始まります。
木星圏内でゼントラーディ軍の先遣艦隊とエアロゲイター軍が戦闘を解したことが報告されたのはタシロが項垂れた直後だった。
これにより議題はすぐにそれに対しての対抗策に変わる。まず懸念されたのはこの戦いが何れ地球圏に飛び火するのも時間の問題ということ、これに対してロンドベルは非常警戒態勢を取る事に決定され、すぐさま実行に移された。
その後、二つの軍を出し抜く形で女性巨人メルトランディ軍がロンドベルを急襲、すぐにバルキリー部隊を先行させ展開して対応に当たった。その数分後、エヴァチームを抜いたロンドベル精鋭が出撃、一気に敵の先行部隊を壊滅させるも後続部隊が即座にその宙域に展開され、半ばジリ貧となっていく。いかに精鋭とはいえ物量で押されれば堪ったものではない。出撃したメンバーの気持ちに暗雲が経ちこめた頃、それは現れた。
場違いな静かな歌声が戦闘宙域に奏でられる。その歌はメルトランディの戦意を喪失させ、撤退に追い込んだ。三百はくだらない敵の小部隊が一斉に撤退するなか代わりのように展開し出す大部隊、ゼントラーディ軍がロンドベルに接触、休戦協定を結びたいと申し出てきた事によりこの戦闘は終わりを告げた。
ロンドベルのメンバーが自身の戦艦に戻る最中、ヒュッケバインMk-Ⅲの中で苦笑を浮かべるタスクは呟いた。
「ホント、どんだけ未来を知っているんだよ、あの人は…これも予想通りという奴ですかい」
脳裏にレイから渡されたプレート思い浮かべ、一路タスクは着艦した。
ゼントラーディ、ロンドベルによる休戦協定は宇宙アイドル、リン・ミンメイの帰還により恙無く行われ、共にメルトランディ軍をリン・ミンメイのプロトカルチャー、要は文化の一つとされた歌で排除しようとする旨で合意することになった。プロジェクトリン・ミンメイのプロディースチームは曲作りを開始、それよって曲事態は完成するもその歌に付ける歌詞作りに難航してしまう。
それを耳にしたタスクはレイに託されたプレートを控えてスカル小隊の一条輝に面会、丁度その時、三角関係の縺れなのか、痴話喧嘩なのか定かではないがリン・ミンメイと口論になっていた場面に出くわした事で残念ながら輝自身に手渡す事は出来なかった。その代わり付注のもう一人の女性、マクロスの航空管制主任、早瀬未沙にタスクはプレートを託す事にした。彼女はそれを受け取ると大きく驚きを見せるも手に入れた経緯については敢えて言及はしてこず、タスクとしては拍子抜けしてしまう。レイからはそれに関しての説明も貰っていたのだが無駄になったようだ。ちなみに彼らがその後どうなったかについてはタスクの知るところではないので言及はしなかった。むしろ、タスクの内心では一条輝もげろと、言ったところだろうか。
プレートの出現により急ピッチで歌詞が完成に近づくもその僅かな時差でメルトランディがロンドベルに対して再び部隊を展開、歌なしでロンドベルは戦闘を開始した。迫り来る女性部隊、ロンドベルエース級のパイロットが文字通り死に物狂いで戦ったおかげでこの宙域に展開する主力艦隊を残した殆どの部隊を壊滅する事に成功した。ところが、歌が完成しなかった事でゼントラーディ軍トップは休戦協定から一転してプロトカルチャー、文化を持つ人類を殲滅せんと大艦隊を展開、残された僅かなメルトランディ軍の主力を物量で殲滅するとそのまま、ロンドベルに襲い掛かってきた。
唯でさえメルトランディ軍との戦いで疲弊したメンバーは絶望的な大艦隊の前に成すすべも無く後退していく。
人類の敗北という結末が各メンバーの心に過ぎりだした頃、マクロス戦艦に設置された特設会場にてリン・ミンメイが太古の昔異性人の間で流行ったと思われるラブソングをその歌声で披露した。
――おぼえていますか、目と目があった時を、
――おぼえていますか、手と手が触れ合った時、
――それは始めての愛の旅立ちでした、
――Ilove you so。
紡がれる旋律、その優しい歌声は巨人たちを魅了させ、また恐怖させた。
これにより形成は逆転、プロトカルチャーを守るため自軍を裏切り人類に味方する部隊が現れ、怯える艦隊に攻撃を仕掛け始めた。ロンドベルの部隊も歌の効果か一気に活気が溢れ、最後の踏ん張りを見せて見事ゼントラーディとの戦いに勝利する。
戦いが終わり事後処理を行っていたマクロスに長距離通信が入ってきた。その内容にグローバルを始め、格戦艦の艦長は眉を潜める。
連邦より命令されたマクロス及びエクセリヲンの地球圏追放、それと同じくして日本の北東支部から齎された情報、ネルフ本部通信不能及び外部の接触が一切絶たれたというものにこれが何かしら繋がっているのではないかと予想したグローバルはすぐさま対策会議を開いてロンドベルのメンバーに意見を求めた。すると、またもやタスクが立ち上がり意見を述べる。
「あの人が言うにはもし、ネルフが外的との接触を一切絶たれていた場合、それは連邦を裏で操るある秘密組織が関わっているはずだと言っていたぜ。俺たちは無理することなく情勢を見守っていて欲しいとか言っていたけどよ、それってどうなんだろうな」
タスクの言葉に付け加えるかのように万丈が口を開いた。
「レイ君はゼーレの存在を知っているようだね。すると、連邦からの命令もキナ臭いものがあるな。あそこは虎の子のティターンズやOZを失ってそんな命令を出せるほど力を持っていない。そうなると、ゼーレが裏から手を回して命令させた事も考えられる」
冷静な意見交換に剛を煮やした甲児たち若いパイロットなどは助けに行こうと憤る。それ対してグローバルは命令違反が行われた際にN2兵器を自分たち部隊に撃ち込むこという脅迫があったことも付け加えた。
「とにかくよ、少ないとはいえまだ時間はあるんだ、俺たちは俺たちで出来る事を考えればいいんじゃねぇか?」
タスクが締めるように言えば、皆は頷いて意見の交換をしあうことになった。
宇宙に置いて戦いを終えたロンドベルが如何にして地球に向かうか、議論している頃、話題に中心たる地上のネルフ本部では人間との戦いが開始されようとしていた。
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密閉されたような暗闇の空間、その場所に碇ゲンドウは立たされていた。その周りを囲うように無機質なモノリスが鎮座していた。ただ、若干数が少ないのはご愛嬌である。そして唯一ゲンドウと同じ有機物のキールがバイザーを光らせていた。
「約束の時は来た」
厳かな声色でキールが告げる。
「STMCの襲来は近い……人にとって遍く悠久の揺り篭リリス、その覚醒は唯一リリスの分身たる初号機で持って行わなければならない」
ゲンドウは眉を潜めた。
「それではゼーレのシナリオとは違います」
「愚かな。貴様が我々を出し抜いてアダムをその手中に抑えているのは把握している。本来、我らはリリスのみでシナリオを遂行しなければならなかった。それが今や、リリスはお前の私物と化している。これを愚かと言わずしてなんとするか。貴様はアダムとリリスの禁じられた融合を望んでいるのだろう。だが、それは貴様が王となるだけだ。全ての群体を一つにしようとも貴様が王になるのだけは許さん。全て遍く平等にして永遠、これこそ我らが望むべきシナリオだ……いや、シナリオだった言うべきか」
キールの語りにゲンドウはサングラス越し目を細めた。決して愉快だったわけじゃない。むしろ、悲しかった。誤解なのだと声を出して言いたい。そんな気持ちであったが、口を紡いだ。言えない、リリスがある老人に心酔している事も、これから自身の願いが具現化したリリスに悲しいかな、命を掛けて挑まなければならないということも。
「アダムを…それに属するものを使う事はそれを行ったものを王にする禁断の儀式、死海文書に記されていた究極の支配。そんなものを認めるほどゼーレの理念は甘くは無いぞ、碇」
「我らとて王になるためにシナリオを遂行したわけではありませんよ」
「そうだとも、貴様は王になる器ではない。では何を望むか、我の口から告げてやろうか?」
「どうやら、あなた方老人は私の真の望みを既にご存知のようだ」
偽りの忠誠心を脱ぎ捨てたゲンドウが不敵な笑みを浮かべた。それを見てキールも口の端を上げる。
「ふふ、ここに来てようやく本性を出したか、碇よ。それこそが貴様だ。故に気の強い金髪娘も気に入ると言うものか……かなり怒らせてしまったが」
「?」
「いや、こちらの話だ。さて、貴様の望み、我らは愚かを通り越して哀れに思ったものだ。が、貴様らしいとも残念ながら思えてしまうのだよ、何故なら我らもまたそれを望んだ時期があった」
遠い過去を思い出すかのようにキールは一転を見つめる。モノリスたちも思い思いに過去に浸っているのかその空間は静寂に包まれた。
やがてその静寂を破るようにゲンドウは口を開いた。
「ならば話は早いというもの。覚えておくといい老人たちよ、何者もあなた方の願いたるリリスすらも私を止める事は叶わないということを」
ゼーレのメンバーが一斉に視線を向けてくるもゲンドウは表情一つ変えない。ただ、その視線が何処と無く憐憫に満ちたものが多分に含まれているような気がした。
「憐れなものだ。所詮、貴様の望みなど幻想に過ぎない。今からでも遅くは無い現実を見据えるのだ、碇」
「こちらにはアダム及び、リリスがあり、生命の樹の触媒たるロンギヌスすらある。望みは叶う」
「叶わんよ、碇。それは誰もが一度は望み、そして絶望する幻想の理、人に過ぎない我らでは望み得ない欲望の権化。力ある使徒ですらそれは叶わないだろう。使徒もまた神ではないのだから」
「それならばリリス、アダムそしてエヴァを使いきってでも私は神に至るまで」
「無駄だよ、碇。あれは神ですら叶わないのかもしれない。神話の時代、それを唯一行えたものがいたかもしれないが、その先に待つ破滅は逃れられなかった。それが今の世界だ」
苦虫を噛み潰したかのような表情でゲンドウはずれ落ちたサングラスを上げる。
「あなた方はそうまでして私に絶望を与えたいのですか。それともそうやって脅せば私が止めるとでも?」
「絶望でもなければ脅しでもない、歴然とした事実だ」
「話にならないようだ。もう戯言は止めましょう、あなた方は行動を起こす、私はその前に己の願いを叶えるだけだ」
その言葉に何処と無くゼーレメンバーが落胆するような雰囲気を醸し出していた。その中で唯一モノリスではないキールが涙を零してバイザーが火花を上げる。
「ここまで言っても理解できぬか、碇よ。そこまでしてあれに至りたいと言うのか、碇よ。ふふ、逆にお前のその鋼鉄のような願望に敬意を表したいほどだ、碇よ」
「………」
「そこまでの想いがあるならば、我らの妨害を止めて見事叶えて見せよ、我らすべての人間が辿り着けぬ『リア充神』の頂へ」
その空間が静寂に包まれる。
「ふっ………え? ……は?」
唯一人、混乱を極めるゲンドウの言葉にならない声だけが響く。
リア充神――リア充のその先、リア充王をすらも超えた存在だけが名乗れる称号である。リア充王ならば人の身でも十分なりえる称号であり、今の世が世ならばサンクキングダム正統後継者たるミリアルド・ピースクラフトはそれに最も近い存在だった。しかし、残念ながら国は落ちてしまい王となれなかったミリアルドはそれを手にする事が遂に出来なかったのだ。
これらの事実から今の世でリア充王の称号を得るということは夢のようだと非リア充からは信じられている。
そして、それを超えるリア充神、まずそれを名乗るためには人間が神に至らなければならないという中二病も真っ青な条件が前提である。そして万が一、いや億が一、兆が一、京が一、極が一、もう那由多が一、神に至れたとしてもそこから今度はリアルを充実させなければならないという過酷な試練が待ち受けているのだ。神に至ることすら幻想のような事なのに更にリアルを充実させなければならないという条件にかつて人間だった存在に果たして出来るものなのだろうか、ゼーレのメンバーは考えながらもその無謀な夢を死海文書によって本気で叶えようともした。しかし、結果は先に待つ絶望と神話の時代、それに近い存在が非リア充という破滅を招いていてしまった事実を知っただけである。
「ふふ、久々に意気の良い願望を持つものに会えたようだな、お前たち」
キールの言葉にモノリスたちが野太い雄叫びを上げた。それはもう歓喜に震えるようなものだった。
「えぇぇぇぇぇ」
勝手に望みを決め付けられ、こちらとしては勘違いされたゲンドウの絶句と共に紡がれる驚きなど何のその、ゼーレメンバーは勝手に盛り上がる。
「我らゼーレとは非リア充なる存在が集いし秘密結社」
「えぇぇぇぇぇ」
02のモノリスがそう言えば、ゲンドウは今知った真実に驚きを見せた。
「我らは一部のリア充を望まない。全ては平等を目指すのがその理念」
「えぇぇぇぇぇ」
05のモノリスが語る理念に従っていたのかというと呆れを抱きながらもゲンドウは驚きを見せた。
「そう、それは隠れリア充もまたその標的である事を忘れてはならない。いかに隠そうとも我らの目によって暴いて見せよう」
「えぇぇぇぇぇ」
04のモノリスが声高らかに宣言した、くだらない言葉にゲンドウは驚きを見せた。
「そしてこの度、我らの目は隠れリア充を発見する事に成功した」
「えぇぇぇぇぇ」
06のモノリスが言った言葉に、見つけられた人可哀想だな、だと人事に思ったゲンドウがお馴染みの声を上げた。
「隠れリア充碇!! 隠れリア充ゲンドウ!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
03の自分を指す叫び声にゲンドウは驚愕して声を上げた。
そして最後にバイザーをショートさせたキールが不気味な雰囲気を醸しながらも不適に笑ってみせる。
「我ら非リア充よりも隠れリア充たる、貴様が望めばもしかしたら叶うかもしれない」
「えぇぇぇぇぇぇぇ」
「我ら個人としては貴様がリア充神になる様を見てみたいような気もする」
「えぇぇぇぇぇぇぇ」
もう、本当の望みを正せない雰囲気にゲンドウはどうしてこうなったのかというツッコミを内心で行いながら声を上げた。
「だが、それはそれ、これはこれ、我らが悲願、全てを遍く平等にすることを成就させるために」
「えぇぇぇぇぇぇぇ」
「神と人は死を持って一つとなるべき時がきた」
「えぇぇぇぇぇぇ」
「うむ……すまない、碇。だから死を君たちに与えるしかない」
「!? えぇぇぇぇぇ」
「仕方が無いのだ、隠れリア充は許せん。もしも貴様が本気で望みを叶えたければ」
「えぇぇぇぇ……」
「抗って見せよ、碇。我らゼーレに……いや、かつて神にまで至らしめた憐れな非リア充体ゲベルの……そのおぞましき思念に」
「!?」
ネルフが所持する死海文書に記されていない不明の名を聞いて驚愕するゲンドウを最後にその空間は閉じられた。
次回 終わりの始まり
次回もサービス、サービス……これにて、間幕は終わりです。次回から再びストーリーが始まります。