そして始まったS級魔導士昇格試験。
既にみんな、いずれかのルートを通って試験を受けている所だろう。
俺の所にも受験者が来ており、既に試験を始めていた。
「どーした、早くも降参か?」
「チッ・・・・・・!」
目の前で地に膝をつくガジルが舌打ちする。
俺のルートにやって来たのは、レビィ・ガジルのペアだ。
俺の所にやって来るとは運が良い。
他のルート・・・特にエルザが待ち構えているルートはハズレ同然だからな。
アレは無理ゲーの類だろう。
「さて、ルールを説明しようか」
試験の場にやって来て早々、真正面からガジルが突っ込んで来た為ルールの説明が出来ず、俺は改めて説明することにした。
「ルールは簡単だ、俺をこの円の外に出したらお前らの勝ち」
トントンと、地面を軽く足で叩く。
俺の足下には、直径1メートル程の円が描かれており、俺はその中心に立っている。
この円の外に俺を出すことが出来れば、2人の勝ちという事だ。
「んで、俺は魔法他能力は一切使わない、武器の使用も無しだ。利き腕の右腕も使わない。俺がコレを破った時も、お前らの勝ちだ。お前らは特に制限無いから、好きに戦え」
俺が魔法などの力や右腕を使ったら、それは俺の反則負けということだ。
つまり俺を円の外に出すか、俺に魔法や利き腕を使わせれば、レビィペアの勝ちになる。
「以上だ、何か質問はあるか?」
「・・・・・・随分気前が良いじゃねぇか、舐めてるとしか思えねぇな」
「ま、確かに相手をナメた対応かもしれんがな。けど、この試験で俺等S級魔導士が受験者に対してある程度手加減するのは当然の対応だし、つーか、開始早々左手一本で地面に叩きつけられたお前が言える事か?」
「ヌ・・・・・・」
そう、俺の姿を捉えるやいなや、この鉄野郎はルールも効かずにいきなり攻撃を仕掛けてきやがったのだ。
まぁ、突っ込んで来たところを手刀で地面に叩き潰したが。
「もう、ガジルいきなり突っ込まないでよ!」
「うるせー! 先手必勝って言うだろうが‼」
「先手必勝どころか後手必殺されたクセに」
「ギヒッ、こんなもんウォーミングアップだ」
レビィが重い溜息を吐く。
ガジルはまたこっちに突っ込んでくる気満々のようだ。
息が合ってねぇな、どうも。
「以前戦った時は不覚を取ったが、今回はそうはいかねぇ」
「あー、根に持ってんたんだな」
ファントムロードとのギルド間抗争時、俺はガジルと戦った。
結果は俺の圧勝。
それを今でも根に持っていたらしい。
「鉄竜の咆哮ッ‼‼」
ガジルが放つ竜の咆哮。
普段の俺なら全く効果が無い攻撃だが、今の俺は魔法の使用を禁じている。
つまり、滅竜魔法による属性吸収は使えない。
利き腕も封じているから、右手の【幻想殺し‐イマジン・ブレイカー‐】も使用禁止だ。
ならどうするのかというと、
「喝ッ‼‼‼」
轟ッ‼と、振動が放たれる。
すると、迫る鉄刃の嵐が掻き消されるように霧散した。
「ハァッ!? どうなってやがるんだ!?」
「こんなもん気合でどうにでもなる」
「魔法じゃねぇのかよソレ!?」
魔法じゃありません、ただの気合です。
「さて、制限時間は特に決まってなかったな。ま、じっくりと攻略法を考えろよ」
試験はまだ始まったばかりだ。
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