始まります。
アラドが泣く泣く願いを聞き入れている頃、外ではLilinとその所属する機体の登場で、それらを知るメンバーが活気付いていた。
丁度敵が多い場所に現れたことで標的がLilinに集中すれば、突破口が開かれ、続々と見方機が敵の包囲網を突破していく。五基の砲門から撃ち出される陽電子方が容赦なく敵を撃ち落し、迫りくる何百という敵の攻撃が不可思議な赤い壁に阻まれてしまえば量産種に成すすべなど無い。
新たな存在を認識してそれが危険だといち早く感知したサメのような姿のクストース・ケレンは主を守るため、単独でLilinに飛び込むも、甲板で迎え撃つ初号機と弐号機の砲撃によって量産種と同じように阻まれてしまう。
これを重く見たのだろう、カナフや獅子の形をしたザナヴまでもが狙いをLilinや二機のエヴァに定め始めた。流石に神僕たる三体を相手にするには厳しいものがある。
しかし、その頃には続々とかつての仲間たちが集まってきていた。
その中で特に親しい五人組がLilinを守るよう周囲を旋回して警戒に当たる。
『よう、お前ら、日本で大人しくしていれば良いものをホント悪ガキだな!!』
デュオのお茶らけた通信を皮切りに続々と通信が入ってくる。
『お久しぶりです、シンジ君、アスカさん。あなたたちが来てくれて心強いですよ』
本当に嬉しそうな声を上げるカトルにシンジは知らぬうち笑みを形作る。
『ふっ、バルマー戦役以来の共闘か、お前たちの強さを知る俺らにとっては最高の増援だな』
冷静さの中に気遣いを滲ませるトロワにアスカは懐かしさを覚える。
『貴様らの強さを俺たちは知っている。だが、新参者は知らないだろう。ならばお前らの全力を持って知らしめてやれ!』
力強い叱咤を与えてきたウーフェイはよくカガリと衝突していたが、お互い認め合う仲だ。
『……今回あいつはいないのか……やはり、立場のせいか……残念だ』
端的に問いかけ、自己解決したヒイロは声の中に僅かな落胆が伺えて、きっとファン心理からくるものなのだろう。
彼らだけでなく他の仲間からも次から次へと通信で語りかけてくれてシンジやアスカは喜びを噛み締める。
二人は通信機に向けて声を張り上げた。
「あんたたち!! あたしらが来たからには大船に乗ったつもりでいなさいよ!!」
「露払いは僕たちに任せて、皆さんは目的を果たしてください!!」
彼女らの通信を聞いて殆どの機体が目的地のバラルの搭に向かう中、五機のガンダムだけは変わらず周囲を旋回する。
意図に気づいたアスカやシンジは苦笑を浮かべながらも内心で絆の強さに嬉しさが込み上げていた。
「まったく、あたしも舐められたものね…あんたたち、残るんだったら、きっちりあの三体と残党を仕留めるわよ!!」
声と共に地面を蹴り上げた弐号機が飛翔、対角線上に丁度飛んでいたカナフに張り付くと赤い右手で勢い良くなぎ払う。
「喰らいなさい! あたしの拒絶は痛いだけじゃ済まないわ!!」
直後、ATフィールドが羽ばたく翼に直撃、衝撃でカナフから離れてしまうものの爆音と爆煙を奏で終えれば、翼を捥がれた鳥のような状態に。
当然動けないカナフを挟んだ位置に武装をフルオープンさせたヘヴィーアームズが待ち受けていた。
ニヤリと捕食者のような笑みを浮かべるアスカ、きっとトロワも静かな笑みを浮かべているだろう。
「良い位置よ、トロワ!! 鳥は焼き鳥にするのが一番ってね!!」
背負っていた二丁のロケットランチャーを構え、次いで肩ラックを開き、かつて4号機が搭載していた爆発ニードルの発射体勢に入る。
『俺は煮込みが好きだが、な』
「それもあり、でも今回は焼き鳥にしかならないわ!!」
『いくぞ、フルオープンアッタク』
「全弾喰らいなさい、シュート!!」
二機から繰り出される無慈悲な実弾とニードルがカナフに降り注ぐ。爆音は当然のこと、爆発による衝撃は凄まじく、爆煙が晴れた頃には全体的に黒こげになった哀れな焼き鳥カナフの出来上がっていた。
『ならば、後は串を刺すまでよ!』
投擲のように投げ込まれたツインビームトライデントがカナフに突き刺さり、それが止めとなってカナフが爆発、その身を消滅させた。
『珍しいな、お前がこのような掛け合いに参加するのは』
『フン、戯言もたまに嗜むのが、強者の余裕だとあのアホ姫が言っていたからな、それを遂行したまで』
『なるほど、彼女らしい理論だな、それを素直に聞き入れるお前も淀みない』
『鍛錬の一環だ!!』
トロワの言に半ば苦しい言い分けを叫び、ナタクを量産集の残党に向けて移動を開始した。その態度に笑い声を上げながら弐号機とヘヴィーアームズが続く。
一方、サメ型のケレンを相手にするのは初号機やサンドロック、デスサイズと言った格闘戦を主力とするメンバーだ。
空を海のように縦横無尽に動き回るケレンを追い込み漁のように後ろから追いかけるのは際も短距離の機動力に特化したデスサイズである。
『おら、シンジ、そっちにいったぞ!』
「了解です、まずは動きを止めます」
居合いのような構えで待つ初号機の元にケレンが飛び込んだ次の瞬間、鞘から抜かれたマゴロクソードが鋭い切れ味でもって背ビレを切り裂いた。
「カトル君!」
『分かりました、シンジ君、行きますよぉ!!』
背ビレを切られ動きに鈍さを見せ始めたケレンの尾ビレに突出したサンドロックが二本のヒートショーテルを振り下ろした。これにより、完全に動きを止めたケレンに死神の鎌が待ち構えていた。
『おら、この俺の姿を見たら死ぬぜってなぁ!!』
ビームサイズが幾重にも振り下されて切り裂き、
「カトル君、僕らも」
『畳み掛けますよ!』
ダメ押しに初号機やサンドロックが追撃に回れば、既にまな板の鯉状態のケレンが勢いよく爆散する。
「ふう、これで一つ。これより残存勢力の殲滅に移ります」
『こちらも、初号機に続きます。デュオもちゃんと働いて下さいね』
『おいおい、真面目君たちは人使いが荒いぞ!』
通信から恨み節が放たれる。それをシンジがさわやかな笑みで返す。
「なら、そこで指を咥えて見ていてください。すぐに片付けますから」
『言うようになったじゃねえか、シンジ』
「褒め言葉ですね」
皮肉をしれっと返せば、カトルの通信が入ってくる。
『頼もしい限りではありませんか、デュオ』
『あの頃はまだ、可愛げがあったのによ』
『最後の戦いの時は既に今のようなシンジ君でしたよ。だからこそ、僕らは彼らに背中を預けられる』
『まったくだ。しゃあない、もう一働きしますかね!』
既に量産種と戦い始めていた初号機に続くよう、デスサイズが行動を開始すれば、カトルは成長が嬉しいくせに、と内心で思いながらサンドロックも敵の殲滅に動き出すのだった。
神僕二体が文字通り消滅、最後の一体となったザナヴもまた終わりを迎えようとしていた。ヒイロの操るウイングゼロのビームサーベルによって切り刻まれたザナヴ、その合間を漏らさないように五発の陽電子砲が絶妙のタイミングで撃ち込まれる。立て続けに食らったダメージは大きく、ザナヴもまた動きを鈍らせていた。
更なる追撃を加えようと動き出す、ウイングゼロのコックピットに空母艦Lilinから通信が入る。
『こちら艦長の赤木です。これより本艦は主砲発射体勢に入ります』
中央の甲板が物々しい音を響かせて開かれると巨大な砲門が現れた。先ほどの通信で意図を察したウイングゼロはマシンキャノンを盛大に噴かせて牽制、ザナヴの動きを留めている。
『本艦との同時射撃を提案、目標及び、その周囲の残存勢力を一気に片付けます。返答を』
『任務了解した。こちらもツインバスターライフルの発射体勢に入る』
天使のような白い翼を羽ばたかせ、Lilinの位置する場所から更に上の空域に移動すると二対のバスターライフルを一対にして構え、エネルギーを溜め込む。
『ゼロシステム発動、予測による誤差修正範囲検知』
『MAGI予測システム連動、誤差修正完了、S2機関全基バイパス直結、ポジトロンスナイパーライフル出力最大』
巨大砲門の先に眩い光りが溢れ出して行く。同時期ツインバスターライフルの先端からも漏れ出るエネルギーの光りが臨界突破を物語っていた。
『ターゲットロック、ツインバスターライフル発射』
『対閃光、対ショック防御、目標をセンターに入れて、スイッチ!』
鼓膜が破れそうなぐらい巨大なビーム発射音と共に極太の輝きが二本の砲門から発射され、巨大なザナヴを飲み込み、勢いの残る二本の光りの筋はその背後に蠢く量産種すらも巻き込んで消し去った。危機を感じてビームの当たる前に逃げ出した量産主も今度はその光りが分かたれた事で捉えられ、その空域に居た敵は最終的に全滅する。
『任務完了。これより、残り残存勢力に当たる』
乗り手の特徴か、全滅させた余韻に浸ることも無く淡々と次の敵に狙いを定め移動を開始、Lilinは五機のガンダムと二機のエヴァが戦う空域の少し離れたところまで移動するとその動きを止め、未だに戦う彼らに向けて通信を行った。
『了解、こちらはこれよりこの場所を拠点として移動を止めるものとします。機体に不具合などがあった場合はすぐさま着艦するように』
通信を終えて、巨大な砲門が再び甲板に収まると今度は修理を終えたビルトビルガーが浮上してきた。
『付近に敵は掃討しました。これであなたを阻むものは居ない。あなたは目的を果たしなさい。これはあなたたちの戦争です』
「修理ありがとうございます。ビルガー、もう一度俺と共に行くぜ!」
甲板を滑るように低空飛行を行うビルガーがそのまま大空に浮上していくとスピードを更に上げ、前方に待つ相棒の下へ翔けていった。
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αナンバーズの殆どが大陸に上陸するとそれは現れた。
塔の真上、虹色の輝きを背に数多の翼を羽ばたかせた女神、この地球の正統なる守護者にして始まりのサイコドライバーの意志をコアに持つ機械仕掛けの神――ナシムガンエデン。
新たに強力なサイコドライバー、名をイルイと称する少女をマシヤフとして向かい入れたガンエデンが神々しい佇まいと巨大なプレッシャーをαナンバーズに惜しげもなく与えてくる。
『私はイルイ……イルイ・ガンエデン。遠くない未来に迎える終焉からこの星を守るため、私は再び舞い降りました』
通信から皆に優しく語り掛けるようかつて少女の声だったものより大人びた声と威厳ある別の女性の低い声が響き渡る。
『この星の剣となったあなた達ならば、私の憂いを理解してくれると思っていたのですが、どうやら見込み違いだったようですね。私はこの星を守護するもの、既にこの星を離れた者はその範疇ではありません』
女神の天上に浮かぶ輪が光り輝き始める。この時点で各機のエネルギー測定器は高出力を叩き出していた。
各部隊の機体に乗るパイロット、特にイルイと接点が深かったものが口々に説得をするもガンエデンの背に輝く虹色はその光りを増すばかり。
かつて旧ネルフの冬月コウゾウが述べたとおり、この星の守護神は酷く傲慢だった。
『楽園に住まう者達にガンエデンの加護を……仇なすものに煉獄にも勝る苦痛を』
塔の周りに転がる岩石がガンエデンの元に集まっていく。その一つ一つが紫の輝きを放つと、岩だったそれが魚、鳥、獅子と言ったクストースの量産種に様変わり、その数、約3万弱ほど。それら全てが攻撃態勢に入る。
未来を憂い、成すべきことを割り切れる大人たちはその手に武器を持ち攻撃を開始するも、その攻撃は焼け石に水と言った状態であった。
『守護の光りをあなた達に……歌声は天に……マヴェット・ゴスペル』
この瞬間、戦艦に乗る全ての艦長が各部隊に防御を命令、各部隊がそれらを遂行した直後、女性が奏でる歌声と共に何万と言う光りの雨がαナンバーズに降り注いだ。
その雨が止むと部隊の機体は所々焼け焦げたものの防御したおかげで撃墜したものは現れなかった。それでも、流石は古の守護神と思わせる攻撃に各々がイルイの説得、及び救出を無謀だと思わせてしまう。
『流石は私が選んだ剣、この程度では苦痛にもなりませんか……なれば、今度こそ地獄の業火にその身が焼かれるよう、ガンエデンの聖霊を呼びましょう』
再び数多の翼が羽ばたき、背に輝く虹色が増す。各機は今度こそ、本体たるガンエデンに狙いを定め攻撃を放つ。特機やリアル系の頂点に立つ部隊の攻撃は凄まじく流石のガンエデンに乗るイルイも眉を潜めた。
『私は敵ではない……神なのです。致し方ありません、神の力をここに……バラルの動力を一時的にガンエデン中枢経路に直結、古に封印した機能の一部を開放します」
イルイの宣言の下、塔から溢れ出る光りがガンエデンに降り注ぐ。すると、ガンエデンを守るように薄い光りの膜が現れた。その膜状のものはαナンバーズの攻撃をおよそ半減させていく。これには彼らも唖然とするしかない。
『これこそ、ガンエデンが誇る神の盾、太古の昔に自らの手で封印を施しましたが、あなた達の抵抗がその封印を解かせたのです。これで私は安心して聖霊が呼べると言うもの。今度こそ、神罰を持って業火をあなた達に与えたもう』
ガンエデンの胸部から現れた大人びたイルイが大地に落ちていく。
『テトラグラマトン』
言葉と共にイルイの姿が猛々しい西洋の伝承に出てくる竜の姿に変わり果てる。その巨体から大地を壊しながら立つ姿に、雄叫びに、すぐさま回避行動をとるαナンバーズ、先ほどまで居た場所は振り乱される巨大な尾によって見るも無残な場所に変わり果てていた。
『行きなさい、ガンエデンの聖霊ルアフよ、新たなマシマフを守護し、立ちはだかる愚かな者達に等しく神罰の裁きを』
イルイとは違うどこか機械的で低い声、イルイと重なっていた方の声がバラルに木霊する。その命に従うように聖霊――ルアフはその牙を誇る口からこれまでにないエネルギーを収束、慈悲無く放たれた。超巨大なエネルギーの筋は大地を焼き、彼らの機体を飲み込んでいく。それでも威力は収まらず、ルアフは口を天に持っていけば筋はバラルを貫通して地球とは反対方向の空間に伸びて行った。
撒き上がる黒煙、その中には駆動系や格動力をやられた特機が大地に膝を付き、それら特機に守られていたはずのリアル系の機体すらも装甲を溶かされ間接部分が火花を上げている。
『素晴らしい…その強さ感嘆に値します。ですが、そのような状態では次の攻撃に耐えられないでしょう。どうしますか、あなた達が剣になると宣言すればこれ以上の苦痛は与えません。共に終焉からこの星を守りませんか?』
言葉に宿る狂気、それは神の傲慢、すべてがそれに集約された問いかけに皆が口を噛み締め言葉を吐き出すのを止めるしかない。決まりきった返答を言葉にしたところで機体がボロボロの自分達に攻撃を止める術はなく、仮に最後の力を振り絞って攻撃を繰り出しても神の盾がある限り、攻撃は半減される。打開策を考えなければ、誰もが思った時、その返答は遅れてやって来た際もイルイと親交のある存在によって成された。
「答えは端から決まってらぁ!!」
『ええ、そうよ、私達はあなたの守護などに頼らない』
「この世界を守るのは俺達一人一人が行うことだ! 即ち、答えは守りませんだ!!」
高速で飛び出した二体の機体、ビルガーとファルケンはウイングを展開する。
「ジャケットアーマーパージ、ウイング展開!」
ビルガーを守るアーマーが外され、広がるウイング、真の姿が晒され更にスピードが上がる。ファルケンもまた出力を上げてそれに続く。
凄い速さで翻弄するかのようにソードで切り刻むビルガー、その後すぐにファルケンから撃ち出された銃弾が隙を埋めるようガンエデンに被弾、それが何度も繰り返され、その都度ガンエデンを中心に飛び交う。
「ツインバード!」
『ストラァァイク!』
最後は両機が交わるよう突出、ガンエデンを中心にクロスを描いて離れて行った。
二人の合体技、ツインバードストライクが神の盾に触れることなく発動され、ガンエデンに完璧な威力でダメージを食らわせる。
これにはイルイだけでなくその場に居た皆が驚きを見せた。それもそのはず、彼らの中には合体攻撃を繰り出したものもいたのにも関わらず、やはり神の盾によって威力を軽減されてしまったのだから。
「よっしゃぁ!! 攻撃を食らわさせてやったぜ!!」
『ホント、嘘みたいだけど、阻まれなかったわ』
驚きで動きを止めてしまったガンエデンに追撃として撃ち込んだオクスタンランチャーの銃弾も神の盾に阻まれる事はない。
『何故……どうして……神の盾が……発動されない』
驚きと未知なる恐怖に上擦った声を上げるイルイにその元凶となる存在がコックピットの中で不適に笑う。それを背後から聞いていたアラドが苦笑気味に、それでも内心ではその凄さに感嘆していた。
「ふふ、知りたいかい、教えてあげても良いよ、ナシム・ガンエデン」
全方位の周波数で紡がれた少年の声にある特定の特機に乗る二組は驚きを見せ、ある二人の少年少女は驚きながらも笑い声を上げ、ある五人組のガンダム乗りは納得の笑みを浮かべた。
遥か昔、互いに敵同士だった者達の再会が今成されたのだった。
次回 ナシムの憎悪と説得コマンドを持つ元アダムさん
*注 この話でのナシム・ガンエデンはOG使用となっています。間違いではありません。
次回もサービス、サービス……次で幕章は終わりです。