五の軌跡   作:クモガミ

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第一章-7 4月24日 特別実習 来訪編

《4月24日 【トリスタ】 第三学生寮・玄関前》

 

「はは……」

「ふふ……」

「ぶっはっはっはっはっはっは!!!」

「!?」

 

リィンとアリサが仲直りを果たし、良い雰囲気に成って笑い始めたので俺もつい笑ってしまった。

突然近くの壁から俺の聞こえ、二人はビクッと驚き、握手していた手を離す。

バレてしまっては仕方ない!

俺は忍法、隠れ蓑の術を解き、二人の前に姿を現す。

 

「と、とととトモユキ!」

「い、いいいい何時からそこに!?」

「無論、お前達が此処へ来る前にだ! いやぁ~それにしても良かったなぁアリサ、愛しのリィンと仲直り出来て!!」

「いいいい愛しの!? いきなり何を言うのよもう!!」

 

ちょっとからかっただけで顔を真っ赤にするアリサ。

うん、実にからかい甲斐のある奴だ。

流石エレカと同じ、逸材なだけはある。

しかもリィンが鈍感なお陰で本当に弄りやすい。

だから俺はもっと弄ろうと二人の側まで接近し、

 

「そう顔を赤くするな。まるで【実技テスト】に履いていた毛糸のパンツみたいになってるぞ」

「なななななな、こ、この………っ!」

 

今度は頭に血が昇ったのか、アリサは右手を振りかぶって俺の頬にビンタを放った。

しかし、暴力はいけないと思ったリィンは俺の腕に引っ張られ、俺の代わりに左頬を打たれる。

 

「ブハッ!?」

「あっ……リィン!?」

「アリサなんてことを! リィンが何をした!?」

「いや、お前が俺を盾にしたからだろう!!」

 

俺に羽交い締めされているリィンが突っ込む。

うん、良い突っ込みだ。

おまけにその頬に付いた手跡も良い感じだぜ!

 

「細かいこと気にすんなリィン。それを言うならお前だってあの時アリサのパンツ、バッチシ見たじゃねぇか!」

「い、いや! 俺は見ていなーーーブホォ!!?」

 

何かを言う前にリィンは右の頬に二度目のビンタを放たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ーーーという訳なんだ」

 

後からやってきたA班の残りメンバー、ラウラ、ルーティー、ゼオラ、エリオットに俺はことの詳細を伝える。

それを聞いた残りメンバー達は呆れと非難の眼差しを俺に向けた。

 

「全く、アンタという男は……」

「破廉恥なところもそうですが……」

「ホント、トモユキって空気読めないよね」

 

こちらに失礼な眼差しを向けたまま、ルーティー、ゼオラ、エリオットの順で糾弾する。

破廉恥はともかく、俺が空気を読めないだって?

 

「バカ言うな! 俺だって空気ぐらい読めるさ、ただ読まないだけだ!!」

「余計、タチ悪いわよ!!」

 

鋭いルーティーの突っ込みが返ってくる。

そのやり取りにエリオットとゼオラはやれやれと言わんばかりに溜め息を溢す。

一方で手跡が出来た両頬を擦っているリィンとビンタしたことに遅れて罪悪感が沸いたのか、申し訳なさそうな顔でチラチラと横目でリィンを見るアリサにラウラが助け船を出すように話し掛ける。

 

「まぁそれはともかく、仲直り出来たみたいだな二人とも」

「そ、それは……」

「はは……まぁ、おかげさまでね」

「えへへ、良かった。これでこっちの気も楽に成ったよ」

「そうですわね。正直この半月余り、見ていて歯痒くて仕方ありませんでしたわ」

「うんうん。アリサってば謝るチャンスが幾らでも在ったのに、結局謝れなくて何度も私達に泣き付い―――」

「わーーー!! わーーーー!!」

 

とルーティーが言い終わる前にアリサが慌てて遮る。

アリサよ、もう大部分を言った後ではあまり意味が無いぞ。

 

「――い、言っておくけど! 同じ班で気まずいままなのはどうかと思っただけなんだから! そこの所を間違えないでよねっ!?」

「はいはい」

「そういうことにしときましょう」

「ふむ、仲良きことは結構なことだと思うが……」

「なんにせよ、相談に乗ってあげた私達の苦労が報われて良かったよ」

「全く世話の掛かる奴等だよな~」

「お前は何もしてないだろう!」&「貴方は何もしてないでしょう!」

 

俺の言葉にリィンとアリサは息の揃った突っ込みを返す。

これ程息が合うなら戦術リンクもすぐに合うんじゃないか?

 

と思った直後、玄関の扉が開かれた。

そこに眼をやるとB班のメンバーが入ってきた。

先頭のマキアスが俺達を見て眼を細くする。

 

「む……君達か」

「マキアス、それに委員長にガイウスまで」

「おはようございます皆さん」

「皆、おはよう」

「うん、三人ともおはよう」

「おっはーって、あれ? 三人だけなの?」

 

ーーー三人? 何言ってんだよルーティー?

そこにほらーーー

 

「よ、四人だよ」

「ふぇ? ……うきゃああああ!!?」

「え、エレカ………貴方も居たのですね」

 

本人が声を掛けるまで気付かなかったアリサ、ゼオラ、エリオット、ルーティー、リィンは眼を見開いて驚く。

……やっぱ、気付いてなかったか。

案の定、エレカの方も『またかぁ』と言いたげに溜め息を溢し、軽く凹む。

最早パターン化してしまったやり取りだが、見てて飽きないな、この光景。

まぁそれは置いといて、

 

「で? 四人で寮へ戻ってきてどうしたんだ?」

「え、えっと………実は」

「イビトが集合時間になっても待ち合わせ場所に来ないんでな。俺達で様子を見に来たんだ」

 

委員長の代わりにガイウスが答えると『フィーとユーシスさんには待ち合わせ場所で待機してます』と付け足すエレカ。

 

あっそういうこと。

だから四人とも、わざわざ寮へ戻ってきたのか。

成る程、納得した。

 

「イビトなら部屋でまだ寝てると思うぞ」

「な、何んだって!?」

「本当かトモユキ?」

「マジマジ、俺とアイツ部屋が向かい同士だから此処へ来る前にちょっと覗いてみたらまだ寝てたぜ」

 

と、その時の事を教えるとB班のメンバーは露骨に呆れた表情を浮かべる。

おまけに『これだから貴族は………!』と愚痴るマキアス。

貴族とイビトの寝坊癖は関係ねぇだろう………。

 

「ま、まぁイビトの寝坊癖は今に始まったことじゃないじゃない……」

「そうそう、この特別実習の日にもその悪い癖が働いたんだろうし。列車が来るまでまだ余裕が有るんだし、わざとじゃないんだからそこまで怒らなくても良いんじゃないか?」

「む……僕は別に怒ってなど……」

「あはは……。――って、あれ?」

 

アリサとリィンが揃ってイビトのフォローしたことで、委員長を含め、ガイウス、エレカ、マキアスは二人の距離が縮まったことに気付く。

 

「アリサさん、リィンさんと仲直り出来たんですね?」

「べ、別にそんな仲が悪かった訳じゃ……。そもそも仲直りって、私達最近知り合ったばかりだし――」

「良かったなリィン」

「良かったねアリサ」

「はは……ありがとう」

「だ、だからそういう大袈裟な話じゃないってば!」

 

頑なに仲直りしたのを否定するアリサ。

前々から知ってたが、素直じゃねぇなホント。

そんなんだから弄られるんだ、こうな風にな。

 

「皆聞け、アリサはリィンと仲直り出来たのが嬉しくてさっきまでピョンピョンと跳ねてたんだぜ」

「って、コラーー!! デタラメを吹き込むなーーー!!」

 

これまた予想通りの反応、アリサは顔を真っ赤にして憤慨する。

いやー飽きないわー、アリサを弄るのって。

多分、一生弄れる自信は有るね!

 

と俺が楽しくアリサを弄ってるとマキアスが唐突に『んん!』と咳払いする。

 

「立ち話はそこまでだ。早く残りのもう一人を起こさなくては列車に乗り遅れてしまうぞ」

 

そう言ってマキアスはイビトの部屋に向かった。

『失礼します』と一言断って委員長達はその後を追う。

……やれやれ、ユーシスが気に入れない奴だとはいえ、リィンとアリサが仲直りしたことに嫉妬に近い感情でも沸いたのか? マキアスの奴。

父親と違って分かり安いな、ホント。

 

そんなB班のメンバーを見送った後、メンバーが全員揃った俺達は駅へと向かった。

 

 

 

 

 

やがて駅に目的の列車が到着し、俺達A班メンバーはその列車に乗り、交易街【ケルディック】へと向かった。

そして現在、列車に乗ってから既に50分は経ち、窓の奥に映る景色は【トリスタ】では見掛けない畑や牧場が広がっている。

窓から見える景色は目的地に近付いている証拠だとエリオットは言う。

ついでに出発点である近郊都市【トリスタ】から【ケルディック】に着くまで約1時間程掛かるらしく、大陸横断鉄道を駆け抜ける列車に身を揺られながら俺達は目的地に着くまでの間、 最近流行っている『ブレード』というカードゲームを興じていた。

 

「はい、俺の勝ちと」

「ぐぅ!」

 

勝敗が決し、対戦相手のゼオラが苦虫を踏み潰したような顔を浮かべる。

これで全員と勝負した俺の戦績は12勝3敗。

運で俺に勝つなど、6年早いぜ!

 

「くぅ……どうしてそこまで良い手札が揃うのですか!?」

「インチキ使ってないわよねトモユキ?」

「失敬な! 手札が良いのは俺の運命力がレベル5だからだ!」

「なんだよ運命力って……」

「しかもレベルとかあるの?」

 

今日で何度目であろうか、呆れ顔を浮かべたリィンとアリサが冷静な突っ込みを入れてくる。

仲直りした途端、この二人は揃って突っ込みを入れてくるようになり、その息の良さはまさに戦術リンクで結ばれているかのような合いっぷり。

特にアリサは水得た魚と言うべきか、今まで溜めていた物を吐き出すかのようにリィンとの会話が弾むわ弾むわで、見ているこっちが微笑ましくなるぐらいに楽しそうに話すのである。

まぁこの二人は駅で初めて会った時から知人のように気楽に話していたし、元々相性が良いのだろう。

 

「ふむ。それにしてもこの『ブレード』、中々面白いものだな」

「えへへ、そう? なら持ってきて正解かな」

「ぅごーー………」

 

ラウラとエリオットの言葉の後に隣の席で眠るサラ教官の鼾が飛び込む。

その鼾に俺達の視線がサラ教官に向く。

 

「――気持ち良さそうに寝てるね」

「ええ、涎を垂らすぐらいに……」

「あはは……それだけ疲れてるってことだと思うよ」

 

揺れ動く列車の中で人前も気にせず、鼾や涎を出す程ぐっすり眠っているサラ教官に感心しつつ、呆れるルーティーとゼオラ。

対照的にエリオットは愛想笑いをしながら、だらしない残念美人な教官をフォローする。

 

「徹夜続きって言ってたけど、一体何をやっていたのかしら?」

「………少なくとも酒を飲んでいた訳じゃなさそうだぞ」

「分かるのかトモユキ?」

「まぁ匂いでな。しかしゆっくり眠たいが為にA班(こっち)へ来るとは、サラ教官も人が悪いもんだ」

 

列車が出発してからすぐに俺達の前に現れたサラ教官は最初の《特別実習》なので補足説明の為に目的地で泊まる宿まで付き合うと述べた。

だが、そう述べた後。

『寝かせてもらうわ』と言って眠りに着こうとし、相当な疲れが溜まっていたのか、目蓋を閉じた瞬間、メガネを外すと眼が3になっている少年も共感する程の速さで眠りに着いたのだ。

 

A班(こっち)の方に来たのはB班(あっち)の方は『面倒臭いから』だと教官は言っていたが、A班(こっち)の方ならぐっすり眠れるというのも理由の一つなのだろう。

ともあれ、《Ⅶ》組の担任なのにそんな理由で一番どうにかしなきゃいけない方であるB班(あっち)をほったらかすのはどうかと思うが………。

 

「でもまぁ、俺が教官だったら俺もこっちの班の列車に乗ってるな。だって向こうの班の列車の中は高確率で空気がピリピリしてると思うぜ?」

「あー……、ユーシスとマキアスか」

 

リィンがピリピリの原因たる二人の名前を挙げる。

言うまでもないが、あの二人の仲は猿犬の仲と評されるぐらい悪い。

もう眼と眼が合えば、キーキー! ワンワン! と言い争ってしまうのだ。

サラ教官はその二人の口論を予想し、それを避ける為にA班(こっち)の方へ来たんだろうな。

 

ちなみにどっちが猿で、どっちが犬かと言うと。

個人的には犬がマキアスで、猿がユーシスって感じだ。

本人達が聞いたら間違いなくキレるだろうな………。

 

まぁそれは置いといてだ、

 

「今頃あの二人、列車の中でも口論してるんじゃないのか?」

「確かにそう言われると、その光景がありありと浮かんでくるわね……」

「うむ、教官はそれも予想してこちらへ逃げて来たかもしれんな」

「近くであの二人に口論されてたら、眠れないもんね」

「はぁ……何だかB班の方を任されたヨハン教官が気の毒ですわ」

 

それについては俺も全く以て同感だ。

実はB班(あっち)の方にはヨハン教官が付いており、俺達と同様、補足説明の為に宿まで同行するとサラ教官は言っていた。

しかし、本当に可哀想だ……。あのビックバンボディの美人教官が二人の犬と猿(けだもの)のお守りを任されるとは。

人が出来ているガイウスと委員長も居るが、あの二人でも犬と猿(けだもの)相手じゃ荷が重いだろうな。

あーあ、サラ教官よりもヨハン教官に来て欲しかったぜ……。

 

と心の中で嘆いた直後、列車内全体にアナウンスが流れる。

 

『本日はクロス方面行き、《大陸横断鉄道》をご利用頂きありがとうございます。間もなく【ケルディック】、【ケルディック】。御降車のお客様は――――』

 

 

 

アナウンスが流れた後、間もなく列車は【ケルディック】に到着し、俺達は荷物を持って列車から出る。

 

「へぇ……此処が【ケルディック】かぁ」

「のんびりした雰囲気だけど、結構人通りが多いんだな」

「あちらの方にある大市目当ての客だろう。外国からの商人も多いと聞く」

「成る程、帝都とは違った客層が訪れてるのね」

「大市場と言えば、普通の店じゃ売っていない外国から輸入品とかが沢山売ってるんだよな~」

「輸入品か……帝国で売っている化粧品よりも良いのが売ってるかも」

「時間があれば、見て回りましょうか」

 

改札を通り、駅から出た俺達の眼に映り込んだ【ケルディック】の町並みに各々の感想が飛び交う。

『ちなみに特産品はライ麦を使ったビールよ』と豆知識を話したサラ教官の案内で宿に着く。

俺達が泊まる宿は何処にでも在る至って普通の宿で、一階が酒場、二階が寝室という構造になっている。

しかし、宿に着いて早々、問題が一つ発覚した。

それは宿の女将に寝室を案内されたところ………。

 

「ま、まさか女子と男子で同じ部屋ってことですか!?」

 

寝室の中を見て、アリサが頬を若干染めて声を上げる。

どうやらサラ教官が予め取っておいた部屋は一つしか無く、これはつまり男女一緒で一晩過ごせということなのだろう。

でも俺達男子はともかく、女子はやっぱりそんなことは許容出来ず、主にゼオラとアリサが猛反発する。

 

「あり得ませんわ! 男女が一つの部屋で寝るのもそうですが、この不埒で破廉恥な男と同じ部屋で一晩過ごす等、論外です!」

「そ、そうよ! もしものことが起こったら……!」

「〝もしも〟のことって、具体的になんだよ?」

 

アリサの口から飛び出した〝もしも〟が気に成った俺はそれは一体何なのかと問い質す。

だが当の二人は口に出すのは抵抗があるようで、口をもごもごさせて茶を濁す。

 

「―――まさか、寝込みを襲われて貞操が奪われるとか思ってんのか?」

 

と何も考えず適当に言ってみるとゼオラとアリサの顔がボッ!と一瞬で真っ赤に染まる。

……図星だったか。

 

「と、トモユキ! ストレート過ぎるぞ!!」

 

お前まで顔を赤くして言うなよリィン。ついでエリオット、お前も赤くなってるんじゃないよ。

全くコイツ等は15も過ぎて、まだ純情だとは………この様子だとこの手の話題は免疫力皆無だな。

まぁいい、とりあえず二人にこんな素敵な言葉を送ろう。

 

「アホか、お前等は」

「あ……アホ!?」

「だ、誰がアホですか!」

 

アホと言われて二人の眉間にシワが寄るが、そんなことは気にせず俺はこう指摘する。

 

「もし俺が寝込みを襲う奴なら一緒の寮に住み始めた時点で既に襲ってるだろう?」

 

そう指摘してやると二人は己の考えの足りなさに気付いたようで、『あっ』と抜けた声を出す。

更にそこへ、

 

「―――アリサ、ゼオラ、ここは我慢すべきだろう」

「ラウラ……」

「そなた達も士官学院の生徒。それを忘れているのではないか? そもそも軍は男女区別なく寝食を共にする世界………ならば部屋を同じにするくらい、いずれ慣れる必要もあろう」

 

もっともなことを説かれたゼオラとアリサは

まるで自分達が我が儘な子供のようだと思ったのか、二人は『分かりました!』と観念するように同じ部屋で寝るのを了承する。

 

「貴方達、不埒な真似は許さないわよ」

「もししたら、八つ裂きですわよ」

「し、しないって」

「右に同じく」

「はっはっはっは、俺がそんなことする訳ないだろう」

「どの口が言ってんの」

 

最後にルーティーから突っ込みで締めると俺達は宿の女将から士官学院の紋章が付いた一つの封筒を受け取った。

女将が言うにはその封筒の中に今回達の《特別実習》の実習内容が書かれた書類が封入されているらしく、俺達は早速封を開け、実習内容を拝見する。

 

《特別実習・一日目 実習内容は以下の通り》

・東ケルディック街道の手配魔獣の討伐【必須】

・壊れた街道灯の交換【必須】

・薬の材料調達

 

と、以上の三つが書かれていた。

 

なんだ、想像していたのよりも簡単そうだな? おまけに魔獣の討伐以外はお遣いというか、お手伝いみたいな項目だ。

すると実習内容を見て、リィンが一人だけ何か納得したような顔を浮かべる。

そしてリィンはその〝何かを〟確信に変える為、一旦サラ教官の元へ戻ろることを提案し、特に異論が無かったので俺達は一階の酒場に降りる。

 

「ぷっっはああああああッ!! この一杯の為に生きてるわねぇ!」

 

降りてみればそんな第一声が飛ぶ。

声の主はやっぱりサラ教官、昼前兼勤務中になのにも関わらず、ビールを豪快に飲んでいた。

『安っぽい人生っすね』と流石の俺も呆れを露わにして率直な感想を放つ。

リィンとエリオットも呆れを隠さず、女子は残念な人を見るような眼で見詰めていた。

 

「あら君達、まだ居たの?」

 

居て悪いか?と言い返してやりたいところだったが、今はそれを抑えて俺達は特別実習の内容について訊ねたが。

 

「んー、まぁそうね。とりあえず、必須のもの以外は別にやらなくてもいいわよ?全部君達に任せるから、後は好きにすると良いわ」

「だ、だからそうやっていい加減なことを言わないで―――」

「いや、そうした判断も含めての《特別実習》という訳ですか」

 

アリサの言葉を遮る形になってしまったが、リィンが一足早く一つの可能性を導き出した。

 

――――ああ、成る程。

少し読めたぞ、この《特別実習》の意味が!

 

今のリィンの言葉で俺もある可能性を導き出し、そのことが顔に出てしまっていたのか、サラ教官は俺とリィンの顔を見て『うふふん』と満足気に頷く。

 

「――実習期間は2日間。A班は近場だから明日の夜にはトリスタに戻ってもらうわ。それまでの間、自分たちがどんな風に時間を過ごすのか……。せいぜい話し合ってみることね」

 

キリッ!といつもとは違って真剣な表情でそう言って話を終わらせるサラ教官。

これ以上は何も聞き出せないと判断した俺達は外で話し合う事にした。

最初にアリサがリィンに向けてこう切り出す。

 

「……ねぇ、一体どういう事なの?」

「どうやら何か気付いているみたいですわね?」

「トモユキ、アンタも何か気付いたような感じに見えたんだけど?」

 

ルーティーにも分かる様な顔を浮かべたのか俺は?

説明してやっても良いが……俺一人じゃ面倒くさいから、

 

「一応な。でも先にリィン、お前の話を聞かせてくれないか?」

「あぁ、実は……」

「―――先日の自由行動日。そなたがどう過ごしたのかと関係があるといった所か」

 

おっと、流石と言うべきか。

直感的にラウラも感付いたようで、日曜日の自由行動日について挙げる。

 

「この前の自由行動日って、リィンは確か……」

「――生徒会のパシリにされて、コキ使われたんだっけ?」

「ぱ、パシリ!?」

 

生徒会から回されてきた依頼をこなしていたことに対し、ルーティーからそういう風に捉えられていたリィンは心底心外そうに驚愕する。

実はエリオット、ガイウスを除く、《Ⅶ》組の皆にはリィンが自由行動日で生徒会にパシられたと知れ渡っているのだ。

 

ちなみに生徒会にパシリされたと言い振らしたのは俺なんだ。

すまんな、リィン!

 

「まぁパシリはともかく。ちょうどあの日も、今回みたいに生徒会からの依頼を回されたんだよな?」

「う、うん。中には旧校舎地下の調査というハードなものもあったんだが、その他の依頼はどちらかと言うと簡単な手伝いや手助け程度だった」

「それって、私達の実習項目と同じパターンじゃん」

「だろ? で、一通りこなしてみると学院や【トリスタ】の街について色々理解出来たことが多かった………そういうことなんだろうリィン」

「――ご明察。多分、目的の一つにはそういったものもあると思う」

 

バトンタッチするように俺とリィンが自由行動日の行動とそれで得た知識や経験を語るとアリサ達の顔が話を呑み込めたものに変わる。

 

「成る程ね……実際、この町についても本で読んだ知識くらいしか知らない訳だし」

「そういった依頼を通じて見えてくることもありそうだね」

「うむ、帝国はとにかく広い。その土地ならではの実績を自分達なりに掴むというのは得難い経験になるだろう」

「本や話で知るのと自分の眼で見て、自分の肌で感じて知るのとでは全く別物と言いますものね」

「んー、まるで遊撃士(ブレイサー)の慣習みたい」

「ああ、俺もそう思ってさ。サラ教官の思惑はともかく………まずは周辺を回りながら依頼をこなして行かないか?」

 

リィンからの提案に真っ先にアリサがやる気に満ちた表情を浮かべて啖呵を切る。

 

「―――分かったわ、やってやろうじゃない」

「えへへ、ちょっとワクワクしてきたかな」

「ふふ、なんだが楽しくなってきましたわ」

「私も私も!」

「それでは早速行くとしようか」

「はっはっはっ、やる気十分だなお前等!」

 

皆のやる気に充てられて、俺のやる気も増したところで俺達A班は《特別実習》に取り掛かった。




~おまけ~

その頃、B班は………。

「――ワンフッシッ!!」
「――ゥキーッシッ!!」

マキアスとユーシスの犬と猿の鳴き声のようなくしゃみにイビト以外は必死に笑いを堪えるのであった。

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