「うーん・・・・・・・!」
「そうだ。そうやって掌に魔力を集中させるんだ」
父であるマカオの指示通りに、魔力を練り上げ集中させようとするロメオ。
ある日の昼下がり。
ギルドから少し離れた所にある公園で、俺達はロメオの魔法の修行に付き合っていた。
付き合いが良いというべきか、暇を持て余しているというべきか。
とにかく俺、レッド、ナツ、ハッピー、ルーシィの5人が、マカオと共にロメオの修行を見ている。
今はマカオの魔法【紫炎‐パープルフレア‐】を教えている。
必死の形相で、手から魔法を出そうとするロメオ。
「う~~~ん・・・・・・・・・・・・ぷはぁっ‼」
息を止めていたのか、大きく息を吸い込んで脱力し、その場にへたり込む。
別に息止める必要は無いんだがな。
「如何にも上手くいかねぇな・・・・・」
「ま、始めたばっかだしこんなもんじゃねぇか?」
マカオの教え方が下手な訳ではないが、ロメオはまだ魔法を習ったばかりの初心者。
流石にパッとすぐさま使える様になったりはしないか。
「おーい、マカオ!」
マカオを呼ぶ声に目を向けると、公園の出入り口でワカバがパイプを吹かせながら手を振っていた。
「もうそんな時間か」
「仕事か?」
「ああ」
出来ればマカオもロメオの修行に付き合ってあげたいのだろうが、生活もあるからな。
働けるときに働いておかなければならない。
「父ちゃん」
「ロメオ、後は祐一達に見て貰え。帰ってきたら、また見てやっから。頑張れよ!」
「うん! 父ちゃんも仕事頑張ってね!」
「おう‼」
手を振って、マカオはワカバと共に去って行った。
「それで、どうするの?」
ブランコに腰かけるルーシィが聞いて、ジャングルジムの天辺に座ってたナツが「決まってんだろ‼」と叫んで跳び下りる。
「修行続行だ! こっからは俺が教える‼」
「息巻くのはいいけどよ、ナツ。お前、ちゃんと教えられんのか?」
「大丈夫だって。俺だって炎の魔法を使うんだからよ!」
それは大丈夫な理由にならないと思うんだがな。
前回が前回だっただけに。
「よし! やるぞロメオ‼」
「うん! ナツ兄‼」
「手から炎を出すにはな・・・・・・・」
「出すには?」
「まず食らってみるのが一番だ!」
「え?」
「いくぞぉっ! 火竜の鉄k――――」
「祐一止めて」
「あいよー」
予想通りというか、期待を裏切らないというか。
頭を抱えるルーシィの指示に従うまでも無いのだが、俺は鉄拳をロメオに放つナツの攻撃を止めに入った。
◆◆◆
「ナツってホント成長しないよね」
「うるせー」
滑り台の上で魚を食べながら呆れるハッピーに、ナツはブスッと不貞腐れた声を出す。
完全に前回と同じ流れじゃねぇか、馬鹿が。
思わずため息が出てしまう。
エルザは「私が教えようとすると前回の二の舞になるしな」と、今回は参加しなかったというのに。
まぁ、同じアビリティ系で炎を使う魔導士だから適任と言えば適任なんだが。
完全に身体で覚える感覚派だからな。
戦闘に関しては含蓄が深い所があるが、基本頭じゃ無くて感覚で物事を捕らえる性質だし。
「で、次は誰が教えるんだ?」
「お前はどうだ、レッド」
「オレかぁ・・・・・・」
あまり使われる事は無いが、レッドは普段の猫形態から体格を大きく変えて二足歩行になる【戦闘形態‐バトルフォーム‐】に変化出来る。
その【戦闘形態‐バトルフォーム‐】で、レッドは特殊な丸薬を使って一定時間の間【戦闘形態‐バトルフォーム‐】のバリエーションを増やせるのだ。
4足歩行のスピード形態、筋力を増強させるパワー形態、頭脳明晰のウィザード形態、全身の毛皮を増毛させるガード形態。
そしてこのウィザード形態は、魔法の扱いが得意になる状態だ。
炎、水、風、雷、地といった各種属性の魔法を使うことが出来る。
そしてこの魔法は、勉強して自分の力で身に付けたモノだ。
自分で覚えるのと教える事は全くの別物だが、レッドならそう危険な教え方はしないハズ。
だから「どうだ?」と勧めてみたのだ。
レッドは「うーん・・・・・」と唸る。
「オレは魔法の本を読んで覚えたからな。勉強あるのみだ」
「優等生だねぇ・・・・・ロメオ、お前勉強で覚えるか?」
「勉強かぁ・・・・・・・」
嫌ってほどじゃないけど、あまり乗り気では無い様だ。
「ま、地道に勉強していけば使える様に成るだろ」
勉強があまり得意とは言えない俺が言うのもアレだが。
ジックリ時間かけて行けという俺の言葉に、ロメオは頭を振った。
「それじゃダメなんだ!」
「ロメオ?」
突然公園全体に響くほどの声を張り上げたロメオに、俺達は眉を寄せ、首を傾げる。
直ぐハッとなったロメオは俯いてしまう。
「何かあったの?」
優しい声音で聞くルーシィに、ロメオは話し始めた。
以前、魔導士である父や、フェアリーテイルの皆を馬鹿にした子供たちがいた。
彼らの言葉が悔しくて、ロメオはマカオに凄い仕事をしてきてくれと頼み、マカオは大怪我を追って帰って来た。
その子供たちに、また馬鹿にされたのだそうだ。
「魔導士の子供の癖に魔法を使えないのかよ」と。
練習中で、そんな直ぐにポッと使える様に成る訳も無い。
けれども、ロメオは言ってしまった。
「今日はちょっと調子が悪いだけだ! 明日使ってやるから見てろよ‼」
ちなみにコレは今朝の出来事だそうだ。
つまり、ロメオは明日までに魔法を使えるようにならなければ、嘘吐き呼ばわりされ、また子供たちに馬鹿にされるのだろう。
まぁ、出来ないのに言ってしまったロメオの自業自得と言えなくも無いが・・・・・・。
「・・・・・・しゃあねぇな」
ガリガリと頭を掻きながら、考えを纏める。
つってもまぁ、結局の処コレしか無い訳だが。
「よし、じゃあギルドに戻って始めるぞ」
「な、なにを?」
「あ? 決まってんだろそんな事」
ロメオの頭を乱暴に撫でながら言ってやる。
「―――――ロメオ改造計画だ」
「俺何されるの!?」
大丈夫、死にはしないさ、たぶんだけど。
◆◆◆
そして翌日。
結果だけ先に言おう。
問題は無事に解決した。
今俺達の視線の先には、馬鹿にしていた子供たち相手に魔法を使っているロメオの姿があった。
子供たちは魔法を使うロメオを、尊敬の眼差しを送ったり、驚愕していたり、気に入らないモノを視る様に忌々し気に舌打ちしていたりと様々だ。
そしてロメオはドヤ顔だ。
ただ、その眼元には隈が出来ており、疲労の色が濃い。
改造計画なんて大袈裟なことを言ったが、俺がやったのはシンプルにしてベストで確実な選択だ。
「いやー、やっぱエルザに教官を任せて正解だったな」
そう、エルザに任せたのだ。
と言っても、丸投げした訳じゃ無い。
勉強の内容や、魔法を使う実戦の感覚や技術などは俺やナツが主体となり、ギルドのみんなで教えた。
そしてエルザが教鞭を取った。
何故エルザに任せたのかというと、過去の経験によるものだ。
ナツがギルドに入った頃、まだ常識や読み書きが上手く出来ていなかった。
それを教えたのがエルザだ。
「出来るようになるまで食べる事も寝る事も休む事も許さん」と言い、実際出来るまで食べる事も寝る事も休む事も出来なかった。
超絶スパルタ。
言った以上は必ずやる女だ。
くそ容赦ねぇ。
結果は御覧の通り上手くいった訳だが、ロメオが魔法を使えるようになったのは本当に今さっきで、徹夜で修行していたのだ。
まぁ、時間ギリギリだろうが成功は成功だ。
これで問題は解決した。
「またなー!」
手を振って子供たちと別れるロメオ。
徹夜明けだからな、帰って寝たいのだろう。
めでたく終わってヨカッタヨカッタ。
「チッ。調子に乗りやがって・・・・・・・」
別れて去って行く子供の1人がそう言ったのを、俺の地獄耳は聞き逃さなかった。
・・・・・・まぁた何か起きそうだな。
.
続きそうな予感。
魔法講座シリーズ続くかもしれん。