その男は戦うのが好きだった。
暴れるのが、でも間違いではないのかもしれない。
得物を使ったって良い。
ただお互いが全力でぶつかって、殴って殴られて暴れるのが好きだった。
その結果、たとえ命を落とす事になろうとしても、そんなものは些細なモノだった。
◆◆◆
祐一「・・・・・・・・・」
吹きすさぶ風が、部屋に充満する粉塵を振り払っていく。
壁も幾つも崩れてしまい、外の景色が良く見える。
だが、呑気に外の景色を視ている場合じゃない。
崩れた壁の瓦礫に埋もれている鮫島篤からは、視線を外さない。
やったか?という言葉を思わず言いそうになるが、何とか堪える。
言ったら復活しそうだからな。
だが、俺のそんな努力は無駄に終わる。
篤「いや・・・マジでヤバかったぜ・・・・」
ガラッと、自分の身体に乗っかっている瓦礫をどかし、ゆらりと立ち上がる鮫島篤。
効いてないのかと目を見張ったが、流石に無傷ではないようだ。
いや、既にボロボロで瀕死だろう。
何で立てるんだよ。
祐一「今ので倒れねぇとか、化けモンかお前・・・」
篤「あんなチート攻撃を浴びせまくった奴に言われたくねーよ」
結構全力だったんだがな。
まぁ、いい。
だったら攻撃を続けるまでだ。
残機85体の分身が左右に散る。
そして分身体の40人が、一斉に攻撃を仕掛けにいった。
「「「「「火竜の鉄拳‼」」」」」
「「「「「鉄竜剣‼」」」」」
「「「「「100連ネイルガン‼」」」」」
「「「「「ビートパンチ‼」」」」」
「「「「「ポイズンソード‼」」」」」
「「「「「髪パンチ‼」」」」」
40人の分身体による40モノ近接攻撃。
それらが鮫島篤に直撃し、
篤「うらぁぁぁぁああああああああああああああああっ‼‼」
薙ぎ払った。
攻撃した40人の分身体が吹っ飛ばされる。
分身体はボンッと音を発てて、煙となって消えていく。
祐一「おいおい、冗談だろ・・・・」
分身が吹っ飛ばされた、だけならそこまで驚かない。
俺が驚いたのは、奴の・・・鮫島篤のその身体だ。
奴の全身が、真っ黒に染まっていた。
祐一「お前のそれ、グルメ細胞の悪魔か・・・?」
篤「おうよ。グルメ細胞の悪魔を全身に取り込んだのさ」
祐一「んなことまで出来んのかよ・・・」
確か、原作だとアカシアのフルコースを食べないと無理なんじゃねぇのかよ。
いや、違うな。
祐一「何かしらのリスクがあんのか?」
篤「おお、さすがに分かるか」
祐一「簡単にそれが出来るんなら、ハナっからやりゃあいいだけだからな」
それをやらなかったって事は、何かしらの理由があるのだろう。
篤「まぁ、理由なんてどうでもいいじゃねぇか!」
パンッ‼と、右拳を左手の掌に打ち付け、ゴォッ‼と篤の闘気が膨れ上がる。
その獰猛な笑みを視る限り、やはりまだ戦いを続けるらしい。
祐一「やるしかねぇか!」
まだ分身体も45体残ってるし、まずこいつ等を前面に出して様子見だな。
今のアイツの身体は、あの黒いグルメ細胞の悪魔そのものだ。
つまり、俺は『幻想殺し‐イマジンブレイカー‐』でしか奴に触れられない。
攻撃手段も、右手による物理攻撃のみ。
奴の身体には、触れたらアウト。
グルメ細胞の悪魔は、食欲の塊。
特に鮫島篤の悪魔は、物質非物質問わずに、触れたモノ全てを喰らう性質を持つ。
異能の力を無効化する『幻想殺し‐イマジンブレイカー‐』でしか、触れられない。
それ以外の攻撃手段も無いしな。
何でも喰らわれて、吸収されてしまう。
だが、ただ突っ込ませても、先程の分身体のように消されてしまうだろう。
消えた分身体が得た体験は、オリジナルの俺の元に還元される。
その情報を考えて、俺は自分の状態と、分身体の状態を変える。
金剛の鎧と、威装・須佐能乎を解除した。
鮫島篤の悪魔の攻撃を、こっちは右手以外に防ぐ手段が無い。
だったら、こんな鎧はもう無意味だ。
だったら、避ける事に意識を向けた方が良い。
使うは3種類の魔眼。
右目を白眼、左目を万華鏡写輪眼、そして額に第3の眼で輪廻写輪眼を開く。
白眼で篤の状態を常に看破し、万華鏡写輪眼で動きを見切り、輪廻写輪眼で全ての分身体の視覚を共有する。
次は、六道仙人モード。
六道の力で、感知力を上げる。
その上に、飛翔の鎧を装備してスピードを底上げする。
準備完了。
これで奴の攻撃を全て避けて―――バンッ‼―――やる、ぜ?
祐一「何だ?」
何か今、妙な音が・・・・?
思わず、なんとなく、俺は視線を下に向けた。
何か違和感があったからだ。
視線を向けるその先、俺の身体。
俺の身体の腹部が、いや、胴体がゴッソリと何かに食い千切られて――――
祐一「ッ!?」
咄嗟に右に跳ぶ。
瞬間、先程まで俺が立っていた地点。
そのまま立っていたら、俺の胴体に直撃したであろう、鮫島篤の右拳が放たれていた。
何だ今のは、幻覚か?
視線を下に向ける。
俺の身体に異常は無い。
今俺の身体が、奴の悪魔に喰われた光景が見えたが・・・・・
祐一「まさか、アルティメットルーティーンか?」
篤「正解だ‼」
拳が飛んで来る。
その拳が俺の頭を食い千切る光景が頭に浮かぶが、そのイメージに囚われまいと、回避し切る。
アルティメットルーティーン。
それは究極のルーティンだ。
ルーティンというのは、決まりきった動作を意味するが、それは技が成功するイメージを固める為の動作。
動きの中で、その他の雑念をろ過し、成功するイメージのみを搾り取る。
技の成功率を上げるのがルーティン。
アルティメットルーティーンとは、その技が成功するという思い込みだ。
言霊というものがある。
常日頃口に出して、言っていることがいつか本当に起きるという、言葉の力だ。
ルーティンの持つイメージも、これと同じだ。
そう強く思い込むことで、それが現実となる。
俺が観たイメージは、鮫島篤の俺を喰らうイメージが、俺に伝染し、共有してしまったモノ。
そして、俺が攻撃を避けなければ、あのイメージが現実のものとなっただろう。
コイツ、まだこんな手を残してたのか。
祐一「これも神様特典で得たモノか?」
篤「いいや、コイツは自力で会得したのさ!」
祐一「無茶苦茶やりやがる‼」
分身体が攻撃に出て、鮫島篤の動きを制限する。
右手で攻撃し、鮫島篤の攻撃を避け、右手で防ぐ。
全身が真っ黒なせいで、どのくらいのダメージが奴に効いているのか、見た目じゃ判断出来ない。
これだけの人数で殴っているのだ、効いてないなんて事は無いと思うが・・・。
祐一「・・・・・・やっぱ無理か」
俺もアルティメットルーティーンを使おうと試みるが、発動出来る気がしない。
いや、『完成‐ジ・エンド‐』で覚えられないという訳じゃ無い。
習得はしたが、使えないのだ。
そもそもの問題として、俺には自分の技の成功率を上げるルーティン・・・一定の所作というモノを持っていない。
こればっかりは個人差があるし、鮫島篤のルーティンを真似ても、俺の技の成功率が上がる事は無い。
ルーティンが無くても使えるのだろうが、覚えたての俺に使えるか?
俺のイメージが元だから、覚えた能力を使えるかどうかは別の問題だしな。
祐一「四の五の言ってもいられんか‼」
俺も攻撃に参加する。
篤「レッグナイフ‼ レッグフォーク‼」
篤の攻撃が、分身体を次々と蹴散らしていく。
やはり奴のグルメ細胞の悪魔が厄介で、魔眼3種に六道仙人モードの状態でも、容易に攻撃を捌く事が出来ない。
分身体、残機37体。
「「「「「50連釘パンチ‼」」」」」
篤「ぐぅお・・・・!?」
分身体達の右拳での釘パンチで、篤の身体が押される。
篤「まだまだぁ‼ 100連ツイン釘パンチ‼‼」
篤の両手での釘パンチが、眼前の分身体を殴り飛ばす。
分身体、残機21体。
「「「「「50連ネイルガン‼」」」」」
篤「アアアアアアアアアアッ‼ レッグブーメラン‼‼ キャノンフォーク‼‼」
分身体の攻撃を受けて、鮫島篤の身体が揺らぐ。
だが、それに構わず、雄叫びと共に放った攻撃で分身体を消し飛ばす。
分身体、残機14体。
「「「「「100連フォーク釘パンチ‼‼」」」」」
篤「キャノンナイフ‼‼」
「「「「「50連ナイフネイルガン‼」」」」」
篤「ツインネイルガン‼‼」
鮫島篤の身体から血が噴き出す。
ようやく目に視えて、ダメージがハッキリと分かる。
もう相当重症のはずだ。
全身を悪魔化する直前でも、既に瀕死だったはずなのだから。
それでも鮫島篤は、まるでお構いなしに攻撃を受けながらも反撃し、確実に分身体を消していく。
分身体、残機5体。
篤「祐一ぃぃぃぃぃぃいいいいいっ‼‼」
祐一「しつこい奴‼‼」
もうどれが本体なのか、直感で容易に判別がつくのだろう。
他の分身体には目もくれず、真っ直ぐ俺の方へ向かってくる。
だが、分身体はまだ全滅した訳じゃねぇ。
残りの分身体が、鮫島篤を倒さんと特攻を仕掛けにいく。
「50連ネイルガン‼」
篤「レッグ釘キック‼」
分身体、残機4体。
「100連ナイフ釘パンチ‼」
篤「レッグ50連ナイフ‼」
分身体、残機3体。
「80連ナイフネイルガン‼」
「90連フォークネイルガン‼」
篤「ツインネイルガン‼」
分身体、残機1体。
「100連ネイルガン‼」
篤「キャノンナイフネイルガン‼」
分身体、残機0体。
これで分身体はもういない。
もう直ぐ目の前まで鮫島篤が迫る。
自分の手で沈めるしかない。
この一撃で決める。
篤「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ‼‼」
祐一「終わりだ! 鮫島篤ッ‼」
鮫島篤の左拳が眼前に迫る。
篤「100‼」
祐一「連‼」
祐一&篤「「ネイルガン‼‼‼」」
篤の左拳が俺の頬に、俺の右拳が篤の頬に直撃する。
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