EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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 始まります。


後編

 

 警戒音が地下基地に響き渡る。

 

 基地にいるスタッフは空母艦Lilinに登場するようアナウンスが成されると、残っていたスタッフが慌しく搭乗し始めた。

 

 数分の後、カガリ以外全ての乗組員が搭乗するとその場所に海水が流れ込む。この空母艦、深海移動もお手の物である。

 

 さすが、赤木リツコの魔改造と思わせる行為を平然と行えるLilinが動き出す。深海に作られた通路を通り、そのままオーブ領域から離れると浮上し始めた。

 

 水しぶきを上げて海面に出れば空母艦本来の水上移動を開始、Lilinは悠然と航海に出た。

 

 移動を促す操作盤を動かしているリツコが、時折、指定された席で計器を調べながら端末を操作するスタッフ、周囲を探査、監視するスタッフに命令を下しながら海の旅は続く。

 

 ブリッチにはシンジやアスカ、カヲルを初め、艦長の赤木リツコがいて、後は三人ほどのスタッフが常駐していた。

 

「周囲の三キロ圏内に機影は確認できません」

 

 スタッフの一人がリツコに報告する。

 

「了解、このままの航路を維持、目的の場所まで後どのくらいかしら?」

 

 リツコの問いに別のスタッフが答える。

 

「五分後には目的海域に到着、その後、残りS2機関二基を起動、浮上した後、航路そのままにバラルの園へ向かいます。このままなにも無ければ十五分後に視界に入る予想です」

 

 それを聞いてリツコがパイロットに視線を合わせる。

 

「思っていたより時間は掛からないようね。シンジ君とアスカはパイロットスーツを着用後、エヴァ各機で待機、カヲル君は悪いけれど今回はダミーシステムの制御を手伝ってもらうわ」

 

 頷いた二人は即座にブリッチを後にした。残されたカヲルはダミーシステムの制御のため開いている席に座ると端末を操作する。

 

 時間して三分が経った頃、アナウンスによりパイロット二名がエヴァに登場した旨が告げられた。

 

 目的海域が目の前に迫る中、リツコが艦内全てに総通信を入れる。

 

「これよりLilinは飛行を開始する。艦内の所員は衝撃に備えよ。繰り返す、艦内の所員は衝撃に備えよ」

 

 通信を終えるとリツコは操作盤にある端末を物凄い速さでタイピングし始めた。その他スタッフもせわしない動きを見せる。

 

 一通りの操作を終えるとリツコは最後の端末を力強く押した。

 

「Lilin、浮上開始」

 

 言葉と共に580メートルの空母艦が轟音を奏で、揺れ始める。

後方下舷にある二基のロケットエンジンが火を噴くと僅かに上へと向く艦が空に進み始めた。

 

「姿勢制御、正常に作動。動力60パーセントを維持」

 

 スタッフの一人が現状を報告した。次いで別のスタッフが報告する。

 

「この速度を維持すれば、予定より三分早く到着する模様」

 

 モニターにはエヴァに使われるプラグよりも一回り大きい専用のプラグがLilinの中枢部に設置されているコアに差し込まれる映像が映し出されていた。

 

「Lilin専用Xプラグもコアに装着された。ダミーシステムも正常に稼動、MAGIを介して制御が僕に移行したようだ。これでフィールド発動も可能だよ」

 

 最後に締めくくるようカヲルが告げればリツコは一先ず、緊張から来る息を吐き出した。

 

「了解、どうやら正常に起動しているようね。細かい部分を入れれば六割の完成で起動可能、この戦いが終わったら完成させないとね」

「大丈夫だよ、カガリや、あなた、そして多くのリリンが想いを込めて作り出したんだ。きっとこの艦に搭載されたコアはそんな想いに応えてくれるはずだ」

「ありがとう、使徒に慰められるなんて貴重な体験ね」

 

 緊張を解すよう茶目っ気で告げれば、カヲルが苦笑で返してきた。

 

 

 

 

 

 

 予定通り上昇しながら進むこと十三分、ブリッチからの目視により大気圏に不釣合いな巨大大陸を捉えた。

 

「さあ、私たち新生エバーズの初戦よ、皆、覚悟は良いかしら?」

 

 艦内通信でリツコが問えば、帰ってきたのはスタッフの心強い雄叫びだった。

 

「これより作戦行動に移る」

 

 リツコの宣言の下、艦内全てのスタッフが慌しく動き始めた。ブリッチに常駐するスタッフも表情を引き締める。

 

「了解、動力を80パーセントに上昇」

「策敵開始……どうやら既にバラルの園では戦闘が開始されている模様、MAGIによる検索で旧ロンドベルのメンバーを多数確認」

「前方の目標周囲から不可思議なフィールドエネルギーを探知、MAGIによる予想では大陸を守る一種のバリアではないかと推測されます」

「うん、でもこのままの速度を維持で進んで大丈夫だよ、こちらも前方にフィールドを形成して突破できるはずだ」

 

 次々に上がる報告をリツコはその都度的確に返していく。そして最後にリツコは命令を告げる。

 

「大陸内部に到達後、彼らを支援、同時にエヴァのリフトアップを行う。各自、油断せずに」

 

 空母艦Lilinは速度を上げながら遂にバラルの園に突入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++

 

 

 

 スクールと呼ばれたパイロット養成学校出身のアラド・バランガは自身の搭乗機ビルトビルガーを操作しながら焦りの表情を浮かべていた。

 

 今まで共にしていたある少女を助け出さなければならないという気持ちの焦りが操縦に伝わり、相棒である同養成学校出身、ゼオラ・シュバイツァーの苦言すらも聞き入れないでかなり突出してしまったのだ。

 

「くそっ、完全に囲まれたぜ。最後の最後で撃墜され王の復活かよ!」

 

 クストースと呼ばれる鳥型の神僕カナフ、その量産型種およそ十五機に囲まれ防戦一方であった。幾重にも撃ち出される光り筋を今のところ被弾することなく避けながらも攻撃に転ずる事が出来ず、精神だけが疲労していく。

 

 彼はスクールでよく撃墜されていたことから撃墜され王と呼ばれていた。それでも、今の仲間たちと共に戦い抜き、自身も成長したと思っていた矢先の失態に内心で落胆する。

 

「これじゃあ、被弾も時間の問題だぜ」

 

 仲間たちは溢れ出てきた神僕の量産種や神僕自らを相手にしていて頼るのは無理、相棒のゼオラも何とかこちらに向かおうとしているようだが、やはり量産種に邪魔をされて近づけない。

 

「!? やべぇ!!」

 

 一筋の光りが僅かに肩を掠ったことで規則的に避けていたビルトビルガーの動きが鈍る。幸いにも駆動系にエラーは見られず、操作自体に影響が出なかったものの、今までの感覚が狂いだす。それが操作に影響してか、立て続けに三発ほど被弾してしまった。

 

「幾らビルガーが頑丈に出来てるからって、限度があるぜ」

 

 コックピットからエラー音が響き渡る。途端、操作と機体の動きに差異が出始めた。

 

「嘘だろ、駆動系がやられた!?」

 

 万事休す、その言葉に尽きるとは事ことか。

 

 狙いを定めるかのように光りのエネルギーを溜める量産種、モニターからそれを見たアラドは自身の撃墜を脳裏に想像する。次いで浮かび上がったのは金髪の少女が泣き出しそうな表情を浮かべる姿だった。

 

 終わりを確信したその時、コックピットから見知らぬ女性の声が響き渡る。

 

『そこのパイロット、死にたくなければその場から動かないで』

 

 声の直後に響き渡る轟音、一条の太い光りの筋が狙いを定めていた量産種の多数を飲み込んだ。その後、立て続けに四発の光りの筋がビルガーの周りを囲う量産種を捉えると跡形も無く消し去った。

 

「な、何だ! 増援か!?」

 

 モニターに映し出される空を駆ける空母艦にアラドが驚きの声を上げた。空母艦はそのままビルガーの下方を悠然と進んでいく。

 

『そこのパイロット、動きが鈍いようね。機体に問題でもあるのかしら』

 

 通信からくる指摘にアラドはどう答えて良いか迷いを生じさせる。自分たちの知らない戦艦、そしてその声の主、当然疑うのが筋と言うものだ。それでも、助けてくれたのは確かで、今も自分を心配する声色は確かなものだった。

 

『安心しなさい。私たちはあなた達の部隊の味方のつもりよ。何なら所属名を明かしても良いのだけど』

 

 それならば安心だ、と思っていたら、話には続きがあったようで。

 

『残念ながら私やこの艦に居るものたちはあまり表沙汰になると困る人ばかりで、それを知らせるとなると、あなたやこちらもそれ相応の覚悟が必要になるわ。それでも知りたいかしら?』

 

 酷く返答に困る問いを投げかけてきた。頭で考える事を苦手とするアラドとしては先ほどよりも更に迷わせる。

 

 それでも、このまま立ち往生していれば的になるだけで、駆動系の問題から戻る事も出来そうにないとなれば、結局取れる選択は限られているのだ。

 

「αナンバーズ所属、アラド・バランガ。機体の駆動系に問題が生じている模様、救援願えますか?」

 

 不安を滲ませた声色で問えば、すぐさま了承の声が上がった。

 

『エバーズ所属、空母艦Lilin艦長赤木リツコが承認したわ』

 

 Lilinと呼ばれた空母艦が突如浮上し始めると空中で立ち往生していたビルガーが広い甲板に着地する。

 

『これよりリフトを開きます。但し、中では監視が付きますから悪しからず。ですが、すぐにでも動けるよう修理班を遣しますから安心しなさい』

 

 通信が終わるとビルトビルガーの足元が開き、内部へと収納されていく。その時、ビルガーから僅かに離れた距離の場所から見たことも無い紫と赤の巨人が浮上してくるのをモニターは映し出していた。

 

 

 

 リフトによって内部に通されたビルガーから降り立ったアラドを待ち受けていたのは修理班と思わしき多数のスタッフと年齢の近い銀髪の少年だった。

 

 不安そうに当りを伺うアラドに目もくれず、スタッフは機材と共にビルガーへ向かう。

 

 その行動を見て得体の知れない組織に自分の愛機を触られるは困ると慌てて止めようとしたアラドに銀髪の少年が声を掛ける。

 

「旧ネルフ、今は新組織エバーズとして活動する空母艦Lilinにようこそ。僭越ながら僕こと渚カヲルが君の監視を行わせてもらうよ。スクール出身アラド・バランガ君」

 

 その声にアラドの警戒が跳ね上がる。自身の出身と名前が知られているのだ、それも仕方が無い。けれど、警戒するアラドなど見通した上で疑問に答えてくれた。

 

「これでもこの組織は前組織から培った情報網があってね。君たちαナンバーズの動向は調べさせてもらっていたんだ。だから君の事もその範疇だったわけだけど、詳しい君の個人情報は調べていないから安心して欲しい。好きな人が居るとか、恋人がいるとか、僕らは知らないよ」

「な、な、何で敢えてそこを抜粋したわけ!?」

「おや、その慌てよう、もしかしたら誰かさんを思い浮かべたのかな。もしかして相棒の子?」

「やっぱり調べているんじゃないか!!」

「ふふ、駄目だよ、それは答えを言っているものだ」

 

 慌てて手を口に持っていくも既に遅い。ケラケラとカヲルが笑い声を上げるのとは対照的にアラドは顔を真っ赤にして湯気を上げる。

 

「ブライト艦長も君のその素直なところを買っているのかも知れないね」

「え?」

「先ほどうちの艦長が通信で連絡しておいたよ。君の機体を修理するのに必要だったし、今まで不義理をしていたお詫びも含めてね」

「ブライト艦長を知っているのか?」

「僕はある理由から直接面識無いけど。うちの艦長や所属パイロットはとてもお世話になっていたよ。そうだね、言ってしまえば共に戦った仲というやつかな」

 

 そう言って、懐から写真を取り出して見せてきた。証拠としてなのだろう、そこには見知らぬ三人の少年少女と仲間であるプリペンダー所属のガンダム乗り五人組が映っていた。金髪の少女を真ん中に左右を黒髪の少年と茶髪の少女がしゃがみ、その後ろには満面の笑顔でピースするデュオ、微笑みを浮かべたカトルとトロワ、デュオに肩を組まれ嫌そうな顔を浮かべるヒイロと敵でも居るのかというぐらい睨み付けているウーフェイが特徴的だ。

 

「これはしゃがみ込んだ三人組が始めてお笑いライブを開催した記念に撮ったものなんだ。どうやら彼らがファンになったようで、その記念でもあるみたい」

「あのヒイロやウーフェイが笑ったの!?」

「さあ、直接は知らないから分からないけど、聞くところによれば、一番気に入ってくれたのがヒイロ君らしいよ。ただ、一ミリも笑っていなかったようだけどね」

「意味が分からない!?」

「うん、僕も。けど、金髪の少女曰く、握手を求めてきた時、笑い方が分からないから笑わなかったが、心がほっこりしたって言ったらしい。それでファン第一号になったみたいだよ」

「前半がヒイロらしいけど、後半のほっこりがヒイロらしくない!! そしてヒイロを虜にした金髪の少女たちがスゲェ!!」

「ちなみに金髪の少女は僕の恋人だよ」

「自慢かよ!?」

「うん」

「抜かしよる!!」

 

 最大級のツッコミを上げた頃にはもう既にアラドの仲で不信が払拭されていた。年齢の近さもあってカヲルとの会話がとても楽しいと感じるほどだ。

 

 その後も会話の応酬を続けていれば修理が完了していた。時間にして八分程、とても優秀だと言うことが伺える。そして何より、艦の外から度重なる戦闘音が響き渡っていて丁度良いタイミングであった。

 

「サンキュウ、これでまた戦える。あんたたちが何者かは知らないけれど、ここでの事は一応黙っているつもりだ。まあ、上官に聞かれたら黙っていられるか分からないけどよ」

「構わないよ、既にブライト艦長には僕らの事を黙っているようお願いしたからね。向こうも了承してくれたよ」

「そっか、なら良かった」

「けどね、君には修理の請求をしなければならないんだ」

「おい、ちょっと待て、タダじゃないのか!?」

「この世の中にはタダより高いものは無いらしいよ。良かったね、僕が良心的で」

「いやいや、鬼畜の所業だよ!! 今は何も持っていないからな!!」

 

 それに支給される資金は殆どが食料に消えてしまうので貯蓄も無い。修理費がどの程度なのか知らないが、自分の一食分より高いのは理解できる。アラドにとってそれこそ鬼畜の所業だ。

 

「大丈夫だよ、お金を請求するつもりは無いから。ただ、君には僕のお願いを聞いてもらうだけだからね」

 

 

 そう言って、カヲルは何を考えているのか分からない淡い笑みを浮かべ、逆に顔を見る見る青くしていくアラドはそのお願いを叶えるしか道が無いと悟り、項垂れるのだった。

 




 次回 彼らに再会を、バラルに女神を



 





 次回もサービス、サービス……ルートはリアル系男子、アラド君でした。これにより、その先もまた然りです。


 実はこの為だけに幕章として第二次を書かせてもらいました。第二次αのストーリーを楽しみにしていた方々には物足りない思われるでしょうがご了承下さい。

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