「どうしたー、攻撃頻度が落ちてるぞー?」
「う、うるせー‼」
ガジルの魔法の猛攻を、俺は全て気合と左手で弾いていた。
レビィも【固体文字‐ソリッドスクリプト‐】で援護してくるが、ガジル同様、攻撃の全てを弾いている。
「うーん・・・・・・」
確かに、特に制限ないから好きに戦えとは言ったが、コレはあまり宜しくないな。
「おい、レビィ。良いのか、ガジルの援護ばっかで?」
「え?」
「コレは、お前がS級魔導士に昇格する為の試験だぞ。別に反則じゃねーけど、コレで勝ててもお前、S級魔導士としてやっていけるのか?」
「‼」
S級魔導士は他の魔導士と一緒に仕事をこなしてはならないなんて事は無い。
だが、フェアリーテイルの面子を見れば分かる通り、S級魔導士というものは相応の力が求められる。
誰からも一目置かれ、頼られる魔導士。
強敵が現れても、コイツなら大丈夫だろと思わせてくれる存在だ。
俺はどうだか知らないが、マカロフ、ギルダーツ、ラクサス、エルザを見れば分かるだろう。
既に引退したとはいえ、ミラだって未だに実力は一目置かれるほどだ。
殆ど人が目撃した事の無かったミストガンは兎も角、名前が上がれば他のギルドにもその名は知れ渡るほど存在。
今のレビィがこのまま戦って、そういった存在へ至れるのか?
「ジジイがレビィをこの試験に参加させることを認めたのは、試験に参加する相応の物を持っていると判断したからだ。だが、このままただ援護に徹するだけなら、お前は今までのレベルから抜けることは出来ねぇぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
確かに単純な戦闘力で観れば、レビィはナツやグレイ達に劣るかもしれない。
だが、戦いというのは何も高火力の魔法が使えたり、真正面から相手を叩き潰すだけではないのだ。
今回参加した面子だと、フリード、カナ、メストがいい例だろう。
フリードは確かに素の戦闘力も強いが、魔法を使った戦い方は、基本【術式】による『罠‐トラップ‐』。
【闇の文字‐エクリテュール‐】は、余程の相手でなければ使わない。
カナの【魔法札‐カード・マジック‐】も、アレはカード単体より組み合わせで効果を発揮するタイプだ。
素の戦闘力はそこそこだが、それでもナツやグレイとまともに喧嘩が出来るだけの強さはある。
メストは・・・・うん、まぁ、いいや。
とにかく、レビィも決して他のメンバーに劣ってはいない。
問題は、どうにも他の奴らと比べると自分が劣っていると感じている性格と、後は戦い方。
「もっと頭使って戦え、さっきから火とか雷とかを文字で飛ばしてるだけじゃねぇか」
「で、でも私の【固体魔法‐ソリッドスクリプト‐】ってそういう魔法だし・・・・・・」
「違う」
「え?」
「もっと頭使えっつたろーが。本当にそれだけか、お前の魔法は? その魔法はただ文字を火とか雷に変えて撃つだけか? その魔法は、本当にそれだけしか出来ないのか?」
そんなはずは無いのだ。
まぁ、【完成‐ジ・エンド‐】で自分のモノにし、『冥府の門‐タルタロス‐』とやり合う所まで知ってる俺だからそう感じるのかもしれんが。
魔法で文字を具現化し、意味を与え、魔力をその文字の意味に変換し、放つ。
それが【固体魔法‐ソリッドスクリプト‐】の基本的な使い方なのは間違っていない。
だが、その魔法はもっと万能なモノだと俺は思う。
文字を描くだけで、その文字を火や雷に変えたり、鉄や岩にだって変えられる。
更には水中で空気を作ったり、穴を作り水を流したり、マスクで口を覆うことだって出来るのだ。
なら、もっと色々なことが出来る筈。
例えば――――――
「ガジル‼」
俺は鉄竜剣で斬りかかって来たガジルの剣を手刀で叩き切り、更に蹴り飛ばした。
悲鳴を洩らしながら蹴り飛ばされたガジルに、レビィは宙に【固体文字‐ソリッドスクリプト‐】で文字を描き、その魔法を飛ばす。
飛ばした魔法がガジルに当たり、ガジルの身体に淡い光が輝き出す。
そして、俺が今さっき叩き切った剣が見る見るうちに修復されていき、更には今まで俺が与えた怪我も治っていく。
ガジルにレビィが放った文字。
それは『Resurrection』。
その意味は『復活』。
そう、文字を描き何もない所から火や空気を生み出し、地面に穴を空ける等で物質の形まで変えられるのなら、他にももっと色々なことが出来たっておかしくない。
例えば――――――文字で怪我や病気を治すなど、失われた治癒魔法染みた事だって出来る筈。
「コイツァ・・・・・・・」
ガジルが宙で体勢を立て直して地面に着地し、自分の体に異常がないか、拳を握っては開いて確かめる。
さっきまでの俺と闘っていたダメージが、完全に治っていた。
「・・・・・・!」
「? おい?」
今まで後にいたレビィが、ガジルよりも前に出る。
「ガジル、作戦があるの。言う通りに動いて」
「あぁ? んなもんなくても俺がアイツをぶん殴れば―――――」
「コレは私の試験なの! ガジルはオマケ‼ 昇格試験に選ばれた訳じゃ無いでしょ!?」
「オマケ・・・・・・!?」
レビィの言葉が胸を抉ったのか、ガジルがなんか膝をついた。
なんか「ジュビアは選ばれてんのに」とか「何で俺だけ」とか「サラマンダーは参加してんのに」とかブツブツと聴こえてくる。
そういや、エクシードがいない事も気にしてたな。
意外と繊細なのか?
「ま、確かにパートナーと組んで2人1組が今回の試験とはいえ、メインはあくまで昇格試験を受験する奴だ。相方はオマケだな」
「グハァッ!?」
あ、死んだ。
ガジルが地面に突っ伏した。
ま、確かに同じ滅竜魔導士のナツや、元同じギルドに所属していたジュビアが選ばれてんのに自分が選ばれてなかったら気にするかもな。
実力は充分あるだけ、特に。
◆◆◆
「このままガジルに任せた戦い方じゃS級魔導士になれないし、なってもきっと弱くて小さいままだから・・・・・・」
「・・・・・・」
「だから、ここからは私が戦うよ」
「・・・・・・お前が勝てんのかよ、アイツに?」
闘い、勝ちに行く意志を見せるレビィに、地面に突っ伏したガジルは問うた。
ガジルは自分の実力に自信を持っている。
だが、それでも自分より強い奴がいる事は理解している。
自分と互角に戦い、自分に勝ったサラマンダー。
原作だとそのサラマンダー・ナツと2人掛かり、かつミストガンとエルザと連続で戦ったラクサスをギリギリでどうにか倒せた。
1対1なら、確実に負けていた。
そしてギルドで騒いでいれば、エルザにボコられる事もあった。
負けたままでいる気は無い、だが今の自分より強い奴がいる事を理解している。
今、立ち塞がっている試験官もその1人。
前回の雪辱を果たすつもりで挑んだが、魔法も封じているにも関わらず、その場所から動かすことも出来ない。
負ける気は無く、勝つ気で戦っているとはいえ、それでもガジルはこの戦い、勝てるとは口に出来ない。
ガジルは、自分はレビィよりは確実に強いと断言出来る。
だから、問うた。
自分でも勝てないやつが、自分よりも弱いお前に勝てるのかと。
そんなガジルの問いにレビィは、
「うん、無理だと思う」
「おい!?」
首を振って断言するレビィに、堪らず上体を起こしてツッコんだ。
「だから、ガジル。私に力を貸して」
「・・・・・・!」
「1人だと、私はまだ祐一に勝てない。あの狭い円の外に退ける事すら出来ない。けど2人でなら、あの円の外に出すことぐらいは出来る筈だよ!」
「ッ・・・・・・・・・・・・・」
2人掛かりでも倒すことは出来ないという物言いに色々言いたくなるが、それでも今まで自分が戦って実際手も足も出なかった現実を理解している為、ガジルは文句を呑み込んだ。
そして荒々しく後ろ髪を掻き、
「・・・・・・で、何やりゃいいんだ?」
溜め息交じりに立ち上がり、レビィの隣に並ぶ。
「言っとくが、正面から攻撃してもどうにもなんねーぞ」
「それくらい分かるよ、ガジルじゃないんだから」
「・・・・・・お前、急に言うようになったな」
思わず殴りたくなるくらいに頼もしく感じる。
だが、それくらいでないとS級魔導士というものには成れないかも知れない。
S級魔導士というものは、それくらいに頼もしく、化け物染みているのだから。
「聞かせろよ、その作戦ってやつをよ」
「うん。あのね――――――」
円の外には出られず、魔法も使えないからか、祐一は遠距離攻撃はしてこない。
実際体術だけでも遠距離攻撃は出来るのだが、試験官として作戦会議を邪魔しないだけという事を知らない2人は、構わず悠長に背を向ける。
祐一の超五感は魔法ではなく、【完成‐ジ・エンド‐】で身に付けた身体能力。
たとえ小声でも、喋れば盗み聞きされるかもしれない。
そう判断したレビィは、魔力で宙に文字を書き、祐一に見えない様にガジルに文字を見せた。
魔法や能力が使えないから、白眼の透視や、写輪眼で魔力を観たりなんてことも出来ない。
有効な判断と言える。
S級魔導士といてやっていくなら、戦闘力や魔力だけでなく、こういった判断力も重要だ。
2人が作戦会議をしてる中、祐一はそう評価した。
話は終わったのか、2人は改めて試験官に向き合った。
「作戦会議は終わったのか?」
「ギヒッ! まぁな」
「ここから反撃開始だよ!」
そして、試験は終盤へと向かう。
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