五の軌跡   作:クモガミ

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はじめまして、投稿者のクモガミです。

SS小説を作るのは二度目ですが、うまくいく自信とかは一切ありませんw
何かアドバイスや指摘などを感想に書いて頂ければ幸いです。

最後にこの五の軌跡の記念すべき第一話について一言。
 
長い! もっと短めにしようと思ったけどこのプロローグ的な第一話が思った以上に長くなってしまった。お待ちかねのオリエンテーリングは次回になりますね。 

……以上です、はい。

尚、更新日は不定期です。あしからず

では五の軌跡の第一話をお楽しみください。


序章
序章ー1 『五人の出会い』


《七耀暦1204年 3月31日》

 

~ 近郊都市【トリスタ】 午前6:30 ~

 

太陽が顔を出し、朝陽が差し込む朝。

朝一番の列車の乗ってやってきた俺は切符を改札口で処理した後、特に見る物がなかったので早速駅から出る。

駅の出入口から出ると季節を感じさせるライノの花弁と朝陽で彩る街の景色が広がっており、その街並みを紅い瞳である程度一瞥して……

 

「小さい街だ、近郊都市つってもこの程度か」

 

着いて早々、そんな第一印象を吐いた。

駅から出てすぐに見える喫茶店や雑貨店等と思われる建物。あと此処の住民が住んでいると思われる建物。

それ等を合わせてもこの街には数十軒の建物しか存在してなく、他の街に比べてかなり規模が小さかった。

しかも見た限り、娯楽施設の一つも無いときた。

俺は自身のエメラルド色の髪の上から頭を掻きながら今日最初の溜め息を溢す。

 

「まぁ仕方ないか。街と言っても此処は【トールズ士官学院】が在る街。学生が住む場所にそんな物建てる訳ないよな」

 

と自分自身に言い聞かせるように俺はそう言って娯楽施設という名の希望を諦める。

ちなみに【トールズ士官学院】とは俺が今日から通うことになる、この【エレボニア帝国】の由緒正しき名門学院だ。

 

その学院で今日入学式があり、俺は新入生としてそれに参加するつもりなのだが………

一つだけ不安なことがある。

 

「(俺以外、赤い制服を着た奴は居ないのか………?)」

 

横を通り過ぎて行く緑の制服と白い制服を着た同じ新入生であろう少年少女達を一人一人確認しながら俺は心の中でそうぼやいた。

朝一番の列車で来たのは勿論俺だけではないのだが、それでも朝一番の列車で来るような奴はやはり少ないようで、俺の横を通り過ぎて行った新入生達は両手の指で足りるぐらい少なかった。

 

「(白い制服は貴族。緑の制服は平民。……じゃあこの赤はなんなんだ?)」

 

自分が今着ている赤い制服は何を意味しているのか、今の俺には分からなかった。

制服の色の違いは身分を区別する為に色分けしており、さっきも述べたが白い制服を着ている者は貴族であり、緑の制服を着ている者は平民なのだ。

この情報は今着ている制服が届く前から調べて知ったので、制服が届いて実際どういう物なのか、開けて見た時は眼を疑った。

俺の身分を考えてその身分に合った色の制服が届けられると思っていたのに、白でも緑でも無い、赤い制服が届けられて俺は何かの間違いではないかと勘繰った。

 

しかし、学院側から正式に届けられた物なので俺はその線は無いと断定し、きっと何か事情があるのだろうと自身を納得させ、送られてきた通りこの赤い制服を纏って此処へ来た。

だがやっぱり(全新入生を見た訳じゃないが)自分だけが違う色の制服を着ているのはどうも不安を感じてしまう。

 

しかも俺の横を通り過ぎて行った新入生達の殆どは通り過ぎる際、横目で『なんでお前だけ赤なの?』と言いたげそうな眼で俺を見ていた。

今そのことを思い返すと正直言って不安と同時に怒りと恥ずかしさが込み上げて来る。

いかんなと思った俺はその負の感情を鎮めようと小さく舌打ちをする。

 

「きゃっ!」

 

するとその時、斜め後ろから可愛らしい声が聞こえた。

俺は声が聞こえた方向に顔を向けると、腰まで伸びた紫色の髪をした少女が足を躓かせたのか、今まさに転びそうになっていた。

その光景を見た瞬間、俺は瞬時に片手に持っていた大きめな鞄を地面に一旦預け、身体の軸を少し横にズラし、正面から両手で少女の両肩を持って支え、転倒を防いだ。

 

「………あれ?」

 

転びそうになった瞬間、思わず眼を瞑った少女は転んだ痛みが来ないと不思議に思ったのか、抜けた声を出すと恐る恐る瞼を開く。

 

「あ」

 

瞼と開くと自分が転んでいないこと気付き、そして俯いている顔をゆっくりと上げると少女は自分を両肩を掴んで支えている俺の顔を見てそう言った。

そんな少女の反応を見て、俺は率直にこう言った。

 

「こんな何も無いところで転ぶな」

 

我ながら思い遣りも愛想も無い言葉を吐いた。

そして俺のその言葉を期に少女は大きく眼を見開いた。

どうやら自分が助けられたことにやっと気付いたようだ。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

再び顔を俯かせ、この至近距離でしか聞こえないような小さな声でお礼を述べた。

 

……なんだ? 今一瞬、コイツの顔が赤くなったように見えたが………気のせいか?

 

「……あれ?」

 

するとまた顔を上げて、今度はジッとこっちを見始める。

俺は怪訝そうに眉を吊り上げるも紫色の髪の少女は黒い瞳で不思議そうに俺を見る。

 

「なんだよ? 俺の顔になんか付いてるか?」

「っ、ごご、ごめんなさい! 何でも無いです!」

 

指摘してやると少女はハッキリ分かるぐらい顔を赤くするとバッ!と身を引き、頭を下げて謝る。

一体なんだコイツ…………ん?

 

「お前も……赤い制服なんだな」

 

ここで俺はやっと気付いた。

よぉく見てみるとこの紫色の髪の少女も俺と同じ赤色の制服を着ているのだ。

 

「あっ……貴方も私と同じ赤? 良かったぁやっぱり私と同じ色の制服の人が居たんだ」

 

同じ色の仲間に出会えて少女も安心したのか、笑顔を浮かべる。

どうやらコイツも俺と同じ心境だったんだな。

 

……だがこの様子だとコイツもこの赤が何を意味しているのか分からないみたいだな。

 

まっ、同じの色の奴が居たってことが分かっただけでも良しとしよう。

これで制服の色が赤は何かの間違いという線は完全に消え、俺一人だけが仲間外れという線も消えた。

最大の疑問であるこの赤い制服の意味は………それは学院に着けば分かるだろう。

とにかく、不安が解消されたことで俺は地面に預けておいた鞄を拾い上げる。

 

「綺麗ですよね」

「ん?」

「ライノの花」

 

唐突に話を振ってきた少女は宙に舞っているライノの花弁を眺めていた。

 

「……確かに綺麗だな」

 

宙を舞うライノの花弁を改めて見てみると朝陽で彩る街の景色と融合して幻想的な風景を作り出し、俺は思わず少女の感想に同調した。

 

「私の故郷では少ししか咲かないから、こんなに沢山咲いているのは初めて見ました」

「俺は此処と同じぐらいライノの花が咲いている場所を知っているがな」

「そうなんですか?」

「あぁ、そこも此処と同じぐらい綺麗な場所さ」

 

そう打ち明けて俺は紫色の髪の少女の方に向き直る。

 

再び面と向き合うと俺は少女が俺と同じ年か或いは一つ下ぐらいの若さで、背は俺の頭一個分以上低いことを今更ながら知った。

 

髪は知っての通り紫色だが左耳の上の髪の毛を白いリボンで一束にしてワンサイドアップにしており、顔は………悪くないと思う。

可愛いかどうかと聞かれれば可愛いと言えるだろう。

すると俺のさっきの言葉を聞いて興味深さそうに眼を丸くしていた少女が口を緩ませた。

 

「そこが何処かは分からないけど、この街は景色が綺麗なだけじゃなくてすごく良さそうなところですよね」

「……かもな」

 

ついさっきまでは小さい街だとか、娯楽施設が無いだとか言っていたが、流石の俺もこの場は空気を読んでやや肯定気味な返答をした。

そして話題を変えるように俺は腕時計を見て、少女にこう言う。

 

「入学式が始まるまであと1時間20分有る。それまでどうするつもりだ?」

「う~ん……この街を一通りグルッと周りたいかな」

 

街の景色を違う角度から眺めたいのか、或いは単純にこの街を探索したいだけなのか、もしく両方か。

まぁどちらにしてもそれは当人の勝手なのだがら俺は特に何も言わなかった。

 

「えっと、貴方は?」

「俺は少し眠いんでな。入学式が始まるまでそこのベンチで寝て時間を潰すつもりだ」

「寝不足なんですか?」

「あぁ、実はそうなんだ」

 

寝不足なのを肯定した俺は欠伸と同時に踵を返す。

 

「じゃあな」

 

とそれだけ言って俺は一人で店と店の間に在る小さな広場に立ててあるベンチの元へ歩み始めた。

直後に背後から『あっ』という声が耳を掠ったように感じた。

俺はそれを気の所為だと決め付け、そのままベンチへ向かう。

だが広場に足を踏み入れようとした瞬間、プップー!とクラクションの音が響いた。

ピタリと足を止めて俺はクラクションが鳴った方向に顔を向けると帝都【ヘイダル】に続いている街道から一台の碧いリムジンが走って来た。

 

「(あれはラインフォルト社製の最高級モデルのリムジンじゃないか)」

 

俺が一目でそのリムジンがどこ製で且つモデルの中で最高級の物だと見抜いた直後、リムジンは喫茶店の前で停車する。

そして運転席から運転手が降り、後部座席のドアを開く。

 

「お嬢様、到着しました」

「ご苦労様」

 

リムジンの中から女の声が聞こえたと思うと、運転手が開いた後部座席のドアから赤い制服を纏い背中まで伸びた砂色の髪にフォーサイドアップを施した一人の少女が出てきた。

白い制服を来ていないが高級感漂う身嗜みと身体から溢れるばかり気品さから貴族の令嬢と見て間違いだろう。

 

「御荷物を御持ちします」

「結構よ」

 

運転手が荷物を持とうとしたところを少女が手を前に出して制止する。

 

「いえ、ですが……」

「これ以上の世話は必要ありませんわ。私は今日から学生の一人として通う身、余計な悪目立ちはしたくありません」

 

へぇ………今時の貴族にしては珍しい心構えだな。

などと俺が感心すると砂色の髪の少女は持っている小さな鞄を持ち直し、

 

「あとは此処か帝都辺りで休憩を取ってから【オルディス】へ戻ると良いわ」

「はっ、かしこました。では失礼しますお嬢様、良い学院生活を。あとお身体には十分お気を付けください」

「ええ」

 

運転手は頭を下げた後、リムジンの運転席に戻り、車体を器用にUターンさせて来た道に沿って帝都の方へ走って行った。

リムジンが去って行くのを見届けた砂色の髪の少女はこちらの視線に気付いたのか、蒼い瞳を俺の方に向ける。

結果、俺達は眼と眼が合い。2~3秒間ぐらい黙って見詰め合うと……

 

「ふふ」

 

何故か少女はクスリと笑い、そのまま何も言わずに学院の方へ歩いて行った。

 

………今のは微笑み掛けてくれたのか? それとも俺の顔に何か付いているのか?

まぁいっか、気にする程じゃない。

 

しかしあの貴族の令嬢、如何にも美少女って感じだったな。

さっき会った紫色の髪の少女も多分美少女の分類に入ると思うがあちらは可愛い系の美少女で、あの砂色の髪の少女は美女系の美少女って言ったところか。

 

「――――ふぁ」

 

って、くだらないこと考えていないでさっさとそこのベンチで寝よう。さっきから欠伸が止まらねェ

こんなにも眠いのは昨日からある作業で徹夜した所為なのだが、今更はその時の行為を後悔しても嘆いても仕方ない。

俺は広場に足を踏み入れ、無造作に鞄とバックをベンチの端に置き、据わる所に腰を下ろす。

 

「(入学式まであと1時間15分………あと一時間は眠れるな)」

 

腕時計で時間を確認しながら睡眠時間を決めた俺は両腕と両足を組み、そして睡魔によって程なく眠り着いた………

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「…………………ん」

 

しばらくして俺は眼が覚めた。

覚めたと言ってもまだ眠いのだが一応眠っている間、どれぐらい時間が経ったのか確かめるべく俺は半目で腕時計を見る。

 

 

《現在時刻:午前8時30分》

 

 

「あ!」

 

時計の二本の針の位置を見て、俺は抜けた声を上げた。

【トールズ士官学院】の入学式が始まるのは午前8時丁度。

ということはつまり完全に俺はタイムオーバーしてしまったのだ。

 

「っ!」

 

盛大に大きな舌打ちをした俺は眠気を何処かへ吹き飛ばし、傍に置いた鞄とバックを急いで持って学院の方へ全力で走った。

向かう道中、学生の姿が一人も居ないことに俺は自分が遅刻したことを深々と痛感する。

 

「(はぁ、入学早々遅刻するとは………我ながら情けない)」

 

心の中で自分の油断と怠惰が招いた自業自得な結果に後悔の溜息を零す。

そしてそう経たない内に俺は学院の正門を通り抜け、本校舎の前で立ち止まる。

顔を左に向けさせると入学式を行う場所である講堂の出入り口の扉が開いており、此処から講堂の中を覗くと中には誰も居ない後だった。

 

「(……入学式は終わってしまったようだな。ということは俺の組はもう本校舎の中か?)」

 

と推測したが、ここで一つ問題があった。

普通なら入学前に学院側から自分が編入されるクラスのことを届けられた案内書と制服と一緒に通知されるのだが、通知さえなかったのだ。

だから俺はてっきり入学式の際にその事を教えてくれると思っていた。

 

だがそれを知る前に肝心な入学式が終わってしまったので俺は己が何組であるか、それを知る術を失くしてしまったのだ。

俺は溜息を零し、さてどうしたものかと悩みかけその時。

 

「しかし、あの赤い制服の者達は一体何なんでしょうか?」

 

講堂の反対側から〝赤い制服〟というキーワードが聞こえて、俺はすぐさまそちらに身体を向ける。

そこには白い制服を着た橙色の髪の男子生徒を先頭にしてこちらへ歩く三人組の貴族生徒達が居た。

今の台詞を言ったのは先頭に居る貴族生徒の左脇に居る貴族生徒なのか、右脇に居る貴族生徒が相槌を打つ。

 

「さぁな、だがどうやら奴等は行先から見て旧校舎という場所に向かったようだが――」

「フン、僕達とも平民達とも違う制服を着ていたから少し気になって後を付いて行ってみたが………時間の無駄だったみたいだな」

 

先頭の橙色の髪の貴族生徒がそう言うと両脇に居る二人の貴族生徒は『全くです』とまるで漫画とかに出て来るどうしようもない悪役の手下みたいな返事を出した。

何というか、絵に描いたような腰巾着っぷりだなぁと俺はある意味感心したが、

 

「(旧校舎か、俺の組の生徒はそこに向かったようだな)」

 

これも女神様の導きなのか、俺は思わぬところで貴重な情報を手に入れた。

〝赤い制服の生徒達が旧校舎に向かった〟と三人組の貴族生徒達の一人がそう言った。

それが確かなら俺もそこへ向かえば良い。

幸い、送られてきた案内書の学院全体の見取り図にその旧校舎という場所も記載されていたので、迷うことなくそこへ向かえるだろう。

 

「ん?」

 

と橙色の貴族生徒がようやくこちらの存在に気付く。

 

「お~い!」

「「「「?」」」」

 

俺の存在に気付いて三人とも足を止めたその時、正門の方から声が聞こえ、俺達四人はそちらに顔を向ける。

するとそこには赤い制服を纏い鮮血のような紅い髪を持った少女が俺のところへ一直線に走って来てすぐ手前で停止する。

走ったせいで息遣いが大きくなっており、両手を両膝に置いて姿勢を低くしつつもその青紫の瞳でこちらを見上げる。

今朝会った二人の少女と違ってこっちの少女は美少女とまでは言わないが、耳に付けた十字架のイヤリングや化粧と身嗜みから見てどちらかと言うと今時の女子という印象が当てはまる。

 

「にゅ、入学式はもう終わっちゃった?」

「あぁ、終わったようだ」

「………はぁ、だよねー」

 

溜め息を吐いてガクッと今度は肩を落とす少女。

コイツも俺と同じ何らかの理由で入学式に間に合わなかったようだな。

 

「お前も自分が何組か分からない口か?」

「えっ、あぁうん。そうだけど、もしかして私が何組なのか知ってるの?」

「実はなーーー」

「おーい!!」

 

と俺の言葉を遮るようにまた正門の方から声が響いた。

 

紅い髪の少女と共に俺はそちらの方に顔を向けるとそこには俺と同じ身長くらいの赤い制服を纏ったオレンジ頭の男子生徒が手を振ってこちらに駆け寄って来た。

 

「よぉ!」

 

オレンジ頭の男子生徒も俺のすぐ手前で立ち止まったと思えば、妙に良い声で挨拶をした。

着ている物は一緒だがコイツの場合、赤い制服をボタンを閉めず、制服の下にあるワイシャツをズボンから出している。見た目といい見るからにチャラそうな奴だ。

そんな如何にもチャラそうなオレンジ頭の男子生徒は金色の瞳で俺等二人を見合うと、

 

「入学式ってもう終わっちゃった?」

 

たった数秒しか経っていないのに今日同じ内容の質問を二度目もされた。

コイツも俺達と同類か。

というか同じ遅刻者に二人も会うとはすごい偶然だな、おい。

まぁいい、丁度良いからコイツにも俺達の組が何処へ行ったか教えよう。

 

「もうとっくに終わったみたいだぞ。それと俺達の組は旧校舎って言うところに向かったそうだ」

「は? 旧校舎? 本校舎じゃなくて何でそんなところに行ったの?」

 

不思議そうに紅い髪の少女は首を傾げた。

それは俺も疑問に思った。しかし、判断材料が少ない今の俺には納得の行く答えを導き出すことは出来ない。

 

「なんか予定があるんだろう? 今ここで考えたって分かんねぇって、それよりも俺達も早くその旧校舎ってところに行こうぜ! 担任や他の奴等を待たせるのも悪いだろう」

 

もっともなことを言ってオレンジ頭の男子生徒は旧校舎の方へと駆け出す。

 

「ほらっ行こうぜ!」

 

「ちょ、ちょっと、待ってって!」

 

急かされて紅い髪の少女はオレンジ頭の男子生徒の後を追う。

そして溜息を零しつつも俺も旧校舎へ向かう為、二人の後を追った。

 

「……何なんだ?」

 

まだそこに居た橙色の髪の貴族生徒は俺達が横を通り過ぎるのを呆然としながら眺めるのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

視点を変えて、学院の奥の森林の中に聳え立つ旧校舎から少し離れた崖に紅い制服を纏った11人の男女達が旧校舎の中に入るのを見届けた四人の男女の姿が在った。

 

「せいぜいお手並みを拝見するとしようかね」

 

と四人の内の一人である白いに近い銀髪の男子生徒がそう言った直後。

 

「あっーーー!!」

 

十歳前半に見える小柄な女子生徒が突然大声を上げた。

 

「どうしたんだいトワ? いきなり大声上げて」

 

ハスキーな声を出すライダースーツを装着した女子がどうしたんだと聞いてみる。

 

「〝あのクラス〟の子でまだ学院に来ていない子が三人も居るってこと忘れてたぁ!」

「あぁ~~……そういえばそうだったな」

 

黄色い作業服を着た丸々と太った男子は小柄な女子生徒の言葉を聞いてそのことを思い出す。

思い出した小柄な女子生徒は多大な責任感を感じたのか、ガックシと頭と肩を落す。

 

「マジかよ? つーか、三人も遅刻してるのかよ」

 

意外な事実に後頭部を掻いて呆れる顔を浮かべる銀髪の男子生徒。するとその時。

 

「もしかして彼等じゃないか、トワ?」

 

ライダースーツの女子が学院の方に指を指す。

指が指した方向に旧校舎の方へ走る赤い制服を纏った三人の男女の姿があった。

すぐさま小柄な女子生徒はその三人の顔を遠目で観察すると、

 

「顔、特徴、うん、うん! 間違いないよ、あの三人が残りの子達だよ!」

 

「本当か、トワ?」

 

「うん」

 

それを証明する様に小柄な女子生徒は三人の名前を言い当てる。

 

「先頭に居るあのオレンジ色の髪の子が〝トモユキ・サクラ〟君!」

 

「二番目に居るあの紅い髪の女の子が〝ルーティー・オルランド〟ちゃん!」

 

「そして最後尾に居るあの綺麗な緑色の髪の子が〝イビト・バームスト〟君!」

 

こうして出会いを果たした若き少年少女達、彼等の出会いが彼等とその周りの未来を築いていく軌跡の物語が今始まろうとしていた。




~おまけ~

《トリスタ 中央広場 午前7:30》

「……人間だけが紙オムツ、可能を不可能にするオワタと言うの名の神を……」
「は?」
「……zzzzzz」
「???」

前を通り過ぎる際、寝ているイビトからそんな意味不明な寝言を聞いたリィン・シュバルツァーだった。

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