+サイドアウト+
戦艦アーガマのブリッチで作戦開始の合図を送っていた艦長、ブライトノアは前方に佇む、エヴァ二機を視界に捉えながら心に溜まった不平を体から出すように深く息を吐き出した。
特務機関ネルフ、キナ臭いと噂される組織との共同戦線は最初から向こうの都合に合わせさせられたものだった。そのせいで、パイロットの幾人は不平不満を溜め込んでいて艦内の不陰気も悪くなっている。その上、彼らネルフの虎の子たるエヴァ二機をロンドベルに出向させるというのだから今後の行く末を案じ、胃の痛い日々が続くだろう。
「あの司令は何を考えているのやら」
そう愚痴りたくなるのも分かって欲しいと、誰に述べているのか分からない言い訳をして艦長席に座り込んだ。
レーダーには使徒のみ、その使徒も沈黙している。正確には地下のジオフロント目指して今もせっせと穴を掘っているのだろう。
このまま何も無ければト誰もが思っていたところで、ブリッチに警報が鳴り響く。
ライディーンの宿敵、シャーキンの悪魔軍団がこの作戦を妨害しようと作戦中域に現れたのだ。
ブライトはすぐさま待機していた機動兵器を順次発進させる。そして作戦の要とも言えるエヴァ二機を防衛しながら交戦するよう命じた。
混戦する戦場、皆、この町で感じた鬱憤を晴らすかのように敵を殲滅していく。ビームや銃弾が交差する現場は敵の敗北的撤退で幕を引いた。
その直後、二つの超エネルギーが溜め込まれたポジトロンスナイパーライフルの準備が完了した。
敵と戦う彼らを見て、シンジは歯がゆい思いと恐怖を感じた。敵の機動兵器の一体が自分のすぐ近くに落ちてきたのだ。動きを見せない事から撃墜したのは理解したが、落下する場所が悪ければライフルを駄目にするところだった。それを自分は反応すら出来なかったのだ。隣にいたレイさんの乗る零号機は反応したのにも関わらず。
不甲斐ない自分を叱咤していたシンジに作戦本部から通信が入る。
「シンジ君、皆が稼いだ時間と科学の結晶をあなたに託すわ」
「はい」
緊張のせいで上ずった声で返事をすれば、レイさんからも通信が入ってきた。
「失敗しても構わない」
緊張とは無縁のような酷く落ち着いた声でそう言われ、鳴り響く心臓の音が落ち着きを見せる。
「分かったよ、レイさん」
「いやいや、そこは絶対成功させますでしょうが!!」
ミサトさんが尽かさずツッコミを入れた。
「絶対成功させます?」
自分の心に余裕を持たせるために普段やらないボケをかませば。
「疑問系!!」
ミサトは突っ込んでくれた。
「失敗しても後の事は私が何とかする」
「レイは無駄に男らしい!!」
平常運転のレイだった。
一連のやり取りでシンジは平常の状態に戻った。操縦桿を握る手の堅さも和らいでいる。
作戦決行の時間だ。
「目標をセンターに入れてスイッチ」
訓練で教わったものを繰り返すように行えば、シミュレーターとは違う想像を超えたエネルギーが銃口から発射された。
しかし、それは向こうも同じだったようだ。
「使徒から高エネルギー反応を確認!」
オペレーターのマヤから言われ、ミサトは映像を確認、初号機が発射したと同時に使徒もまた加粒子方を発射、互いの高出力のエネルギーはそのまま中心で湾曲してお互いの背後に着弾した。思わず失敗の余韻で項垂れるミサトに更なる追い討ちが掛かった。
「そんな! 使徒から再び高エネルギー反応を確認!!」
「こちらは!!」
思わず、怒鳴りつけるようにミサトが言えば、日向マコトが焦り顔で告げる。
「駄目です、銃口の冷却が間に合いません!!」
「シンジ君!!」
無慈悲にも放たれた一撃は初号機を前にして塞き止められることになった。
死を覚悟していたシンジは目の前で起こる状況に混乱していた。レイさんの乗る零号機が自分を庇い盾によってあの強力なビームを防いでいてくれているのだ。
しかし、盾は今にも蒸発しそうであり、零号機の装甲も所々溶けかかっていた。
「早く、早く、早く、ミサトさんまだですか! このままじゃレイさんが死んじゃうよ」
シンジの必死な叫びが本部に木霊する。その想いは本部にいる誰もがおもっていることだ。
「冷却まだなの!?」
「………完了しました!」
モニターを監視していたマコトが顔を上げて吉報を叫んだ。その場にいる誰もが安堵した瞬間。
「うあああああああああ、そんな!! このままじゃレイさんが!!」
恐慌状態に陥っているようなシンジの叫び声が本部に響き渡り、その場にいた誰もが作戦の失敗と今後の絶望を予感した。
壊されて煙を吐くこの作戦の要中の要とも言える砲身、それを行ったのは先ほどすぐ近くで倒れていた悪魔軍団の機体だった。その機体が急に動き出し、咄嗟に気づいたΖガンダムのパイロットカミーユビタンが迎撃に当たるも時既に遅く、砲身は壊された後だった。
絶望がこの戦場を支配し始めた。今だ加粒子砲の勢いが止まることなく、レイを乗せた零号機は消失しそうな盾で辛うじて防いでいる状態だった。
その光景を見ながら、シンジは自身の操縦桿を叩く。
「何でだよ! どうしてだよ! レイさんが死んじゃう。 そんなの、レイさんが死ぬなんていやなんだ。僕に優しくしてくれたんだ、僕の想いを受け止めてくれたんだ、僕に…泣かせてくれたんだ。ねえ、誰か助けてよ!! レイさんを助けてよ!!!」
その時だった、誰もいないはずのプラグ内で声が聞こえてきた。
―――大丈夫よ、シンジ。あの子は愛されているもの
「え、誰?」
声はそれ以降聞こえてこなかったが、シンジは何故かその言葉を信じられるような気がした。
そしてそれは現実となる。
次回 更にがっかり戦闘描写の巻