「すると貴方達は、そのミストガンという方に、此方の世界へ送り込まれたという訳ですね」
「最小限の説明だけ受けてな。だから、まだこっちの事は良く分からねぇ」
「大変興味深いお話です」
BARで出会ったガジルに良く似た黒スーツの男が、俺達・・・主にガジルの話を聴いて何やらメモを取っている。
しかし、ホントにそっくりだな。
原作でこんな奴出てきたっけ?
「おい、コッチの世界の俺」
「・・・・・・何でしょうか。そちらの世界の僕さん?」
「僕さんって・・・・・・」
レッドが微妙な顔をしている。
うん、気持ちは分かる。
ガジルと同じ容姿をしているだけに特に。
「エドラスじゃお前は、フリーの記者だそうだな?」
「ええ。世の中で起きた事を調べ、記事にするのが仕事です」
何かエドガジルが椅子に腰かけ、足をシュバッと上げて足を組んだんだが・・・・・・何か無駄に様になってるな、何だアレ?
「結構嫌ってる奴もいるらしいじゃねぇか。俺もお前に間違えられて、変な連中に襲われた」
「そんなご迷惑をおかけしてしまったんですか・・・・それは申し訳ございません。確かに、僕を目障りだと思う方はいるでしょう。僕は国王や政府に都合の悪い事も書きますから。でも、嘘を記事にするわけにはいきません」
「フ・・・・・・」
幾ら並行世界とはいえ、とてもガジルとは思えない程の真面目さと口調だ。
「しかし、元の世界とは色々と違うとは聞かされたが・・・・・・」
アースランドのガジルと、エドラスのガジルの視線が交差し、
「「そんなに違ってねぇよな(ないですね)‼」」
ガッシリと肩を組みだした。
「オメェの礼儀正しいトコとか、教養人っぽいとこ何か俺そのまんまだよ!」
「貴方もワイルドでクールっぽい所なんか、僕そっくりだと思います! ちなみに僕は歌や楽器が大得意なんですが」
「おお! それも全く俺と一緒だぜ‼」
((嘘つけ・・・・・・))
置いてけぼりを食らう俺とレッドを他所に、ガジル同士「「ギヒッ‼」」と腕を組んで意気投合した。
「なぁ、祐一」
「あん?」
「もしかして、祐一もこんな感じにコッチの世界にいたりするのか?」
「あー・・・・・・」
どうだろうな?
俺は元々アースランドの人間じゃねぇし、コッチの世界にはいないと思うが・・・・・・。
「いや」
俺はいないかもしれんが、俺と同じ転生者は存在する可能性は充分ある。
人数までは流石に分からんが、アースランドに転生者がいるのならエドラスにだっていてもおかしくは無い。
「なーんか、面倒な予感がしてきたな・・・・・・」
◆◆◆
『エドラス王都』
大きく空へ聳え立つ、エドラス城。
その城の一角から見えるは、浮遊島に置かれている巨大なラクリマ。
「スゲェよ‼ 見たかエルザ、あのデケェラクリマ‼」
それを見て興奮している男。
王国軍第三魔戦部隊隊長、ヒューズ。
「来るとき見たよヒューズ。綺麗なもんだな」
そんなヒューズに淡々とした返事をする女。
王国軍第二魔戦部隊隊長、エルザ・ナイトウォーカー。
「アレは何万ものアースランドの人間の魔力なんだぜ」
「んー、正確には魔導士100人分くらいの魔力と、その他大勢の生命というべきか」
2人の会話に、妙に間延びしたような声を出す海パンの様なズボン?とリーゼント、二つに割れた顎と無精髭が特徴的な男が入る。
王国軍第四魔戦部隊隊長、シュガーボーイ。
「細けぇことはいいんだぜ? シュガーボーイ。俺が言いてぇのはとにかくスゲェって事さ。いいか? 俺の言うスゲェは半端なスゲーじゃねぇ! 超スゲェって事‼」
「んー、超スゲェ」
「エルザしゃん。まだフェアリーテイルはやれんのでしゅかな?」
会話しながら場内を歩く3人の後ろからエルザに声をかける1人の老人。
王国軍幕僚長。
「バイロ」
「ぐしゅしゅしゅ。妖精狩りの名がすたりましゅなぁ。残るギルドはもはやフェアリーテイルのみ。確かに一番逃げ足の速いギルドでしゅがね。陛下はそろそろ結果を求めておいでだ」
「・・・・・・・・・」
「そう慌てんな。女神が妖精を狩り尽す日は近い」
「そうだよ。エルザの剣はスゲェっつーかスッゲェんだよ‼」
「ぐしゅしゅしゅ」
「その不気味な笑いを止めろバイロ」
バイロの声に不快な顔を隠さずに近づくは、2メートルを超えた大柄な猫の様な顔をした男。
王国軍第一魔戦部隊隊長。
「‼」
「パンサーリリー」
「うるせぇのは好きじゃねぇ。ヒューズお前もだ」
「俺もかよ!? てめ・・・自分が一番スッゲェとか思ってんべぜってー」
「少しは口を閉じろ」
「んー、機嫌悪いねリリー」
「フン」
「最近の軍備強化が不満らしいな」
「軍人なら喜ぶべきトコなのになぁ」
「しかし我が国はほぼ世界を統一した。これ以上、軍備を強化する理由が見当たらないのも事実・・・・・・」
「んー、まだ反抗勢力が少しは残ってるからじゃねーのか?」
「それなら私達だけで充分だろ?」
「わかんねっ‼ スッゲェ難しい話してるだろ!? 全然わかんね‼」
この場にいるモノは、皆王国軍の幹部。
見る人が見れば錚々たる面子だが、
「そう難しい話はしてないっすよ、ヒュー吉」
「お前何時も言ってるけど、そのおかしな名前で呼ぶの止めろよな‼」
そんな彼らに合流するようにやって来た。
王国軍の幹部軍人らしく高価で機能美に優れた白銀の鎧を身に付け、鮮やかな金髪が硝子の無い窓から吹く風に靡く優男。
「別におかしな名前じゃないっすよ、あだ名で呼ぶのは俺の親愛の証っす」
王国軍第五魔戦部隊隊長、阿部浩一郎。
「戻ったのか、浩一郎」
「ただいまっす、リリスケ」
「んー、王都の裏側にまで遠征に行かされるなんて、君も運が悪いね」
「遠出は別に苦じゃないっすよ、シュガボン。旅行みたいだし」
「ぐしゅしゅしゅ・・・相変わらずですなぁ、浩一郎しゃん」
「バロ爺も相変わらず変わった笑い方するっすよねぇ・・・・・・」
若干引いた感じに苦笑する浩一郎。
そして、まだ言葉を交わしてないエルザに近づき、
「ただいまっす、マイハニー」
「誰がハニーか」
グサッと槍で刺された。
「ちょっ!? 普通刺すっすか!?」
「お前が下らんことを言うからだ」
浩一郎は「えー」と口を尖らせて不満を露わにする。
「んー、相変わらず君達は仲がいいねぇ」
「何処がだ」
「でしょ!? やっぱシュガボンもそう思うっすよねぇ! コレはやっぱり俺達は周りからラブラブに視られてるってことd―――――」
―――――グサッ‼
「痛い!?」
「フン!」
スタスタと、エルザは去って行った。
「もー、全くハニーってば照れ屋なんだから」
「アレを照れてるって言うのかお前は・・・・・・」
本気でそう思ってる浩一郎に、パンサーリリーは戦慄した。
「しかし随分帰還が遅かったな、何かあったのか?」
「んー・・・・・・ちょっと周りを見て来たんすよ」
刺された所を軽く擦りながら、浩一郎は外を見る。
「なーんか、面倒な感じな気配がしたもんで」
それが何なのか、浩一郎の知らない気配。
だが、その気配の感覚は直感で捉えている。
『転生者』。
自分と同じ存在だと。
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