(Z–>)90º – (E–N²W)90ºt = 1 作:ASHIMU
「さて…」
手ごろな大きさの岩に寄りかかり考える、ここから自分は何をすればいいのか?移動するとして何処に移動すればいいのか?今、アンタップした土地からマナを出し呪文を唱えるべきか。
まず何より優先するのは自分が安全に過ごせる空間の確保だ、いくら強力な力を得ようと、安全な寝床、十分な食料この二つが無ければどうしようもない。
方法は候補として二つ、一つは『どこかにある拠点を見つける事』もう一つは『自分で拠点を作り上げる事』だ。
前者の問題点はその拠点が存在するかどうかわからない事、後者の問題点は自分にそんな知識は無いため試行錯誤しなければならないという点だ。
「ま、どちらにしても…」
そう呟きながら、川の流れに沿って下流に移動し始める、理由は拠点を探すにしても、作るにしてもここは適した場所ではないからだ。
ここから見える範囲に拠点らしいものは(森で視界が遮られるとはいえ)見当たらないし、水辺近くに拠点を作るべきではあるが、本当に川の隣に拠点を作ってしまっては先ほどのように野生生物に遭遇する可能性がぐっと高まってしまう。
つまり前者であれ後者であれまずは探索をするべきだ、と考えたのである。
(水の流れはきれいだし、上流に人が住んでいるかは分からない、下流に進めば人の集落があるかもしれないし、いずれ海にでるから森も途切れるだろう…どれぐらい遠いか分からないけど。)
すくなくとも何の目印も無い状態で彷徨っていた先ほどに比べれば、川という確かな目印がある今の状態は決して悪くは無い。
次に考える事は今使えるマナを使うかどうかという判断だ。
自分がセットしている土地は【山】
MTGにおける『基本土地』の一つであり、『赤色のマナ』を生み出せる土地だ。
そしてこのマナを一度使ってしまえば、30分の間完全に無防備になってしまう、なら使うべきではない…のだが。
(…今の手札に唱えられるインスタントやソーサリーがねーんだよなぁ。)
MTGにはいくつかのカードの種類が存在する。
クリーチャー
インスタント
ソーサリー
エンチャント
アーティファクト
プレインズウォーカー
土地
主にこの七種類だ。
クリーチャーは所謂『召喚呪文』
自分に従うしもべを呼び出す呪文だ。
インスタント、ソーサリーは『俺自身が使う魔法』というイメージだ。
さっき使った【ショック】もインスタントでマナを使い何らかの瞬間的な現象を起こす呪文群だ。
インスタントとソーサリーの違いは…色々あるが『インスタントの方が小回りが利き』『ソーサリーの方が効果が高い』とでも思っておけばいいだろう。
エンチャントもインスタントやソーサリーと同じく俺が使う魔法だ、ただこの二つとの違いはインスタント&ソーサリーは『瞬間的な現象』であるに対して、エンチャントは『永続的な現象』であるという事だ。
一度使えば消えるまでずっと効果を発揮してくれるという感じだろうか。
アーティファクトは『魔法の道具』を意味し、マナを追加で支払えば何かしらの効果を与えてくれる。
プレインズウォーカーは多次元宇宙に存在する、別の『プレインズウォーカーに協力を求める呪文』だ、MTGにおける呪文の中でも群を抜いて強力で、同時に希少でもある。
土地は正確に言えば呪文ではない、がどんな強力な呪文よりも強力で、同時にどんな弱い呪文よりも弱いともいえる、MTGにおいて何をするにも必要なエネルギー源だ。
話を戻すと、つまり今の手札には何かが襲い掛かってきたときに敵に攻撃できる呪文が無いという事だ、唱えられる呪文が無ければマナをとっておいても意味が無い。
そう思い【Draw】を唱えて、二枚になっていた手札に1枚補充する。
「…お」
新しく手札に加わった呪文を見て声を出す、できれば先程使った【ショック】が欲しかったが、長い目で見ればむしろ得になると思われるカードだ、不安なのはやはりこの呪文たちがどれ程の力を持っているか分からないところだが…最悪無駄にはならないと決心し新しく加わった呪文を唱える。
先程と同じく手に赤い力を溜め意識を集中させる、そのエネルギーの余波でローブがはためき始め光が強くなっていく。
「来い…【膨れコイルの奇魔/Blistercoil Weird】!」
キン…!と高い音が鳴ると、赤い光が収束し一際強く光った、そして光が消えると目の前に2メートルほどの大きさの【人型の液体金属のようなモノ】が現れていた。
そしてそれと同時に、『奇妙な事が起きていた。』
「…ん?」
自分は確かに召喚したクリーチャー…【膨れコイルの奇魔】を見上げている、しかし同時に『膨れコイルの奇魔を見上げている自分を知覚していた。』
今まで感じた事のない奇妙な感覚、だが不思議と違和感は少ない。
なぜかは知らないが、どうやら俺は【膨れコイルの奇魔】の知覚を感じているらしい。
別に視界が二つになったというわけではないし、自分の体と【膨れコイルの奇魔】の体が同時に動くという訳でもない。
なんとも妙な感覚だが…同時に判ったことがあった。
(……これは、助かるな。)
俺はこの【膨れコイルの奇魔】が『どんな存在』で、『どういったことが出来るのか』、そして『どれぐらいの事が可能なのか』といった事柄が感覚的に伝わってきたのだ。
缶ジュースの空き缶を手に持って「あ、これ潰せそうだな。」「これ、無理そうだな。」といった感覚に近いだろうか。
そういった自分が調べなければならないだろうと思っていた事がなんとなくではあるが理解できたのだ。
例えばだが、【膨れコイルの奇魔】にそこらに生えてる木に対して攻撃を命じれば、物理的な力による破壊は15分もあれば出来そうだという事を感じている。
「ついてこい。」
そう言葉短かに命令を出し、再び歩を進める。
様子を見ると特に問題なく命令に従っているようだ
後ろから少し奇妙な足音を鳴らしながらついてきている。
この感覚が間違いではないなら、召喚する前の自分が思っていた以上に心強い存在だ。
同行者が出来たという事が、少し心の余裕を産んだのか、少し足が軽くなったような気がした。