EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

9 / 71
これにて終了。


第5話

 

 

 砲身が壊され、いまなお、盾となって砲撃を防ぐ零号機をブライトはモニターで捕らえ、部隊の敗北を視野に入れた総力戦を行う決意を固める。その号令を発しようと口を開こうとした時、その通信は入ってきた。

 

 

「この領域にいる全部隊に告げる、心して聞いて欲しい」

 

 

 通信から流れてきたのは女性と呼ぶにはまだ幼い声色だった。

 

「第一次作戦は残念ながら失敗に終わった。これより、第二次作戦を遂行する。武器を持つすべての大人、守りたいものがある子供は私に続け」

 

 けれど、少女と呼ぶにはあまりにも深い言葉を紡ぐ。

 

「すべての攻撃は私が防ぐ。どうか私の後に着いてきてくれることを願う、以上」

 

 通信はそこで終わった。すると、モニターに移る光景に異変が起きた。

 

 ほぼ溶けかかった盾を捨てた、エヴァ零号機は自身の前方に巨大なATフィールド展開、その盾でビームを押し返しているではないか。

 

 

 ビームを押し返すという強引な方法で前に進む、零号機にロンドベルの部隊は驚きを見せながらも、少女の言葉に続けと使徒を補足し始めた。中でもすぐ近くにいたカミーユビタンは巨大なATフィールドを展開した頃から、零号機に意思のようなもの感じていた。

 

「あれは……怒り、使徒に対する怒りか…でも、何故だろう、俺には酷く甘酸っぱい感じがする」

 

 カミーユビタンを含め、一部の所詮ニュータイプと呼ばれる人種は全員カミーユが感じるのと同じ思いを抱いていた。

 

 

 

 

 曰く、私の愛するものに指一本触れさせるものですか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド今レイの元おじい+

 

 

 銃口が壊れた頃からわしの傍に元妻、今はリリスがいてくれるような気配を感じればそれは力となって眼前に現れた。強固な壁のおかげであの灼熱のような熱は感じなくなっただけでなく、わしの思い通りに形を変えてくれる。それはシンジ君を、この戦場で戦うすべての人を守れるような巨大な壁の出現であった。

 

 これなら勝利も望めると思ったわしは周囲で待機する部隊に通信を送った。それこそ、すらすらと言葉が出たのはそれだけわしが必死だったのかもしれない。戦場とは一分一秒でその形を変えること知っているからだ。

 

 通信を終えて、わしは強大な盾を押し出すような想像を頭で考えれば、エバはその通りに動く。操縦が苦手なわしには持って来いという代物である。歩き出したエバはやがて走り出し、建物が一瞬でわしの横を通り過ぎていく。それだけの速さをこのエバは出しているのだろう。その時、わしの横を並走するかのように一機の見た目特殊な戦闘機が飛んできた。

 

 通信が入る、横を並走する戦闘機からだ。

 

『こちら、カミーユビタン。エヴァのパイロット応答して欲しい』

 

「こちら、エバ操縦者だ、手短に頼む」

 

『君の口からこの後のプランを聞きたい』

 

 簡潔に次の作戦を聞いてきた。通信からの声を聞いて子供でありながら酷く大人びた雰囲気を醸し出す少年だと、わしは思った。

 

 わしは作戦の要点だけを纏めて話した。すると、少年はどこか怒気を滲ませて通信を入れてくる。

 

『そんなことは認められない。下手をすれば自爆だ』

 

 それは何より作戦を立案した自分が理解している、今更というものだ。しかし、それをこの少年に告げれば完全に怒るだろう。通信からでも分かるくらいこの少年は短気のような気がした。

 

「ならば、別案を今すぐ持ってきて欲しい」

 

 わしがそう返せば、通信から絶句する声が聞こえてきた。時間がないのだ。既にあの使徒から出る掘削機はねるふ本部に到達しているはずだ。

 

『それは……』

 

 ちと、少年に悪いことをしたかもしれない。彼は善意で忠告してくれたのだから。

 

「なに、この壁がある。心配せずともそう易々とやられはせんさ」

 

『な、あなたは一体……』

 

 ほう、気づいたか。聡い子だ。いや、確か彼らは新人類と呼ばれる存在だったはず、そのせいかもしれないな。

 

 答えを求めているところ悪いが、既に目標は眼前、びーむの威力も損なわれ、あと数秒もしないうちに撃ち終わりを告げるだろう、この隙を逃してやるほどわしは甘くない。

 

「牽制を頼む。以上通信終わり」

 

 そう入れて通信を途絶したと同時にびーむが終わりを続けた。その瞬間を待っていたのだ!!

 

 他の機体が牽制と敵の消耗を視野に入れた攻撃を繰り出した。

 

 零戦はしゃがみ込み、左足を軸にして右足を前に出して独楽のように回れば、渾身の回し蹴りが使徒の掘削機を破壊に成功する。

 

 だが、敵も唯ではやられるつもりが無いのか、再び、中心部で光を形成、びーむを撃ち出すつもりだ。

 

「それをさせるわけには行かんな」

 

 そう言ってリリスに願いながらエバを動かせば、零戦の一つ目が光り輝いたような気がした。使徒が展開する壁をぶち壊してその躯体を掴みあげてびーむの銃口を直線状の上空に向けさせる事に成功。いくら巨体であっても銃口の方向性を変えるだけなら出来ると踏んだが、どうやら無事に出来たようだ。その為の掘削機破壊である。仮に出来なければわし自ら盾になるまで。それをあの少年は危険だと判断したのだろう。

 

 さあ、最後の仕上げといこうか。

 

 すぐ後ろに控えていた、シンジ君を呼び出した。

 

「シンジ君、聞こえるか」

 

『はい聞こえます、レイさんは大丈夫ですか?』

 

「大丈夫だ、それよりもシンジ君、ばれーをやった経験はあるかい?」

 

『バレーですか、学校の体育でやった程度ですけど』

 

「十分だ、びーむが終わり次第、この使徒から手を離す。次に君の手でこの零戦を空に打ち上げて欲しい」

 

『な、そんな無茶な!! 第一僕にそんな力なんて』

 

「安心しなさい、やるのは実際エバだ、シンジ君自身じゃないのだから何を怖がる必要がある」

 

『で、でも』

 

「シンジ君、想像しなさい。君がこの零戦を打ち上げる瞬間を。この機体はそれを可能としてくれる素晴らしい機体なんだよ」

 

『………くっ』

 

「世界は想像によって沢山の色を奏でるんだ。良い想像をすれば良くも、その逆も然り。シンジ君が花火のように打ち上げてくれる想像をしてくれれば零戦は既に遥か上空を飛んでいるだろう」

 

『飛ぶんじゃなくて落ちるでしょうが!! 死んだら許しませんからね!!』

 

 ふむ、シンジ君も言ってくれる。わしを信用してくれた証拠だな。その信用、答えてやらねば、それはわしではない。

 

「心得た……私は死なないわ、あなたが援護してくれるもの」

 

 おや、少し気持ちに余裕を持たせすぎたか、言葉は変わってしまったが言いたいことは変わらないので好としておこう。

 

『絶対ですからね、もうすぐビームも終わります。合図は?』

 

「ひぃ、ふぅ、みぃだ!!」

 

『人のこと言えないぐらい古!! でも分かりました。行きますよ!!』

 

 シンジ君からの通信が終わった直後、使徒のビームが終わりを告げた。わしはすぐさま、使徒から手を離して後ろに振り向く。

 

 丁度良い距離にシンジ君の初鰹がとすの構えで待機してくれていた。流石、主人公と言った所か。

 他の機体から通信が入ってくるが、それを無視する。今は他の事で集中力を乱したくは無い。

 

「ひぃ!」

 

 わしが掛け声と共に踏み出せば、通信機からシンジ君の掛け声が掛かる。

 

『ふぅ!』

 

「みぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 叫び声を上げながら初鰹のトスで打ち上がれば零戦は遥か上空に突き進む、その勢いが止まれば今度は重力に従い落ちるだけ。そして落ちる場所は。

 

「使徒の上に決まっているだろう!!」

 

 宙返りで軌道修正を行えば真下にはひし形使徒の内部に見える心臓部。使徒の弱点が剥き出し状態だ。これを待っていた。

 

「かつて見たばれえの鑑賞会を思い出して閃いた必殺技」

 

 あの日、妻と見に行った、ばれえはとても神秘的であった。

 

 両手を頭上に挙げ、手のひら翼のような形にして触れさせれば上半身の完成、下半身は先の尖った掘削機のような形状を想像すれば足が爪先立ちのような格好になる。

 

 あの日の踊り手のように勢いよく回転を加えれば、見える風景は何度も行き来する星空。

 

「目にも見よ!! 必殺ばれーばれえ回転蹴りぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

『バレーバレエって、ダジャレかよ!!』

 

 シンジ君からそんな通信が来た様な気がしたがわしはもう回転によって生み出される吐き気と戦うので精一杯の状態である。

 

 

 後は天命に祈り、下り落ちるエバを信じ、競り上がるバナナとの戦いをするだけだ(キリッ

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 上空から物凄い回転で落下してくるエヴァ零号機にその場にいた者たちは攻撃の手を緩めてしまうほど見入っていた。

 

 艦長ブライトは訳も無く彼女の成功を祈る。

 

 作戦本部で事の成り行きを見守っていたミサトは成功を祈りながらも生き残った場合の説教を考えていた。

 

 Zのカミーユはあの不思議な女子を考えながらやはり、成功を祈るのだった。

 

 

 落下した零号機はどういうわけか、足元にドリルのような形状で作られたATフィールド発生させて第五使徒と衝突、見事十字架の爆煙を上げさせるのに成功した。

 

 

 その瞬間、作戦本部で、アーガマで、各機体のコックピットで歓声が沸き起こったのは言うまでもない。ところが、歓声から一転悲鳴のような声が同じ場所から上がってきた。

 

 凄まじい回転は止まることを知らず、地面をぶち抜き、あわや地下のジオフロント基地に突っ込むという、ある意味バットエンドを迎えようとしていた。それを止めたのが碇シンジの初号機だった。彼は回転して地面に潜っていく零号機の両手を掴み全身の力を込めて回転を止めに入った。摩擦で煙を上げる初号機の足と砂煙を上げながら地下に沈んでいく零号機、結局軍配が上がったのは初号機だった。

 

 その場にいたレイ以外のものたちは安堵の表情を浮かべ、地下基地の司令室にいたゲンドウとコウゾウは冷や汗を搔きながら問題ないという言葉を呪詛のように吐き出していたという。

 

 

 

 

 

 こうして決戦第二進東京市は上半身の殆どを地面に埋まらせた零号機と大根を引き抜く農家のような格好で零号機の腕を掴む初号機という、何ともシュールな情景を残して終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド碇シンジ+

 

 

 僕は回転が止まったと同時にエントリープラグから強制脱出して零号機の元に向かい、エントリープラグを外部から開けさせ、その扉を抉じ開けた。

 

「レイさん!!」

 

 言いながら中を見渡せば、青い顔した綾波レイが口元を押さえ、仕切りに唸っていた。

 流れる涙も拭かず僕はどこか怪我したのかと想像して怖くなり、レイさんを中から出そうと手を差し出したわけだが、それがいけなかったのか……。

 

「オルルルルルルルルル」

 

 発禁ものの表情で口元から大量のバナ……言いたくない、ものを僕のスーツに吐き出してくれやがった。それも盛大にな!!

 

 僕はきっと青筋を浮かべていたんだと思う、レイさんは珍しく困惑した表情で口を開いた。

 

「…こういう時、どうすればいいか分からないの」

 

 そんなの事は決まっている。

 

「謝ればいいと思うよ」

 

 ていうか、素直に謝れや!!!

 

 

 

 

 無表情で謝り続けるレイさんともう怒っていないけど心配させた罰でフリをしている僕を大きな月だけが見ていたようだ。

 




 そして話は次回に続く。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。