《午前12:00 東ケルディック街道》
町を一通り見回った後、街道灯の交換とハーブの配達を終わらせた私達A班は今、《特別実習》の必須項目の一つ、手配魔獣の討伐に取り掛かっていた。
「ゼオラ! 止めは任せたよ!」
「お任せなさい!『ダークマター』!!」
私の『マグナム
その光景を見届け、無事魔獣を倒したことを確認すると私達は溜め息と共に戦闘態勢を解く。
「……中々手強かったな」
「ええ、でも戦術リンクのお陰でそこまで苦戦しなかったわ」
「道中で練習した甲斐があったね」
昨日まで気まずい関係だったのが嘘のように話し合うリィンとアリサの後に私が補足を付け足す。
そう、戦術リンクに不慣れな私達女子と女子と初めてリンクする男子は手配魔獣の元へ辿り着く前に道中で街道に徘徊する魔獣と戦って戦術リンクのコツ掴みと連携力を高じていたのだ。
よって私達女子は《実技テスト》の時よりもずっと動けるようになる。
「ふむ、使いこなすとこれ程便利で強力とは。身に染みて思い知らされたな」
「サラ教官の言う通り、もっと使いこなせるようになれば、戦略の幅が限りなく広がるかもしれませわね」
「なら鍛練あるのみだな」
左手の銃を肩に乗せて会話を締めるトモユキ。
そのトモユキの左手が持っている銃に視線が止まったエリオットが『そういえば……』と呟く。
「前々から気になってたんだけど、トモユキのその銃って一体何なの?」
「これか? これは〝
「〝宝具〟?」
聞き慣れない言葉に私は思わず、オウム返ししてしまう。
他の皆も知らないそうな顔を浮かべたが、約二人だけそうじゃない顔を浮かべる。
「ーーそうか、それが〝宝具〟か。実物を見るのは始めてだ」
「知ってるのリィン?」
「あぁ、ユン老師から聞いたことがある。【暗黒時代】よりも前の時代に創られた不思議な力を持つ武具で、その時代の人達はその武具を〝宝具〟と呼んだらしい」
「私も実家の古い書物で見たことがありますわ。何でもその〝宝具〟という物の力を振るえば、千機無双が出来る程の力を発揮される、と」
「む、無双?」
「嘘……そんなに凄い代物なの? トモユキの銃って」
リィンとゼオラの説明にアリサと共に驚く私はそれが本当なのか、持ち主のトモユキに聞いてみる。
「んーむ、流石にまだ無双は無理だな。俺、まだこれ使いこなしてねぇもん」
ま、まだ? それってつまりいずれかは出来ちゃうってこと?
……………ずるい。
ただの妬みかもしれないけど、何かずるいと思うのは私だけ?
「ふむ、世の中にはそのような物が本当に在るのだな。興味深い」
「ーー試しに撃ってみるか?」
「む? 良いのか?」
「増えるもんじゃないからな、ホラ」
それを言うなら〝減るもんじゃない〟じゃない?
等と心の中で私が突っ込むとトモユキはラウラに銃もとい宝銃『トライデント』を渡す。
「銃器は一度も扱ったことがないのだが………」
「そんなに難しいことじゃねぇよ。ただ狙いを定めて引き金を引くだけ、簡単だろう?」
「うむ」
トモユキからアドバイスを貰ったラウラは数アージュ先の岩に狙いを定める。
すると引き金を引く前に、
「撃った後、疲れるかもしれないから気を付けろよ」
「ん?」
トモユキが遅れてそう注意した時にはラウラは引き金を引いた。
三角形の銃口から光弾が発射され、標的の岩に風穴を開ける。
相変わらずの威力に私は感心し、ラウラの方に視線を向け直すと、
「………っ!」
「ラウラ?」
様子が少し変だった。
変わった銃とはいえ、撃っただけなのにラウラの息遣いがちょっとだけ乱れているのだ。
しかも心なしか、疲労の色が微かに顔に浮かぶ。
何だか心配になった私達はラウラの元に寄る。
「どうしたんだ、大丈夫か?」
「……心配ない、少し疲れただけだ」
「疲れたってどういうこと? さっきまでピンピンしてたのに……」
「あー、ラウラにはちょっとキツかったみたいだな」
「まさか……これは〝宝具〟の影響なのですか、トモユキ?」
ゼオラの推測にトモユキは『そうだ』と肯定し、言葉は続ける。
「確かに〝宝具〟は強力だ。ただその力を振るうには〝心の力〟が必要なのさ」
「こ、〝心の力〟?」
「まぁ心の力と言っても俺がそう呼んでいるだけで、場所によっては魔力、
「え、えっと……それってつまり」
「〝宝具〟の力を使うと体力と気力が奪われるってことか?」
「そうそう、リィンも物分かりが早くて助かるわ」
体力と気力が奪われる? ナニソレ、吸血鬼か何か?
〝宝具〟って皆そうなの?
力を使うとそんなリスクがあるなんて………。
―――でもまぁ、考えてみればどんな強力な武器でもただでその強力な力を使えるなんて、そんなウマい話は無いってことなんだよね。
そして今の話を聞いてラウラは『成る程』と呟く。
「通りで力が抜けた訳だ。………しかし、不甲斐ない」
「え? 何が?」
「たった一発撃っただけで疲労が表に出たことだ。いくら体力と気力が奪われたとはいえ、私もまだまだ修行不足というわけか」
「いや、そう思う必要はねぇよ」
修行不足と判断したラウラをフォローするようにトモユキが説明が心の力について説明する。
「心の力は人それぞれ量が違う。一発撃っただけで疲れが出るのはラウラの心の力が少ないからだろう。こればっかりは修行でどうにか出来る話じゃない、心の力は生まれた時からその量が決まっているらしいからな」
「へぇー、そうなんだ」
「となると、心の力が多い者しか〝宝具〟の力を最大限に引き出せないというわけですか」
「誰でも扱えるわけじゃないってことね」
アリサの言葉にトモユキが『そういうこった』と話を締めると私達A班はもう此処に留まる理由が無いので、依頼達成の報告も兼ねて【ケルディック】へと足を運ぶ。
その途中、エリオットが前触れもなく、
「トモユキの銃もそうだけど、ゼオラの武器も結構変わってるよね」
「私の魔導籠手のことですか?」
唐突に自分の武器の事を言われたゼオラは両腕に着いた籠手の片方を掲げる。
確かにゼオラの武器もちょっと変わってるよね。
良い機会だし、その魔導籠手とやらについて聞いてみようかな。
「私も前から気になってたんだけど、名前に〝魔導〟が付いているってことはエリオットや委員長が持っている魔導杖と何か関連性とか有るの?」
「そうですわね………。まずはこの魔導籠手について説明しましょうか」
コホンと一旦咳払いをして、ゼオラは説明を開始する。
「今更教える必要も無いかもしれませんが、この魔導籠手は【
「やっぱり、でもその籠手は【ラインフォルト社】が作った物じゃないようね」
「ええ、これは元々【エプスタイン財団】が作った【
「改造……もしかして、その籠手から出て来る帯みたいな物を出るようにしたのか?」
「―――ご明察。【
ああ、だから街道で遭遇したアーツ攻撃が有効な魔獣に対して効果覿面だったんだ。
魔導杖と同じように名前に〝魔導〟が付くのもそういう訳ね。
にしてもゼオラが帯を使う時の動きってなんか………。
「そうだ! ゼオラが帯を使う時の動き、新体操のリボンに似てる!」
「あら、分かります? 実は幼少の頃に習っていましたの」
「―――〝習っていた〟ということは、もうやっていないと言うことか?」
「ええ、十歳の頃ぐらいに手を退きましたわ」
「うーん、勿体ないなぁ。結構綺麗な動きをしたいたのに……」
「おまけにかなり様になっていたしな」
「………褒めても何も出ませんわよ。それにその頃の私には他にやりたいことが出来ましたから」
エリオットとトモユキに褒められて、若干照れながらもそう述べるゼオラ。
むむむ………同じ女性でもそのツンデレっぷりはとても可愛いらしいと思ってしまう。
アリサといい、何かずるいと思ってしまうとは私だけではない筈。
「まぁ続けるか、続けないかは本人の自由さ。でも魔導籠手から帯を出すようにしたのはやはり新体操をやっていたからなのか?」
「どの武器よりも扱いに慣れてますし、身体に馴染みますからね。あと新体操の技術の応用でこんなことも出来ますわよ」
そう言うとゼオラは【
次の瞬間、おもむろにそれを前の上空へと放り投げた。
もし壊れたら修理代がバカにならない程の金額になる【
そして腕を振るい、帯を鞭のように空中を舞っている【
見事な曲芸にエリオット、アリサ、私は思わず拍手を送る。
「す、凄い凄い!」
「サーカスみたい!」
「もう一回やってもう一回やって!」
「こ、これぐらい朝飯前ですわ。……だからと言ってもう一度はしませんが」
ちぇ、ケチ。
でも、新体操やってたらあんなことが出来ちゃうんだ………。
アリサはサーカスって言ったけど、私としては漫画とかで出て来るロープアクションが得意な冒険家の主人公みたいでカッコいいかな。
すると今の曲芸を見たラウラは眼を輝かせる。
まるで自分と対等な実力を持つ者がそこに居て、気持ちが高揚しているかのように。
「――今の芸当に加え、そなたには
「……ラウラ、お前今〝一度手合せしたい〟と思ったろう?」
「ん? 今それを言おうとしたところだが?」
『やっぱりか』と苦笑するトモユキ。
ラウラはホント強い人が居ると好戦的になるな~。
二人の会話を聞いて『き、機会が在ったら』と今は対戦を控えるゼオラ。
「て、手合せはともかくとして、ゼオラは〝二重詠唱〟だけじゃなく
「そうだね。
「
「え?」
予想外のトモユキの提案にゼオラはキョトンとした顔を浮かべる。
「それは良いかもしれないわね」
「じゃあ明日から指導して貰っても良いかなゼオラ?」
「勿論、ゼオラが良かったらの話だけど……」
「……ふ―――フフン! そうまで言われてわ、断る訳にいきませんわね! 良いでしょう、私にドンとお任せなさい! 〝貴族〟としてしっかりと指導して差しあげましょう!」
とゼオラは〝貴族〟の部分を強調して承る。
『分かり易いな……』と私も含めて皆がそう思うのであった。
その後も私達A班は道中で様々な雑談を繰り広げ、いつの間にか【ケルディック】に辿り着く。
けど、戻って来て早々町の様子が何処かおかしかった。
原因は大市場、そっちの方から怒鳴り声が聞こえてくるのだ。
私達は気になってそこへ足を運ぶと………。
「ふざけんなあっ!! ここは俺の店の場所だ! シャバ代だってちゃんと払ってるんだぞ!?」
「それはこちらの台詞だ!! 許可証だって持っている! 君こそ嘘を言うんじゃない!」
商人らしく大の大人二人が口論していた。
近くに居た人に話を聞いてみると店を開く場所を巡ってのトラブルとのこと。
ちなみに若い方の男性が地元の商人で、身なりが良い男性の方は帝都の商人らしい。
「妙だな、こういった市での出店許可は領主がしている筈だが……」
「ここの領主と言うと―――って、あっ!」
アリサが領主の名前を上げる途中、二人の商人が今にもお互いを殴り掛かろうとする。
いけない!と思った私やリィン、ラウラは二人を取り押さえようとした。
しかし、その前にいつの間にか二人の傍に移動していたトモユキが、
「喧嘩両成敗っ!!」
ドン!と片方の背中を押す。
よって、ただでさえ近かった二人の顔は吸い込まれるように急接近し。
そして二人の唇は重なりあった。
「「!!?」」
何が起こったか分からず、二人は眼を見開いてそのまま暫く硬直するが。
すぐに我に戻り、急いでお互い相手から離れ、
「「オエエエエエエエエエエエエエエェッ!!」」
人目も憚らず、嘔吐する。
その様子を見て、トモユキは一仕事したような顔を浮かべて、
「ふぅ、最悪の事態は免れたか……」
『余計に気まずくなったよっ!!!』
私も含め、そこに居る誰もがそう突っ込んだ。
……やがてその後、そこの市の元締め、オットーと言うご年配が現れ。
商人の二人の喧騒を鎮め、 片方が許可証で得た場所で店を開くことしにして、もう片方は違う場所で店を開くことで事態を収拾させる。
次にオットーさんは私達A班を家に招待し、そこでお話をすることになった。
何でも元締めは【トールズ士官学院】のヴァンダイク学院長と旧知の中で、実は私の《特別実習》の依頼は学院長から頼みで、元締めが見繕ってくれたとのこと。
しかし、今回の許可証の手違いは腑に落ちないとラウラが問い合わせると、オットーさんは心苦しそうな表情で事情を話す。
実は【クロイツェン州】を治めるアルバレア公爵家が先日、大市での売上税を大幅に上げたそうで、それによって売り上げから相当な割合を州に納めなくてはならなくなってしまい。
その所為で商人達が必死になり、あの二人の商人みたいに喧嘩沙汰になってしまうのも珍しくないと。
当然、危機感を覚えたオットーさんは何度も公爵家に陳情しに行ったそうだけど、一向に取り合ってもらえず、門前払いされ続け。
しかもそんな状況が二か月も続いているみたい。
「そうなると、許可証の手違いも何か理由がありそうな……」
「そ、それって――」
「ずさんな手続きの処理……もしくは意図的な嫌がらせね」
「もしそうだとしたら、タチ悪い……」
「やれやれ、世知辛い世の中だぜ」
『まぁ、流石に決め付けるのは良くないが』とオットーさんは茶を濁す。
だが、以前なら先程のような騒ぎが起きれば、詰所の兵士達が仲裁に駆け付けたと付け加え。
更に『増税への陳情を取り消さない限り、大市には不干渉を貫く』と詰所の隊長が仄めかしたと証言する。
「……………」
その話を聞いてゼオラがオットーさんと同じ、心苦しそうな表情を浮かべていた。
「ゼオラ、どうしたの?」
「いえ……何でもありませんわ」
私が声を掛けると当人は元気の無い声で顔を背ける。
もしかしたら違う領主の民だとしても、その民達が苦しんでいるのに対し、歯痒さを感じているのかもしれない。
少なくとも私にはそう見えた。
するとオットーさんは『これはワシら商人の問題じゃ、客人が気にすることではない』と述べ、話を打ち切られる。
私達は美味しいお茶をご馳走してくれたことに一言お礼を言い、家を後にした。
そして駅前で今の話について話し合う。
やがて色々と話し合う中……。
「……しいですわ」
「ゼオラ……?」
オットーさんの家を出てから一言も発しなくなったゼオラが掠れた声で何か呟く。
聞き返すように私が顔を覗き込むと、
「腹立たしいですわ!」
唐突にそう叫び出し、私達は眼を見開いて驚く。
「いくら革新派との対立が深まっているとはいえ、領主が民を苦しめ! あまつさえ貶める等、それが領主のすることですか!?」
「ぜ、ゼオラ! 落ち着いて!」
「そ、そうだよ! 兵隊さんに聞かれたら大変だよ!」
憤慨するゼオラを私とエリオットで鎮める。
まさかここまで怒るなんて………。
どうやら【クロイツェン州】の領主のやり方が余程許せないようだ
「民があってこその貴族だと言うのに! それを忘れて民の声に耳を貸さず、自分達だけの都合を押し通すなど!」
「―――【ラマール州】の領主、カイエン公爵のご息女とは思えない発言だな?」
ゼオラの怒りを違う方向から煽るようにトモユキがそんな指摘を口走った。
その指摘にゼオラは眉を潜め、
「……おかしいですか?」
「いや、意外だと思っただけさ。てっきり俺は今回の件については無関心か、『仕方ない』と言って片付けると予想していたもんだからな」
「………それは私が貴族だからですか?」
「逆に聞くが他に何がある? お前もユーシスと同じ【四大名門】と数えられる大貴族、しかも貴族派のトップの娘だ。今俺が言ったことと同じようなことを他の誰が思っても不思議じゃないだろ?」
「ちょ、ちょっとトモユキ!」
同じ学生でも【四大名門】の貴族に対して失礼な物言いを取るトモユキにエリオットが注意をする。
怖いもの知らずとはまさにこのこと。
一方でゼオラは意外にも怒る兆しを見せず、すっと瞳を閉じる。
「――確かに私も【四大名門】の一人。他の大貴族やアルバレア公爵と同じく、自身が治める州の民から税という賃金で生活している身です」
けどすぐに『ですが!』と付け加え、
「だからこそ、
………少し間、私を含めてゼオラの言葉を聞いた全員が言葉を失った。
彼女は、ゼオラは何と言うか。
私達が思っていた人物とは随分違って見えた。
それにより今まで抱いていたイメージが、かなり上書きされる。
勿論、良い意味で。
よもや、これ程民に対して思い遣りのある人物とは思いもしなかった。
何だかその人の意外な一面と誇り高い良心を知り、心底感心してしまったみたい。
多分、皆も私と同じ心境かも。
すると急に拍手の音が鳴る。
発生源はトモユキからだった。
「驚いたぜ、まさかそこまで民のことを真剣に想ってるなんてな。ゼオラの方がよっぽど貴族らしいぜ」
「そうだな。違うの州の民も心配するゼオラの気持ちは貴族としても人としても、とても立派だと俺は思う」
「それは私も同感」
「私も同じ貴族として誇りに思う」
「えへへ、ゼオラの良いところ一つ発見だね」
「ゼオラ様、カッコイイー♪」
「か、からかわないでくださいまし! これきしのこと、貴族として当然でございますわ!」
また照れてながらもそう言い張るゼオラ。
もうホント、可愛いなぁ。
そんな風に意地を張られるともっとからかいたくなっちゃう。
「あっ、照れてる照れてる!」
「だから、照れてません!」
「隠すな隠すな。素直な気持ちをそのFカップの胸並みに主張してみろ」
「胸の大きさは関係ない―――って、何でそんなことを知ってるんですか!?」
またさらりとセクハラ発言したよこの野郎……。
それにしてもF?
ぐぬぬぬ………なんて羨ましい。
一体何を食べたらそんなに大きくなるんですか!?
と私が心の中で世の中の不公平な現実を嘆くと、トモユキが天を指差し、
「ふっ! 爺ちゃん言っていた、『男なら一目見ただけで相手のバストのサイズを分かるように成れ』と! まぁゼオラだけって言うのも不公平だから、他の皆も言わないとな」
は?
ちょっと待って、〝皆〟ってまさか―――
「まずはアリサD、ラウラがC、ルーティーがギリギリBってとこだ。いやはや、言葉で表してもひでぇ格差だなぁ……」
気付いた瞬間、私はホルダーから『マグナム
同時にアリサ、ラウラ、ゼオラが矢と斬撃と
が、それ等全てはリィンを楯にして防がれるのであった。
《午後18:00 【ケルディック】 宿》
話を終えた後、私達はもう一度町を周ることにした。
その中で大市でちょっとした依頼を引き受け、それをやり遂げると丁度良い具合に日が暮れてきたので私達A班は宿に戻り、酒場で今日の夕食を取った。
宿の料理は地の物で、新鮮な野菜やライ麦を使ったパンが特に美味しく。
ゼオラも『悪くない』と好評化だった。
ちなみにトモユキに楯にされたリィンは奇跡的に致命傷は負わず。
明日の《特別実習》には支障はないとのこと(多分)。
トモユキ曰く、『ギャグ補正が無ければ死んでいた』と訳の分からないことを言っていたけど、とにかく一人も欠けずに済んで良かった。
やがて食事を食べ終えた私達は何故自分達は《Ⅶ》組に選ばれたのだろうと、改めて話し合う流れが出来る。
するとリィンが考え込み、一旦間を置いてからボソリとこう呟く。
「――士官学院を志望した理由が同じという訳でもないだろうし」
「士官学院への志望理由……」
「「「その発想は無かった(わね)」」」
三人の同時に同じ台詞が被るトモユキとアリサと私。
ハモッてお互いの顔を見合う私達を余所にラウラが先陣を切る。
「ふむ――私の場合は単純だ。目標としている人物に近付く為と言ったところか」
「目標としている人物?」
「ふふ、それが誰かはこの場で明かすのは控えておこう」
〝目標としている人物に近付く為〟か……、ラウラらしいと言えばラウラらしい。
「奇遇ですわね。私もラウラと同じですわ」
「へぇ~、ゼオラも目標の人が居るんだ」
「ええ、ですが私もそれを明かすのは控えておきましょう」
って、ゼオラも言わないの?
二人揃って明かさないなんて、そんなこと言われたら余計気になるじゃん。
しかも二人とも共感したように笑みを交し合ってるし。
でも目標の人か………。
そういう意味でなら私も二人と同じかな。
「アリサの方はどうだ?」
「そうね……、――色々あるんだけど〝自立〟したかったからかな。ちょっと実家と上手くいってないのもあるし」
「そうなのか……」
実家と上手くいってないって言うのは家族との関係がギクシャクしてるのかな?
もしそうだとしたら、アリサの気持ちは良く分かる………。
「うーん、その意味では僕は少数派かなぁ。元々、士官学校とは全然違う進路を希望してたんだよね」
「あら、そうなの?」
「確か……音楽系の進路だったか?」
「ほう?」
「やっぱりそっちか、音楽が好きだから何で士官学院に来たんだと思っていたが」
「あはは、まぁそこまで本気じゃなかったんだけど……」
心なしか、少し自虐的な笑いを浮かべてるエリオット。
もしかしたら彼も家の事情で学院を選んだのかもしれない。
あくまでカンだけど。
そんなエリオットが次は私に話を振る。
「ルーティーは?」
「私は……軍人に成る為かな」
僅かな間を置いて、私はそう答える。
元々【トールズ士官学院】は軍人を育成する為の学院で、私のように軍人を目指すべく入学する者が殆どだ。
更に言えば、軍人の給料は他の職よりも水準が高く、例え子供が5,6人居ても安定的に養える程待遇が良いのでそれを理由に軍人を目指す者も少なくない。
私が軍人に成りたい理由はもっと違うものだけど。
まぁどちらにせよ、私の志望理由はありきたりで至極真っ当な理由だ。
「貴方が軍人に成りたいだなんて、意外ね」
「それに案外まともな理由ですわ」
私の志望理由に意表を突かれたと言わんばかりの反応を見せるアリサとゼオラ。
意外とか案外とか、二人とも私にどんなイメージ抱いてたの?
後で問い質してやるとしよう。
「ふむ。理由はどうであれ、成りたいものがハッキリしているのは良いことだ」
そんな二人とは対照的にラウラには好印象な模様。
二人もラウラを見習って欲しい。
またエリオットは何故か複雑そうな顔を浮かながらも愛想笑いを出す。
「あははは………で、リィンは?」
「俺か? う~ん、――〝自分〟を……見つけるためかもしれない」
リィンの口から出た予想外の返答に私達は思わず声が出た。
「いや、その。別に大層な話じゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じというか……」
「えへへ。いいじゃないカッコよくて」
「本日のリィン語録だな。『〝自分〟を見つけるためかもしれない』」
「ま、マネするなよ!」
声や口調もトモユキに真似され、恥ずかしくなって顔が若干赤くなるリィン。
いつも誰かにクサイ台詞をポンポンと投げ掛けるリィンが、今回は自分についてクサイことを言うなんて、結構新鮮な感じがするかも。
それにしても〝自分〟を見つけるか。
彼は一体何の為に〝自分〟の探すのだろう……?
「ふふ、貴方がそうなロマンチストだったなんて。ちょっと意外だったわね」
「はあ……変なことを口走ったな。ところでトモユキはどうなんだ?」
「ん? 何が?」
「何がじゃないわよ。アンタの志望理由を聞いてるんでしょ」
「俺のか? そうだな………」
志望理由を尋ねられるとトモユキは口に手を添えて考え込む仕草を見せると、テーブルの上に乗り出すように両肘を乗せ、手と手を絡む合わせて唇をその両手で隠したら、こんな返答を出す。
「――一言で言えば、〝復讐〟だな」
……………はい?
トモユキの口から出てきた予想外過ぎる言葉に私達は戸惑いの声が出る。
一体何を言い出すのこの男は?
すると興味本位か、或いは好奇心が勝ったのか、エリオットが恐る恐る尋ねてみる。
「ふ、復讐ってどんな………?」
「無論、〝殺し〟だ。俺は俺の大切な人を奪い、居場所を奪い、唯一の繋がりを奪った奴を必ず見つけ出し、ーーーこの手で殺すことだ」
淡々と述べたトモユキに私はゾクッと恐怖を覚えた。
物騒な物言いもそうだが、普段の陽気で不敵な笑みが絶えない顔とは違う、感情を殺した顔に他の皆も表情が固まっている。
そしてほのぼのとしていた空気が一気にドス暗いものに変わってしまい、静なり返ってしまう。
私はこの気まず過ぎる空気を何とかしようと、喉から声を絞り出そうとする。
「と、トモユ―――」
「なーんてな! ぶっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
だが言い切る前にトモユキが唐突に爆笑し始めた。
……待って、今『なーんてな!』って言った?
「どうだ? 今の演技は、中々真に迫っていただろう?」
「「「「「「…………………………」」」」」」
さっき言ったのがホラだと分かると今度は私達の表情から感情が消える。
私達は特に打ち合わせもしてないのにも関わらず、トモユキを除いて一斉に立ち上げる。
「そうそろレポートでも書こうか」
「うむ、賛成だ」
「さっさと終わらせましょう」
「その前にお風呂に入りたいですわ」
「確か、宿の裏側に在るって言ったよ」
「トモユキ、食器全部片付けておきなさないよね」
そう言い残して私達はゾロゾロと寝室へと足を運ぶ。
「あっお前等ズルいぞ! この人でなし!!」
後ろから何か聞こえたけど、気にしない。
でもこれだけは言っておこう。
お 前 が 言 う な 。
こうして私達A班の一日目の《特別実習》が終わるのだった。
~おまけ~
それは今日の1日目のレポートをA班全員が机を並べて書いている時だった。
「女子に如何わしいことを働いたロリィンコ・シュバルツァーは女子の『痴漢撲滅☆フォトン・ストリーム!!!』で粛清されたのでした、と!」
「トモユキ……………(ビキビキ」
その夜、A班メンバーはリィンが初めてキレる所を見るのであった。