FANTASY☆ADVENTURE   作:神爪 勇人

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第92話 ウェンディとクリス、初めての大仕事!?

「うーん・・・・・」

「中々、コレ! ってのが無いわね・・・・・・」

「依頼書はいっぱいあるのにね」

 

次はどのクエストに行こうかと、リクエストボードの前で頭を悩ませているウェンディ、シャルル、クリスの3人。

あの3人も、だいぶ内の仕事に慣れてきたなー。

ま、まだマグノリア内での簡単な仕事しかやらせて貰ってないが。

小さな仕事から経験積んで慣れていくのはアリだと思うが、もうそろそろ遠出の仕事を任せても良いんじゃないだろうか?

 

「なんて事を思う俺であった・・・・・・」

「誰に向かって言ってんだ?」

「独り言だよ」

 

相も変わらずいつものカウンター席で酒を仰ぐ。

その横で定位置の様に、テーブルの上でケーキを食ってるレッドがツッコミを入れた。

 

「みんなの役に立ちたい、か・・・・・・」

「頑張れよ!」

「こういう素直で健気な子を見ると、応援したくなるねぇ」

 

ギルド内でのウェンディ達の人気は高い。

もう充分このギルドに馴染んだだろう。

可愛いもんな、2人共・・・・・・・。

いかん、ロリに目覚めてしまうかもしれん!

 

「でも、留守にしてる連中が戻ったら、驚くだろうなぁ。こんな小さな子達がいて」

 

リーダスがキャンバスに絵を描きながら呟いた。

 

「だな。ギルダーツとか」

「ギルダーツかぁ・・・・・・」

「相変わらず音沙汰ねぇみてぇだが、あの仕事行って何年になる?」

「3年・・・・だっけか?」

「心配ねぇだろ。俺達なら兎も角、あのギルダーツだからな」

「そーそー、別格だからな」

「・・・・・・・・・・」

 

ギルダーツ。

このギルドでもトップレベルの実力者で、聖十大魔道にも劣らない最強クラスの魔導士。

存在がバグとか言われてもいい感じなデタラメな強さで、今まで俺も勝てた例がない。

ま、今の様々な能力を完成させてきた俺なら勝てるかもだが。

そうか、あのクエストに出てもう3年か・・・・・・時の流れは早いモンだぜ。

 

「待て待てぃ!」

「ん?」

 

物思いに耽っていたら、ジジイが声を上げた。

何だ?

 

「ウェンディとクリスも、ようやくこのギルドのやり方に慣れてきたばかりじゃ。いきなり遠くにやる訳にはいかん!」

 

グビッと酒を仰ぐ。

 

「前も行った事のある者。そうじゃな・・・・・・ハッピー!」

「おいら!?」

 

まさかの指名だ。

 

「祐一、レッド! お前達もじゃ」

「俺等もか?」

「ん? 別に良いぞ」

 

ま、危険は少なそうだし、今回は気楽にやれそうだ。

 

「それにフリード! お前も手が空い取ったな。付いてってやれ」

「マスターのご指示とあれば」

「えー!?」

「「「何でフリード!?」」」

 

みんなの驚愕も尤もだ。

まぁ、仲間思いの奴だし、悪くはならないだろうが・・・・・・。

 

 

◆◆◆

 

 

「それじゃあ、行ってきます!」

「逝ってきます」

「クリス、字が違う」

 

準備を整えて、俺達は出発する。

その見送りに、ジジイ、ナツ、ルーシィ、グレイ、カナ、リーダス、シャルルが来てくれた。

過保護だなぁ、みんな。

気持ちは分からんでもないが。

 

「マジ、気を付けな」

「フリード、祐一。ウェンディとクリスの事、ちゃんと守ってあげてよ」

「心配無用だ。任せておけ」

「分かってるさ」

 

危険はあんま無さそうだから、守る必要は無いかもだが。

 

「必要以上の手出しはいかんぞ。ウェンディとクリスの勉強にならんからな」

「あいさー・・・・・・」

「おう」

 

ハッピーのテンションが低いな・・・・・・。

レッドはいつも通りだが。

 

「そんじゃ、行くか」

「ああ」

「はい」

 

そして俺達の仕事が始まった。

家を出た時・・・いや、仕事を受注した時から、もう仕事は始まったいるのだ!

 

 

◆◆◆

 

 

「で、いきなり躓くと」

 

俺達は駅まで来たのだが、

 

『オニバス行きの列車は、線路の破損事故の為、運休でーす。繰り返します。オニバス行きは運休でーす』

 

とのアナウンスが流れる。

 

「早速試練だな」

「幸先悪いな、どうも」

 

誰かの運が悪いのだろうか?

 

「どうする、ウェンディ、クリス?」

「オイラとレッド、飛べるからさ、一気に空飛んで連れってあげよっか!」

「オニバスくらい、2人なら運べるぞ?」

 

2匹の申し出を、ウェンディとクリスは頭を振って断った。

 

「今度の仕事は、出来るだけ私とクリスの力だけでやり遂げたいの!」

「だから、オニバスまで歩いて行きます」

 

ハッピーとレッドが「「ええぇーっ!?」」と驚く。

そりゃそうだ、メッチャ時間かかるからな。

 

「だ、そうだが、どうする、フリード?」

「そうだよ、フリードも止めてよ!」

「確かに、その通りだな」

「ほら、フリードもこう言ってる」

「俺も歩こう」

「マジか・・・・・・」

 

どうやらハッピーの味方は居ないようだ。

 

「この仕事は、ウェンディとクリス、2人の意思を尊重する。マスターに言われた。云わば、それがルールだ。ルールは、守らねばならん」

「ありがとうございます! フリードさん‼」

 

相変わらず頭固ぇな、フリードは。

 

「祐一、3人を止めてよー!」

「いや、無理だろ。フリードも変に頑固っつーか、マイペースだから。お前らもそれは良く知ってんだろ?」

「あい・・・・・・」

「そうだったな、そういや・・・・・・」

 

ヤレヤレ、徒歩で行きますかね。

 

 

◆◆◆

 

 

そして樹海の入り口までやって来た。

 

「この距離歩くのー?」

「正確に言えば、ハッピーとレッドは歩くのではなく、飛んでいるの訳だが」

「どっちもあんまり変わんないよ!」

「言葉は正確に使うべきだ。術式を使う俺には、言葉の大切さがよく分かる」

「そんな話今されても・・・・・・」

 

まぁ、言語が正確じゃないと使えないからな、術式は。

 

「クリスもウェンディも大丈夫なのか? かなりの距離を歩くけど・・・・・・」

 

2人はまだ子供。

医学を修めているレッドとしては、2人の体調が気になるようだ。

 

「ウェンディはドラゴンスレイヤーだからな。見た目よりも体力あると思うぜ? 昔のナツを思い出してみろ、体力有り余ってただろ」

「アレはナツがおかしいと思うぞ」

 

それは否定せんがな。

 

「クリスはもっと大丈夫だろ。アルティメット化すれば、身体能力は今のナツやグレイにだって負けねぇよ」

「なら大丈夫だな!」

「体力の基準がナツさんとグレイさんなんですね・・・・・・」

 

あの2人は元気だからな。

仕事先でも喧嘩するくらいに。

 

「行きましょう。急がないと、日が暮れちゃいます」

「確かに。急ごう」

 

けれども走らず、体力をあまり消費しない様に歩を進めて、俺達は森へと入っていく。

 

 

◆◆◆

 

 

そして歩く事数時間。

 

「すいません。私達の為に皆さんまで・・・・・・」

「仲間の為だ、気にするな」

 

謝るウェンディをフリードは諌め、俺も言葉を掛ける。

 

「そーそー。『旅は恥の掻き捨て』ってな」

「祐一、その言葉は使い方が違う。それは『旅先では知人もいないし長く滞在する訳でも無いから、普段なら恥ずかしいと思うような事をしても平気』という意味だ」

「あり?」

「おそらくお前が言いたいのは『旅は道連れ世は情け』だろう。『旅をするには道連れがあれば心強く、世の中を渡るには互いに情けを掛け合って暮らしていくのが良い』という意味だ」

「そうそれ」

「まったく。お前もいい年なんだから、少しくらい正確に言葉を使え」

「ナツよりは出来てるだろ」

「アレは最底辺だ」

「ヒデェ」

 

エルザの教え方がアレだったのも原因だと思うがな。

 

「ねぇ、少し休もうよー・・・・・・」

 

ハッピーがダレている。

空飛びながらダレるって、器用だな。

 

「でも、雨が降りそうだから、急ぎましょう。私、空気の流れが読めるんです」

「お姉ちゃんは天空の滅竜魔導士ですからね」

「まさかー、こんなにお天気なのにー?」

 

ハッピーが信じられない風に言うが、雲が一気に陰って来た。

あー、こりゃ確かに降るな。

つか、降って来た。

 

「何だこの天気ー!?」

「早く雨宿りしないと!」

「祐一、何とかしてくれー!」

「無茶言うな」

 

どの道此処の雲を吹き飛ばしても、その周囲に散るだけで向かう先に雨は降りっぱなしだろうしな。

行く先々で雲をふっ飛ばすのは流石に面倒だ。

術式ならやれない事は無いんだろうが、書くのに時間かかるうえに、その場から動けなくなるしな。

素直に雨宿りできるところを探そう。

 

「白眼!」

 

周囲を透視、遠見して雨宿りできそうな場所を探す。

 

「あそこだ」

 

ここから先に行った所に、洞穴がある。

俺が先導し、みんなを導く。

 

「ふー、ちょっと濡れちゃったね」

「直ぐ洞穴が見つかってよかったな」

 

ハッピーとレッドは毛をフルフルさせて水を弾く。

とはいえ、結構濡れたがな。

 

「ほらよ」

「あ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

 

俺は【換装】の空間から人数分のタオルを取り出し、ウェンディとクリスに渡す。

 

「・・・・・・あれ、フリードは?」

 

アイツにもタオルを渡そうとしたが、その姿は見えない。

いったい何処へ?

 

「教えてくれ、ラクサス! もしお前がこの場に居たら、いったいどうする!? 答えてくれ、ラクサァァァァァァァァス‼‼」

 

雨の中、何か叫んでいた。

・・・・・・何やってんだアイツ?

 

「おいフリード、何遊んでんだー!?」

「む?」

 

ようやくこっちに気付き、フリードも洞穴に入って来た。

 

「よかった。やはり、手を貸さなくて正解だった」

「? 何ブツブツ言ってるの?」

「フッ。分からなくていい事だ」

「・・・・・・フリードの頭の中ってどうなってるんだろう?」

 

たぶんラクサス一色じゃね?

昔っからラクサスの信者っつーか、ラクサスのパシリだからな。

 

 

◆◆◆

 

 

「雨が上がってよかったねー」

「でも、暗くなるわ」

「綺麗な夕焼けだもんな」

 

既に日も落ちかけている。

今日中にオニバスに付くのは難しいだろうな。

 

「今夜は野宿するしかないみたい」

「寝る場所はさっきの洞穴でいいとして、問題は食料だな」

 

フリードが俺達から距離を取る。

 

「食べ物集め位手伝ってよ。でないと、オイラ達お腹減って倒れちゃう」

「案ずるな。俺も、己のなすべき事、なさざるべきことは弁えている男だ」

「一々言い回し固すぎ」

「俺に食料の心当たりがある。既に準備も終えている」

「本当ですか!?」

「流石雷神衆! いざという時は頼りになるね‼」

「そこに痺れる憧れるぅッ‼」

「うん!」

 

フリードは愛剣である細剣を抜刀し、地面に文字を刻む。

 

「この術式の中に入った・・・・・・羽魚は落下する!」

 

ドサドサドサと、雨の様に羽魚が空から落ちて来た。

 

「何で羽魚!?」

「この辺りは、羽魚の回遊ルートだ。今は卵を産むため、羽魚の群れが上ってくる季節なんだ」

「羽魚か・・・・・・」

 

幻の珍味、羽魚。

一匹当たり3万ジュエル程の賞金が掛けられることある食材だ。

ハッピーは「アレ滅茶苦茶美味しんだ!」と言っていたが、食べてみたら不味くて吐き出したんだよな。

 

「コレ、食べられんですか?」

「滅茶苦茶不味いんだよ・・・・・・」

「え?」

「オイラ達、前に酷い目に遭ったんだから」

「食べたのハッピーだけだけどな」

 

俺等は食ってねぇし。

 

「と、思うのが、素人の浅はかさ。大方、焼き魚にでもしたのだろう。羽魚の料理には、コツがあるんだ」

 

フリードは魔法で羽魚を浮かべると、剣で一閃。

羽魚をバラバラに下ろす。

 

「フリードさんって、お料理がお得意なんですか?」

「それ程でもないが、ラクサスや雷神衆と行動する時など、偶にな」

 

そしてフリードの料理が完成する。

羽魚の唐揚げ、羽魚の餡かけ、羽魚のムニエル、羽魚の天ぷら、羽魚の刺身etc...。

色々な魚料理が皿に盛りつけられた。

つか、このテーブルとか皿とか椅子とかどっから出した?

 

「「「「美味しそう‼」」」」

「確かに美味そうだ」

「味も見た目に負けないぞ。さぁ、遠慮せずに食べてくれ」

「「「「「いただきまーす‼」」」」」

 

俺達は羽魚をいただく。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・まぁ、食べられなくはないんだが」

「やっぱり調理法の問題じゃ無かった・・・・・・」

「確かアッチに木の実があったから、それを食べましょう・・・・・・」

「・・・・・・うん」

「オレも・・・・・・」

「あい・・・・・・」

 

ウェンディとクリス、ハッピーとレッドは木の実を探しに森へ戻る。

・・・・・・ま、俺はこの羽魚を処理するかね。

勿体無いし、食えなくはないし。

 

「好き嫌いは感心しないな。魔導士は体が資本だと言うのに・・・・・・」

「お前、よく平気そうに食えんな。ま、確かに食えなくはないレベルだけどよ」

「ん? 何を言っている、美味いだろう」

「マジでか?」

「マジでだ」

 

フリードの調理法に問題があったとも思ったが、違うな。

多分味覚の問題だ。

ナイフとフォークで器用に羽魚を食すフリードを見て、俺はもう一度箸で羽魚を摘み、食う。

・・・・・・うん、不味いわコレ。

 

 

◆◆◆

 

 

そして夜が明けて。

 

「山道の次は砂漠かぁ・・・・・・」

「・・・・・・祐一さんとフリードさんは、暑さに強いんですねぇ」

「こっそり魔法で涼しくしてるんじゃないの?」

「仲間を差し置いて、自分だけ楽をしようとは思わん。単に鍛え方の問題だ」

「俺はナツの滅竜魔法を会得してからだな、熱に強くなったの」

「・・・・・・祐一って結構ズルいよね」

「俺に言われてもな」

 

【完成‐ジ・エンド‐】の効果だし。

 

「・・・・・・もうダメぇ」

「ハッピー!?」

「オレも熱い・・・・・・」

「レッド!?」

 

猫だからか?

家とか暑そうだもんな。

 

「待ってて、私が元気にしてあげる!」

 

ウェンディが治癒魔法で2匹を治癒する。

 

「・・・・・あの、フリードさんは何で泣いてるんですか?」

「あ?」

 

クリスの呟きに、俺はフリードに目をやる。

・・・・・・ホントだ、泣いてた。

 

「何で泣いてんのお前?」

「いや。天使の心優しさに感動していたのだ」

「何言ってんのお前?」

 

とうとう暑さにやられたか。

 

「君が魔力を使う事は無い。俺がなんとかしてみよう」

「どうするんですか?」

 

ウェンディの問いかけに、フリードは不敵に微笑んだ。

 

「まずこうして寝かせる」

 

ハッピーとレッドを、平らな岩の上に寝かせた。

 

「続いて呪文を描く」

 

そして砂漠に術式を書き込む。

 

「この術式の中にいるモノは、暑さを感じない」

 

―――――ジュ~~~~

 

「おい、何か香ばしい匂いがすんぞ」

「岩が熱くて焦げちゃうよ~・・・・・・」

 

岩が赤く熱していた。

 

「術式を設定するには時間が掛かるんだ」

「ていうか、術式から出たら意味ないんじゃ・・・・・」

「あい・・・・・・」

「しょうがねぇな」

「どうするんですか?」

「こうするんだよ!」

 

俺はアイツの魔法を使う事にした。

 

「アイスメイク!」

 

グレイの氷の造形魔法。

それで掌大の氷塊を作り上げる。

 

「これでも使ってな」

 

熱さましに氷を額に乗せる。

 

「あー、気持ちいい・・・・・・」

 

けど、直ぐに溶ける。

 

「なら、アイス・・・ゲイザー‼」

 

デカい氷柱を砂漠より出現させる。

この氷の近くに居れば、かなり涼しいだろう。

まぁ、直ぐに溶けだすから、少し涼む程度の効果しかないが。

これ以上はどうも出来ん。

 

 

◆◆◆

 

 

「はぁ~~」

「もう一息だ。我慢する事だな」

「あ!?」

「ん?」

 

ウェンディが何かを察知した。

 

「嵐が来る!」

「嵐って、砂嵐!?」

「この地方特有の、呪いの砂嵐だ」

「ええぇーっ!?」

「何処かに隠れてやりすごすか!?」

「この砂漠に隠れる場所なんて無いだろうな」

 

砂しかねぇもん。

 

「逃げるんだ!」

「逃げるの!? 祐一の魔法でバーッと吹き飛ばせないの!?」

「俺がそれやったら、新しい砂嵐が起きそうだな」

「ええぇーっ!?」

 

俺1人ならどうとでもなるけどなー。

神威で飛ばすか?

いや、でも何か呪いの砂嵐って言ってたし、そんなもんを神威空間に入れたくないしなー。

取りあえず逃げようか。

 

 

◆◆◆

 

 

俺等が逃げる先に、見知った面子が居た。

 

「ルーシィさーん‼ あれ、シャルルも!?」

「つか、何でお前等こんな所に居んだ?」

「心配で付いてきちゃったの。そっちはみんな無事みたいね」

「エルザ、どうしたのさ!?」

 

何かエルザがアリジゴク的な場所で沈んでた。

 

「それがね・・・・・・」

「のんびりしている暇は無いぞ。此処はもう直ぐ、砂嵐に呑み込まれる」

「ええぇーっ!?」

 

――――――グゥォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼‼

 

砂嵐が雄叫びを上げ乍ら迫って来た。

 

「私に構わず、お前達は行け!」

「何言ってんのよ!?」

「つか、んなとこさっさと出ろよ。何で出れねぇんだ?」

 

黒羽の鎧なり飛翔の鎧にでも換装すれば直ぐに出られるだろうし、エルザなら通常状態でも脱出は容易いはずだが?

 

「・・・・・・・・」

「エルザさん、もしかして何か重いモノを身に付けているとか?」

「・・・・・・芝居の道具をずっと握ってる」

「ええぇーっ!?」

「そりゃ重いでしょう!?」

「しかし、コレが無ければ舞台が出来ん!」

「今回の仕事は舞台の助っ人じゃないから‼」

「・・・・・・・・・すまない、私の思い出」

 

あ、ガチ泣きしてる。

荷物を捨てるようだ。

そしてエルザがアリジゴクから飛び出した。

 

「ああ、私の心の拠り所が・・・・・・・」

「後で掘りだしゃ良いじゃない‼」

 

――――――グゥォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼‼

 

砂嵐が、もう目の前にまで来ている。

 

「もう逃げる暇は無いわね」

「アレに呑まれたら、二度と出る事は不可能だ!」

「私が何とかしてみます!」

「あ、ウェンディ!?」

「お姉ちゃん!?」

 

ウェンディは砂嵐に向かった。

 

「天竜の咆哮ォォォオオオオオオオッ‼」

 

ウェンディの咆哮が砂嵐と激突する。

すると砂嵐の雄叫びが止み、砂嵐は何か満足そうにハートを撒き散らせながら消し飛んだ。

何でハートが飛んだんだ、今?

 

「呪いの砂嵐が・・・・・・消えた!?」

「やったー!」

「ウェンディ凄い‼」

「今回出番なしだな、俺」

 

え、別に拗ねてなんていませんが?

 

 

◆◆◆

 

 

「どーもありがとうございます!」

 

そしてようやくオニバスまで辿り着いたのだが。

 

「何で元気なの?」

 

劇場では長蛇の列が並んでいた。

座長も特に問題無さ気だが?

 

「役者たちと仲直りをして、舞台が出来るようになったんです。お客も大入り、ありがとうございます!」

「そんな・・・何の為に苦労して辿り着いたのよぉ・・・・・・!?」

「折角苦労して掘り出したというのに‼」

「オイラ、ダメェ~・・・・・・」

「オレも疲れた・・・・・・」

「う・・・羽魚を食べ過ぎたせいで、今になって気分が悪くなってきた。あ、いかん、立ってられない・・・・・・」

「・・・・・・みーんな、灰になっちまったな」

 

無事なのは俺とウェンディとクリスとシャルルだけか。

ま、俺も結構疲れたが。色んな意味で。

 

「おぉーいっ‼」

「あ?」

 

何か聞き覚えのある声が。

 

「ナツさん!?」

「やっと線路が直って・・・辿り着いたんだ・・・でも・・・ずっとオニバスとマグノリアを行ったり来たりして・・・・・・もう、ダメ・・・・・・だ・・・・・・・・」

「何しに来たんだよお前・・・・・・」

 

来て早々ぶっ倒れたぞ。

 

「チッ」

 

なんか盛大な舌打ちが聴こえた。

座長だった。

 

「態度変わった!?」

「こんな場所で寝られたら営業妨害だ! 君達‼」

「「はい!?」」

 

指差されるウェンディとクリス。

 

「コイツ等を全部片付けてくれ! 大仕事だが、報酬はちゃんと払う」

「ええぇーっ!?」

「・・・・・・・・・・はぁ」

 

コレがこの2人の最初の大仕事か。

なんだかねぇ・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・コレが初めての大仕事だなんて」

「普段のギルドとあんま変わんねぇ・・・つか、こんな所にまで足運んでまでする仕事じゃねぇな」

 

ま、報酬出すってんならやるけど。

 

「いいんじゃない? 皆あなた達の心配をしてたけど、寧ろあなた達がみんなの役に立ってるわ。コレも立派な仕事よ、胸を張っても良いと思うわ」

「そうかなぁ・・・・・・」

「仕事した気になれません・・・・・・」

「ええ、私はそう思う」

「・・・・・・うん。そうね」

「・・・・・・いや、まぁ、何か良い感じに話が纏まってるとこ悪いんだけどよ」

 

俺は倒れてる馬鹿どもを眺めつつ、

 

「コレ、もしかして俺等が連れて帰んなきゃなんねーのか?」

「・・・・・・あんまり考えたくないけど、そうなんでしょうね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」」」」

 

俺達の吐き出す溜め息は重かった。

 

 

.


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