五の軌跡   作:クモガミ

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お待たせしました、これで第一章が終わりです!
完成するのに三週間も掛かってしまいました、楽しみにしていた方々
誠に申し訳ありません。

それはそうと最近、私の中で遊戯王が再奮起しました。
ちなみに現在使っているデッキはクリフォートです。


第一章ー11 4月25日 グルノージャ戦 後編

《午後15:00 【ルナリア公園】最深部》

 

 

「ゴガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「っ!?」

 

咆哮が合図のようにヒヒBが怒り狂った剣幕でルーティーの所へ一直線に走り出す。

恐らく右目を潰した恨みを晴らす為に自らの手で叩くつもりなのだろう。

 

「こ、こっちに来たぁ!!」

「あっ!」

「ルーティー!」

 

血走った眼で近付いてくるヒヒBに思わず後ろへ後退してしまい、エリオットとアリサから遠ざかるルーティー。

自分達から離れ過ぎると危険だとルーティーの身を案じた二人は彼女の後を追い掛ける。

 

が、しかし。

それを阻むように二人の進路に二体のゴーディオッサーが回り込む。

ヤバイ! あのままだとルーティーがヒヒにやられてしまう!

 

俺は急いで救援に向かおうと走り出す。

だけど、その前に6体のゴーディオッサーに回り込まれる。

 

「このっ! そこを退けッ!!」

 

行く手を阻むゴーディオッサーを一体一体相手する時間は無いので、俺は『紅葉切り』で何とか突破しようとした。

 

「奥義! 『洸刃乱舞』!!」

 

だが、それをする必要はないと言わんばかりにラウラが奥義を解き放ち、大剣に纏った光の刃で4体のゴーディオッサーが八つ裂きに成ってセピスへと変わる。

残り2体居るが、この数なら技を使うことなく突破が可能だ。

 

「リィン、こやつ等の相手は私が務める! そなたはルーティーのところへ!」

「――済まないラウラ!」

 

一言謝って俺は全速力でルーティーの元へ向かう。

そして一方でアリサとエリオットの二人から離れ過ぎてしまったルーティーは流石にこれ以上下がるのは不味いと判断したのか、下げるのを止めて、迎撃する様に改造ライフル『カラミティ』の下の銃口を自分に向かってくるヒヒBに合わせる。

 

「来ないでよ!」

 

怯えた声でそう訴えると銃口が火を噴く。

腰撃ちで発射されたアサルトライフルの弾の大多数はヒヒBの胴体に命中し、その他は腕に当たり、或いは呼び笛の角を破壊するが。

それでもヒヒは止まらない、血が出ているし全く効いていないわけではない筈なのだが、もしかすると余りの怒りで痛みに対して鈍くなっているのかもしれない。

だったら!とルーティーはライフルに備わっているスコープを覗き込み、照準をヒヒBの頭部辺りに合わせる。

どうやら今度は上の銃口の弾を撃つつもりみたいだ。

 

「あっ―――きゃ!?」

 

しかし、その時。

狙いを付ける為に足を一歩後ろへ下げたルーティーは足を滑らせ、地面に尻餅を着いて転ける。

その隙にヒヒBは一気に距離を詰め、ヒヒの方だけ拳が届く間合いになった。

ルーティーはすぐさま照準を向け直すが、それよりも早くヒヒBの右拳が振り下ろされる。

 

「ッ!?」

 

だが、ヒヒの拳がルーティーに当たる寸前、何もない所から出現した光の楯によって弾かれる。

拳を弾いた光の楯は『アダマスガード』。

事前に掛けておいたその魔法の効力によってヒヒの物理攻撃を無力化したのだ。

それを確認したルーティーは地面に尻餅を着いた状態でライフルを発砲する。

至近距離から放たれたスナイパーライフルの弾丸はヒヒの眉間のど真ん中に命中し、そこに風穴を空けた。

 

「やった!」

 

狙い通りの場所に命中し、風穴を空けて歓声の声を上げるルーティー。

生物である以上、頭部を破壊すれば倒せるだろうと思い、頭部を狙ったのか。

事実、頭部にポッカリと穴が出来てしまったヒヒBはグラリと身体が傾き、そのままゆっくりと地面に――――倒れなかった。

 

ヒヒは死んではいなかった。

倒れそうになった身体はピタリと止まり、口から唸り声が漏れる。

旧校舎で遭遇したデーモンと同じ、頭をやられても生きていられる魔獣なのだろう。

ヒヒBは傾いた身体を正常に持ち直すと虚空を眺めていた眼は再びルーティーを睨む。

 

「嘘…………」

 

頭を貫かれても生きているヒヒの不死身さにルーティーは言葉を失う。

そしてヒヒBは再度攻撃しようと右手を振りかぶる。

『アダマスガード』の効力は一度だけ、つまり次の攻撃に対してルーティーに防ぐ手段が無い。

 

このままだとルーティーは本当に叩き潰されしまう。

しかし、全力で走ってはいるが俺とルーティーとの距離は20アージュの開きがある。

 

「(駄目だ! とても間に合わな―――)」

 

俺がそう思い掛けた………その時。

 

ガキン!と振り下ろされたヒヒの拳がまたもや弾かれる。

拳の弾いたのはトモユキの『アダマスガード』。

そう、トモユキは俺よりも遥かに早くヒヒとルーティーの間に割り込み、自身に掛かった『アダマスガード』を使ってル彼女を守ったのだ。

何時の間にか自分の目の前に現れ、自分を助けてくれたトモユキにルーティーは眼を丸くする。

 

「と、トモユ―――」

 

彼女が名前を言い切る前にトモユキは彼女を抱えてそこから共に姿を消した。

直後に二人が居た場所にヒヒBの拳が降り注ぎ、ゴシャア!!と地面が砕かれる。

あと1秒でも長くその場所に留まっていれば、二人の身体はペシャンコになっていただろう。

 

そして消えた二人は先程居た場所から左へ15アージュ程の離れた場所に出現する。

良かった、ルーティーが無事で。

トモユキが駆け付けてくれなかったら、今頃―――

 

「トモユキ! ルーティー! そこから離れろ!!」

 

安心したのも束の間、ラウラの声が響き渡る。

声の主の方に顔を振り向かせると俺達は眼を疑う。

ヒヒAがゴーディオッサー1体を放り投げたのだ。

 

豪速球のボールのように投げ飛ばされたゴーディオッサーはトモユキとルーティーの元へ落ちていく。

トモユキは当然そこから離れようとルーティーを抱えたまま、走り出す。

が、普通に走っては間に合わず、走り出した瞬間にゴーディオッサーがすぐ背後の地面に落ち、着弾した時に発した衝撃が二人の身体を突き飛ばす。

 

「がっ!!」

「あぁ!!」

 

衝撃は凄まじかったようで、二人の悲鳴と共に二人の身体は大きく飛ばされる。

更に最悪なことに、二人の進行上には1体のゴーディオッサーが立っていた。

 

「ちぃ……!」

「―――うきゃあ!?」

 

それに気付いたトモユキは急遽ルーティーを横へ放り投げ、彼女をゴーディオッサーの所へ行かせないようにした。

けど、トモユキはそのままゴーディオッサーの元へ飛んで行き、

 

「!!!」

 

お互いの距離が手を伸ばせば届く距離になると魔獣の強烈なブローがトモユキの頭に放たれ、彼の身体は地面に叩き付けられる。

トモユキはまるでハンマーで殴られたかのように頭から血が垂れ流れる。

本来ならあの魔獣のパンチ一発で人の頭など簡単に割れるのだが、エリオットの『エコーズビート』の防御強化の恩恵によって逆にあれぐらいで済んだんだろうな。

不幸中の幸いと言うべきか、効力が切れる前でホント良かった。

 

とにかく、トモユキを早く助けようと思った矢先、ゴーディオッサーは止めを刺そうとトモユキの元へ歩み寄る。

俺とトモユキの距離は5アージュちょっと……間に合うか!?

 

「させない!!」

 

すると俺が辿り着く前にルーティーが仰向け状態で慌ててホルダーから『マグナム6』を取り出し、3発の銃弾を撃つ。

1発目は腹に、2発目は胸に、3発目は眉間に風穴を空け、ゴーディオッサーは崩れ落ち、セピスに変わり果てる。

ゴーディオッサーを倒すと彼女はトモユキの元へ行こうと起き上がろうとした。

 

―――だが、その後ろにはヒヒBの姿が在った。

 

「あっ!!」

 

彼女も存在に気付いたが、その時には拳が既に振り下ろされていた。

ガキン!!とヒヒの拳はまた弾かれる。

理由は簡単、俺が両者の間に割り込み、トモユキと同じように自身の『アダマスガード』で防いだからだ。

更に拳が弾かれたことでヒヒBに対して攻撃のチャンスが生まれる。

俺はそれを見逃さず、〝あの技〟を使う。

 

「炎よ……我が剣に宿れ!」

 

太刀に炎を纏わせ、一振り目で右腕を切り落とし、二振り目で左脚を切断。

そして相手の懐に飛び込み。

 

「斬ッ!!!」

 

すれ違いざまの締めの一振りで胴体を斜めに両断する。

いくら頭に風穴を空けられても生きているヒヒBでも身体を真っ二つにされたことでセピスへと変わり、ようやく二体の内一体を倒すことが出来た。

良し、これで残りは――――

 

「リィン、上!!」

 

……え? 上?

ルーティーからそう言われた瞬間、俺は自分に大きな影が被さっていることに気付く。

バッ!と上空を見上げるとそこには跳躍したのか、宙を舞ったヒヒAの姿が在った。

俺が存在に気付くとヒヒAはトモユキ達にゴーディオッサー一体を投げ付けた時と同じように俺に向かって削り落ちた自らの左腕を投げ付けた。

 

回避は間に合わない!

そう瞬時に悟った俺は太刀を構え直し、防御の姿勢を取る。

 

「ガハッ!!?」

 

砲弾のように飛んできたヒヒの腕を太刀で受け止めると、両腕にもの凄い力が押し掛かり、俺の両腕は容易く折り曲がる。

それによってヒヒの腕は太刀ごと俺の身体にめり込む。

肺の中の空気を全部無理矢理絞り出されたかのようだった。

ヒヒの腕は激痛と共に体内のあらゆる臓器を圧迫し、吐血を誘発させる。

 

しかも、受けた衝撃で俺の身体は紙切れのように吹き飛ばされ、数十アージュも飛ぶ勢いだった。

実際にその勢いは凄まじく、『焔ノ太刀』でルーティーから離れた筈なのにあっという間に彼女の横を通り過ぎる。

 

「ぬぅ!!」

「っ!!」

 

このまま公園の外まで飛ぶのかと思ったその時、トモユキがダイビングキャッチで俺を受け止め、飛ぶ力を失った俺はトモユキを下敷きにするような形で地面に落ちる。

助けてくれたトモユキには悪いが彼がクッションになってくれたお陰でダメージを負わずに済む。

すぐさま起き上がってそこから退こうとしたが、胸の部分から強い痛みが走り、身体が思うように動いてくれなかった。

その状況の中でトモユキが声を掛ける。

 

「……大丈夫か、リィン?」

「…………ぁ、あぁ。ありがとうトモユキ」

「声に元気が無ぇな、何処かやられたか?」

「多分、肋骨が何本も折れてる。それに呼吸が苦しい………」

 

確かめた訳では無いが、痛みは肋骨部分から来ている。

幸い折れていなくてもヒビは入っているだろう。

おまけに息苦しさを感じるのは折れた骨が肺に刺さっているかもしれない。

どちらにせよ、これ程のダメージを負った身体は『エコーズビート』の自動回復では治し切れないだろうし、無理に身体を動かそうとすれば怪我が悪化しかねない。

『だが!』と俺がそう思った瞬間、トモユキがニッと不敵そうな笑みを浮かべる。

 

「まだやれるよなリィン」

「当たり前だ。ユン老師に徹底的に鍛えられたからな、この程度で寝ていられない。そっちは?」

「へっ………俺だ」

 

お互いにまだ戦えることを確認し合うと俺達はゆっくりと立ち上がる。

…………痛い。

胸の辺りが凄く痛い。

正直言って立っているだけでもメチャクチャ痛い。

意地を張ってまだやれると返答したが、この痛さに今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

回復魔法が欲しいところだけど、この状況でそんな暇はない。

 

何故ならもしここで痛みに負けて悶えている姿を見せたら、その隙をヒヒA(アイツ)に突かれて今度こそ殺されるだろう。

重ねて言えば、もしヒヒA(アイツ)を放ってしまったら今懸命にゴーディオッサーと戦っているアリサ達の所へ行ってしまい、彼女達に致命的な被害を与えるという可能性もある。

そうはさせない為に俺達はこんなところで寝ている訳にはいかないのだ。

 

「トモユキ! リィン!」

 

ルーティーがこちらに駆け付けて来る。

身体を張って守った甲斐もあって、五体満足そうだ。

 

「大丈夫なの?」

「まぁな。それよりも二人とも今から二十秒……いや、十秒で良い。ヒヒA(アイツ)の注意を引いてくれないか?」

「どうする気だ?」

「とっておきの一発をお見舞いする。だがそれには時間が掛かるんだ………出来るか?」

「――分かった、ルーティーも良いな?」

「う、うん。私に出来ることなら何でもするよ」

 

トモユキの提案に呑むと俺達はヒヒA(アイツ)を見据える。

ターゲットは唸り声を上げながらこちらの様子を窺っており、すぐに襲い掛かる様子はなかった。

こっちの怪我具合からして長く持たない、やるなら今しかない!

 

「ルーティー、援護!」

「了解!」

 

ダッ!と俺が駆け出す共に後ろからルーティーがアサルトライフルの弾を連射し、ヒヒAの注意を自分に逸らさせる。

ヒヒAは降り注ぐ銃弾の雨に対し、右腕で顔を覆う。

恐らく眼と角を守る為だろう。

30を越える弾丸はヒヒの腹、足、腕に当たるが、右腕に覆われた顔に当たること無かった。

やがてマガジン内の弾が切れ、銃弾の雨は一旦止む。

銃撃が止んだことでヒヒは何時また銃弾が来ても良いように右腕の位置を少し下げることによって視界を確保する。

 

「『紅葉切り』ッ!!」

 

相手が腕を少し下げてくれたお陰で眼と一緒に角が顔を覗かせ、その一瞬の隙を狙って俺はヒヒの頭上まで飛び上がり、角を全て切り落とした。

仲間を呼ぶ効果を持つ厄介な呼び笛の角を破壊し、俺は怪我の痛みに襲われる中、心の中でガッツポーズを取る。

 

これでもう仲間を呼ばれずに済む。

もし、この状況でまた仲間を呼ばれてたりしたら俺達は確実に全滅しているだろう。

 

とりあえず、要望の時間まで5秒切った。

あとはトモユキのとっておきの一発を待つだけ―――

 

「あっ?!!」

 

ガクン!と身体が空中で停止する。

視線を真下傾けると片足がヒヒAの右手に掴まれていた。

次にグンッ!と身体がヒヒの右手に合わせて下へ下がるのを感じ、これは地面に叩き付ける気のだと悟る。

何とかしなければこのままだと地面に叩き付けられ、本当に死んでしまうというのは重々承知なのだが、こうなった以上はもうどうすることも出来ないことも重々承知していた。

 

「(ここまでか………!)」

 

身体の角度が垂直から斜めになってそう思ってしまった時。

タァン!と規正の良い銃声が鳴り響く。

俺はその音がルーティーのスナイパーライフルの弾の発砲音だということを見なくてもすぐに分かった。

そして気付く、弾丸が俺の片足を掴んでいる右手の首元を貫いたことを。

 

手首に風穴を空けられたヒヒAは悲鳴と共に痛さで俺の片足を放す。

ヒヒが片足を放したことで力一杯に地面に叩き付けられるという事態は免れたが、中途半端なところで手を放してくれた

せいで俺はキャッチボールのボールのように飛ばされる。

 

あっ………まずい。

 

怪我の痛みで姿勢を変えることが出来ない上にこのままだと頭から落ちる。

加えて俺は9アージュくらいの高さから当然重力に沿って地面に落下していて、胸の辺りを負傷している今の俺がこの高さから落ちれば、怪我が悪化しかねない。

それどころか、打ち所が悪くて最悪死んでしまう可能性もある。

くそ! せめて怪我がもっと軽かったら―――。

 

「ゼオラ!!」

「分かっていますわ! 『ティアラ』!」

 

俺の気持ちが伝わったのか、トモユキの呼び掛けでゼオラが回復魔法を唱え。

直後に淡い光が俺を包むと胸の辺りの怪我が瞬時に治り、同時に息苦しさも無くなる。

怪我が完治した途端、俺は地面まであと2アージュのところで姿勢を変え、受け身を取って落下の衝撃を少なくし、怪我も無く無事に着地した。

 

「待たせたな、二人とも!」

 

するとトモユキの声が鼓膜に響く。

俺は顔を上げてトモユキの方に眼を向けると宝銃『トライデント』の三角形の銃口から輝かしく光る莫大なエネルギーが溜まっていた。

 

「喰らえ…………『トライデントバスター』ッ!!!」

 

引き金を引いた、次の瞬間。

その銃口の大きさからではとても想像出来ない程の光線が照射される。

放たれた金色の光線の大きさは直径4アージュ、真下の地面に一筋の焼き跡を築きながら直進し、瞬く間に進路上のヒヒAを包み込む。

光に飲まれたヒヒは悲鳴を上げる暇など与えられず、その身体は1秒も持たずに溶かし尽くされ、 やがて光線の照射が終わるとヒヒが居た場所には膝から下の部分しか残って居なかった。

間もなくして残った脚部はセピスへと変わる。

 

「び、ビーム!」

「これがトモユキがとっておきか………!」

 

唖然とした表情で口が塞がないルーティーと俺。

『とっておき』と言うからどんなのが出て来るのかと思えば、まさかビームを出すとは………もう何でも有りだなアイツ。

 

「『エクスクルセイド』!!」

 

そしてゼオラが二回目の『エクスクルセイド』を発動させ、アリサ達が戦っているゴーディオッサー達を一匹残らず浄化し、セピスへと変わり果させた。

辺りに魔獣の気配は無くなり、俺達は勝ったたのだと確信する。

長いようで短かった死闘が終わって全員疲れがどっと出たのか、糸が切れたかのようにその場にへ垂れ込むアリサ、ルーティー。

ラウラは剣を杖代わりにして立っていれば、エリオットは大の字になって地面に仰向けの状態で倒れている。

 

「し、信じられない……生きてるよ僕達!」

「勝った………のよね、私達?」

「うむ、厳しい戦いであったが、皆の力を合わせて乗り切ることが出来た。この勝利――」

「俺達A班全員の〝成果〟だ」

 

綺麗にそう締めると皆の顔に達成感が滲み出て、喜びを分かち合うように笑い合う。

そんな中で一人だけルーティーが深刻そうな顔で俺の方を見る。

 

「リィン、怪我は大丈夫?」

「あぁ俺は大丈夫さ。トモユキはどうだ?」

「ん? 大丈夫だが」

 

そう返したトモユキだったが、頭から流れる血の量がさっきの倍以上になっていた。

直後にその眼は虚無を見詰めるようなものに変わった途端、フラっと身体が傾き、バタリと地面に倒れる。

 

「――って、全然大丈夫じゃないだろう!!」

「と、トモユキしっかりして!!」

「え、エリオット、回復! 早く早く!!」

「わわわわ、たたた大変だぁ~~!!」

 

地上に居るA班全員が大慌てでトモユキの元へ駆け付け、エリオットが回復魔法でトモユキの頭の怪我は治した。

血も止まって正常な状態に戻ったトモユキはむくりと上半身だけを起き上がらせる。

 

「いやぁ~綺麗な川を挟むように一面花畑の場所が見えたぜ」

「渡らなくて良かったな………」

「―――ごめんね、トモユキ、リィン」

「あん?」

「えっ?」

 

A班の約一名が亡き者に成らずに済んで安堵したら、急にルーティーが謝り始めてトモユキと俺は眼を丸くする。

 

「私が……私が逃げ出して皆から離れさえしなければ、二人に怪我を負わせることもなかったのに………」

 

俺達二人が怪我を負ったことに罪悪感と責任感を感じているのか、震えた声で語る彼女はその身体も震えていた。

眼は微かに涙が浮かんでおり、後悔の念が表情や瞳に映っている。

 

参ったな………どう言葉を掛けて良いのか分からないぞ。

こういう時にはいつもスッと出て来るのに、どうしたものか。

 

「下手したら二人とも死ん―――」

「ルーティー」

 

と、俺が悩んでいる内に重ねて何かを言うとしたルーティーの言葉をトモユキが名前を呼んで制止した。

 

「俺達は仲間だ。仲間がピンチだったら助けるのは当然だろ?」

「で、でも―――」

「確かにお前の行動で結果的に俺とリィンは怪我を負ったかもしれない。だが俺達は戦闘プロじゃない、至らないところろなんて幾らでもある。なら身に降り掛かろうとする危険を恐れて取り乱してもおかしくない筈だ。なぁ皆?」

 

同意を求めるようにトモユキは俺以外に話を振る。

皆はそれぞれの顔を見合った後、一旦間を置いて口を開く。

 

「……そうね、ルーティーが取り乱すのも無理ないわ。正直言って私もあのヒヒを見た瞬間、そこから逃げ出したかったもの」

「うん。僕もあんなのに迫まれたりしたら逃げ出してたと思うよ、きっと」

「ふむ……私も生まれてこの方、父上以外で初めて恐怖を抱いたのだ。まぁ逃げ出すことは無いとしても、戦略的撤退はあったかもしれん」

 

―――ラウラ、それは逃げたことに変わらないぞ。

等と、ここで突っ込みを入れるのは無粋なので、俺はその台詞を喉の辺りで抑え込む。

 

「なっ? 皆も怖かったんだ、他の誰かがお前と同じ立場だったらお前と同じ行動をしてたと思うぜ?」

「そ、そうだとしても、私の所為で二人が怪我したのは変わりなんだし………」

「あぁ怪我したさ! 無茶苦茶痛かった! ―――だがこうして生きている」

 

そう言ったトモユキの声の質が緩やかなもの変わり、ルーティーと眼を合せる。

 

「俺もリィンも怪我を覚悟してまでお前を守ろうとしたんだ。あの程度の怪我なんて想定内さ、むしろあの化け物共の攻撃を喰らって怪我だけで済んだんだからメッケモンだろう。なぁリィン」

「はははっ、全くだ」

 

話を振られた俺は思わず苦笑を浮かべて答える。

言われてみれば、いくら自動回復や防御強化の恩恵が在ったとはいえ、あの魔獣達の攻撃をモロに貰って生きているなんて奇跡と言っても過言じゃない。

何せ相手は今まで戦ってきた大型魔獣の中で一番強かったのだから。

トモユキの言う通り、怪我だけ済んだのはメッケモンだ。

 

「気にして……ないの?」

「気にするかよ、さっきも言ったが俺達は仲間だ。仲間を守るのは当然だし、至らない所を補うのも仲間として当たり前ことだぜ。自分の行動に非を感じるのなら、次はそうならないように強くなれば良い」

 

『それに』と付け加え、ニッと笑みを浮かべるトモユキ。

 

「お前も最後はちゃんと戦っただろう。逃げ出すぐらい怖かったのに、最後はその怖さに立ち向かったんだ。凄かったぜお前の射撃!」

 

そう言うとトモユキの手がルーティーの顔に伸びる。

まるで泣いている子供を励ますように、その手を優しく彼女の頭の上に置く。

 

「良く頑張ったなルーティー」

「あ………」

 

今度の声は暖かいものへと変わり、彼女の勇気を称える。

褒められた当人は気が抜けたような声を出し、眼を丸くした後、顔が俯く。

心なしか、顔を俯かせた時、頬が染まったように見えた気がした。

 

「ふぅ………やっと降りられましたわ」

「あっ、ゼオラ」

 

トモユキとルーティーが何処か良い雰囲気になったと感じたところで明後日の方からゼオラが現れる。

言葉から察するに木の上から降りるのに大分苦戦したようで、だが彼女が来たことでA班全員が揃う。

すると合流して早々、ゼオラは俺達を見て不思議そうな顔を浮かべ、次に首を傾げる。

 

「皆さん、何をお話してたのですか? 私、リィンの『俺達A班全員の〝成果〟だ』のところしか聞いていないのですが……」

「えっとね、実は―――」

「大したことじゃないよ! 皆で反省会的なことをしたって感じ!」

 

先程のことを掘り返させるのが嫌なのか、ルーティーが適当なことを言って誤魔化す。

あのやり取りで何かやましいが有っただろうか?

しかも、彼女の対応に何故か顔がニヤけるアリサとエリオット。

 

「……まぁ良いですわ、それよりもそろそろあの者達から聞きたい事を聞き出しましょうか」

 

ゼオラの視線の先には地面に伏せている盗賊達が居た。

そうだ、彼等とは話の途中だったな。

リーダーの方はまだ伸びているけど、部下達の方は大丈夫だから引き続き尋問を行うとしよう。

 

「と、とんでもねぇ………」

「こんな連中が出て来るとは……」

「あの野郎、話が違うじゃねぇか………」

 

〝あの野郎〟?

もしかして大市の商品を盗むように指示した人物か?

よし、まずはそこから突いてみるとしよう。

 

「その〝野郎〟とは一体誰のことなんだ?」

「あぁん? ハッ、誰が教えてやるかよ!」

「お前等に話すことなんて何一つあるかっつうの!」

「……何ですって!」

 

盗賊達の態度に顔を険しくするアリサ。

やはりそう簡単に喋ってくれる訳ないか。

だがこちらも引く訳にはいかない、どうにかして知ってることを全て吐かせないと。

 

「はっはっはっは、残念だったな! この糞が―――ごほッ!?」

 

何かを言い掛けた盗賊達の一人が突然悲鳴を上げたかと思うと、いつの間にかその盗賊の背中を踏むトモユキが居た。

背中を踏んでいる片足で盗賊を地面に縫い止め、手には何処から持って来たのだろうか、真っ直ぐに伸びた細長い木の枝が握られている。

それを両手で持ち直すと高らかに上に振り上げ、その瞳は盗賊の尻の真ん中を定めていた。

 

「必殺………!」

「ちょ、おま、えっ」

「尻殺しーーーーーーー!!!」

 

ズブブブ!!

 

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!?」

 

盗賊の男の断末魔のような悲鳴が公園内に響き渡る。

ひどいかん―――いや、突きだ。

その突きを貰って盗賊の男は尻に木の枝が刺さったまま、ピクピクと痙攣している。

悪党とはいえ、彼には同情を禁じ得ない。

 

「なんてお下品な……」

「はしたないわね……」

 

ゼオラとアリサが眼を逸らして非難する。

若干、彼女達の二人の頬が染まっているようにも見えなくない。

片やラウラとルーティーの方は心底呆れた顔を浮かべ、エリオットは『ヒィ! 痛そう!』と言いたげ顔を浮かべていた。

そしてトモユキは仲間の悲惨な姿に口をパクパクさせ、唖然する他の盗賊達の方に振り向き、

 

「さて、話してくれるよな?」

 

満面な笑顔を浮かべた当人の手には新たな木の枝が握られていた。

『ぐぅ!』と調子に乗っていた彼等の顔が180度変わって曇る。

……もしかしたらトモユキは彼等以上の外道かもしれないな。

 

 

ピィイイイイイイイ!!

 

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

何がともあれ、話を聞き出せそうになったその時。

突如、公園内にホイッスルの音が鳴り響く。

音の方角からして、俺達が此処へ来た道からのようだった。

 

「……面倒な者達が駆け付けて来たようだな」

 

ラウラの言葉を機に、来た道から青い軍服を纏った者達。

此処【クロエツェン】州を治めるアルバレア公爵家の配下、詰所に居た隊長と兵士十数名を引き連れた【ケルディック】の領邦軍が現れた。

彼等は俺達と盗賊達を見るな否や、隊長の合図と共に兵士達がこちらへ駆け寄り、俺達を囲む。

 

「手を上げろ!」

「抵抗は無駄だぞ!」

 

まるでこちらが犯人のような扱いだ。

兵士達の対応にラウラの眉の片方が吊り上る。

 

「何故、そこの彼等ではなく我等を取り囲むのかな……?」

「口答えするな……!」

「学生だからと言って手加減すると思うなよ!」

 

聞く耳無しか………。

分かっていたことだが、ここまで露骨に盗賊達を庇い立てするとは。

 

「やっぱり完全にグルだったんだ……」

「……呆れ果てたわね」

「―――何の話かな?」

 

エリオットとアリサの発言に領邦軍の隊長が存じていないと言わんばかりの顔で盗賊達との関係を誤魔化す。

 

 

「確かに、盗品も在るようだが彼等がやった証拠はなかろう。可能性で言うならば……〝君達〟の仕業と言うことも有り得るのではないか?」

「ええっ!?」

「……そこまで我らを愚弄するか」

「本気でそんな事がまかり通るとでも……?」

 

挙げ句の果てに濡れ衣を着せようとする領邦軍に俺は膨れ上がる怒りを抑えつつも、抵抗の証として彼等を睨む。

隊長は表情を変えず、淡々とこう答える。

 

「弁えろと言っている。此処は公爵家が治める【クロイツェン】州の領内だ、これ以上学生如きに引っかき回れる訳にはいかん」

 

そう述べると今度はこちらを見下すように、或いは侮蔑するように嘲笑う。

 

「手を引かむと言うならば……このまま容疑者として拘束し、バリアハート市に送ってもいいが?」

「うっ……」

「姑息な手を……」

 

今朝の大市の件と同じ脅しを掛ける領邦軍にエリオットはたじろぎ、トモユキは姑息だと評する。

 

くっ……、最悪だ。

腸が煮えかえるような気分だけど、対抗する手段が見当たらない。

だが、このまま何もしなければ領邦軍の暴挙を許してしまう。

何か、何か良い手は無いのか!?

 

そう打開策を探っているとゼオラが隊長の前に出る。

 

「……貴方達、いい加減になさい!」

 

堪忍袋の尾が切れたのか、今度はゼオラの声が公園内に響き渡る。

領邦軍も俺達も突然の大声に眼を見開き、この場に居る者の全ての視線が彼女に集まり、辺りが静寂に包まれた中でその口が再び動き出す。

 

「民と土地を守る貴方達が自分達の民を守らず、無法者を捕まえようともせず、あまつさえこの地で法を犯した者達を庇う等と誇りある領邦軍のやることではありません!」

「何ぃ?」

 

ピクッと眉が反応し、顔を険しくする領邦軍の隊長。

それを更に煽るようにゼオラはビシッと彼等に人指し指を突き刺すと、高らかにこう告げる。

 

「このような卑劣な行為、例え女神が見逃してもこの私が見逃しません! 恥を知りなさいっ!!」

 

断固として領邦軍のやり方を真っ向から否定する。

この時、俺は堂々と彼等を糾弾する彼女の姿勢になんとも言えない気高さを感じた。

だが領邦軍の隊長はワナワナと握り拳を震わせ、

 

「この小娘が……黙って聞いていれば知ったような口を利きおって!」

 

思ったよりも沸点が低いようで、腹を立てた隊長は部下に指示を出す。

 

「もういい! この者達を引っ捕らえよ!」

 

隊長から指示が下ると領邦軍の兵士達は覇気を取り戻し、俺達を捕まえようと縄を取り出す。

くそ、万事休すか!

 

「控えおろうッ!!」

 

と、諦めかけたその時。

トモユキの一声が兵士達を制止する。

直後に彼はゼオラの隣まで移動し、

 

「このお方をどなたと心得る! このお方はかの【ラマール】州を治めるカイエン公爵閣下のご息女、ゼオラ様であらせられるぞ!」

「な……何だとぉ!?」

 

ゼオラの身分を明かしたことで隊長は顔をギョッと強ばらせ、兵士達はザワザワと騒ぎ始める。

『あのカイエン公爵の!?』『た、確かに、何処かで見たことがあると思えば!』等の囁きがチラホラと耳に入る。

彼等が俺達の中にとんだ大物が混じっていたことに困惑している中、トモユキは畳み掛けるように言葉を紡ぐ。

 

「貴族様って言うのは自分の顔に泥を塗られるのが大っ嫌いだ。その貴族様の頂点、【四大名門】の事実上トップであるカイエン公爵閣下のご息女を無実の罪で捕まえただなんてカイエン様本人の耳に入ったらきっとお怒りになるだろうよ」

「ぬっ………」

「部下の責任は上の責任。娘に無実の罪を着せたとカイエン公爵がアンタ達の主を糾弾すれば、まず間違いなくアルバレア公爵閣下の顔に泥を塗られることになる」

 

自分達を逮捕すればどのようなことが起こりうるか、ネチネチと責め立てるように語るトモユキ。

表情は険しいままだが、その語りを聞く隊長の眉間に一筋の汗が流れる。

 

「自分の顔に泥を塗ったことに激怒したアルバレア公爵閣下は不祥事を起こしたアンタ達をどうするだろうな? 無事じゃ済まないよなぁ? 首が飛ぶだけじゃ済まないかもなぁ?」

 

悪人面でそう投げ掛けるトモユキ。

兵士達の表情が次第に青ざめていく。

隊長の方はついさっきまで眉間から一筋の汗が流れていたが、今では汗がダラダラと流れている。

 

なんでろう………。

脅しているのはあちらの方なんだけど、こっちが脅しているように思えてしまう。

チラッと他の皆の方を見ていると皆も俺と同じなのか、複雑そうな顔をしている。

 

すると兵士の一人が『た、隊長……』と怯えたような声を出す。

 

「ええい、狼狽えるな!」

 

尻込みする兵士を隊長が一喝する。

 

「そこのお方が本当にカイエン公爵様のご息女だったとしても此処は我等の領地【クロエツェン】州! 何も恐れることは無い! 各員、直ちにその者達を―――」

「そこまでです」

 

隊長の言葉を遮るようにまた来た道から規正の良い声が響く。

声からして女性のようだった。

 

その場に居る誰もが、声がした方向に視線を向けると領邦軍とは違う、灰色の軍服を纏った数十名の男女達が現れる。

彼等を見て、領邦軍が眼を見開いて驚く。

 

「あ、あれは……」

「て、鉄道憲兵隊……」

 

鉄道憲兵隊?

何処かで聞いたような………。

 

「(この者達は?)」

「(間違いない……! 《鉄道憲兵隊(T・M・P)》だ!)」

「(帝国正規軍の中でも最精鋭と言われている……)」

「(あれが噂の……)」

「(な、何か大物っぽい人達が来ちゃったね……!)」

「(やっと来たか)」

 

領邦軍に聞こえないようにコソコソと小声でラウラ、エリオット、アリサ、ゼオラ、ルーティー、トモユキの順で話し合う。

 

思い出した!

確か、鉄血宰相が考案した正規軍とは違う系統に属する独立部隊だったか。

そんな人達がどうして此処に?

 

と思っていると、数十名の憲兵隊の中から水色の髪の女性が前に出る。

どうやら彼女が指揮官のようで、現れて早々領邦軍の隊長と講義を交わす。

 

だが、その講義は1分満たずに呆気なく終わる。

女性指揮官がスラスラと流れるように言葉を並べただけで、隊長を屈服させ、鮮やかに件の全権を奪い取ったのだ。

巧みな話術で言い負かされた隊長は撤退の指示を出し、領邦軍はこの場から引き下がる。

 

「お、おいおい! そりゃねぇだろう!?」

「は、話が違うじゃねェか!」

 

救い手であった領邦軍に見捨てられた盗賊達が情けない声を出す。

そんな盗賊達を憲兵隊の女性指揮官は容赦なく部下達に確保の命令を下し、部下の人達は速やかに彼等を包囲・拘束する。

 

「………鉄血の狗が」

「…………」

 

去り際に領邦軍の隊長が何かを呟いたようだが、女性指揮官はそれを気にせず、こっちへ歩み寄ってくる。

同時にトモユキが彼女の方に歩み寄り、

 

「おっす、クレア! ナイスタイミングだな」

「トモユキさ―――ん、遅れて申し訳ありません」

「いいって、助けて貰ったのはこっちだし」

 

あれ? 知り合いなのか、この二人。

おまけに妙に親しそうだし、どういう関係なんだ?

 

「そうだ、皆に紹介しておくよ。この人は―――」

「帝国軍・鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です」

 

微笑みを浮かべて所属と名前を述べるクレア大尉。

改めて見てみると、綺麗な人だ。

軍人とは思えないぐらい穏やかな雰囲気を持ち、スラッとした後ろの髪を一つに纏めて肩に流して妙に様になっている。

端整な顔立ちもあって、可憐な美人と言って良い。

 

しかも、軍服で強調されているせいか、服の上からでも出るとこ出て、絞まっているところ絞まっているのが分かる。

副担任のヨハン教官と同じ、プロポーションの良いおしとかやな大人の女性という感じだ。

 

―――いかん、ちょっと話がズレてしまったな。

とりあえず、その女性将校さんが名乗り終えると、俺達の全員の顔を見渡す。

 

「それではトモユキさん、Ⅶ組の皆さん。調書を取りたいので少々お付き合い願いませんか?」

 

 

 

《午後14:00 【ルナリア公園】入り口付近》

 

 

 

大尉が言った調書の為、俺達は公園から出るまでの間、今回の事件で知ったことを全て話すことになった。

A班の代表として俺が大尉の質問に答える役割を任されたが、フォローとしてアリサとトモユキがちょくちょくと会話に入って、細かい部分を代わりに説明してくれる。

その会話の中で俺達は大尉があの場でタイミング良く現れた訳を知る。

 

「じゃあ大尉達があのタイミングで現れたのはトモユキのお陰なんですか?」

「はい、トモユキさんが駅を通して私達《鉄道憲兵隊》に報告してくれたお陰で比較的迅速に行動することが出来たんです」

「私達とずっと一緒に行動してたのに、一体何時からそんなことを……」

「周りに知られずに行動するのも『ニンジャー』の芸当だぜ」

 

へぇ、やっぱ凄いんだなぁ『ニンジャー』って。

スリの技術といい、ピッキング能力といい、その周りに気付かれること無く行動出来る技術といい、まるで〝怪盗〟みたいだ。

まぁスリもピッキングも誉められたことじゃないけど。

 

等と話している内に俺達は公園の入り口前に到着した。

入り口前には軍の装甲車が三台とトラック一台が並んでおり、憲兵隊の皆さんはその三台の装甲車の内一台に拘束した盗賊達を乗せ、回収した盗品はトラックの荷台に乗せる。

更に大尉の話によれば、俺達も装甲車に乗せてくれるようで、【ケルディック】まで送ってくれるらしい。

これで帰りが楽になったな。

 

あっ、そういえば。

大尉とトモユキってどういう関係なんだろうか?

他の皆も知りたそうな顔をしてたし、今の内に聞いてみようか。

 

「……ところで、二人はどういう関係なの?」

 

すると俺や他の皆を代表するようにルーティーが訊ねる。

気のせいか、声色が妙に冷たい。

 

この質問に対し、トモユキは大尉と顔を見合わせるとニコッと笑みを作り、ポンと大尉の肩に手を置く。

 

「無論、俺の子供を産んでくれる―――」

「違います」

 

言い終える前にバッサリと否定するクレア大尉。

ガーン!とショックを受けるトモユキ。

 

「冷たいこと言うなよ、それぐらいの胸を持ちながら24になっても彼氏も子供も居ないんだから、手遅れになる前に産んだ方が良いって!」

「余計なお世話です。それと胸と齢は関係ないでしょう」

「そんなことは無い! 爺ちゃんは言っていた、『若くて胸さえあれば何でも出来る!』と! つまり若さを保ち、尚且つ胸が大きければ大きい程、富も名声も手に入り! やがては世界も征服出来るんだよ!!」

 

いや、その理屈はおかしい。

胸が大きいだけで世界が征服出来るならこの世はとっくにその胸の大きい女性に征服されているだろう。

と突っ込みたいが、熱弁している今のトモユキに何を言って無駄なので、俺は断念する。

 

「まぁ逆に言えば、胸が無かったら何も出来ないと言っても過言じゃない。と言うか、B以下のように胸が無いのは女性としての魅力がほぼ無いに等しい。そもそも13も過ぎてB以下なんて女としてどうかと―――」

 

―――その瞬間。

ズキューン!!と言葉を遮るように一発の銃弾がトモユキの頭を掠める。

突然の発砲にこの場に居る誰も驚く。

俺とトモユキは何が起こったが一瞬分からず、ほんの少しの間硬直し、そして恐る恐る銃弾が来た方向に振り返ると、

 

「………ふーん、B以下は女のとしての魅力が無いね。あぁ、続きを言っていいわよトモユキ。確か〝13も過ぎてB以下なんて女としてどうか〟だったっけ?」

 

笑みを浮かべて回転式拳銃『マグナム6』をトモユキに向けるルーティーが居た。

勿論、その眼は笑っておらず、コメカミには青筋が数本浮かんでいる。

そして死の宣告のようにガチャリと拳銃のハンマーを倒す。

 

トモユキは珍しく狼狽するも命惜しさに弁明しようと口を走らせる。

 

「ま、待て待てルーティーさん! 落ち着け話せば分かる! 貧乳の良さは分からんが、ぺっタン系の女子が好きなアブノーマルの奴もきっと居るーーー」

 

バキューン!!と弁明も最後まで聞かず、発砲を開始するルーティー。

 

「ぬぉおおおっ!!? ちょ、おまっ、ルーティー殺す気か!!」

「うっさいバカ!! さっきはちょっと見直したって言うのに、アンタって男は………私のときめきを返せ、このバカ!! バカァ!!!」

「だっ! のっ! かっ、カスッてる!! マジでカスッてるって!!! 助けろーーリィン!!」

「おぉいトモユキ!! 人の後ろに隠れるな―――あぁっ!!? ちょ、ストップ! ルーティーストップ!! ストッ―――うわぁああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

………それから数十分後、ルーティーのほとぼりがやっと冷め、銃撃戦(一方的な)が終わったことでクレア大尉率いる《鉄道憲兵隊》の装甲車で俺達は【ケルディック】へ戻る。

到着後、大尉たちの手により盗まれた盗品全ては持ち主の手に戻ったことで、大市でのトラブルも一通り解決したと元締めのオットー氏は嬉しそうに語っていた。

 

「――流石にそこまでは考えていないけどね」

 

事件が解決し、一段落付いたところで駅からサラ教官が今頃になって登場する。

俺達を迎えに来たようだが、何処か疲れた様子だ。

教官曰く、B班の仲裁が大変だったらしく、その所為だと語る。

 

「特科クラス《Ⅶ》組……私も応援させて頂きますね」

 

サラ教官と少しだけ言葉を交わして、クレア大尉は敬礼と共に駅へ去って行く。

名残欲しかったのか、俺は思わず『あっ』と呟いてしまった。

 

「な、何だが軍人には見えない人だったけど……」

「だが、あの身のこなしと優雅なまでの立ち振る舞い……おそらく只者ではないだろう」

「ああ……隊員の練度も尋常じゃなかった」

「どうやら教官とも知り合いみたいですけど?」

「まっ、色々あってね」

 

やっぱり話す気は無いのか、適当にはぐらかすサラ教官。

気になりはするが、問い質すことでもないので俺も皆も聞き出そうとはしなかった。

 

「……で、結局トモユキはあの大尉さんとはどういう経緯で知り合ったの?」

 

するとルーティーが突拍子も無く、トモユキと大尉が知り合った経緯を訊ねる。

俺はあの銃撃戦でそのことはすっかり忘れていたが、ルーティーはまだ気にしていたようだ。

不意打ちの如く、知り合った経緯を訊ねられたトモユキは頬をポリポリと掻いて話す。

 

「ん~親戚がちょっとしたVIPな身分でな。その縁で知り合うことになったんだよ」

「VIP、とな?」

「その親戚ってもしかして、正規軍の将官クラスとかなの?」

「知りたいか? だが教えねェ」

 

トモユキは意地の悪い顔を浮かべてそのVIPな身分の親戚の正体は明かそうとしなかった。

教えないのは教えちゃいけない相手なのか、もしくは教えたくないのか。

どちらにせよ、本人が教えたくないなら追及は無駄だろうし、何より無神経だ。

ルーティーも同じ考えのようで、それ以上は何も聞こうとしなかった。

だが、勿体ぶられると気になってしまうのが人間の性。

俺が『教えてくれて良いじゃないか』と眼を細めた時、トモユキと眼が合う。

 

「なんだよリィン、俺があの美人と知り合いなのが羨ましいのか?」

「別にそんなことは……」

「隠すなよ、鼻の下伸びてた癖に。どうせ、クレアの胸とか尻とか太腿とか舐め回すように見てたんだろう?」

「み、見てません!」

「嘘こけ、木の枝に昇ろうとしていたゼオラのパンツをガン見してた癖にぃ」

「なっ!」

 

トモユキの話を聞いてゼオラは顔を赤くすると共にバッとスカートを両手で抑える。

まさかあの戦闘の中で、見られ―――じゃくなくて!

それじゃまるで俺が覗き見していたみたいじゃないか!

と、とにかく、弁明しないと!

 

「ご、誤解だ! 見たくて見たんじゃないんだ、あれは、その、見えちゃったって言うか……」

「「「「…………」」」」

 

うぅ……、駄目だ。

どう言葉を並べても、女性陣の無言の視線が冷たくて痛い………。

特にアリサの視線が。

すると傍らに居る元凶のトモユキがカッカッカッカと笑う。

 

「全く破廉恥な奴だなリィンは!」

「お前だけには言われたくないッ!!!」

 

俺の心の叫びが【ケルディック】に響く渡る。

 

 

 

 

 

 

………それから約30分後、『特別実習』の期限が過ぎたことで俺達は教官と一緒に帰りの列車に乗り、【トリスタ】へ帰る事にした。

ちなみにパンツの件に関しては俺がジャンピング土下座を十回も決めたことで何とか許して貰えた(アリサの視線はまだ痛いが)。

 

まぁそれは置いといて、帰りの列車、揺れ動く車両の中で疲れた身体を休めていた俺は今回の『特別実習』を振り返って、様々な得難いを経験をしたと実感する。

そしてその実習で力を合わせて共に試練を乗り越えた皆に隠し事をするのは不義理だと思った俺は思い切って打ち明けることにした。

いや、打ち明けずにはいられなかった。

 

俺の身分について………。




次回は第二章を載せたいと思います。


リィン達=正道

身喰らう蛇・結社=邪道

トモユキ=外道

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