!」

 

最後の第三陣として上記の四名が呼ばれる。

ん? 四名?

 

私達《Ⅶ》組の生徒は全部で14名。

第二陣のユーシス達が終わった時点で残りは五名の筈。

それなのに今さっきサラ教官に呼ばれたのは私、ルーティー、エレカ、トモユキの四名。

 

何故、残り五名の一人であるイビトだけが呼ばれていないのでしょう?

最後だと言ったのだから彼を入れないのはおかしいですわ。

教官が呼び忘れていたとは思えませんけど、一応言って――――。

 

「あ、あのサラ教官、イビトさんが呼ばれてませんけど……」

 

と、エレカが他の皆さんよりも早く、第三陣の中のメンバーの中にイビトが入っていないと指摘する。

彼女が私の隣に居たことに少し驚きましたが、それよりも引っ込み思案の彼女が自ら気になった点を挙げたことに意表を突かれましたわ。

 

「あ~良いのよ彼は。貴方達の中に彼を入れるとテストにならないから」

「どういう意味です?」

 

後頭部をポリポリと掻きながらイビトは入れなくて良いと述べるサラ教官にリィンが不思議そうにその真意を訊ねる。

私もその真意を知りたかった。

少なくとも分かるのは先程の台詞は侮辱なものではないこと。

それ以外の意味は幾つか思い付くが、ここは推測するよりも教官の口から聞いた方が早いので考えている仕草を見せる教官に耳を傾ける。

 

「所謂バランスブレイカーって奴? 彼と君達とじゃ強さの質が違うって言うか………初盤のパーティーメンバーの中にLv100のキャラが混じっているみたいな?」

「い、意味が分からないんですけど………」

 

よく分からない例えに困るアリサ。

私も理解出来ない………と言いたいところですが、何故か何となく分かってしまう気分になるのはどうしてでしょう?

 

「つまり、彼が居たらどんな厳しい課題を出しても〝彼一人の力〟で簡単にクリアしちゃうのよ。この傀儡相手でもね。それだと個々の力が測れてもチームとしての力が測れないの。だから特例として今回の《実技テスト》にイビトは参加しなくてもいいという処置を取ったって訳」

「それって………」

「イビトの実力が俺達とは釣り合わないぐらい高いって訳か」

「ほう………」

 

要約したトモユキの言葉を聞いてラウラが興味心を擽られたような声を出してイビトに視線を向けると私達も自然と彼に視線が傾く。

クラスメイト全員から視線を向けられイビトは無表情のまま、何のリアクションも示しませんでした。

 

「え、えっとじゃあ………イビトの評価とかはどうなるんですか?」

「それはエレカの働きによるわね」

「え……えぇ!!?」

 

ルーティーの質問から出てきたサラ教官の解答に大層驚くエレカ。

そしてすかさず『何故!?』と言わんばかりの顔で問い始める。

 

「さ、サラ教官! 私の働きによるってどういう意味ですか!?」

「言った通りの意味よ。アンタ先月から今日までイビトの指導の元で修行してきたんでしょ。そのアンタがどれだけ強くなったのか、それを確認する意味でもあるのよ。アンタが私の納得がいくような実力と働きを示せば、イビトには高い評価を付けてあげるわ。まっ精々頑張りなさない」

「そ、そんな………」

 

イビトへの評価は自身の働きに掛かっていると伝えられたエレカは相当なプレッシャーが掛かったようで、顔が青ざめている。

教官も酷なことを言うものです。

唯でさえ、エレカはプレッシャーに弱い子だというのに、そんなことを言われたらプレッシャーに押し潰されてしまいますわ。

ここは同じメンバーとしてフォローしてあげなくては。

 

そう思った瞬間、私と同じことを考えたのか。

ルーティーとトモユキがエレカの傍にやって来る。

 

「大丈夫だってエレカ、私達がちゃんとフォローしてあげるから」

「そうそう。それにあんまり緊張してっと、また転けてパン―――ぶふっ!!?」

「貴方には私達が付いております。ですから貴方は貴方が出来ることをすれば良いと思いますわ」

「皆………」

 

私達の言葉で少しは緊張が解れたのか、顔色から青が引いていく。

思いの外、私達の言葉が効いてくれたみたいで何よりですわ。

約1名だけ余計なことを口走りそうになりましたが、ルーティーの横っ腹ブローで何とか阻止してくれました。

 

すると意外にも今度はイビトがやって来まして、

 

「……イビトさん」

「教えた通りにやってみろ。戦いの中で自分が戦い易い状況を作るんだ。あとは味方の行動を邪魔させないように援護しつつ、敵の意表を突くような行動を意識しながら戦え」

「は、はい!」

 

イビトのアドバイスとも捉えられる指導を素直に聞き入れるエレカ。

話では聞いていましたが、この二人の師弟関係はどうやら本当みたいですわね。

 

「あー、お喋りはそこまで。貴方達さっさと前に出なさい」

 

タイミングを見計らったようにサラ教官が直ちに配置へ着くよう促す。

私達は急いで配置に着き、戦術リンクを結ぶ。

人数は偶数なのでトモユキはルーティーと、私はエレカとリンクする。

 

「さっ、準備は良い?」

「「「「はい!」」」」

「うん、じゃあ―――始め!」

 

第三陣の戦いの火蓋が切り落とされ、私達は早速行動に出る。

まずは先制攻撃としてルーティーとトモユキが銃弾の雨をお見舞いする。

そして戦術殼が二人の攻撃を今回新しく付け加えられた両手で防いでいる内に私は魔導の『エニグマ』を起動し、いつも通りの早さで魔法の詠唱を完了した。

 

「『アダマスシールド』!」

 

魔法名を唱えた直後、私達四人の足元に山吹色の魔法陣が浮かび上がり、光と共に黄金の盾が四人を包む。

これで私達はどんな物理的攻撃を一回だけ無効化する鎧を身に纏った。

安全を期す為には持ってこいの魔法である。

 

すると丁度その時、ルーティーがライフルの弾を撃ち尽くし、それによって攻撃の手が緩んだことで戦術殼が片手からレーザーを照射し、赤い熱線がトモユキに伸び走る。

 

「―――どわぁっち!!」

 

斜め下から振り上げられたレーザーを咄嗟に足を曲げ、姿勢を低くしてそれをスレスレで躱すトモユキ。

しかし、回避する為に銃による攻撃を止めたことで戦術殼に追撃のチャンスを与えてしまい、今度はもう片方の手でレーザーを放とうとする。

ですが、それよりも早く何処からか飛んできた一本のナイフがレーザーを放とうとした手に当たり、それで腕の振る軌道をズラされ、レーザーはトモユキに当たることなく、私達の頭上の空を切り裂く。

 

「今のナイフは……!」

「エレカか!」

「ーーーって、あれ? 何処?」

「此処だよ!」

 

あっ、そこに居たのですね。

少しでも眼を放すと何処に居るのか分からなくなるのはどうにかならないでしょうか……。

 

「よしエレカ、もう一発喰らわせてやれ!」

「う、うん!」

 

ついで感覚でもう一度ナイフの投擲をお見舞いしてやれとトモユキに促されたエレカはナイフを構えて狙いを付ける。

 

「てぇい!」

 

掛け声と共に投げ出されたナイフは戦術殼の脳天に直撃する。

二回目も当たったということはやはり一回目はマグレではなく、エレカの投擲の腕が上がったようで私も含めてクラスメイトの殆どが『おお!』と声を上げた。

 

でも私達はエレカの投擲の腕が向上した事実よりもエレカのナイフの〝投げ方〟に注目しました。

どうしてと言いますと、その投げ方が従来の投げ方とは異なっているから。

 

ーーーいいえ、異なっていると言うとはちょっと違いますわね。

正確に言えば〝似ている〟のです、〝あるゲームの投げ方〟に。

 

「あの投げ方って………」

「ーーダーツか?」

 

外野の方に居るエリオットとマキアスがいち早く、ダーツと辿り着く。

他の皆さんも頭の中で曖昧な形で彷彿としていたものがハッキリして『それだ!』と声を上げる。

 

「ダーツとはなんだ?」

「円状の板にダーツって言う針を投げて刺す、遊びのことさ」

「その遊びのダーツの投げ方とエレカのナイフの投げ方がそっくりってこと」

「成る程、そういうことか」

 

ノルド平原出身のガイウスはダーツのことは知らないみたいで、リィンとアリサが概要と皆が『それだ!』と言った訳を解説丁寧に説明し、理解の早いガイウスはあっさりと納得する。

 

「でもなんであの投げ方に成ったんでしょう? 前までは従来の投げ方でしたよね?」

「ふむ……イビト、何か理由があるのか?」

 

もっともな疑問を委員長が口にし、エレカの投擲の投げ方が何故ダーツのと同じなのか?

ラウラがイビトの所まで歩み寄って問い掛ける。

 

「理由は単純だ。あの投げ方がアイツに合っているからだ」

「合ってる? ダーツの投げ方と?」

「そうだ。従来の投げ方でいくら練習しても命中率が上がらなかったんでな。試しに色々な投げ方をやってみたらあの投げ方が従来のよりも命中率が高いことが分かって、以後あの投げ方で徹底的に練習したってわけだ」

「たった1ヶ月近くであそこまで上達したのか………」

 

イビトからエレカのナイフの投げ方の経緯を知り、感心そうに聞き入るリィン達。

私も戦闘を片手間にその話を聞いて彼女にそんな経緯があったのだと感心すると共に約1ヶ月近くという短期間で今までの投げ方を変え、今のような命中率まで腕を上げた彼女の努力に敬意を払う。

 

するとその直後、戦術殼の動きに変化が現れる。

こちらの攻撃を腕で防いでいたのでしたが、急に手の部分だけ回転し始め、その状態のまま手からレーザーを放射して、ままるで縄跳びのようにレーザーも回転させた。

それによってレーザーが輪状の防護壁と成り、こちらの攻撃をその防護壁で掻き消す。

 

「ちょちょ、あんなのアリ!?」

「機械ならではの動きだ、別に不思議じゃない。だが対応が早いな……ちょっと驚いたぜ」

「リィン達との戦いを見ていて気付きましたが、どうやらあらゆる攻撃に対処するようプログラムされているみたいですわ!」

「よ、要するにそう簡単に倒させてはくれないってこと………だよね?」

 

ルーティー、トモユキ、私、エレカの順で言いたいことや情報の共有を言い合う。

とその時、こちらが一旦攻撃を止めた瞬間。

戦術殼はレーザーの回転を止め、防護壁を解く。

 

厄介な防護壁が消えたことで私達は再び銃やナイフの投擲、アーツと言った中距離からの攻撃を開始する。

ですが、戦術殼の対応が早く、瞬時にレーザーの防護壁がまた展開され、私達の攻撃はまたしてもレーザーで消されるのでした。

 

しかも戦術殼の行動はそれだけで終わらず、防護壁を張ったままこちらへ突進して来たのです。

盾を武器として使い、防御から即座に攻撃へと転じた戦術殼の展開力に驚きながらも私達はその場から離れて、相手の進路上から退避する。

咄嗟に真横に移動したことで縦回転したレーザーで地面を焼き削りながら突進してきた戦術殼は私達の脇を通り過ぎた。

もし退避が遅かったら私達はあの地面のように消し炭になっていたでしょう。

 

しかし、回避した甲斐が有ったのか。

構図的に脇を通り過ぎた戦術殼は私達に背中を見せる。

 

「背中がガラ空きだぜ!」

「貰った!」

 

その隙を見逃さなかったトモユキとルーティーが戦術殼の背中にビームと鉛弾を叩き込む。

 

……が、二人が攻撃を放った瞬間。

戦術殼の背中に付いていたパーツが二本の腕へと変形し、その二本の腕も手を回転させながらレーザーを放射し続け、レーザーの防護壁を展開して背後からの攻撃を排除する。

 

「か、隠し腕!」

「マジ!?」

 

最初はクラスの誰もが何のパーツだろう?と思っていたものが隠し腕だと分かって、驚きの声を上げるエレカとルーティー。

私も思わず声を上げるところでしたわ。

 

「おー! カッチョイイ!! やっぱロボットはこうじゃなきゃなぁゼオラ!」

「私に同意を求められても困ります!!」

 

子供のように眼をキラキラと輝かせ、何故か私に同意を求めてきたトモユキにツッコミを入れてしまう。

心の中でも言いますが、戦闘中なのに緊張感のない男ですわね……。

 

「ちょ、ちょっと待ってサラ教官! リィン達や委員長達の時にはあの腕出ませんでしたよね!?」

「あぁ。彼等の時はレベルの設定的に使えないようにしてたんだけど、今の戦術殼のレベルはそれを使えるようにレベルを密かに上げといたのよね~」

「はぁ!? なんで私達だけーーーひゃあっ?!」

 

教官が暴露した事実に抗議しようとルーティーでしたが、戦術殼のレーザー攻撃によりその行為を妨害される。

 

「ほらほら、よそ見してると危ないわよ♪」

 

にこやかな顔で戦闘に集中しなさいと促すサラ教官。

こちらが戦闘中なのを良いことに話を逸らす教官に対し、ルーティーは『鬼ぃ! 悪魔ぁ!』と糾弾する。

気持ちは分かりますが、貴方も緊張感を無くさないでくださいまし……。

 

「しかし厄介だな。あのレーザーのバリア………こっちの攻撃全部焼き消してやがる」

「ええ。私達の攻撃を当てる為にはあのバリアを何とか突破しないといけませんわね」

「どうやって? 正面も背中もバリアを張られるのに……」

「それはーーー」

「わ、私がやってみます」

 

バリアをどうやって突破するか?

その答えに困った時、すぐ隣に居たエレカがバリア突破に乗り出す。

彼女が何時の間にかそこに居たことにも驚きましたが、何よりも何時もオドオドして弱気な彼女が強く出たことにもっと驚きました。

トモユキもルーティーも凄く意外そうに驚いています。

 

「やるって……ちょ、エレカ!」

 

ですが、やると言われましても具体的にどう突破するのか。

それが気になった私はどうするのか聞き出そうとしましたが、その前にエレカは行動に出始める。

まずは当て易い距離までギリギリ詰め寄り、両手にはそれぞれ二本のナイフを持つ。

 

「タァ!」

 

そしてお互いの距離が約15アージュ程まで縮まるとエレカは4本のナイフを戦術殼に投擲する。

ナイフの投げる本数を増やしただけで、それ以外は何の変哲もない普通の攻撃にあれでどうやってバリアを突破するのだと疑問に思いましたが。

戦術殼がバリアを張ろうとした瞬間、そんな疑問は頭の外へと吹き飛ぶのでした。

 

「え………?」

「ナイフが………」

 

ルーティーとトモユキがナイフに起きた異変に眼を丸くして驚愕する。

 

「消えた………?」

 

そう、消えたのです。

今私が口にした通り、エレカが投げたナイフがパッと姿を消したのです。

決して飛んでいるナイフの1本を見失ったのではありません。

〝4本全てのナイフが一斉に姿が消えた〟のです。

 

「?」

 

戦術殼もナイフを見失ったらしく。

脅威が無くなったと判断したのか、展開しようとしていたバリアを途中で止めました。

 

―――と、その時。

消えた4本のナイフが戦術殼の右腕と背中の右腕に突き刺さる。

 

「!??」

 

ナイフが腕に突き刺さってからナイフの存在に気付いた戦術殼。

書く言う私もナイフが戦術殼の腕に刺さってから初めて姿を視認した。

 

「消えたナイフが戦術殼に刺さった……!」

「すげぇ! ホントにバリアを突破しやがった!」

「えぇ。まさかあのような方法で攻撃を当てさせるとは!」

 

宣言通りエレカがバリアを攻略したことに私達は驚嘆する。

一方、外野のリィン達の方に視線を傾けるとも彼等も同じ心境のようで、表情には驚きと敬服の意が映っていた。

 

「い、今の見たわよね………?」

「あぁ。ナイフが消えて気付いたら戦術殼の腕に刺さっていた」

「……しかも、4本とも腕の関節部分に刺さって二つの右腕が動かなくなったみたいだね」

「ふん。以前よりは使えるようになったみたいだな」

 

アリサ、リィン、フィー、ユーシスの順でこちらの戦いを眺めながら確認し合ったり、戦術殼の状態を分析したり、成長したエレカを見直していた。

 

「あの消えるナイフ、どういう仕組みなんだろう?」

「ふむ。見た感じでは特別な道具を使ったわけでも奇妙な力を使ったわけでもないようだ」

 

片やナイフがどういう仕組みで消えたのか、気になるエリオットに特別な道具も力も使っていないと見抜くガイウス。

その二人に……。

 

「―――ミスディレクションって知ってるか?」

「えっ? み、ミス…………」

「ミスディレクション、手品とかで使われている技術ですよね」

 

突然イビトが呟いた単語に委員長がその意味を答える。

博識な委員長が知っているのは納得しますが、困惑した反応を見せたマキアスは知らないみたいですわね。

勿論、私も知っています。知識としてですが。

『ミスディレクション』……人の視線をある所へ誘導させる技術ことで、さっき委員長が言ったように手品とかでも良く使われているものですわ。

 

「あぁ。ナイフが消えるのはアイツが『ミスディレクション』の人の視線をある箇所に誘導させる技術を応用してからだ。つまりナイフが消えたように見えたのは眼の錯覚で、本当は誘導的に視線をナイフから外させて〝自分〟に写し変えているだけなんだ」

「視線をエレカ自身に? 何故?」

「お前等、アイツがナイフを投げた時、アイツのことをいつもよりもハッキリ見えた気がしなかったか?」

「そういえば………」

 

イビトにそう言われて、確かにあの時エレカをハッキリ見えていたと気付く皆さん。

そう言う私もエレカがあの消えるナイフの投擲の際、彼女の存在がより輪郭を表したような気がしますわ。

 

「アイツはよぉく見ておかないとすぐ見失うだろう? そこを利用してんだ」

「どういう意味だ?」

「説明すると長くなるがアイツは〝自分自身が眼を離すと見失うぐらい存在感がないことを相手の頭に植え付け、その上で攻撃を仕掛けた時、相手の自分への注意を最大限にさせて半ば強制的に視線を自分にだけ固定させて、他の物に眼が行かないようにした〟ってわけだ」

「で、ナイフがあたかも消えたように見えたってこと?」

「まぁな」

「………そんなことが可能なの?」

「普通なら無理だろうな。だがアイツなら可能なんだ。アイツは異常とも言える元々の影の薄さと気配の隠し上手さ、そして『ミスディレクション』の技術が合わさって初めて成り立つ離れ業ってとこだな」

 

自分の特性を活かしたエレカにしか出来ない芸当と聞いて、リィン達は感心そうな眼でエレカに視線を戻す。

皆さんの視線に釣られて私も視線をエレカに移すと、彼女はまたあの消えるナイフを放ち。

そしてそのナイフは戦術殻の二本の左腕に突き刺さる。

しかも今度もまた関節部分に刺さって、左腕も機能しなくなりました。

命中が飛躍的に上がったエレカにあの技はとても頼もしいと思いますが、同時に敵に回すと恐ろしいですわね……。

 

「名付けて『幻影撃ち(ファントムショット)』!ってところだな。安直だが」

 

本当に安直ですわねイビト。

まぁ一々、あの技だとか消えるナイフと呼ぶのはややこしいので一応有難いですわ。

 

「おっしゃー! 止めは任せろー!」

 

全ての両腕を封じられ、且つ相当なダメージを与え続けたことより弱ったきた戦術殼に見切りを付けたトモユキは自分が止めを刺すと宣言すると共に懐から青色のセピスの塊を三つ程取り出す。

トモユキはそれ等を大剣に吸い取らせ、青色のセピスを吸収した刀身は透明から青に変色する。

そしてトモユキが大剣を天に向けて掲げると、剣の周囲に無数の水の弾が生成された。

 

先日の自由行動日で旧校舎から帰ってきたアリサ達から聞きましたが、あの剣も宝具に属する武器の一つ。

宝剣『スサノオ』。

セピスを吸収し、その吸収したセピスの属性によって様々の効果を発揮すると。

例を出すと火属性のセピスなら炎を使った術を、水属性のセピスなら水を使った術を出すようです。

旧校舎の調査が終わってトモユキの口から直接聞いたと言ったアリサ達の話を信じていなかったわけではありませんが、まさか本当に剣がセピスも吸い取るなんて……。

宝具の力には驚かされますが、そんな宝具を二つも持っているとは、一体トモユキは何者なのでしょう?

前の特別実習で言っていた『ニンジャー』と関係があるのかしら?

 

「遠慮するな。全弾持ってけぇ!!」

 

などと考えている間にブン!とトモユキが剣を振り下ろし、それに合わせて水の弾達は戦術殼に向かって一斉に飛び出す。

腕を全て封じられた戦術殼は防ぐ手立てがなく、無抵抗に近い状態でトモユキの攻撃を喰らう。

標的に着弾した無数の水の弾はまるで鉄球のようにボコボコ!と鈍い音を立てて、戦術殼の身体に凹みを作っていき、やがて全弾の掃射が終わると戦術殼の身体には無数の凹みが出来上がっていた。

 

少々オーバーキルのような気がしますが、何がともあれ許容範囲のダメージを越えたことで戦術殼は姿を消し、直後に『そこまで!』と終了の合図が出るのでした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。