続けて、ゼレフは振り下ろした大剣を横薙ぎにする。
「マジか!?」
大抵の攻撃は筋肉や皮膚だけでも防げるというのに、アレだけ防御能力を重ね掛けしたにも関わらず、コイツは問答無用でぶった切って来やがった。
あの剣の力か?
防御スキルを貫通する能力でも備わってんのか?
てか、そもそもゼレフってあんな剣使ってたっけ?
いや、そもそもあの剣、何か何処かで観たことあるような気が・・・・・・。
「考え事かい?」
ゼレフはその細い腕からは考えられない程、身の丈もある大剣を左手一本で軽々と振るう。
どんな力を持っているのか分からないが、触れるのはマズい。
【解析‐アナリシス‐】で情報を得るまで、回避に徹した方がいいかもしれない。
ま、隙を突いて攻撃はするが。
「フライングフォーク‼」
後ろに跳躍して距離を取り、オーラで出来たフォークを飛ばす。
だが、ゼレフは容易く大剣で斬り落とした。
効かないのは分かってる。
距離を取って戦う牽制に使えれば充分だ。
隙の大きい威力のある攻撃は、使えば接近される。
このまま攻撃を見切り、遠距離でチマチマ攻撃し、情報を集める。
まずは絶対に避けれるように、目を使う。
【写輪眼】+【白眼】+【憤怒の最強の眼】+【天帝の――――――
「無駄だよ」
ゼレフの眼が紅く輝くのを視認する。
瞬間――――――
「・・・・・・――――――――――――」
視界が真っ暗になった。
何だ、幻術か?
写輪眼相手に幻術を掛けるとか、どんな能力だ。
俺は幻術を解こうとする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・解けなかった。
いや、そもそも、瞳術が、使えない?
「ッ!?」
直感任せに身を捻る。
何かが身体を掠めた感じがした。
ゼレフの剣だ。
いったい何をやったのか分からないが、視界と魔眼が封じられた。
幸い視覚以外の五感は問題なく、音と匂いと気配を頼りに攻撃を回避する。
「テメェ、何しやがった!?」
「答える気は無い」
ゼレフの猛攻は続く。
如何にか攻撃を凌ぐが、このままではいずれやられてしまうだろう。
左腕だって治ってねぇってのに―――――――
「――――――治ってない?」
思わず口にして、異変に気付く。
俺には数々の再生能力や無効化能力がある。
にも拘らず、腕が再生する気配は無い。
眼も戻らないままだ。
この野郎、マジで俺に何しやがった?
「追いかけるのにも飽きて来たな」
そうゼレフが呟いた瞬間、俺はグッ‼と身体が引き寄せられるのを感じた。
まるで重力に吸い寄せられるように、抵抗出来ない程の強い力で引き寄せられる。
「チィッ‼」
宙で身体を捻り、この勢いを利用して、
「【アルティメット化】+【スーパーサイヤ人3化】+【虚化】+【瞬閧】+【モード雷炎竜】+【武装色の覇気】+【猿武】+【食義】+キャノンナイフ‼‼‼‼」
強化をふんだんに使っての右足のナイフ蹴り。
それが凄まじい爆音を轟かせ、ゼレフの首に突き刺さった手応えを感じた。
・・・・・・手応え?
首に間違いなく突き刺さった。
だが、これほどの蹴りを喰らいながら、首が吹き飛んだ感覚は無い。
いや、それどころか、ゼレフ自身を蹴り飛ばす感触が無い。
ナイフの回し蹴りは、依然とゼレフの首に突き刺さったまま。
微動だにしていなかった。
――――――――――斬ッ‼‼
右足が根元から断たれた感触が―――――――
「クソがッ‼‼」
俺は竜の咆哮の放とうと口を開くが、ガッ‼と顎を撃ち上げられて発動をキャンセルさせられた。
――――――――――斬ッ‼‼
胴体が横に真っ二つにされる感覚が――――――。
そして今度は胸部を蹴られ、俺は上空へと飛ばされる。
敵の能力は未知数。
このままだと本気でヤバい。
俺は残った右拳を握る。
「オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ‼‼‼‼」
気合の叫びと共に舞空術で急降下。
どんな能力を使っているのかは未だに分からないが、異能である事には違いない。
なら、俺の【幻想殺し‐イマジンブレイカー‐】でぶち殺せるはず。
俺は重力の勢いをつけて、右腕をゼレフ目掛けて思いっきり振り抜いた。
◆◆◆
「その右手は知っている」
勢いをつけて落下してくる上田祐一の考えを、ゼレフは看過していた。
コレから振るおうとしている右手の力に、ゼレフは何の脅威も感じてはいなかった。
「その右手の奥に潜むものは警戒すべきだが、右手の能力を無視すればそれはただの拳打に過ぎない」
【幻想殺し‐イマジンブレイカー‐】を使っている間、その右手は【幻想殺し‐イマジンブレイカー‐】以外の力を使えない。
であれば、特に警戒するに値しない。
全快状態ならともかく、今の死に体の状態では、何の変哲もないただのパンチだ。
「それに、僕は知らないが・・・・・・俺は知っている」
・・・・・・僅かに、ゼレフの気配が変わった。
「その右手では、コレに勝てない事を」
落下して来た上田祐一の右手を、顔を逸らす事で避ける。
そして、ゼレフは・・・・・・右手を振るう――――――――――
「――――――――――新たな天地を望むか?」
その右手が振るわれた瞬間、上田祐一の姿が忽然と消える。
この場から、ではない。
上田祐一の存在が、この世界から完全に消滅した―――――――――――。
◆◆◆
「そういや、祐一に奴何処に行ったんだ?」
マスターハデスを倒し、グリモアハートとの激戦が終わって簡易ベースで身体を休めていたグレイが、未だに姿を見せない仲間の事を口にした。
「もう七眷属も残ってないだろうし、ハデスも倒しちゃったし、敵はいないハズよね?」
「・・・・・・いや」
ルーシィの言葉を、パンサーリリーが否定した。
「もしかしたら、まだゼレフを追っているのやもしれん」
「あの黒い奴か」
自身が大事にしているマフラーを黒く染められたことを思い出し、ナツは怒りを顔に出す。
「まだこの島にいるって事?」
「未だに姿を見せないんだ。可能性はあるだろう」
「けど、祐一がまだ戦ってるんなら、もっと島が騒がしいと思うけど・・・・・・」
エクシード組の会話、シャルルの言葉に同意する皆だが、未だに姿を見せない事に疑問を感じる。
勝ったにせよ、逃げられたにせよ、闘いが終わったのなら姿を見せてもいいはずだ。
上田祐一が遠く離れた気配を感じ取れることを知っており、みんなが此処に集まっていることに気付けないはずは無い。
なら、何故この場に現れないのか?
未だに戦っているのか。
それとも、動けない状態なのか・・・・・・。
「・・・・・・ジュビア、探して来ます!」
「俺も行くぜ。何時の間にかアイツに助けられてたみたいだからな。漢として放って置けん!」
「敵倒した後放置されたけどね」
「それは言うな、漢として」
「私は女だっつの‼」
「みんなで手分けして探した方がよくない?」
「うむ。そうした方がよいかもしれんな」
彼らはまだ知らない。
その探し人が、もうこのアースランドに存在しない事を。
「「「!?」」」
「何だぁ!?」
「ウルセーッ‼‼」
「この声・・・・・・!?」
彼らはまだ知らない。
この島に破滅が訪れようとしている事を。
彼らはまだ知らない。
今、一つの時代が終わろうとしている事を。
――――――――彼らはまだ、何も知らない。
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