俺の右拳が篤の左頬に当たり、篤の左拳が俺の右頬にぶち当たった。
瞬間、轟ッ‼と、鮫島篤の身体が吹っ飛ぶ。
床を抉り、壁にぶち当たり、突き破って、外へと飛んでいった。
俺は、吹っ飛んでない。
殴られた右頬に手をやる。
頬肉がゴッソリと消失していた。
鮫島篤の、グルメ細胞の悪魔と化した手が、俺に触れた右頬を喰らったのだ。
肉には触れたが、骨までは捉えていない。
紙一重で、俺の拳の方が刺さったようだ。
祐一「て、死んでねぇよな、アイツ・・・・」
これで死んだりしたら俺の後味が悪いぞ。
鮫島篤が吹っ飛んだ方へ駆け寄り、もはや壊れまくって原形を留めていない部屋の壁の外を見る。
壁の外、その下へと視線を移す。
如何やら鮫島篤は、下にある砲台に倒れていた。
跳び下りて、下へ移動する。
鮫島篤が倒れている、大きな大砲の砲身に着地した。
祐一「よぉ、生きてるか?」
篤「ハッ・・・勝手に、殺して・・んじゃ、ねぇ・・よ・・・・・」
掠れた声で返答する鮫島篤。
グルメ細胞の悪魔はもう完全に成りを潜めており、その姿は元の状態だ。
身体の至る所が傷だらけ。
流石にもう戦えんだろ。
祐一「まさか、まだ戦るってんじゃねーだろーなぁ?」
篤「当然・・・・って言いてぇ、とこだがよ、流石に・・・動けねえぜ・・・・」
だよな。
そんな状態でも戦えるとかほざかれたら、もうどうしようと思ったぜ。
篤「つーか、それ以前の・・・問題、だしな・・・・」
祐一「あん?」
どういう意味だ?と聞くよりも先に、変化が起きた。
ビシッと、何かがひび割れる音が聴こえて来た。
その音の発信源は、鮫島篤の身体だった。
顔部分にヒビが出来、同じように腕などにも出来ている。
祐一「何が起きてやがる?」
篤「ハハ・・副作用、ってやつ・・だ・・・・」
祐一「・・・・グルメ細胞の悪魔か」
篤「そう、だ・・・」
そういや、リスクがあるとか言ってやがったな。
篤「『自食作用‐オートファジー‐』って、知ってるか・・・?」
祐一「ああ」
『自食作用‐オートファジー‐』
栄養飢餓状態に陥った生物が、自らの細胞内のたんぱく質をアミノ酸に分解し、一時的にエネルギーを得る仕組みである。
旨いモノを食えば食うほどパワーが増すグルメ細胞が、自らを食す。
自らを食らう事で、エネルギーを急激にフル回復するのだ。
だが、それは一時的なモノ。
その状態を長く続けば、自分で自分の細胞を食らい尽し、死に至る。
篤「俺のグルメ細胞の悪魔・・・アレの全身化はな、それと同じなんだよ・・・・」
祐一「何?」
篤「全てを食らい尽す、俺のグルメ細胞の悪魔・・・アレの全身化は、俺自身をも食らう。使ったら最後、喰い殺されるだけだ・・・」
祐一「・・・・・そうか」
篤「なんだ、結構アッサリだな・・・・」
祐一「お前を殺したみてぇで後味悪ぃが、自分の能力で自分が死ぬんなら、お前の自業自得だ。俺の知ったこっちゃねーよ」
篤「ハッ、違ぇねぇ・・・・」
死に掛けのクセに、気持ちよく笑う鮫島篤。
ヒビが音を発てながら広がっていき、身体の所々が欠けてきている。
祐一「助けて欲しいんなら助けてやろうか・・・?」
篤「ハッ。余計な事、してくれんなよ・・・・」
祐一「いいのか?」
篤「ああ・・・満足だぜ・・・・・」
祐一「死ぬのにか?」
篤「ああ・・・・つか、分からねぇなぁ・・・・」
祐一「?」
篤「テメェのやりたい事やって死ねるんだぜ? 本望だろーが・・・・」
やりたい事やって、死ぬか・・・・。
篤「お前だって、そうだろ・・・・」
祐一「俺が?」
篤「そうじゃなきゃ、神様転生なんてもん・・・やろうなんざ、思わねぇだろ・・・・大人しく自分の死を、受け入れてりゃ良かったんだ・・・・お前がどんな理由で死んだのかは、知らねぇけどな・・・・」
祐一「・・・・・・・お前は」
篤「・・あ・・・?」
祐一「お前は、何かやりたい事があったから、転生したのか?」
篤「当然だろ・・・まぁ、んな大した理由なんざ、ねぇけどな・・・・」
祐一「そうかい」
まるで身体が灰になっていくように、サラサラと鮫島篤が朽ちていく。
もう死が間近だ。
篤「・・・じゃあな、上田祐一・・・・最後は、楽しめたぜ・・・・・・」
祐一「俺はもう二度と御免だがな」
篤「言いやがる、な・・・・・」
力が入らないボロボロの朽ちかけた腕をゆっくりと上げて、鮫島篤は崩れかけた手で拳を握る。
篤「我が生涯に、一片の悔い無し・・・・ってな・・・――――――――」
バキィッと、腕が捥げる。
捥げた腕が落ちて、音を発てて崩れ散った。
その肉体も風に吹かれて灰になり、飛んでいく。
鮫島篤という男の肉体は、完全にこの場から消滅した。
祐一「・・・・・・・・あ?」
鮫島篤が消えたのを見届け終えたその時、灰になった鮫島篤の肉体から、何かが出て来た。
それを手に取ってみる。
祐一「宝石・・・じゃねぇよな・・・・」
よく分からないが、ビー玉程度の大きさの宝石のようなモノが、鮫島篤の肉体だったモノから出て来たのだ。
何だコレ・・・・?
祐一「うおっ!?」
疑問が頭を過るが、思考を中断する。
突然の爆音と共に、足を震わせる程の振動が起きた。
この建物が揺れて・・・いや、轟音と共に、約半分が崩れていく。
こっちとは反対側だ。
良かった、崩れたのがこっちだったら面倒だったぞ。
この魔力は、ナツか・・・どうやらガジルを倒したようだ。
祐一「後はジョゼだけか・・・・」
エルザが戦っているようだが、まぁ、大丈夫だろ。
ジジイの気配が、もう直ぐそこまで来ている。
祐一「あー・・・流石に疲れたな」
どっかりと、突っ立ている砲身に腰かける。
俺のノルマ(転生者)は倒したんだ。
後は、仲間・・・家族に任せるかね。
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