「・・・・・やっぱ、ロクな事書いてねぇな」
ギルドのカウンターでコーヒーを飲みながら、雑誌を読みふける、とある昼過ぎ。
その雑誌に目を通す度に、如何にも眉間に皺が寄ってしまう。
「祐一、何読んでんだ?」
ひょこひょことやって来た、赤い体毛の二足歩行猫・・・レッドが俺を見上げて言った。
レッドに視える様にページを広げて、俺はヒラヒラと雑誌を広げて見せる。
「この間の記事だよ」
「ああ! 週間ソーサラーか!」
数日前に、あのクソうるせー記者が書きやがったフェアリーテイル特集。
まぁ、良くも悪くも事実が書かれており、事実が書かれているという事はフェアリーテイルの普段の醜態が世間に出回ったという事だ。
・・・・・・いや、まぁ、物凄く今更かもしれんが。
「・・・・・・この記事、評議院に見られて俺の仕事が増えるなんて事は無ぇよな?」
「たぶん・・・・・いや、きっと・・・・・無いんじゃねぇかなぁ・・・・・・・・・・」
もはや願望か。
昨日も新人のジュビアの面倒を見つつ仕事を教えて、評議院の依頼を終えたばかりだ。
これ以上余計な仕事を増やすなよマジで・・・・・・・。
「キィーッ‼ くやし~~~~~‼‼」
何か阿保みたいな声が聴こえて目を向けると、ルーシィが去って行くガジルに対して地団駄を踏んでいた。
何やってんだアイツ?
あ、目が合った。
こっちにズンズンという効果音付きで大股で近づいて来た。
「ねぇねぇ祐一ってばぁ‼ アイツに何か言ってやって‼‼」
「待て、揺らすな、訳を言え」
ガクガクと肩を揺らしてくるルーシィに、説明を求める。
聞けば、リクエストボードに貼られてたある依頼書に目を付けたのだが、ガジルに持っていかれたのだとか。
その内容は『子供向け魔法教室の先生募集』らしい。
死ぬほど似合わねぇな・・・・・・・・。
「ね? アイツに出来る訳ないでしょ!?」
否定は出来んが、ヒデェ言い様だな。
「んー・・・でも、ルーシィが取った後で横取りされたってんならともかく、取ろうとして先に取られたってんなら仕方ねぇだろ。基本的に早いモン勝ちだからな」
「そうだけどぉっ‼」
「諦めて他の仕事探せよ。他にも色々あんだろ?」
「他に1人で出来そうな仕事が無かったの!」
「・・・・・・まぁ、うちに来る依頼の大半が討伐系だからなぁ・・・・・・・・・」
ギルドにある依頼は、大きく分けて2種類ある。
ギルド連盟や評議院から回って来る依頼と、ギルドに直接持ってくる依頼だ。
評議院等から回って来る依頼は、そのギルドに所属している魔導士の特色によって振り分けられる。
フェアリーテイルは、モンスターの討伐や盗賊退治などの討伐系が多い。
というのも、戦闘魔導士が多く、血の気が多い奴が多いせいだ。
まぁ、もちろん全員が戦闘に秀でた魔導士じゃないし、依頼も全部が討伐系という訳じゃ無い。
あくまで全体から見た比率の話だ。
戦闘依頼以外にも、古文書の解読や封印の解除、貴重な薬草の採取や、鉱物の発掘、中には製造系の依頼や、探索系の依頼だってある。
複数の星霊を操るルーシィなら、出来る事もあると思うんだがなぁ。
「てか、討伐系のクエなら場所次第で直ぐ終わるんじゃねぇか?」
「あたし一人で勝てる訳無いじゃん‼」
いや、そんな事ねぇと思うが?
よっぽどの危険生物でもない限り。
「ねぇ祐一手伝ってよぉ~、このままだと今月の家賃払えないのぉ~~‼」
「ああ?・・・・・・・ったく、しょうがねぇなぁ」
「ホント!?」
「ああ。ただし、依頼は俺が選ぶぞ?」
「やたっ‼」
小躍りでもしそうな勢いで、ルーシィのテンションが目に視えて上がった。
さっきまでの半泣きな様子とはえらい違い。
調子のいい奴だ・・・・・・・。
「んじゃ、適当に日帰りで高報酬な依頼選んどくから、先に準備して駅前に行っといてくれ」
「了解っ!」
ビシッとにこやかに敬礼し、ルーシィは行ってしまった。
「なぁ、祐一。俺も行っていいか?」
「お? いいぜ、久々に行くか?」
「おう!」
レッドも行くんなら、なおさら高報酬な依頼が良いよなぁ。
さて、どの依頼にするか・・・・・・・うむ、コレにしよう。
此処から馬車で移動時間2時間の距離にある町の近隣にある森、そこに巣くう凶悪モンスターの討伐と、そのモンスターからドロップする素材の納品。
報酬額600000J。
ま、往復の移動時間とか考えると、帰って来るのはギリギリ今日中の夜中かもしれんが、この依頼ひとつで3人で分けても20万J。
家賃は余裕で払えるだろう。
リクエストボードに貼られている依頼書を破り取り、俺はミラに報告してギルドを出た。
さて、仕事と行きますか。
◆◆◆
・・・・・とか、呑気な事を考えていた時期が俺にもありました。
ルーシィと合流しようと駅前へ向かっていると、強大な魔力が放たれているのを肌で感じ取る。
いや、感じ取るどころか、遠目でも目に視えていた。
ラクサスの魔法・・・雷が放たれているようだった。
この雷をぶつけているのは・・・・・・ガジルか?
あ、そういや何かラクサスとガジルが喧嘩・・・・つか、ラクサスが一方的にボコってるシーンが有ったような気が。
「・・・・・しゃあねぇな」
「どうした?」
「レッド、先にルーシィんとこ行っといてくれ」
「祐一は?」
「ちょっと野暮用。直ぐに終わる」
◆◆◆
「テメェのせいで俺達は舐められてんだァ‼ 死んで詫びろやオオ!? フェアリーテイルに逆らう奴ァ全員殺してやるァァァアアアアアアアアッ‼‼」
「止めろラクサス‼ もういい‼‼」
「うるせぇよ‼ 雑魚は黙ってろや‼‼」
「ッ‼ レビィッ!?」
「ひっ―――――」
舞空術と【翼‐エーラ‐】で超速で空を滑空し、レビィに迫る雷の前に降り立ち、
「――――おいおい、加減してるとはいえ仲間に向けるような攻撃じゃねぇだろ」
その雷を右手で払い除けた。
「祐一か・・・・・」
俺の姿を視た途端、ラクサスは大きく舌打ちする。
・・・・・昔はもうちょっと可愛げがあったんだがなぁ。
「ラクサスよぉ・・・お前もうちょい落ち着きを身に付けたらどうだ? お前もう23だろ?」
「ああ? 偉そうに説教かよ、相変わらずムカつく奴だぜ。つか、お前が俺の事言えた義理かよ」
「あぁん? 何処が? どの辺が? 落ち着きまくり全開だろーがコノヤロー」
「「何処がだよ」」
横にいるジェットとドロイに同時にツッコまれ、ラクサスには「阿保だろ」と侮蔑の視線を向けられた。
失敬な。
「もうその辺にしとけよ。戦う気の無い奴痛めつけて楽しいか?」
「その屑鉄のせいで、フェアリーテイルが舐められてんだろーが! ケジメ付けんのなんざ当然だろッ‼」
「ギルド間同士のケジメは、ジジイがジョゼをぶっ倒したことで付けた。ギルドホームに関しても、ファントムのホームを潰したんだ。ケジメなんざとっくに付けてんだよ。ま、ガジルに直接ボコられた奴もいるが、それはそいつらが個人で付けるケジメだ。外野がどうこう言う事じゃねぇ」
ナツは直接ぶっ倒したことで一応ケジメは付けたと思ってるし、後痛めつけられたのはルーシィとシャドウ・ギアだけだろう。
あ、後リーダスもか?
コイツ等とガジルのケジメはこいつ等が納得いく形で付けさすべきだし、俺や・・・ましてや抗争に参加してもいないラクサスがケジメどうこう言うのはお門違いだろう。
既にギルド同士のケジメは、私的にも公的にも付けられているんだから。
だが、ラクサスは俺の言葉なんぞに耳を貸す気は無い様で。
「そんなんだから舐められんだよクソがッ‼」
「別にどうでもいいだろーが、んなこと」
「どうでもいいだぁっ!?」
「どうでもいいよ、他人からどう思われてようが、毛ほども興味がねぇ」
まぁ、馬鹿にされた記事とか見ると多少イラッとくるが、そこまで気にする程でもねぇだろ。
「理解してくれる奴がいないでもねぇんだ。それで充分だと思うが?」
「・・・・・・くだらねぇ」
闘気を剥き出しにしながらラクサスは背を向け、そう言葉を吐き捨てながらこの場から去って行った。
ったくアイツはよぉ・・・・23歳にもなってまだ劣等感から抜け出せねぇのか。
俺には優秀な親とかいなかったから、その辺の悩みはよう分からんが、そんなに悩むもんなんだろうか?
今度分かる人にでも聞いてみよう。
「で、レビィは大丈夫なのか?」
「あ・・・うん、ありがと」
怪我はしてないようだが、緊張感が切れたのかその場にへたり込んだ。
「けど、マジで助かったぜ祐一」
「ああ、お前が来なかったらどうなってたか・・・・・・・」
その言葉に、俺は「いや・・・・」と首を振る。
「俺がシャシャリ出なくても、ガジルが割って入っただろうよ」
そのガジルはヨロヨロと立ち上がった。
見るからにボロボロで、瀕死の状態だ。
「手当てはいるか?」
「・・・・・・放っておいてくれ」
その傷だらけの身体のまま、荷物を抱えて仕事へと向かって行った。
「「「・・・・・・・・・・」」」
その姿を視て、シャドウ・ギアは何を思うか?
まぁ、そう悪い印象は抱かなかっただろう。
コイツ等自身のケジメは、コイツ等で付けないとな。
◆◆◆
シャドウ・ギアと別れて、俺は当初の目的である仕事へ向かうため、ルーシィとレッドと待ち合わせている駅前へとやって来たのだが。
「まさかジュビアもいるとは・・・・・・・」
「何かいつの間にか一緒にいたぞ」
ペロペロキャンディーをしゃぶりながら、レッドが説明してくれるが、全く説明になっていなかった。
「酷いです祐一様、ジュビアを置いて行くなんて・・・・・・」
「置いてくっつーか、昨日仕事に行ったばっかだから、別に仕事行かなくてもいいんじゃねぇか?」
ジュビアはフェアリーヒルズに住んでいるが、ここ数日の仕事で家賃や食費などは充分に稼いだと思う。
無理に働くことは無い。
まぁ、だからといって別に仕事しちゃいけないなんて事は無いが。
「祐一様が仕事に行くのなら、ジュビアも一緒に行きます。祐一様が行かないのなら、ジュビアも行きません」
「無茶苦茶言うわねアンタ・・・・・・」
「恋敵」
「違うっての」
「・・・・・まぁ、ここまで来たんなら一緒に行くか?」
「はい♡」
ルーシィが「報酬が減る~~‼」と嘆いているが、4人で分けても15万Jだ。
充分だろ。
俺達は賑やかに(煩くとも言う)馬車に乗り、目的地へと向かい仕事を熟した。
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