五の軌跡   作:クモガミ

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次で第一章が終わると言ったな? あれは嘘だ(


すいません、最近仕事が忙しくて思ったよりも執筆速度が低下してしまい、
前編と後編に分けることにした次第です。

次の後編で第一章が終わるので皆さま、どうかお許しください(ぺこり

尚、今回はリィン視点でお送りします。


第一章ー10 4月25日 グルノージャ戦 前編

エリオットとゼオラが笛のような音が聞こえたと話した直後。

公園の外まで響き渡る様な咆哮が鳴り響いた。

 

声からして大型魔獣か!?

武器を構え直して、辺りを見渡す。

気配では一応、近くに居ないな……。

 

すると咆哮が響いた後、今度はドスンドスンと巨大な地響きのような足音が鳴る。

その足音は次第にこちらへ近付きつつあるというのが此処に居る誰もが分かった。

 

やがて足音はすぐそこまで接近し、草木や茂みの影からヌッと巨大な影が出て来る。

現れたのは5アージュは優に越えた猿のような魔獣。

頭部に四本の角と全身に毛むくじゃらの体毛を生やし、如何にも狂暴そうな顔付きをしている。

 

背筋が凍るの感じた……。

あの魔獣の顔を見た途端、身体全身に戦慄が走ったからだ。

自然と太刀を握る力が強くなる。

相手は今まで遭遇して来たどの大型魔獣よりも強い威圧感を放ち、近くに居るだけで肌がピリピリしてしまう。

過去に戦った大型魔獣全て強かったが、この魔獣はその魔獣達よりも断然強いのが戦う前に分かってしまった。

 

しかも不運なことにそんな魔獣が〝二匹〟も現れたのだ。

一匹だけでも厄介そうなのに、二匹も居るとなると手が付けられなくなるかもしれない。

チラリと横目で皆の様子を見てみると、ルーティー、アリサ、エリオットは驚きと恐れが顔に出ていた。

一方、ラウラ、トモユキ、ゼオラの方は驚きはしているが臆しはせず、凛然と大型魔獣を見据えている。

 

「きょ、巨大なヒヒ!?」

「な、なんて大きさ………」

「この公園の主達と言ったところか……!」

「どうするのリィン!?」

 

突然乱入してきた強大な相手に困惑するルーティーに意見を求められ、俺は二匹のヒヒに視線を向け直す。

二匹は観察しているのか、こちらを見据えたまま動かない。

しかし、明確な殺意と敵意を向けている。

このまま此処に留まれば戦闘は避けられないだろう。

次に顔を少し右に向け、盗賊団の様子を見る。

 

「ああああわわわわ!」

「ヒィイイイ……!」

 

大型魔獣の威圧感に当てられ、一人残らず完全に怖気付いていた。

この場から逃げようとする者も居るが、トモユキから貰ったダメージと相まって腰が抜けたのか、地面に這いつくばりなながらジタバタしている。

あの様子だと、自力で逃げるのは不可能に近い。

正直に言えばあの二匹と戦うのは避けたいところだが大市の事件を解決する為に、彼等も商品も此処に置いて逃げる訳にはいかない!

 

「俺達ならやれる筈だ! なんとか撃退するぞ!」

「承知した!」

「わ、分かったわ……!」

「【ARCUS(アークス)】の戦術リンクを上手くに活用すれば、遅れを取る相手ではありませんわ!」

 

ゼオラの言う通りだ。

確かに相手は強いが、戦術リンクを使いこなせば勝てない相手じゃない筈。

実習が始めてからお互いに高めてきた戦術リンクを通しての俺達の連携を今ここで最大限に発揮する時だ!

 

「ルーティー! アリサ! エリオット! 気合い入れろよ、食われたくなかったらな!」

「言われなくても、こんな奴等に食われてたまるもんですか!」

「み、右に同じく!」

「女神様……どうかご加護を!」

 

全員覚悟を決めたところで、戦術リンクの相手を切り替える。

俺はルーティーとラウラはアリサとトモユキはゼオラ、人数的に残ったエリオットは回復要員兼解析要員として全員のバックアップを任せた。

 

「皆さん、私の近くに!」

 

相手が襲って来る前にゼオラが自分に近くに来るよう呼び掛ける。

その呼び掛けに応えて俺達はゼオラの周辺に集まると、当人が両腕の魔導で〝二重詠唱〟をし始めた。

 

「『アダマスガード』!『クロノドライブ』!」

 

ものの数秒で二つの魔法を発動させ、俺達の身体は金色と紫色の二つの光に包まれた。

『アダマスガード』は物理的な攻撃を一度だけ防いでくれる防壁魔法、これがある限り敵の如何なる攻撃も守ってくれる。

更に『クロノドライブ』のお陰で身体が軽くなったようにいつもよりも素早く動けるようになった。

 

やはりゼオラは本当に頼りになる。

何せ俺達じゃまだ扱えない魔法を扱えるだけじゃなく、二人分の魔法を一人で同時に発動させるのだから、まさに鬼に金棒だ。

この戦闘でも大いに活躍するに違いないだろう。

 

だが俺も負けていられない!

魔法ではあまり役に立てないかもしれないが、俺には刀が在る!

 

「エリオット、頼む!」

「うん! エコーズビート!」

 

トン!とエリオットが魔導杖の柄頭で地面を叩いた瞬間、俺達全員に自動回復と防御強化の恩恵が与えられた。

よし、準備は整った!

 

「俺が先陣を切る! ラウラとトモユキはその後に続いてくれ!」

「任せるがよい!」

「思いっきり行こうぜ!」

「アリサ、ルーティー! 援護を頼む!」

「任せて!」

「OK! 背中はしっかり守るよ!」

 

頼もしい返事を聞いた直後、俺は二匹の大型魔獣の元へ突っ込む。

俺が走り出すと数アージュ程間を空けてラウラとトモユキが続く。

そして視界がの身体だけを映すぐらいの距離まで近付いた瞬間、ハエを叩き落とすようにヒヒAの右手が振り下ろされた。

たった一回限りの『アダマスガード』をこんな初盤で失うわけにはいかないので、俺は左に飛んで避ける。

 

「たぁ!!」

 

ドシン!とすぐ横にの拳が落ちた直後、すれ違い様に相手の脚に一太刀鋳れる。

だが思ったよりもヒヒAの皮膚は厚く、浅い切り傷を作った程度だった。

続いてヒヒAの後ろに居るヒヒBの正面に出ると今度はそいつが左手のフックを放つ。

俺は咄嗟にスライディングで地面を滑り、下からフックを掻い潜る。

何とかその攻撃も避けられたが、魔獣の攻撃は終わっていない。

スライディングの移動が終わり、俺の動きが止まった瞬間を狙ってヒヒBが踏み潰すそうと高々と左脚を振り上げる。

目では分かっていても流石にそこまで身体は対応してくれず、俺はその場から動くことが出来なかった。

 

「させないっ!」

 

タァン!と公園内に銃声が鳴り響くと同時にヒヒBの右目が弾け飛んだ。

悲痛の悲鳴を上げるとその巨体は後ろへ傾き、そのまま仰向けに倒れ込み、失った右眼の所を両手で抑え、聞くに堪えない絶叫を上げながらは悶えるヒヒB。

振り向かなくてもリンクで繋がっているお陰で、今の狙撃がルーティーの改造ライフル『カラミティ』によるものだと分かった。

俺は感謝の意を抱くと共に恐れ入る。

何故ならヒヒBが片足を上げてせいで頭の向きが後ろに傾いた瞬間を狙い、前から顔に衝撃を与えて相手の地面に倒れ落ちさせると同時に相手の視界を潰す高度な射撃をやってのけたのだから。

射撃が上手いのは前々から分かっていたけど、ここまで出来るとは予想以上だ。

 

「私も行くわよ! 『フランベルジュ』!!」

 

援護射撃として次はアリサが赤い光りを纏った紅蓮の矢をヒヒAに放つ。

矢は標的の左肩に突き刺さり、刺さったところから炎が膨れ上がった。

ヒヒAは悲鳴を上げながらも他の体毛に炎が移らないように、右手で着火点を抑えて炎を鎮火する。

 

「貰ったぁ、砕け散れ!」

 

相手の注意が炎に向いている隙を突いてラウラが『鉄砕刃』をお見舞いする。

上から垂直に下ろされた大剣はヒヒAの胴体に縦線の切り傷を付け、そしてすかさず次は水平に剣を振るい、横線の切り傷も付け足し、十字に切り傷を築き上げた。

そんな芸当をやってみせたラウラに乗っかるようにアリサも追撃として三本の矢を放ち、それ等全ては俺が斬った右脚の切り傷に突き刺さる。

胴体に大きな切り傷に加え、傷口を抉るように足の切り傷に矢が三本も刺さり、ヒヒAは断末魔に近い苦痛の叫びを吐く。

エゲツないが、あれでAの動きが鈍くなるに違いない。

 

「でぃやぁああああああああああああああ!!」

 

タイミング的には完璧な追撃の更なる追撃として、トモユキが宝銃『トライデント』からコーンのような三角形の光弾を発射し、 Aの左腕に着弾する。

トモユキは蹴り付けるように両脚からその光弾の中に飛び込む。

すると光弾は回転し始め、ドリルの如くヒヒAの左腕を削り取る。

 

「ゴギャアアアアアアアッ!!!」

「!?」

 

しかし、光弾が左腕を完全に削ぎ落とす前にAが雄叫びと共にトモユキを光弾ごと弾き飛ばした。

惜しくも攻撃は失敗し、空高く舞い上がったトモユキだったが近くの木の枝にしがみ付き、そのまま木の枝の上に乗る。

一瞬ヒヤッとしたが、無事で何よりだ。

 

だが、俺が立ちがったその時―――。

 

 

ボァアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

突然、ヒヒAが角から変な音を出す。

何の音だ?と俺達が眉を顰めた直後。

複数の気配が此処に近付いてくるのが分かった。

少なくとも十体以上は居る!

 

やがてそう経たない内に複数の気配達が姿を見せる。

気配の正体はこの【ルナリア公園】で何度も戦った『ゴーディオッサー』という名前の山羊を彷彿とさせる角を生やした魔獣だった。

数は目視しただけでも全部で12匹。

どうやらヒヒAが出した音に応じて此処へ来たようで、しかも俺達を囲むようにこの開けた場所の端の至る所に位置付く。

 

「仲間を呼んだか!」

「そんなのアリ!?」

 

敵の増援に厄介そうな表情を浮かべるラウラとルーティー。

数の利ではかこちらが勝っていたのに、仲間を呼ばれたことで負けに転じる。

 

「角だよ! ヒヒの顔の横に生えた角が呼び笛になっているんだ!」

 

先程の変な音はヒヒの角から発し、それが呼び笛の役割を果たしていると見抜くエリオット。

じゃあ、あの角をどうにかしないと他の魔獣も呼び出されてしまうのか!

 

「便利な身体な上に意外と賢いようだな!」

「あぁ、厄介この上ない。また仲間を呼ばれる前にあれを破壊しないと!」

 

木の枝に居るトモユキに相槌を打ちつつ、俺は角の破壊を優先すべきだと皆に伝える。

だがそれを行わせる時間など与えてくれるわけがなく、現れて早々、ゴーディオッサー達は一目散に俺達に襲い掛かる。

俺とラウラの方には二体ずつ、アリサ、エリオット、ルーティー、ゼオラの方には8体も向かう。

当然俺達は迎撃するのだが………、一人だけ迎撃出来ない者が居た。

 

それはゼオラ。

彼女は今、道力魔法(オーバルアーツ)を詠唱中で通常攻撃どころか動く事すら出来ずにいた。

近くに居るアリサとエリオットとルーティーの三人はゴーディオッサーから彼女を守りつつ迎撃をするが、流石に3人だけでは8体も捌き切るのは不可能で、一体の防衛線越えを許してしまい、その一体はゼオラの背後に近付く。

 

「くぅ……!」

 

まずい!とゼオラが顔を歪ませる。

あの様子だと詠唱中の魔法の発動も間に合わないか!

俺とラウラが助けに行こうとしてもお互い二体のゴーディオッサーが邪魔して助けに行けない。

くそ! 何か手は無いのか………。

 

「ゼオラ!」

 

ゴーディオッサーがすぐそこまで迫ったその時、木の枝の上に乗ったトモユキがゼオラの方に手を伸ばして呼び掛ける。

その呼び掛けの意図が読めたのか、ゼオラは右腕の詠唱を止めると魔導から帯を出し、トモユキに向けて帯を投げ伸ばした。

自分の所まで伸びてきた帯を右手で掴むとトモユキは帯を掴んだまま、木の枝から降りる。

次の瞬間、ゼオラの身体は引っ張られるように帯を伝って上へと上昇し、トモユキが乗っていた木の枝の元へ向かう。

仕組みは簡単、トモユキは木の枝を軸にして、天秤のように彼女を上に運んだのだ。

獲物が上空へ逃げたせいで、すぐそこまで接近していたゴーディオッサーの拳は虚しくも宙を切る。

 

「『エクスクルセイド』!!」

 

木の枝に着く前にゼオラは左腕で詠唱していた魔法を発動させ、地面に十字架を描いた光の円が浮かぶ。

すると光の円は眩い浄化の光を放ち、円の中に居る魔獣達だけを焼き尽くす。

この魔法は初めて見たと共にゼオラが今まで見せてくれた数々の魔法の中で一番強力な魔法だ。

 

「これなら……!」

 

浄化の光で朧気にしか見えないが、魔獣達が一斉に焼かれてセピスに変わっていく光景にエリオットは勝利を確信したように声を上げる。

まだ結果は見てないけど、この魔法ならあの二体のヒヒもーーー。

 

と、そんな甘い考えは浄化の光が収まると共に脆くも崩れ落ちる。

 

「ウゴァアアアアアア!!!」

「!!」

 

咆哮が響き、俺達は眼を疑った。

あの強力な魔法を喰らってもまだ二体のヒヒは生きていたのだ。

 

「一発だけとはいえ、仕留め切れないなんて……!」

 

放った本人のゼオラも今の魔法でヒヒ達を倒せなかったことに驚きを隠せずにいた。

やがて木の枝に着くとトモユキと同様、木の枝の上に昇ろうとする。

 

「だ、だけど! 他の魔獣達は全部倒せたわ! 二体のヒヒもゼオラの魔法でダメージを負ったし、このままダメージを与え続ければ倒せる筈よ!」

 

状況的はこっちが有利だとアリサが皆に伝える。

そうだ、例え二体のヒヒが生きていても増援のゴーディオッサーは全て倒したのだから不利な状況にはなっていない。

アリサの言う通り、引き続きヒヒ達にダメージを与えていれば、きっと――――

 

 

ボァアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

再びあの変な音が響き渡り、俺達の顔はギョッと強張る。

今度発したのはヒヒAでなく、何時の間にか起き上がっていたヒヒBの方だった。

するとデジャブのように此処へ近付く複数の気配。

数は先程と同じ十体以上、その正体は。

 

「やっぱりゴーディオッサーか……」

 

案の定、草木の影から現れたゴーディオッサーの群れ。

おまけに狙っているのか偶然なのか、数は先程と同じく12体で、コイツ等も俺達を囲むようにこの空間の端の至るところに陣取っていた。

 

アイツ等の相手をしている間にまた増援を呼ばれるかもしれない。

仕方ない、もう一度ゼオラに『エクスクルセイド』を放って貰おうか。

 

と俺が木の枝の方に視線を傾けたら、

 

「むむぅ……あともうちょっと………!」

 

って、まだ昇れてない!?

腕力が無い為か、ゼオラは懸垂で昇ることが出来ないようで、ならば足の方からと片足を上げているが。

あともうちょっとのところで届いていなかった。

こんな時に何をやっているのだろう………。

それにそんな態勢だと眼のやり場がーーー

 

――と、とりあえず、今の状態じゃ魔法は使えないな! うん。

ゼオラが昇り終えるまで、時間を稼がないとな。

 

 

だがこの後、俺達A班は大型魔獣の恐ろしさを改めて知ることになった。


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