遺跡の様な巨大庭園を進み、その中心部に辿り着く。
そこには、まるで王が座るような玉座が一つ。
その玉座には、1人の男が座っていた。
身長は小柄な方で、肥満体系という言葉がしっくりくるほどデブっている。
そしてこの気配、間違いない。
転生者だ。
「けど、何だコイツ?」
まるで生気が感じられない。
まるで死んでいるかのような静けさで――――――
「――――ああ、そうか、コイツが憑依転生者か」
魂が抜けているのなら筋が通る。
今、アイツはブレインに憑依している。
それなら今の内に本体であるこの身体を殺しておくか。
俺は干将莫邪を投影し、ゆっくりと近づく。
本体の近くだ。
何かしらの罠を仕掛けているのかもしれない。
三大瞳術を発動させながら、警戒を怠らずに進む。
だが―――――
「―――――チッ、あのサラマンダーめ! また俺の邪魔をしやがって‼」
本体が目を覚ました。
瞬間、俺と目が合った。
「チィッ、姿見ねぇと思ったらこんな所にまで来やがったのかよ!」
忌々し気に大きく舌打ちし、玉座から立ち上がる。
「一応確認しとくぜ、お前が憑依転生者だな」
「確認っつーか断言してんじゃねーか! まぁ、そうだ。俺が憑依転生者だよ」
やっぱりか。
しかしなんつーか、意外だな。
こういう見た目の奴って、外見気にして特典で美形になるもんだと思っていたが。
まぁ、どうでもいいか。
コイツが本体に戻ったって事は、ナツが原作通りにブレイン・・・・いや、ゼロを倒したのだろう。
なら、後はコイツを倒せば全て終わりだ。
「コソコソとこんな所に隠れて戦いやがって、もう逃げられねぇぞ」
「ハッ、態々危険を冒して戦うなんざバカのやる事だぜ! 俺はお前等無能と違うんだよ。もっと頭使って生きろよ、折角の二回目の人生なんだぜ」
「ああ?」
「どうせお前等無能は、強い特典手に入れて俺TUEEEしてたんだろ? それが馬鹿だっつーんだよ! 自分以外にも転生者がいんなら、そいつらも強い特典持ってて当たり前だ。チートとチートが戦ったらどっちが勝つかなんて分からねぇ。そんなもん、もう俺TUEEEじゃねぇだろ。態々自分から戦いに行く奴の気が知れねぇな、天才の俺としてはよ‼」
「・・・・・・何が言いたい?」
「チート能力手に入れて自分で戦って調子に乗るなんて馬鹿だっつってんだよ! 自分の身体で戦わなくても、乗り移っちまえばいい‼ 死んでも別に本体の身体が死ぬわけじゃねぇから、負けても幾らでもコンティニュー出来るしな! コレ考え付いた俺ってマジ天才だろ!?」
・・・・・ああ、なるほど、そういうことか。
「要するにお前、ただのビビりだろ」
「・・・・・・んだと?」
「確かに強い能力を手に入れたとしても、使いこなせずに死んだ奴もいるみたいだが、少なくともテメェみたいな声だけデケェクズよりも、人間性的には遥かにマシだろ」
「あ”あ”!? 俺がクズだと!?」
「クズもクズだ。2回目の人生、どう謳歌しようがそいつの勝手だし、お前にとやかく言われる筋合いねぇだろ。ましてや、戦う事を前提にしてるくせに、自分が表に立って戦わないような奴なら尚更な」
「どう謳歌しようが勝手なら、お前だって俺にとやかく言えないだろーが‼ はい論破! 説教キャラ乙‼」
「ああ、俺自身とやかく言う気ねぇよ。実際、他の転生者の生き方をどうこう言う気ねぇし、言った事もねぇしな。けどお前は別だ」
「あん!?」
「こんな所に引き篭もってるヒキニートに、戦い方がどうだの言われたくねぇんだよ。自分で戦ってすらいない奴が、エラそうな事ほざいてんじゃねぇ」
みんな好き勝手に生きてる。
コイツもそうなんだろうが、少なくとも他の連中は、コイツと違って他の転生者の生き方を馬鹿にするようなことをしちゃいない。
なのに、なぜこんな奴に馬鹿にされなきゃいけないんだろうか?
他人の身体を乗っ取って、ゲームの操作キャラみたいに操って戦う事しか出来ない奴なら尚更馬鹿にされる謂われはない。
かつて戦った鮫島篤のように、死ぬ最後の時まで満足に戦って死んだ奴だっている。
戦って満足して死んでいった奴を馬鹿にすることは、少なくともこんな安全地帯にいないとモノを言えない奴に言う資格は無いだろう。
「ま、何が言いたいのかというとだ。要するに目障りだよ、お前。転生者の風上にも置けねぇな」
折角の二回目の人生?
ああ、確かにそうだ。
だからこそ、俺達は生前に悔いた事を残さない様に好き勝手に生きてんだ。
「その生き方を馬鹿にする資格がお前にあるのか? 憑依しないと戦えもしな奴が‼」
英霊召喚をさせる隙を与える気は無い。
一気に仕留める。
俺はこの転生者に斬りかかる―――――
「だから無能なんだよ、お前ェッ‼」
――――瞬間、この転生者の周囲の空間が歪んだ。
「【王の財宝‐ゲート・オブ・バビロン‐】‼」
奴の周囲に幾多もの武器が出現し、俺に向かって射出された。
「ハッ、俺が本体を狙われる可能性を考えなかったとでも思ってんのかよ! コレだから浅はかな考えしか出来ない無能はよ‼」
俺は舌打ちしつつ、飛んで来る武器の雨を二振りの双剣で弾き落とす。
「つーか、テメェ、ギルガメッシュを召喚しねぇのかよ!?」
「あんな主人を殺しまくるヤバい奴なんざ呼べるわけねぇだろ‼ 令呪やバーサーカー化とか色々用意はしたが、あの我様野郎ならそれでも裏切りとか普通にやりそうだしな‼」
それは確かに!
「だから自分で使うんだよ! 俺自身が戦う能力なんざ、コレ1つで充分だからな!」
「そうだな、相手が俺じゃなければな」
1人で戦争を行える能力だが、それは俺も使える。
「【無限の剣製‐アンリミテッド・ブレイド・ワークス‐】‼」
俺の神様特典の1つを発動させ、辺りの空間を固有結界が封じる。
「チッ‼ けどアメェ!」
同質の力で戦況が膠着すると判断したのか、奴は宝物庫から切り札を取り出した。
【乖離剣‐エア‐】か!
「これなら防げねぇだろ!? 複製したっていいんだぜ‼」
エアを発動させる構えを取る。
アレを複製したって相殺するだけ、ましてや防ぐモノを造り出すのは難しい。
【魔法無効化‐マジックキャンセル‐】や【幻想殺し‐イマジンブレイカー‐】で防げるかどうかも、ちょっと怪しい。
「死ねやぁっ‼【天地乖離す開闢の星‐エヌマ・エリシュ‐】‼‼」
そして乖離剣を振るった。
空間切断。
この絡み合う風圧の断層は、時空断層となって全てを粉砕する、世界を切り裂く剣。
コレを防ぐのは容易ではない。
だから、
「お前、相手を馬鹿にする割りに、相手の事知らなさ過ぎだろ」
「何!?」
「俺の能力だよ。ま、直接戦った事ねぇから知らないのも無理はないが」
防げないなら、防がなければいい。
「【神威】‼」
【天地乖離す開闢の星‐エヌマ・エリシュ‐】を丸ごと吸い込む。
須佐能乎などでも防ぐのは不可能だっただろう。
なら別の空間に通してしまえばいい。
そしてそれを、
「返すぜ」
神威の空間を通って、奴が放った【天地乖離す開闢の星‐エヌマ・エリシュ‐】を相手に向けて放った。
一瞬、虚を突かれたように硬直するが、直ぐに2発目を放って相殺しようと動き出す。
「させねぇよ!」
此処は俺の固有結界内。
此処にある武器を全て相手目掛けて投擲する。
「【無限の剣舞‐アンリミテッド・ブレイド・ダンス‐】‼‼」
幾多モノ剣が飛来し、奴はソレを捌こうと【王の財宝‐ゲート・オブ・バビロン‐】で対抗するが、
「まだまだぁっ‼」
気弾の豪雨のように放つ、連続エネルギー弾。
気弾や剣の雨は、【王の財宝‐ゲート・オブ・バビロン‐】の展開量と射出量を上回り、奴は自分で対処するしか無くなって来て、自分の身に降りかかる剣をその手に握る乖離剣で弾く。
そして、2発目を討つ余裕がなくなった。
「く・・・クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ‼‼‼」
憑依転生者は、【天地乖離す開闢の星‐エヌマ・エリシュ‐】の時空断層に呑まれて、完全に消滅した。
◆◆◆
「フン、奴も死んだか」
上田祐一が戦う浮遊庭園の遥か上空に、そいつは居た。
浮遊させていた転生者が死に、庭園が崩壊していく様を眺めている。
「まぁ、初めから期待はしていなかったが・・・・・」
この場で、あの転生者を始末するかどうか。
「・・・・まぁ、いい。転生者の相手は転生者がするのが定石。俺がやる事では無いな」
言って、男は身を翻し、何処かへ去って行った。
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