「あー! もう‼」
ルーシィの絶叫が響く。
まぁ、無理も無い。
「ハッピー! アンタまだ迷ったでしょ!? 歩いても歩いてもマグノリアの街に着かないじゃないの‼ この方向音痴猫‼‼」
此処は、太古の地震によって無数の断層が走る、通称『蜘蛛の巣谷』。
此処に迷い込んで帰ってこられ無くなった奴が多いとか何とか。
「またって失礼しちゃうな、この間は迷わなかったよ。今回が初めてなんだ」
「初めてでも何でも迷ったには違いないじゃない・・・・・・」
「「「「「ハァ・・・・・・・・」」」」」
みんなの溜め息が重なる。
まぁ、この人数で歩いてい乍ら道に迷ってんだから無理も無いが。
今この場にいるのは、俺、ナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、エルザ、ジジイの7人。
地方ギルド定例会の帰りだ。
「腹減ったなぁ・・・・・」
「言うな、余計腹減るだろうが」
「減ったもんは減ったんだよ!」
「だから減った減った言うんじゃねぇぇ‼」
こんな時にでも喧嘩とか、ナツとグレイは元気だな。
「確かに、減ったのぅ」
「ああ、腹減ってしょうがねぇよ」
ジジイに同意する俺。
ナツとグレイが「「だぁかぁらぁぁああっ‼」」と叫ぶ。
いや、だって減るもんは減るじゃん?
しゃあねぇよ、自然の摂理だよ。
「よせ」
エルザが制止の声を出すが、その鎧越しの腹からグウウゥゥゥゥゥゥゥゥという音が。
「!」
「今、グウゥゥゥって鳴ったぞ。グウゥゥゥって」
「鳴ってない、空耳だ」
「す、すげぇ言い訳だな、オイ」
「無理すんなってエルザ。飲まず食わずで、もう一晩明けてんだ。腹減って当然だろ?」
「私は減らない」
「オイオイ・・・・・・」
そんな意地張らんでもなぁ。
「うおぁぁああああああ!?」
「何騒いでんだよ、ハッピー」
「ナツ! アレ見て‼」
騒ぐハッピーに何事かと、ハッピーの目線の先・・・・崖下を覗き見る。
そこにいたのは、何とも色とりどりみどりの羽の生えた魚だった。
魚が空を飛んでいる。
何だ、アレ?
どっかで観たような気が・・・・・・・。
「幻の珍味、羽魚だ‼」
ああ、そうだ、確かギルドのリクエストボードに依頼書が張ってあったな。
捕獲1匹につき30000J。
魚一匹に結構値が張る。
「アレ滅茶苦茶美味しいんだ!」
ハッピーが涎を垂れ流しながら「美味っ美味っ美味っ美味っ‼」と、気が狂ったように叫び続ける。
ヤバい薬でもヤッてるみたいだぞ、オイ。
「幻の珍味・・・・・・」
「羽魚・・・・・・」
「美味そうだな・・・・・・」
ハッピーの解説を聞いて、グレイ、エルザ、ナツもゴクリと喉を鳴らす。
「でかしたハッピー、よく見つけたのう・・・・・・」
ジジイにいたっては泣いてるし。
「みんなお腹空きすぎです」
グウウゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・
「お前もな、ルーシィ」
「はい・・・・・・・・」
グウウゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・
「アンタもよ、祐一」
「うん、さっきからそう言ってる」
何でもいいから食いたい。
「よーし、釣るぞぉぉぉおおおおお‼」
「・・・・・って、どうやって釣るのよ?」
「祐一、釣竿出してくれ」
「あいよ」
俺は【換装】で釣竿を人数分取り出した。
こんな事もあろうかと、というやつだな。
みんなで崖から釣り糸を垂らすという、微妙に間抜けな絵面を晒しながら釣りを開始する。
「クッソー、コイツ等釣れそうで釣れねぇなぁ・・・・・・」
ナツがボヤく。
お前、普通の釣りでもあんま釣れないからな。
「オイラ、頑張るぞぉぉぉぉぉ‼」
「なんか、あんまり美味しそうに見えないんだけど・・・・・・」
「黙って釣れ、この際喰えればいい」
「そ、そんなに腹減り!?」
「ま、魚なんだし大丈夫だろ」
大抵焼けばどうにかなる。
「羽魚食べたいぞ! 美味しいぞぉぉぉぉ‼ 幻の珍味だぞぉぉぉおおおおお‼‼」
ハッピーはスゲェやる気だな。
「飽きてきました」
「意志弱っ!?」
「早過ぎだろ・・・・・・」
まだ5分も経ってねぇぞ。
「だって全然釣れないんだもん」
「お腹空いてるんでしょ? だったら頑張ろうよ。あきらめないで!」
ルーシィがとてもいい笑顔でハッピーを励ました。
「ルーシィの意地悪ぅぅぅうううううう‼」
「えー‼ 励ましたんですけどぉぉおおおおおおおおお!?」
ハッピーが泣いて逃げだした。
何やってんだか。
◆◆◆
それから30分後。
「難しいわね・・・・・・」
「結局1匹だけか」
ちなみに釣ったのは俺だ。
ナツが一瞬で丸焼きにした。
「ハッピー食えよ」
「でもオイラ1人だけじゃ・・・・・・」
「そんなのちょびっとずつ分けてくったら余計腹が減るわっ」
「遠慮するなー、食えっ食えっ」
「そうだな、ハッピーなら魚1匹で充分腹は膨れるだろうし」
「そう!? じゃあ頂きまーす‼」
目を輝かせながら魚を食らうハッピー。
みんなは腹をグゥグゥ言わせてる。
俺もだけど。
「こんな魚を美味しそうに食べられるなんて、アンタ本当に幸せね・・・・・・」
「不味ぅぅぅうううううううううううううう!?!?!?」
「不味いんかいっ‼‼」
まぁ、珍味だしな。
もしかしたら特殊な調理法が必要なのかもしれん。
特殊調理食材的な。
◆◆◆
羽魚が食材にならないと思い、俺達は諦めて先へ進む。
今は荒野の様な所を進んでいた。
「それにしても・・・・・・」
「腹が・・・・・・・」
「減ったのう・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうしたの、祐一?」
「岩とか食えねぇかなぁ・・・・・・・・?」
「いや無理無理無理無理ッ!?」
岩に手を伸ばしかけた所をルーシィに慌てて止められる。
ハッ!? 危うく食うとこだったぜ‼
そして空腹のまま歩き続けていると。
「村だ‼」
「家だ‼」
村を見つけた。
「だったらたぶん!」
「ああ‼」
「食いもんだぁぁぁぁああああああああああ‼‼‼」
本能の赴くまま、俺達は一心不乱に突撃する。
はしたない?
空腹の前では、些細なプライドなんざゴミだ!
「っ?」
だが、村の中心部辺りに辿り着いたとき、違和感を感じた。
「誰もいねぇぞ」
「何か、静かな村ね・・・・・・」
「昼寝でもしてんじゃねぇのか?」
「村人全員がか?」
にしては、気配すら感じないんだが・・・・・・・。
「おーい! 誰かいねぇかー!?」
「お腹減り減りですぅ! 誰か食べ物くださーい‼」
「そこの腹減り猫、露骨過ぎだから!」
「食い物寄越さねぇと村事食いつぶすぞー‼」
「脅すな‼」
だって、腹減ったもんよー。
しかし、どれだけ叫んでも、俺達の声が木霊するだけだった。
「ホントに昼寝か?」
「さもなきゃ、村中酔っぱらって寝とるかのう?」
「それはフェアリーテイルですから・・・・・・」
「ハッハァアッ! そうとも言うのう‼」
ま、確かに大勢酔いつぶれて昼間から寝てる時あるけどな。
「えーいメンドクセェ! 力づくでも何か食ってやる‼」
「おい、そりゃちょっとした強盗だろう!?」
「って、お前もその気だろうがッ‼」
ナツとグレイが走り出し、どっかの家に突撃しに行った。
・・・・・・気持ちは分からんでもないが、犯罪は勘弁してくれよ。
「ま、俺達も行くがな」
「いや、私達はナツとグレイを止めに行くだけだから」
「でも、食い物を訳に貰いにも行くんだろ?」
「そりゃ、まぁ・・・・・・」
物乞いみたいな真似だが、背に腹は代えられんのだよ。
「おーい、誰かいねぇか!? 何か食わせてくれ頼む‼」
ナツが家の扉をドンドン煩く叩くが、中からの応答が無い。
ドアノブに手を伸ばす。
回す。
開いた。
鍵はかかって無い様だ。
「やっぱ誰もいねぇな」
「兎に角食いもんだ!」
テーブルの上に、パンと湯気だったスープが置いてある。
ん?
「よっしゃまだ食える!」
ナツがパンに手を取り、匂いを嗅いだ。
「いただきまー・・・・・」
「待て」
「・・・・・何だよ!?」
食べようとするが、エルザが止めた。
いや、疑問を持てよナツ。
「様子がおかしい」
「ああ、ついさっきまで飯食ってたみたいだ」
「スープに湯気立ってるしな」
エルザの言葉に、グレイと俺が同意する。
「この家の連中、何処に消えたんだ?」
「知るかよ。取りあえず食おうぜハッピー!」
「あい!」
「待て‼」
「は、はいっ!?」
エルザが凄みを効かせて、ナツはパンを手放した。
「先に村に様子を調べる必要がある。今まで我慢してたんだ、もう少し我慢―――」
グウウゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・
「エルザ、お腹鳴り過ぎ・・・・・・」
「説得力0じゃな」
「ナツ達はキノコか何かを探して来い。村の食べ物には触るな! 私と祐一とマスターは、その間に村の中を調べる」
「スルーする気だな・・・・・・」
まぁ、腹減り過ぎてツッコむのも面倒だからどうでもいいが。
ナツは「あーあ、分かったよ。行くぞハッピー」とハッピーを連れて村の外を探しに行った。
「何故キノコ?」
「どっか生えてると思ったんじゃねぇか?」
まぁ、空飛ぶ魚よりかは見つけられそうな気もするが。
◆◆◆
俺とエルザとジジイは、別れて村の中を探す。
何か手掛かりとか無いモノか?
「・・・・・・・特に変わった様子は無いな」
かと言って、ゴーストタウンって感じもしないしな。
人がいた様子はあるし。
特に何も見つからず、俺は村の中心部に向かった。
「どうだった?」
「なーんもねぇよ」
「こっちもじゃ、誰もおらん」
エルザ、ジジイと合流する。
2人も成果無しか。
「この村は廃村じゃ」
「というよりは、つい最近まで人が暮らしていた形跡がありました」
「最近っつーか、ホンの10数分前くらいだな。さっきの家にあったスープからは湯気が出てたし、鍋に火をかけてた家もあったぜ」
まるで突然消えたみたいだな。
「ん?」
エルザは足元を見た。
何だ?
「・・・・・・何か妙な溝があるな」
眼でその細い溝を追ってみると、ずっと村の奥まで続いていた。
「単なる石の隙間じゃありませんね。明らかに意図的に掘られている」
線を辿って進んでみる。
「此処には別の線があるな」
線が十字になっていた。
「何だ?」
何か、呻き声の様なものが聴こえてくる。
そして、地に掘られている溝が赤く輝き出す。
「エルザ!」
あ、ナツ達が戻って来た。
てか、ハッピー、お前何で頭にキノコ生やしてんだ?
「気を付けろハッピー!」
「あい」
まぁ、今何か非常事態っぽいからなぁ、話は後だ。
「ええええ!?」
ルーシィの驚愕の声が聴こえて目を向けると、建物が赤く光り出し、その形を変えていく。
「何だこりゃ!?」
「どういうこと!?」
「オイラ家が動くとこ初めて見たよ!」
「何でそこがツボ!?」
「これは・・・・・・」
「建物だけじゃねぇな。地面も蠢いてやがる」
まるで生き物みたいに。
「やるぜ、じいさん」
グレイはやる気なのか、身体から冷気を発しており、いつでも魔法を発動出来る状態にしている。
だが「待てぃ‼」とジジイが待ったをかけた。
「な、何でだよ!?」
「高い所へ登るんじゃ。確かめたい事がある」
「みんな来い、離れるなよ」
ジジイとエルザに付いて行く形で、俺達は村の崖上まで登った。
そして村を見下ろす。
「うわー」
「訳分かんねぇぞ、コレ!?」
街の建造物が全て魔物に変化しだした。
「マスター、アレは魔法陣では?」
エルザの言葉に、視線を集中させる。
確かに、村の地に巨大な魔法陣が描かれている。
アレは、さっきの溝か?
「ああ、ワシたちが見つけたあの溝は、魔法陣の一部じゃ」
「やっぱりか」
「そしてこの魔法陣は、かつて禁止された封印魔法・・・・アライブを発動させるためのモノじゃ」
「アライブ?」
ジジイは「アレを視ぃ」と言い、俺達は魔物に目をやる。
「一目瞭然、本来生命の無いモノを生物化して、動かす魔法じゃ。村の者はその禁断の魔法を発動させ、逆に化け物たちの餌食となった」
「でも、どうしてそんなに危ない事を?」
「ここは・・・・・闇ギルドの村だ」
ルーシィの疑問に、エルザが答えた。
「何!?」
「先程、ある家の納屋を調べていたら、魔法に使用する道具を幾つも見つけた。いずれも、まともな魔法のものでは無かった」
「闇ギルドのことじゃ、どうせ良からぬ企みをして、そのせいで自滅したのじゃろう」
「良くある話だな」
「じゃがっ‼」
「あ?」
「これぞ不幸中の幸い」
「じっちゃん、何だよソレ?」
「奴等は生き物だと言うた筈じゃ」
「・・・・・・おい」
まさかとは思うが・・・・・・・。
「大抵の生き物は・・・・・・食える‼」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
まぁ、ルーシィの驚愕は当然のリアクションだ。
ナツとグレイは黒い笑顔を浮かべているが。
――――グウウゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・
と、俺達の腹の虫が泣いた。
「よっしゃあ食うかああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼」
「うわぁいご飯の時間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼」
「この際、味がどうのなんて言ってられねぇなァッ‼‼」
猛るナツとハッピーとグレイだが、エルザが我先に「フッ‼」と勢いよく崖から跳び下りた。
「エルザそんなに腹減り!?」
「飯だ飯飯‼‼」
「ちょっ、ちょとぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「ワシの分も頼んだぞぉぉぉ‼」
ふむ。
「んじゃ、俺も行くわ」
「祐一まで腹減り!?」
「おうよ」
食わなきゃやってられん。
俺は跳び下りて、適当な魔物に狙いを定める。
取りあえず焼くか。
「火竜の咆哮ッ‼‼」
ナツの魔法で魔物を火炙りにして焼き殺す。
大抵の食いもんは火ぃ通しゃどうにでもなるだろう。
「後は食いやすいように切り刻んで‼」
換装で剣を出し、魔物を切り刻む。
一口大の大きさに切り分ける。
・・・・・・・しかし、コレは何なんだろうな?
肉なのか?
「・・・・・・まぁ、喰えばわかるか」
バクリと一口で食べる。
モグモグモグ・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「「「「不っ味うううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?」」」」
俺とナツとルーシィとグレイが同時に食べて同時に叫んだ様だ。
何だコレ!?
ゲロま不味すぎだろ!?
「何だアレ!? じっちゃん、あんなの食えねぇぞ!?」
「不味いにも程があるぞ!?」
「ああ、食べられたモノじゃないな」
「あたしに食べさせてから言わないでください!?」
「ルーシィ、エルザに喰わされたんか・・・・・・」
鬼だな、エルザ。
ああ、今更か。
「うぉあああぁぁぁぁぁぁ!?」
ドガァンッ‼と、後で破砕音が。
ハッピーが岩壁に激突していた。
何やってんだアイツは?
「あ」
「お前キノコ取れたぞ」
「そんなことより、どうして誰も止めてくれなかったんだよぉ‼ 酷いよナツどうして!?」
「ハァ?」
「遊んでたんじゃねぇのか?」
あ、ハッピーが白くなった。
・・・・・・まぁ、どうでもいいか。
「しかし参ったな、こうマズくては幾ら空腹でも・・・・・・」
「元々化け物食おうってんだからなぁ」
「あー、クソぅ・・・・・喰えねぇって分かったら本気で腹減って来た」
「調理法が特殊とか?」
「いや、流石にどんな調理法を使っても無理だろ・・・・・・」
それもそうか。
元々が家とかだもんなぁ、この魔物。
「うわぁぁぁぁあああああああ!?」
ハッピーの悲鳴。
どうやら魔物がまた現れた様だ。
「不味い奴等めぇ・・・・・・」
「グレイ、ソレどっちの意味だ? 味か? 状況か?」
「どっちもだよ!」
囲まれてるもんな、空腹状態で。
「腹が立つ」
「腹が減ってるからな」
「・・・・・・・・・・・・」
「分かったよ悪かったよ、睨むなよエルザ」
腹減って気が立っているようだ。
いや、いつも睨んできてるか。
「ま、纏めてぶっ倒すか!」
みんな其々魔物の討伐に当たる。
「多重影分身の術‼」
からの~
「「「「螺旋多連丸‼‼」」」」
無数に分身した俺の無数の螺旋丸が魔物を吹っ飛ばす。
「キリがねぇな」
数多過ぎだろ。
「こ、今度は何!?」
辺りが紫色に輝き出した。
いや、魔法陣は赤く輝いている。
いや、赤だけじゃない。
黄色や茶色にも輝いている。
多重魔法陣か?
「コレは・・・・・・・」
魔物が地面に吸い込まれたと思ったら、今度は俺達が立っている崖が崩れ始める。
「逃げろ‼」
エルザが叫ぶが、時既に遅く、俺達は地へと落下した。
◆◆◆
「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・」
「ナツ、溜息デケェよ」
「だって、腹減ったんだもんよ・・・・・・マジで」
「オイラもう歩けないよ・・・・・・」
「だから自慢げに羽を使うな羽を!」
「何か訳わかんない・・・・・・」
「マスター」
「あん?」
「先程の説明では納得いきません」
先程。
それは魔物に異変が生じ、俺達が崖から落ちた時の事だ。
◆◆◆
「お前ら、何やってたんだよ?」
「魔法陣を作ったら、化け物が現れて・・・・・みんな、奴等に【接収‐テイクオーバー‐】されちまって・・・・・・」
「ではお前達は、あの化け物の中に?」
「ゲェ! あたしちょっと食べちゃった!?」
あの魔物の正体は、人間だった。
今俺達は、大勢の人間・・・・・この村の村人らしき連中と話している。
さっきの異変は、魔物が人間の姿に戻ったモノだったのだ。
村の姿も、無くなっている。
まぁ、村全体が魔物になってたからな。
「余所者のアンタたちが村に入って来て、魔法陣が刺激されて動いたんだ」
「もうあの魔法陣が動く事は無い」
「「「「「え?」」」」」
ジジイの言葉に、村人・・・・・いや、闇ギルドの連中か。
そいつらは目を丸くした。
「何でだよ、じっちゃん?」
みんなの疑問を、ナツがジジイに問う。
「細かい事はどうでもよろしい!」
だが、如何やら話す気は無いらしい。
「兎に角、テイクオーバーが解けただけでもありがたいと思う事じゃ。コレに懲り、二度と妙な真似をせんと誓うなら、評議会への報告は無しにしてやる」
ジジイは「どうじゃ!?」と闇ギルドに問うた。
連中は「あんなおっかねぇ目に遭うのはもう御免だ!」「すみません」「もう二度としません」と反省し、無事に事件?は解決した。
◆◆◆
それがさっきまでの出来事だ。
「化け物がやられたことで、魔法陣のスイッチが入り、全てを消去しようとした。でもマスターは・・・・・・」
崖から落ちた俺達を助け、闇ギルド達の【接収‐テイクオーバー‐】を解き、そして魔法陣そのものを消滅させた。
エルザが「そうですね?」と尋ねるが、ジジイは「さってのー?」と惚ける。
次にエルザがジジイから俺に視線を向けた。
「そういえば、祐一?」
「あ?」
「お前がその右手を使えば楽に解けたんじゃないか?」
「・・・・・・料理に右手でぶん殴る訳ねぇだろ」
写輪眼も使わなかったから、アイツ等が魔物じゃ無くて人間なんて気づくかっつーの。
「ま、何でも良いんじゃねぇの、それは?」
「ん?」
「そうじゃのう、祐一の言う通りじゃわい」
「【接収‐テイクオーバー‐】とか闇ギルドとかどうでもいいんだよ」
だって、現状は何も変わってない。
「「「「「「腹減ったぁぁぁぁあああああああああああああああ‼‼‼」」」」」」
この空腹問題は何も解決してねぇんだからな!
.
グルメ細胞会得前の話だからなぁ・・・・。