随分懐かしい夢を見た
俺がまだ、この世界に転生する前の記憶
俺がまだ、ただの学生だった頃の記憶
俺がまだ、日常を謳歌していた頃の記憶
俺がまだ・・・・死ぬ前だった頃の記憶
だが俺は死んでしまい、今はこのフェアリーテイルの世界で生きている
「いやいや、まぁ確かにその通りなんだけどね? 生きてるってのは少し語弊があるかもよ?」
・・・・・誰だ、この声は?
「おいおい随分薄情だなぁ、死んだ君を転生させてやったのはいったい誰だと思ってるんだい?」
祐一「・・・・・アンタか」
気が付くと、俺は今何もない真っ白な空間に立っていた。
此処は・・・そうだ、俺が死んで初めてコイツに会った場所だ。
俺とこの女神以外に、存在するモノは何もない。
祐一「つか、何で俺此処にいるんだ・・・・?」
俺ってさっきまで何してたっけ?
確かレビィ達がファントムに襲撃されて、その御礼参りに奴らのギルドに乗り込んで・・・
祐一「そうだ、ファントム所属の転生者にやられたんだっけか・・・・」
腹貫かれて血が飛び出て痛みが酷くて・・・あー、思い出すのも嫌だね。
・・・・で、その後どうなったんだ?
祐一「もしかして俺・・・・死んだ?」
「いやいや、死んじゃあいないよ。まぁ、生きてもいないけどね」
俺の呟きに、女神は答えてくれる。
祐一「どういう意味だ?」
「君の心臓は止まってる・・・てかまぁ、私が止めたんだがね」
祐一「あ?」
「他の転生者・・・エリザベス・マスタングと、鮫島篤。彼らの特典『賢者の石』と『グルメ細胞』を『完成‐ジ・エンド‐』させた君の回復再生能力で肉体の損傷はもう修復出来てるし、その二つの再生能力を持つ君が死ぬほどのダメージを受けるのは結構難しいから、君はもう早々死ぬことはないんだよ。ただまぁ、傷はともかく全身を襲う激痛まではどうしようもないから、危うく君はショック死しかけてたからね。だから私が君の意識を切り取って此処に連れて来てやったのさ」
祐一「・・・・・マジで?」
「ああ。本気と書いてマジ、真剣と書いてマジだぜ」
マジかよ俺、二度目の死を経験しちゃうところだったのかよ。
祐一「・・・つまりは俺はまたアンタに助けられたって事か?」
「そういう事になるね。転生させた事を助けたっていうんならだけど」
祐一「・・・・・ま、礼は言っとくぜ」
「いやいや、お安い御用だぜ。けど、もしかしたら礼を言うのは早かったかもしれないな」
祐一「あん?」
「君は、私がただ君がピンチだったから助けてやったと本気で思ってるのかい?」
・・・・・・ないな。
そんなお人よしな神様なら、住処やら金やら容姿やらを転生特典で選べなんて言わず、デフォルトで設定してくれるだろう。
祐一「つまり、何かあると?」
「そういう事だ。タダより高いモノは無いんだぜ」
祐一「・・・・・それで? 何が望みだ?」
「なに、そう身構える事は無いよ。タダの頼み事さ」
ロクでもなさそうなアンタにんな事言われてもな。
どうしたって警戒するっての。
「まぁ、別に詳しく説明する必要は無いかな。君がこれから出会う奴で、殺さなきゃヤバいって感じた奴を、殺してくれればいい」
祐一「・・・・・・・・・はぁ?」
意味が分からん。
いや、つか、殺人の依頼かよ!
「いやいやいや、殺人じゃないぜ。だって人じゃないから」
祐一「だからどういうことだっつー・・・」
「どういう事も何も言葉通りの意味さ。君ら転生者は、自分と同じ転生者を感知することが出来るだろう? それと同じように感知できる存在がいるのさ。尤も、ただの転生者じゃないからこんな頼みごとをしているんだけどね」
・・・・えーと、要するに殺さなきゃヤバいと感じた転生者を殺せってことでいいのか?
「ああ、その認識で構わないよ」
祐一「一応聞いとくが、俺が今まで出会った転生者の中でそういう奴は・・・?」
「いないよ。てか、強そうと感じても、殺さなきゃヤバいなんて感じたことはないだろう?」
祐一「まぁな・・・」
殺さなきゃヤバい奴って、どんな奴だ?
普通の転生者じゃなさそうだが・・・・・。
もしかして、俺達転生者が存在していることに意味があるモノなのか?
何で転生なんてモノを、この神様とやらはしてくれる?
何故、その転生に俺達を選んだ?
そういった疑問に、神様とやらが気づかない訳も無いだろう。
「・・・・・・・・・」
俺のモノローグを読むことだってやってるにも拘らず、この女神は俺のその疑問に答えようとはしない。
答える気はないのか・・・いや、知られたらマズい事なのか?
「さて、そろそろ時間だね。ああ、モノのついでに君の痛覚は遮断しといてやったから、君はもう痛みを感じる事は無いよ」
祐一「あ? おい!?」
何を勝手な!
いや、痛いのは確かに御免だけど痛覚が無かったら無かったで問題だろ‼
「仕方がないだろ、君がショック死しそうになる度こっちに連れてくるわけにもいかないんだから」
――――――――俺の意識はそこで途切れた。
◆◆◆
「・・・・・やれやれ」
自身が転生させた転生者・・・上田祐一をフェアリーテイルの世界へ送り返して、女神は一息ついた。
そして・・・・
「やっと気楽でいられるな」
バサッっと、身に纏っている衣服・・・純白のローブを脱ぎ捨てた。
つまりはまぁ、アレだ・・・・全裸になった。
「相変わらずに裸族かよ、お前ホント変態だな」
そんな女神の後ろから、何処からともなく小さな少女が現れる。
何ら飾り気のない白いワンピース位しか特徴のない、見た目10歳前後の少女。
この少女も神様だ。
当然、見た目通りの年齢じゃない。
そんな見た目幼女の神様に、全裸になってその肢体を惜しげも無く晒している女神様は若干心外そうに言った。
「おいおいそりゃないぜ、テリオ。元々あらゆる生き物は衣服なんてモノは着ていないんだ。こんなものは人間が生み出した産物に過ぎないんだぜ?」
テリオ「だからって見せつけてんじゃねーよ、ロリ体型のアタシへの当てつけかよ、アモル」
幼女神の名が、テリオ。
女神の名が、アモル。
その自分には持ちえない豊満な美乳と、作り物としか思えない程に整った曲線美のその身体を舌打ちしつつ、テリオはこの場から消滅した上田祐一が先程まで突っ立っていた場所を何となく凝視した。
テリオ「いいのかよ、言わなくて?」
アモル「いいんだよ、説明したって何かがどうにかなるわけでもないし」
パチンッとアモルは指を鳴らす。
すると突然この場にテーブルと椅子、そして熱いお茶が入ったティーカップが出現する。
椅子に足を組んで座り、ティーカップを傾けてお茶を啜った。
アモル「彼で・・・上田祐一で28人目。正直チート能力ばかりで一見強そうだが、その実ラスボスみたいに能力を使い切れずに自滅して自爆する結末しか見えないからねぇ・・・彼も失敗だったかな」
テリオ「あのさぁ・・・確かに特典の選択は転生者に任せてるけど、あんまゆっくりはしてられないって分かってる? まぁ、かくいう私も今回ので19人目だから人の事は言えないんだろうけど・・・・・」
アモルと同じく指を鳴らして、この場にココアが入ったティーカップとクッキーを出現させたテリオも椅子に座り、一緒にティータイムを堪能し始めた。
テリオが出したクッキーを摘まみながら、アモルは微笑を浮かべる。
アモル「まぁ、彼らは一度死んじゃってるんだし、今更もう一度死んじゃっても問題無いだろ。二度目の生を謳歌するチャンスをくれてやっただけでも感謝して欲しいぜ」
テリオ「ヒデェ・・・けど同感? その点に関してはだけど」
アモルが転生させた転生者・・・上田祐一に少しばかり同情しないことも無いが、それでも彼女らの目的の前に、その程度の事は取るに足らない。
アモル「まぁ、時間がないのは承知してるさ。ヴァイスが全てを終わらせるのも・・・そう遠くは無いだろうからね」
テリオ「分かってんならいいけどさ・・・グレイス達の方にもヴァイスの手先が現れたみたいだよ。アイツ等は無事だったみたいだけど、この前ライとグドが殺されちゃったんだってさ」
アモル「・・・・・そうか」
殆ど無限の時を生きる神だ。
今更生への執着や、他者の死に感じるモノは余り無い。
だが、それでも今までそれなりに付き合いがあった奴等だ。
黙祷を捧げる位の事はしてやった。
アモル「上田祐一・・・・はたして、彼にやれるかな?」
彼が転生する時、特典を与えてやると気に使ったサイコロ。
それを手に弄び、アモルはテーブルの上に放った。
―――――さぁ、君はどの数字を叩き出せるかな?
◆◆◆
祐一「・・・・・・知らない天井だ」
ったくあの女神は、説明くらいはしてほしいもんだがな。
ま、説明しないってことは言えないのか、言いたくないのか。
どっちにしろ、何かしら俺ら転生者に不都合のある話なんだと思うが・・・。
レビィ「あ。目、覚めた?」
祐一「あん?」
視線を横に向けると、レビィがいた。
本を開いて椅子に座っている。
・・・・・ここ病院か?
祐一「・・・・何で俺此処で寝てんだ?」
レビィ「覚えてないの?」
祐一「・・・・・・・いや、思い出したわ」
さっきも神が言ってたな。
ショック死しそうだったとか。
レビィ「でもホントに目が覚めて良かったよ・・・ここに運ばれるまでに一度心臓が止まったって聞いたから」
マジで心臓止まってたのか俺!
良く生きてたなぁ・・・意識だけ向こうに行ってたみたいだが、肉体が死んでても元の身体に戻れたのか?
祐一「つーかレビィ、起きてていいのか?」
レビィ「うん。私はそこまで酷い怪我じゃないから」
隣を見ると、そこに並んでいるベットでジェットとドロイが寝ていた。
どうやら同じ病室のようだ。
レビィ「さっき、一度目を覚ましたの。お医者さんが言うには、治療が速かったから見た目ほど酷い怪我じゃないんだって。今日か明日には退院出来るよ」
祐一「そうか」
ま、俺が乱入したから磔はされてないからな。
傷が浅いのはその為か・・・。
祐一「さて、と」
俺はベットから起き上がる。
レビィ「あ、まだ寝てた方が・・・!」
祐一「大丈夫だ、傷はもう完治してる」
降りたベットの脇で軽く屈伸して、手を開いては閉じてみる。
・・・うん、問題ないな。
レビィ「凄い回復力だね・・・・心臓が止まったとは思えないくらい」
祐一「ま、『完成‐ジ・エンド‐』で学習した能力の御かげだな」
転生者の能力を修得してなかったら、未だにベッドの上で寝ていたか、もしくは死んでいただろうな。
ギルドの皆に俺の能力――便宜上魔法ということにしている――を説明した時も、反則だのなんだのと騒がれたっけか?
ナツに至っては自分の攻撃が一切効かないのに、構わず喧嘩売ってくるが・・・。
――――――――ズウゥゥゥゥンッ‼
祐一「あ?」
レビィ「な、何っ?」
建物が突然大きく揺れた。
いや、建物だけじゃない。
地面が揺れている。
不自然な様子で、今もまだこの建物を揺らしている。
レビィ「地震? でもこんな不規則に・・・?」
祐一「いや、違う。アレを見ろ」
窓の外に視線を向ける俺の声に、レビィも窓から外を見た。
レビィ「な・・・・・」
絶句した。
何故ならば、その視線が向かう先・・・海の向こうから、大きな建物がやって来たのだ。
それも海を歩いて。
建物の側面部分から6本の機械の足が生えており、それらが動いて真っ直ぐに歩いている。
俺達が所属している、ギルドの方へ。
その建物の屋根には、一本の旗が掲げられていた。
レビィ「あれって、ファントムのギルドなの!?」
そうそう、確かアビスブレイクとかぶっ放そうとするんだよなぁ・・・。
あんなモン人に向けるようなモンじゃねぇぜ。
祐一「行くか」
俺は窓の淵に足を掛ける。
確かジュピターとかいう魔導砲を撃ってくるはず。
まずはそれを阻止しないとな。
レビィ「祐一!」
背中から『翼‐エーラ‐』を出して飛ぼうとする俺の背に、レビィの声が掛けられた。
振り返らず背中越しに、「何だ?」と返事する。
レビィ「・・・・気を付けてね」
祐一「おう!」
心配ご無用と、振り返らず軽く手を上げて、俺は窓の外へと飛び出す。
ファントムのギルドから砲台が見える。
その発射口に光が灯される。
ジュピターが発射されそうになる。
俺は全速力でフェアリーテイルに向かった。
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