第91話 虹の桜
ダフネとの一件から数日後。
俺は相も変わらずギルドの定位置のカウンターで、のんびりと酒を仰いでいた。
此処マグノリアの街をドラゴノイドを使って襲撃したダフネは、当然だが評議院に捕まった。
今頃は牢の中だろうな。
俺は評議院の指示で、ダフネが製造したドラゴノイドやリザードマンを処理するように言われたのだが、実は処分してなかったりする。
いや、だって、折角作ったモノを消すのも勿体無いからね。
全て神威で吸い込んどいた。
神威、超便利。
今頃リザードマンは神威空間でのんびり生活を送っているだろうさ。
兵力は幾ら有っても良いからな。
今後の為に役立つ――――時が来ればいいんじゃない?
ま、今はいい。
今そんな事を考えている時ではない。
なんせ、近い内にアレが始まるからな。
◆◆◆
「よいか皆の者!」
昼過ぎの今日この頃。
ジジイはカウンターの上に立ち、集まったみんなに演説している。
「魔導士たるもの日々鍛錬を怠らず、技を磨き依頼に応じて仕事をこなし、明日の糧を得るのが習わし。晴れの日あらば、また雨の日もあり、労せずして仕事を追える日もあらば、苦闘の末に成し遂げる事もある。じゃが、いずれにせよ、明日はまた必ずやって来るものじゃ。そしてまた我らは魔導士として、歩み続ける!」
ビシィッといつもの様に人差し指と親指を伸ばしたお決まりのポーズを取り、
「それこそが、フェアリーテイルの魔導士である‼」
「「「「「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ‼‼」」」」」
皆も雄叫びを上げて同じポーズを取った。
何故みんなこんなにもテンションが高いのかというと・・・・・・
「皆、この一年ようく頑張ってくれた! その労を労うべく、明日はいよいよ・・・・・・超楽しみの花見じゃあああああああああああああああああああああああああ‼‼‼」
「「「「「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ‼‼」」」」」
そう、お花見だ。
そりゃテンションも上がるよな!
「今日は前祝じゃ! 飲め‼ 飲めぃっ‼‼」
いや、花見に限らずいつも飲んでるけどな。
◆◆◆
「みんな、本番は明日から何だからほどほどにね」
ミラが皆を諌めるが、当然聞き分けのいい奴なんざ此処にはいない。
「ふーんだ。花見だから飲め飲めって、ちょっと騒ぎ過ぎじゃないのー?」
「カナ、オメェが言うなっての」
「一年中花見みてぇなもんだからな」
「漢なら花見だ‼」
「父ちゃん! 今年のビンゴは絶対1等賞頼むよ‼」
「おう、任せとけ! 今年こそ見てろよ‼」
「去年もその前もダメだったからなぁ・・・よぉーし、私もビンゴがんばろ!」
「どうやって頑張るんだ、レビィ?」
「気合じゃねぇの?」
「理解に苦しむぜ。ったく皆して浮かれやがって、たかが花見だろ」
「依頼主達も判ってるのが多くってよ」
「あん?」
「この時期のフェアリーテイルは浮かれてて仕事にならねぇからって、依頼が少ねぇんだ」
「・・・ったく。てかナブ、お前偶には仕事行けよ」
「う・・・・・・言うなよガジル」
と、まぁ、こんな感じで誰も彼も騒いでいる。
・・・・・・いつもと何も変わらないな。
ちなみに一番騒がしいナツは此処にはいない。
今はルーシィ、ハッピー、グレイ、エルザといういつもの面子に、ウェンディ、クリス、シャルルを連れて仕事に向かっているのだ。
「お花見楽しみですね!」
何時の間に隣に座っているジュビアが、ホントに楽しそうに笑う。
「毎年の楽しみだからな」
「いつもと変わんねー気もするけどな」
ジュビアが座っている反対隣りでケーキを食べてるレッドがそうボヤク。
ま、それを言うなよ。
あーいうのは雰囲気が大事だ。
ま、みんな花より団子だから花見である必要は無いかもだけどな。
「ジュビアはマグノリアの桜を見たことあるか?」
「いえ、実はまだ一度も・・・・・」
あー、そういや此処に来る前は雨女だったんだっけか。
「なら、楽しみにしとけ、一見の価値ありだからな」
「そうなんですか?」
「ああ。かなりデカい桜の木が有ってな、夜になると虹色に輝くんだ」
「すごく綺麗だぞ!」
俺とレッドの言葉に想像を膨らまし、ジュビアのテンションも上がっていくようだ。
皆でその虹の桜の木の下で弁当とか持ち寄って、ワイワイ騒ぎながら歌って踊る訳だ。
「でも、気のせいでしょうか?」
「あ?」
「楽しみですけど、いつもとあまり変わらない気が・・・・・・」
「それを言うなよ」
否定は一切出来ないけどな。
◆◆◆
そしてやって来た花見の日。
「さぁみんな、どんどん食べてね!」
「コレは私のだからね!」
「樽ごと持ってきたんか!?」
「誰もとりゃしねぇっての!」
「花見は、漢だぁあっ‼」
「意味わかんないよ」
「レビィ何食べる?」
「レビィ何飲む?」
桜の木の下で騒ぐフェアリーテイルのみんな。
その様はいつもの風景だ。
・・・・・・なーんも変わんねぇ。
「はぁ? 風邪ひいた?」
ビールを仰ぎ飲む俺は、この場に来ていないルーシィの事をナツから聞いた。
「酷いんですか?」
「うん」
「鼻はグズグズ、顔は真っ赤でもう・・・・・・」
そりゃ酷いな。
「何故風邪をひく?」
「気づいてないのね・・・・・・」
「ルーシィさん、あんなに楽しみにしてたのに・・・・・・」
ハッピーが「あ、そうだ!」と何かに閃く。
「ウェンディの魔法で治してもらえば良いんだ!」
「もうかけてありますよ。明日には良くなると思うんですけど・・・・・・」
「うーん、明日かぁ・・・・・祐一でも治せない?」
「ウェンディが無理なら無理だろうな」
「クリスは?」
「私も、治癒の力は持ってますけど、病気までは・・・・・・」
この世界、治癒魔法がロクに存在しないからな。
怪我とかなら兎も角、病気となるとなぁ・・・・自分自身なら毒とか体温調節でどうとでもなるが。
・・・・・何か土産とか買って帰ってやった方が良いのかねぇ。
◆◆◆
「それじゃあこれより、お花見恒例のビンゴ大会をはじめまーす!」
「「「「「ビィインゴォォォオオオオッ‼‼」」」」」
「今年も豪華な景品が盛り沢山じゃ! 皆、気合入れてかかってこぉおい‼」
「「「「「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ‼‼」」」」」
賑やかだなー、いつもの事だが。
「皆、用意はいい?」
「「「「「アイサー‼」」」」」
「それじゃあ、真ん中の穴を空けて下さーい」
そしてビンゴ大会が始まった。
「・・・・・ナツはビンゴしないのか?」
「うん・・・・・・」
やっぱルーシィがいないせいなのか、一番騒がしい奴が今日は一番静かだ。
「ルーシィの事か?」
「うん・・・・・・」
「気にしてたってしょうがねぇだろ、風邪なんだから」
「うん・・・・・・」
「変に気を使うと、ルーシィも気を使うぜ?」
「うん・・・・・・」
「そうだ。ビンゴの景品を土産にしたらどうだ?」
「うん・・・・・・」
「・・・・・・・・・俺の話し聞いて無いだろ?」
「うん・・・・・・」
コイツは・・・・・・!
「やれやれだぜ」
もう放っておくか?
◆◆◆
「ビンゴォォォオオオオオオオッ‼」
「マジか!? 俺1個も来ねぇ!?」
「オメェはツメがアメェんだよ」
「父ちゃん頑張れ!」
「絶対当たらない気がする!」
「シャルルの予感は良く当たるけどね・・・・・・」
「うぅん・・・景品がそろそろなくなっちゃうよ。せめてルーシィにお土産でもって思ったのに」
「うん・・・・・・」
そして次の番号が表示される。
「115番!」
お、コレは!
「「「「ビンゴォォォオオオオオオオッ‼‼・・・・・・・あれ?」」」」
当たった! と思ったら、俺と同じく当たった奴が3人も。
ジュビアとレビィとエルフマンだ。
「あらあら?」
「4人同時か!? じゃあ1発芸で一番面白い奴に景品をやろうかの」
「「「「1発芸ッ!?」」」」
ジジイのやつ、なんつー無茶ぶりをっ!
「景品は何と、アカネリゾートの高級ホテル、2泊3日のペアチケット!」
「ほう」
ここに来て随分ランクの高い・・・・・てか、普通こういうのって景品のグレードがどんどん下がっていくもんじゃね?
何か上がってるような・・・・・・。
「凄い!」
「「ペアで旅行!?」」
ジェット、ドロイ。レビィと2人で行きたいのかもしれんが、どう転んでもお前らは無理だと思うぞ。
どっちが行くか揉め合って「じゃあ2人で行って来れば?」とか言われて野郎の2人旅になる絵面しか想像出来ねぇ。
「アカネリゾートか! 姉ちゃんにプレゼントしてやる!」
エルフマンはそろそろ姉離れしろよ。
そしてチケットが当たったら将来の為に取っとけ、誘う奴がいるだろうから。
あ、でも使用期限いつまでだろ?
「祐一様と2人きり・・・2泊3日・・・ジュビア、まだ心の準備が・・・・・・!」
俺が了承するとは限らない上に、ジュビアはいったい2泊3日の間で俺に何する気なんだ?
「(ぼろろ~ん・・・)一発芸・・・・・・それは一度キリ、ギリギリの戦い(ぼろろ~ん)・・・・つまり俺の出番って訳さ、相棒」
「「またお前かっ!?」」
「引っ込めぇっ‼」
「つかガジル、お前リーチもしてねぇだろーが」
せめて当たってから来い。
◆◆◆
「あー・・・・飲み過ぎたか?」
深夜の時間。
日が暮れて桜が虹色に輝き出してずっと花見をしていたが、流石にもう遅い時間。
花見も終わり、みんな解散した。
ちなみに、ビンゴでのペアチケットは俺が勝ち取った。
もうあんな1発芸は2度とやらねぇ。
解散した後、俺は酔い覚ましに街をダラダラと歩いていた。
夜風が心地いいぜ。
「あ?」
そんな俺の視界の端に、見知った奴が通り去った。
ナツだ。ハッピーも一緒である。
何かシャベルみたいなものを持って、コソコソしながら走っていた。
「何やってんだアイツ?」
向かっているのは花見をしていた方向だが・・・・・・。
「ふむ・・・・・・」
行ってみるか。
◆◆◆
辿り着いた場所でナツを見つけて、俺は頭を抱えた。
「何やってんだよ、ナツ」
俺が声をかけると、ナツとハッピーはビクリと身体を震わせて、此方を見た。
「げ、祐一」
「随分な挨拶だな、おい」
ナツとハッピーが何をしていたのかというと、だ。
虹の桜をシャベルで掘り出そうとしていたのだ。
「もしかしなくても、アレだろ。ルーシィに見せてやろーとか何かそんな感じなんだろ?」
「「うっ!?」」
「街の名所でもある虹の桜を掘ったりしたら、間違いなく怒られるだろうな」
「「ううっ!?」」
「特にジジイに知られたら、まず間違いなく『アレ』をやらされるだろうよ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
ダラダラと滝のような汗を流すナツとハッピー。
それでも止める気は無い様で、シャベルから手を離さない。
やれやれ。
てか、よくこんなデカい木をシャベルなんかで掘ろうと思ったな。
いや、ナツならやれそうだけどよ。
「しょうがねぇな」
俺は錬金術で、このデカい桜の木が入るような植木鉢を作る。
「お、おい、祐一?」
「もしかして手伝ってくれるの!?」
「一応言っとくが、見つかっても俺は責任取らないからな」
見つかっても全力でナツに責任を押し付けてやる。
「よし! スパート掛けるぞハッピー‼」
「あいさー‼」
「お前らもっと静かにやれよ!」
バレない様にやるっつー考えが本当に頭にあんのかコイツ等は・・・・・・!
◆◆◆
そして翌朝。
「こりゃぁあ‼ 街の大切な桜の木を引っこ抜いたのは誰じゃあッ‼ 町長はカンカンじゃぞぉおッ‼‼」
ジジイが激怒していた。
ま、当然だよな。
バレてないから別に良いけど。
いや、バレてもナツに責任取らせるから全く問題無いが!
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