EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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 始まります。


第二話

 翌日コロニーの照明がまだ暗い時間に起きると早々に身支度してホテルをチェックアウトする。その時に対応してくれたホテルの受付係はまだ暗い時間でのチェックアウトに怪訝な表情を一瞬浮かべられたが、そこはプロ、すぐに表情を戻すとなにも検索せず送り出してくれた。

 

 タクシーで商業地区手前まで向かうとそこで降り立ち、歩き出す。まだ暗いこの時間に商業地区を歩く者などほとんどおらず、何だか世界で一人になったような気分だ。徒歩で進むこと十五分、モルゲンレーテの建物を視界に収められる場所に付くと辺りを見渡す。そしてあまり人目の付かない路地裏を見つけるとそこで身を潜めた。

 

 そこで朝日が昇るのを確認すれば路地先の大通りには仕事に向かうのか、続々と人々の姿が現れた。もっともそのほとんどがその先にあるモルゲンレーテに所属する社員なのだろう。あそこはオーブでも一二を争う公益会社だ、社員も相当の数だろう。

 

「まあ、一般社員だけがいるとは思えないが」

 

 そう独り言を呟いて立ち上がると大通りを歩く彼らにそれとなく交じりながら目的のモルゲンレーテに向かう。やがて入口付近で彼らの波から離れ、備品などを搬入する裏口に足を運んだ。そして丁度作業を行っている作業服姿のスタッフ一人を物陰から掻っ攫い眠らせて、着ていた服を拝借すれば堂々と内部に潜入する手段を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 首尾よくモルゲンレーテ内部に入り込めた作業服姿の私は巡回する連邦兵に眠ってもらいながら頭に叩き込んだルートを辿っていた。順調すぎて逆に怖く、更に鍛え上げられた兵士が少女の拳一発で眠ってしまうのはいかがなものだろう。もう少し鍛え治した方が良いのではないかと要らぬお節介を抱いてしまった。

 

「それか、あたしの一発が強すぎるのか?」

 

 お嬢様としての口調から綾波カガリとして口調――こっちが素なのだが、呟く。

 

「もしそうなら今後ツッコミとして叩くのはもう少し抑えた方が良いかもしれないな」

 

 今は無理でも何時かまたあの二人と共にコントを繰り広げたいという気持ちをずっと持っている。その為には今の情勢をどうにかしなければならない。

 

 途中、碌な説明もせず飛び出すように出てきた自分を多分文句を言いながらも見て見ぬふりして送り出してくれたリツコや組織の為、モルゲンレーテに残されたデータなどを出来る限り収集しながらも進んでいけば地下格納庫に続くエレベーター前に辿り着いた。

 兵士から奪い取っていたカードキーを使い施設エレベーターに乗り込むと地下に降りていく。

 

 

 扉が開き中から外の情景を確認、人の気配が無い事に安堵すると地上の施設より薄暗い廊下を進む。薄い外灯が示す長い地下施設の廊下をひた走っていると急に建物が揺れ始め、まるでコロニー全体が揺れているかのような大きさに思わず地面にしゃがみ込んだ。

 

「コロニーの地下施設にまで響くということは只事じゃないな…………まさか!」

 

 考えられる可能性を脳裏に浮かべ、その中で際も高い確率の事態に思い至れば無意識に舌打ちを繰り出していた。

 

「くそ、ザフトは行動が早いな」

 

 頭の中のルートではもうすぐ大規模の格納庫に辿り着く、尚且つコロニーの立地関係上、少し先に避難シェルターもある。

 

「急がないと下手すればヘリオポリスが壊滅する」

 

 今のあたしにそれを止める力は無い、何より綺麗事で全てが叶う訳が無いことを前の戦いで理解した。だからこそ、今は自分の出来る事をする――悔しいけれど自分は死ぬ為に来たわけではない。

 父の真意を確認した後、さっさとシェルターに潜り込もう算段を付け、あたしは再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ひたすら走り続け、格納庫内の通路に辿り着く。

 

 そしてそこに広がる光景にあたしは内心の怒りを叫ばずにいられなかった。

 

 

「父上……ガンダムタイプが五機なんて芸が無さ過ぎますぅぅぅ!!」

 

 

 形状の違う、それでも何処と無く似通った五体のモビルスーツは前対戦で大いに戦果を上げた多くのガンダムにそっくりだった。はっきり言ってお腹一杯です。

 

「そりゃあ、父上は施設を貸しただけでしょうが、それでもどうして連邦のガンダム主義を容認したんですか!」

 

 ここには居ない相手に一見的外れなことを叫びながら、どうせデータ引渡しを要求して同じようにガンダムタイプのモビルスーツをお作りになるつもりだろうから決してこの想いは間違ってはいないはずだ。結局少し先の未来ではオーブも量産型のガンダムで溢れるのだから。

 

「これだから母上に貴方は面白みのない男ね、なんて言われるんですよ!!」

 

 揺れが酷くなる一方の格納庫内で両親の夫婦間に関する暴露話を叫んでいると自分の肩に第三者の手が添えられる。それによって我に返ったあたしは瞬時に意識を切り替え戦闘態勢で思いっきり振り返ると添えられた手を捻り上げた。

 

「くっ!!」

 

 自分と同じくらいの少年――格好からして一般人と思われる――が苦悶の声を上げながら私に非難の目を向けていた。何故このような場所にいるのかという疑問を抱きながらも警戒は怠らず口を開く。

「これから手を離すが怪しい行動はしないでくれ、出来るか?」

 問いにコクコクと頷きを見せるのでゆっくりとした動作で手を外す。少年は痛みの残る腕を摩りながら涙目であたしを睨む。けれど少年の顔立ちが幼すぎて少しも怖くは無い。

 見た目からしてもモルゲンレーテで働いているような感じには見えないのでこの場所にいる理由を少し高圧的な態度で問いただしてみた。すると、少年は怯えながら理由を語り始める。

 

 少年は工業カレッジの学生で今日は受講しているゼミ担当教授が課外授業と称してモルゲンレーテで講義を行っていたようだ。実践的な授業を受けていると建物が揺れ始めてモルゲンレーテの建物がある商業地区にザフトのモビルスーツが現われたという。

 同級生と避難シェルターに向かっていた所、近場で戦闘があり同級生と離れ離れになったようで、迷いながらも地下に向かうあたしの姿を見かけて連れ戻そうと追いかけたら何時の間にかこのような場所まで来たらしい。

 

 だが語られていく少年の足取りに私は眉を潜めた。

 

「迷うとして何故、地下に行く必要がある?」

「地下にも避難シェルターがあるかと思って……それに君がいたから」

「確かに避難シェルターはあるがモルゲンレーテのスタッフ用で一般には公表されていないはず。だから目的もなくこのような場所までくることはない」

 

 そう指摘すればこちらが罪悪感を抱くほど顔を真っ青にさせる。けれど仕方がない、神経を研ぎ澄まして潜入中、彼の気配を感じたことなど一度もないのだ。仮に彼があたしの姿を見つけたとしたらその時点で第三者に気づけるくらいには訓練している。ちなみに先ほど肩を叩かれるまで気づけなかったのは父上のことで興奮していたからだ、要反省を掲げて開き直ってみる。

 

「この際だ、はっきり言おう。これでもあたしは第三者の気配に敏感なんだが、この場所で初めてお前に気づいた。つまり、お前があたしを追いかけたという言葉に矛盾が生じるんだよ。なら、避難でもなくあたしを追いかけるとも違う、別の理由があるはずだ」

 

 そう断言すれば少年は私の視線に耐えかねたのか目を伏せて本当の理由を語り始めた。

 

「……ザフトの兵士の中に友達がいたんだ」

 

 学生仲間と避難している最中、ザフトと思わしき兵士が連邦の兵士を射殺するところに出くわし皆で隠れていたという。幸いにもザフトには目的があったようで自分達に気づかず地下に向かって進み始めたが、その時自分の知っている声を聞いたらしい。その声と真面目な話し方が昔の幼馴染にそっくりで、考えるより先に仲間から外れて別ルートから地下を目指したらしい。

 

 そして今度こそ今に至るのだが、あたしは呆れすぎて口も開けない。

 

「お前、馬鹿だろう」

 

 実際は簡単に口が開いて本音を漏らしたけれど。

 

 あたしのど直球の言葉に少年も頭では理解しているのだろう、バツの悪そうな表情を浮かべて唸っている。

 

「うぅぅ…」

「いくら声が似ているからって本人かどうかも分からないだろうが」

「でも、本当にそっくりで」

「万が一本人だとして向こうは兵士、お前は一般人、下手すりゃ殺されても仕方が無いぞ」

「アスランはそんな事はしないよ!」

「そりゃ、アスランとか言うやつがしなくても他の奴は分からないだろう。お前がコーディネーターだからって仲間じゃないのと同じで」

「どうして!?」

「お、やっぱりお前もコーディネーターなんだな」

 

 絶句する少年にあたしはニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

「素直すぎるのも考えようだぞ」

 

 あたしから一歩下がって全身で怯えを見せる少年の姿に今の情勢を物語らせた。いくらヘリオポリスが、引いてはオーブが共存の道を推奨しているとは言え、両者の衝突は未だ絶えないのが現状、彼はきっと自分の出生を隠して来たのだろう。

 

 これまでに無い少年の怯えようを見てわざとらしく咳払いすると自分らしい――恋人に言わせると何も考えていない楽観的な笑顔を浮かべる。

 

「まあ、そんな怯えるなよ。あたしは別にお前がコーディネーターだろうが気にしないからな。異性人が地球圏に移住するこのご時勢、出生なんて些細な事だとは思わないか?」

 

 背中に翼を持つ異性人などが火星に移住する計画を進行させているのだ。試験管から生まれ、能力を初めから授けられたと言うだけで差別する認識に至るほどあたしの頭は固くない。

 

「でも、化け物だって言われるから…」

 

 少年が悲観にくれた表情で呟いた。

 

「たかだが、生まれながら少し能力が秀でただけだろう。生かさなければ宝の持ち腐れになるだけのもので、そんなのはナチュラルも同じなんだから怯える事も羨ましがる事もない」

 

 仮にお笑いの才能を与えられると言われれば少し誘惑に駆られるかもしれないが、才能だけでお笑い道を渡れるほどGEININは簡単ではない事を理解しているので実際に手を出す事ないだろう。

 

「……そうかな?」

 

 僅かに希望を込めた問いかけにあたしは即座に頷き、少年に対する第一印象を述べる。

 

「少なくともあたしはお前を化け物なんて思わない、悲観的でウジウジしているところなんてはっきり言って初期頃のシンジみたいな奴だと思ったぞ」

「えっと…初対面なのに随分とはっきり言うね……て言うか、シンジって誰?」

「あたしの大切なパートナーだ」

 

 お笑いトリオの、と続ける前に少年が問いかける。

 

「それって恋人みたいな事?」

 

 何を想像していたのか先ほどとはうって変わって顔を赤くする少年。しかし、それ違うので否定する。

 

「あたしの恋人はある意味化け物染みている奴だ」

「化け物って自分の恋人に対して…」

「いや事実だから。あたしの恋人に比べればコーディネーターなんて実に人間らしくて可愛いもんだぞ? ぶっちゃけ生身ならどんな屈強のコーディネーターでも勝てない」

 

 全部ATフィールドで防いでしまうからな、と今度は心の中で呟いた。生身でそんな事が出来るあいつの方が化け物だと誰しもが頷くだろう。柔和な笑みで全てを拒絶する様は旗から見て恐怖でしかない。まあ、あたしにとっては可愛い犬のような恋人だが。

 

「何か聞いていると人間じゃないみたいだけど…」

 

「うん? あたしの恋人が人間だって何時言った? あたしの恋人は人間でも異星人でもない犬みたいな奴だぞ」

「犬!?」

 

 あ、心に思っていた事を口に出してしまったようだ。

 

「いや…犬みたいな態度というか…見た目は人間だけど…でもなぁ、尻尾をはち切れんばかりに振っている姿が時折見えてしまうから…やっぱり犬っぽいか……うん、可愛い私の犬だな!!」

「断言されると何か別の卑猥な言葉に聞こえる!!」

「抱きついてハアハア言ってくるところなんて犬そのもので―」

「それはもうただの犬じゃなくて変態という名の犬だと思うな!!」

「ホント可愛いんだ」

「そして普通に受け入れる君の方がよっぽど凄いと思うのは僕だけかな!?」

 

 この少年もまた気弱だった頃のシンジ同様突っ込み属性を持ち合わせていたようだ。内気な奴は皆ツッコミ力を持っているのか、お笑いに夢中な自分としては是非調査してみたいものだと考えていればこちらに向かっているような足音があたしの耳に飛び込んできた。

 

 僅かに遅れて少年の方もその足音に気づいたようで、声を上げそうになるところを咄嗟に右手で塞ぎ、左指で足音とは別の方向を示し移動するよう促せば少年は頷きを返してきた。

 

 

 私と少年は出来るだけ足音を立てずその場を後にする。シェルターがある方向とは別のルートだという事実は取り敢えず二の次にして今はザフト兵に見つからないよう進むしかなかった。

 




 モルゲンレーテの地下施設で出会った少年――既に誰かは理解出来てしまっただろうが、今は名も知らぬ、その少年と共に逃亡を図った先、待ち受けるものとは?


 次回 分かたれた道、蚊帳の外のカガリ



 次回もぐいぐい関わって行け、カガリ!!

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