EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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 始まります。


第二話

+サイドアウト+

 

 

 ネルフ本部では平時でありながら総司令官の命令により第二種戦闘配備状態で勤務していた。これにより、多くのスタッフは本部作戦部に缶詰状態、パイロットのアスカ、カガリ両名もエントリープラグ内で待機している。

 

 作戦参謀の葛城ミサトは指令の命令に不審なものを感じながらも、先の戦闘でアストラナガンが空間転移してきた事実があることから表面上は素直に従っていた。それでも行き成り本部に連れ戻され、言うも言わせず初号機と零号機を凍結処分された時は抗議したのだ。受け入れられなくともせめて理由を聞かせて欲しかった。結局、指令は体を以上に震えさせながらも教えてはくれなかったが。

 

 こちらとしてもあの場では食い下がるほか無かった。一緒に聞いていたシンジ君から発せられる黒い靄のようなものが指令を捕らえようと管を巻いているような気がして、脳裏に司令室が血の海になるというビジョンが浮かび上がり、すぐにその場を後にする他なかったのである。帰り際に鳴らされた盛大な舌打ちは指令を更に震え上がらせ、流石のミサトも引いてしまった。後で、アスカのシンクロ率検査を行っていたリツコにそのことを話してみれば、ため息を吐きながら駄目な男よねと独り言を呟いていたので、親友の恋は相変わらずなのだと内心で呆れてしまう。

 

 親友の恋が成就してはいけないような気がして心中で失敗しろと呟いているとリツコがデータを見せてきた。アスカのシンクロ率グラフである。そこには緩やかに下がっていく線グラフが映し出されていた。

 

 リツコが言うにはこのまま下がり続ければ処分もありえるという厳しいものだった。ミサトの心情としては共に戦ってきた仲間が切り捨てられるのは苦しいものがある。それでも、このままではエヴァを起動させるのも間々ならないとなれば、参謀として決断しなくてはならない。アスカもシンジ君のように変われるきっかけがあれば、などと他人任せな、正確にはある少女任せな、考えに苦笑してしまう。あの少女にすべてを託すのは酷というものだ、現に少女は意識不明からようやく回復したばかり、零号機の凍結処分に関しては指令の考えがどんなものであれ、まだ許せるだろう。少女にはゆっくり休んで欲しいのだ。 

 

 数時間前のやり取りを思い出しながらミサトが部下に命令を送っていると、モニターを監視していた青葉シゲルが声を張り上げた。

 

「ジオフロント内に強力な重力波を確認! 何者かがワープアウトしてきます!!」

 

 その場にいたスタッフ全員がモニターを凝視、歪まれた空間からエアロゲイターと思われる機動兵器が堂々と現れた。

 

「第一種戦闘配備」

 

 碇指令による、厳しい声が掛かるとモニターを見ていた全スタッフが慌しく動き出した。

 

「ようやく黒幕のお出ましだな」

 

 何時もの格好で座るゲンドウの横に立つコウゾウが呟いた。

 

「ああ、この場所に現れた時点で奴の所属する惑星にも我々と同様、死海文書が存在するとみて間違いないだろう」

「すべての祖の始まりがこの惑星か、それとも奴らの惑星なのか。奴がどの程度こちらの事を理解しているかによるな」

「問題ない、始動キーはすべてこちらで握っている。仮にこの時点で黒き月の民より与えられるはずの無い力を持って産れてしまったナシム、そのナシムをコアとした人造神が現れようとも我々の邪魔はもはや出来まい」

「始まりのサイコドライバーか、その力を受け継ぐものが産れてきているようだが、それは」

「ああ、それ即ちナシムの復活を意味する。それこそ、今のこの戦いが終わった後も戦いは続くという事を示唆しているようなもの。だから、その前に我々で補完を行わなければならない」

「終焉の銀河、アポカリュプシスが本格的に始まる前に、か?」

「その通りだ、我々は無限力と対峙することなど出来ん」

「だが、お前の息子が所属するあの部隊なら我々とは違う選択をするのだろうな」

「………」

 

 無言のまま、サングラスを反射させゲンドウが僅かに口の端を上げた。

 

「現にあの部隊にはサイコドライバーだけでなくその心に強いATフィールドを持ち合わせた者たちが数多く存在する。そして何より、人類の先駆けと呼ばれるニュータイプが産れているのだ、まるで銀河が先の世も存在したいと思っているようではないか」

「………」

「そんな彼らにとって我々の選択は悪でしかないのだろう」

「………未来は可能性とそれに突き進でいける生者の意思の数だけ存在する」

 

 空調設備が整ったこの場所にも関わらずコウゾウは腕を摩る。

 

「碇……随分とロマンチックな言葉を」

「ユイの言葉だ」

「それを早く言え、寒イボが立ってしまっただろう」

「………酷い」

 

 ぼそりと呟いた言葉をコウゾウは無視した。可愛い教え子ならまだしも可愛くないメンタル弱いオッサンの非難など心の端にもかからない。

 

 モニターには未だ沈黙を守るエアロゲイターの機体とバックアップとして出撃した弐号機が命令を無視して4号機を遮り攻撃を仕掛けようとしているところだった。

 

 再び、本部に警報が鳴り響く。

 

「未確認の精神波が伊豆沖から経由して正体不明の機体に集まっています!!」

 

『な、なによこれ!! あたしの中に誰かが入ってくる』

 

 オペレーター伊吹マヤがそう伝えるのと同時に通信よりアスカの悲鳴が聞こえてきた。すぐさま、ミサトはエヴァのATフィールドの有無を確認させるも、結果は正常に作動しているとのこと、しかし、精神波はそのATフィールドを中和しながら直接パイロットに掃射されているようだ。

 

「まさか、パイロットを介してエヴァを調べているとでもいうの!?」

「伊豆沖にはエンジェル・ハイロゥが沈んでいる。もしかしたら敵はこれが目的であの場所に落としたのかもしれないわね、相手は三万人分のサイキックウェーブ、今のアスカじゃ一たまりも無いわよ……パイロットの変更も考えておくわ」

 

 驚愕するミサトに反して冷静な意見でリツコが付け加える。

 

 このままではアスカの精神が壊されてしまうと判断したミサトが撤退を勧告した。しかし、当のアスカはそれを拒否、どうせパイロットを外されるなら死んだ方がマシだと吐き捨てる。まだ伝えていないはずなのに理解してしまったアスカに対して言葉が見つからずミサトは口を継ぐんだ。

 

 本部に同行していたシンジはそれに対して必死に言葉で撤退を促すが、アスカは聞く耳を持たない。そのやり取りを見ていたリツコが呆れたようなため息を吐き出したとき、別の通信から怒りにも似た絶叫が本部に響き渡った。

 

『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 声量の大きさに殆どスタッフが耳を塞ぐなか、シンジやミサト、リツコなどは驚愕の表情を浮かべてその声に耳を傾ける。

 

『簡単に死ぬとかいうなぁぁ!! 死んだらそこで終わりなんだぞ!! もう二度と大切な者に会えないんだ!! 残されたものはどうする!! お前の死を止められなかったことを悔いて悲しみに暮れるんだぞ!! それをお前は分からないのかぁぁ』

 

 カガリが放つ必死の叫びにゲンドウが僅かに苦笑を浮かべた。それを見ていたコウゾウが驚きを見せる。フォースチルドレンはゲンドウの独断で連れて来た存在なのでどういう関係かコウゾウは知らないのだ。ただ、少なくとも僅かに心許せる存在なのだと言う事は先ほどの苦笑で理解できた。

 

 反論するかのようにアスカが通信を入れた。

 

『うるさい、うるさい、うるさい!! あんたなんかに何が分かるっていうのよ!!』

『当たり前だ!! あたしはエスパーじゃないんだぞ! 禄に話したことないのに分かるか!! 逆にあたしを馬鹿にしているのか!!』

 

 逆切れするカガリにミサトとリツコは絶句、シンジは戦闘中に関わらず苦笑を浮かべた。心に届く言葉を告げているのに様になっていないのだ。

 

『でもな!! 心にも思っていないくせに死にたいとか抜かしているのは分かるぞ!!』

『な、何でそんなことが分かるのよ!!』

『未だにATフィールドが張られているのが言い証拠だ!!』

 

 通信から絶句する声が聞こえてアスカは沈黙する。そう、死んだ方がましと思いながらも自身を守るようにしてフィールドが張られているのだ。

 

「そうね、心が死んでいればエヴァが動くことは無いわ、あの子、馬鹿っぽいのに見ているところは見ているのね」

 

 リツコがポツリと呟いた。ミサトもシンジも同意する。

 

 やがて通信から小さな弱々しい声が届いた。

 

『……それでも、エヴァに乗れないあたしに何の価値があるというの』

 

 それはアスカが述べた初めての弱音だったのかもしれない。それに対して、カガリは事も無げにこう言った。

 

『禄に関わっていないお前の価値をあたしが知るわけないだろう!!』

『へ?』

 

 アスカが間抜け極まりない声を上げるのとシンジが、ぶっちゃけた!! というツッコミを上げたのは同時だった。

 

『でも、価値とか関係なくお前はあたしの大切な仲間だ!! 死んだら悲しいに決まっている!!』

『……何よ、禄に知らないのに仲間とか言って悲しむわけ?』

『当然だ、あたしだけでなくレイやシンジだって悲しむさ!! だってそうだろう!! あたしたちは見も知らぬ誰かが悲しまないようにこの機体で戦っているんだ、なら録に知らなくとも同じ仲間が死んだら酷く悲しいに決まっているじゃないか!!』

『!?』

『エバに乗れなくなった? なら、また乗れるようになればいい! 価値が見出せない? なら、新たにGEININという価値を生み出せば言い! GEININになりたい? なら、なればいい!!』

『GEININ!?』

 

 あ、この人ちゃっかり、芸人に誘っていやがる、最低だ!! シンジは本部に響き渡るほどのツッコミを叫んだ。

 

『そうだ、GEININにはコンビと呼ばれる二人一組だけでなく、トリオという三人一組の特殊な連携を組むグループも存在する。ボケ、ツッコミ、ツンデレ……いけるぞ!!』

 

「やっぱりな!! 的確すぎて僕が入っているのも理解してしまったよ、ちくしょう!!」

 

 

 シンジのツッコミは今日も冴え渡った。

 




 次回 母、帰郷






 次回もサービス、サービス……ふふ、アスカも崩壊の危機が迫ってきたよ。

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