始まります!
+今はレイの元おじい+
助け出されたトウジ君と共にわしらエバは異世界の戦艦ごらおんに収容された。そこでようやく、三人目のパイロット、アスカちゃんと会えたのだが、先の戦いで敗北したため、わしらに挨拶することなく自室に閉じこもってしまった。同じく、シンジ君も3号機に乗っていたのがトウジ君だとこの時知らされ、危うく己が友達を殺してしまうところだったと自責の念に囚われてしまい自室に篭ってしまう。カガリとわしは仕方なく、彼らの心が落ち着くまで接触は止める事にした。その代わり、ごらおんに乗っている一部の愚連隊所属機動兵器の操縦者と挨拶することになった。
「お二方、ようこそおいで下さいました。この艦の艦長を勤めさせていただきます、エレ・ハンムと申します。そしてこちらが副官を務める」
「エイブ・タマリと申します」
なんとこのエレさん、いやエレ様と呼ぶべきこの方は異世界の女王なのだ。確かに全身から何処となく高貴な雰囲気が溢れている気がする。カガリに至っては目が点といった感じで見つめていた。自分との違いを思い知らされているのだろう。まあ、わしはカガリのようなお転婆姫も好きだぞ。
それを雰囲気で感じ取ったのか、カガリがウルウルとさせた瞳でわしを見つめてきたから取り敢えず頷いておいた。
「では、次に我がヴァイストンウェルが誇る聖戦士をご紹介致しましょう」
エレ様がそう言うと、二人の男女とちっさい少女が前に出てきた。
「ショウ・ザマです、かつての東京都武蔵野市で産れた日本人ですが、今は聖戦士としてビルバインに乗っています」
黒髪で日本人らしい顔だと思っていたら、どうやら当たっていたらしい。武蔵野市出身とは中々、いいところに住んでいたようだ。で、今回異世界から逆輸入されてきたらしい。
「私の名前はマーベル・フローズンよ。元はアメリカのテキサス州出身だから、私もショウと同じね」
こちらも外国系の顔をしていると思っていたが、テキサス州か、中々米国らしい都市の出身ではないか。よし、シュウ君とマーちゃんだな、覚えたぞ。
というか、カガリよ、わしも気にはなるがそんなに見ていたら小さい少女に穴が開いてしまうと思うぞ。まあ、分からなくもないが……凄いな、妖精さん。
「今度はあたしね! チャム・ファウよ、先に言っておくけど妖精とかじゃないからね。種族はミ・フェラリオだから!!」
小さい少女はきっと散々、妖精と言われてきたのだろう。ボソリと妖精だ、と呟いたカガリの眼前に飛び出して念を押して告げていた。カガリはそれにコクコクと頷いていた。
次に紹介されたのはこんばとらーぶいとぼるてすぶいの操縦者だ。この時もう、カガリは名前を覚える事を諦めていたが、わしはなんとか覚えた。ただ、第五使徒の折、盾を用意してくれた件についてお礼を言った時にこんばとらーぶいの操縦者葵豹馬君がわしを見て驚き、すぐに視線を下に向けてそれ以後視線を合わせてくれなかったのは何故だろうか…気になる。小学生の小介君と唯一の少女操縦者ちずるちゃんが震える背中を指すって励ましていたがわしは知らぬ間に何かしたのだろうか…気になる。
続いて、げったーの子達とでっかいろぼっとを操る草間大作君たち、このゲームの主役、どうやらこの世界ではタスク君らしい、は別件で居ないらしく名前だけ教えてもらった。そして最後に獣戦機隊と呼ばれる何とも野性味溢れる人たちが紹介してくれた。
その中で、式部雅人君と呼ばれる子が初対面にも関わらず。
「君って、ホント可愛いよね。でも、君って残念なんだよね……はぁ、ホント残念だよ」
とか、抜かしてくれたのですぐさま背後に回って腕三角絞めをお見舞い、残念ではない、わしに夢で会えるかもしれないので眠らせてやった。それを暢気に見ていた忍君に雅人君の代わりに獣戦機隊に入らないかと本気のような声で誘われた時は、失神させたことを後悔してしまうほど雅人君に同情してしまった。
ちなみにその時カガリが何をしていたかというと、ちゃむちゃんに一生懸命ドッフンだ、でお馴染み変なおいちゃんのフリを教えていた。ちゃむちゃんはそれが楽しいのか一生懸命見ながら真似ているのだがショウ君はドン引きしていた。その光景を目にしてわしは姉妹関係を改めて見直そうかと思い立つもすでにわしらは最初に姉妹だと紹介しているので後悔先に立たず、である。
何時の間にか目覚めた雅人君が、お姉ちゃんの方が残念だねと言って来た時は素直に頷いてしまったのも仕方が無い。
愚連隊にはまだ沢山所属するものたちがいるらしいが今は部隊が分かれているらしく、他の子達も機会があれば紹介してくれるそうだ。
その後、ねるふ本部に着くまで空の旅を楽しむようエレ様より心使い頂き、わしらは宛がわれた部屋で休む事になった。
簡素なべっどに座り、静かに目を閉じているとドアを静かに叩く音が聞こえた。この時点でカガリではないことが分かった、カガリにのっくする気遣いは無い。
「どうぞ」
それらしく言葉にして促せばドアがゆっくりと開かれ、項垂れたシンジ君が部屋の前で立っていた。わしは手招きして、べっどの横を示した。すると、シンジ君は躊躇しながらも部屋に入ってきてわしの横に座った。シンジ君は座ってから視線を下に下げ黙って地面を見ている。わしも今は多くを語れる口ではない、死に物狂いになるのもかなり疲れるのだ。戦闘の後なら尚の事である。
お互い黙ったまま飛行音だけを耳に感じて過ごしていれば扉が大きく開かれた。案の定のっくなど知った事か、という態度でカガリが入ってきた。バナナを持って。そう、バナナを持って。
カガリはわし以外にいるとは思ってなくて一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐに何時もの笑顔になって備え付けの椅子に深々と座った。
バナナの一つをわしに手渡してきたので素直に頂いて口をつけた。カガリはもう一つをシンジ君に手渡したようだが、シンジ君は要らないと拒否したらしい。わしは無心でバナナに食らい付いていたから情報は耳でしか入らないのだ。
「ホントにいらないですから」
「そんなこというな、戦闘の後は疲れるだろう? 甘いものは疲れを取るぞ!」
「いえ、だから今は食欲が無いんです」
「うん? それは駄目だぞ、パイロットは体が資本だ。よし、あたしが食べさせてやろう」
「え!? ちょっと、そんなバナナを押し付けてこないでくださいよ! あ、くそまた、鼻に入ってきやがった!! ちくしょう!! あんたら本当に姉妹なんだな!! 攻撃の仕方がそっくりだよ!! 痛いっ!! 鼻がっ!! 鼻がぁぁぁぁぁ!!」
「すごいな!! 至高の存在GEININばりのリアクションだ!!」
「こんなに苦しいのにこの女、笑っていやがるだと!!! レイさん!! あなたのお姉さんは使徒やエアロゲイターなんかより断然恐怖です!! …ってぇぇぇぇ! レイさんが無心でバナナ食っていて僕らのやり取りなんか見てねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
いや、見てはいないが、耳には入っているぞ。それにしてもこのバナナ美味しい。この完熟バナナ女王は人が生み出した文化の極みだな。
そんなことを思いながらもわしの耳には歓喜に沸くカガリの声が聞こえる。
「凄いツッコミ力だ!! ツッコミ力四十八万ぐらいだな!!」
「基準が分からない!!」
「ツッコミ力の1はバナナ一房分だ!!」
「余計、分からなくなったうえに天然という存在が更に怖くなった!!」
ふむ、なるほど四十八万だとするとバナナ一房が大体五本だとして……バナナ二百四十万本……だと……凄い、圧倒的ではないか!! 何かに対して。
「どうだ、あたしとGEININの頂点目指してコンビを組まないか?」
「えぇぇぇぇぇぇ」
「お前とあたしならきっと遥か頂にも手が届くような気がする!!」
「えぇぇぇぇ」
「了承さえしてくれれば今から行くネルフ本部でネタ披露をしたいところだ」
「えぇぇ」
「ネタはそうだな…組織のトップに居るこんな父親は嫌だ、でどうだ?」
「え……」
「きっと、ネタを耳にしたどこかの父親はサングラスをぶっ飛ばすほど驚いて考えさせられると思うぞ」
「………」
さすが、カガリ。天然でありながら、シンジ君の内心にある今の状況を的確に抉ってきやがる。きっと当人は本気でネタ披露したいと思っているのだろうが、それはそれでいいのだ。要はシンジ君の内心に溜まった鬱憤を吐きだせれば、それだけで心が軽くなる。
バナナを食べ終えて幸せの余韻に漬かりながら顔を上げれば、キラキラとした瞳でカガリを見つめるシンジ君の姿があった。バナナを鼻に詰めて。
苦しくないのだろうかバナナを鼻に詰めて。
「出してみたら?」
鼻のバナナをと言いたかったが、口が動かなかった。それをどう解釈したのか、シンジ君はポツポツと今まで愚連隊で何があったのか話し出した。バナナを鼻に詰めて。
まくろすという戦艦のわーぷで冥王星に行く前、異性人の巨人と戦った事、冥王星から自力で岐路に着こうとして多くの敵と戦った事、特に木星付近に帝国を作り上げた木星人が同じ人間だったという事、いんぐらむ少佐という仲間が裏切った事、ダテ君がわしの師匠になってほしいといっていた事、薄情なわしに怒っていたのに火星に着いた頃には会いたくて仕方が無かった事、そして地球につくまで格闘技を習っていたという事、最後に今回のトウジ君に関する父親との事、それらをゆっくりと時に楽しそうに、時に悲しそうに話す姿は沢山の経験を経たからこそ浮かぶいっぱしの男の顔であった。何度もいうがその表情でも鼻にバナナを詰めている。
話し終えたシンジ君は部屋に入ってきた頃と比べて幾分表情が明るくなっていた。シンジ君は何かを思い出したのか、表情を改めてカガリに顔を向けた。
「吐き出したら、何だかとても楽になりました。あ、自己紹介がまだでしたね。セカンドチルドレンエヴァ初号機パイロット碇シンジです」
ああ、そう言えば自己紹介をお互いしていなかった。
「フォースチルドレンエバ4号機パイロットの綾波カガリだ。未来の相方でもあるからな、覚えておいてくれよ!! ちなみに姉妹とは別にレイとは相棒でもあるが、それはエバパイロットとしての相棒だ。GEININ相棒はお前だけだから不安がるなよ?」
「全然不安に思いませんから!! むしろ、まだそのネタ続いていたんですか!?」
「何だ? ネタなんかじゃないぞ。あたしは何時でも本気だ!!」
胸を張って宣言するカガリを眺めて僕の感動を返せよ、ちくしょう、こんなところも似ている姉妹だな!! と突っ込みながら、わしに視線を向けてきた。これは助けを求めている雰囲気だ。よし来た、任せておけ。
「楽しみにしている」
駄目でした。内心で平謝りしているとカガリが勢いよく立ち上がり、シンジを強引に連れて部屋を出て行こうとする。
「ど、何処に連れていくつもりですか!?」
当然、シンジ君は行くまいと必死に抵抗するのだが、このカガリ、頭は少しゴホゴホだが、力は並みの成人男性より強いときたものだから、まだ発展途上の上、元々がひ弱なシンジ君には歯が立たない。
「そんなのもん、GEININ道もネタの一本からというお母様からの教えを全うするため、これからネタを考えるに決まっているだろう!!」
「何ですか、そのお母さんの教え!! つまりはレイさんのお母さんでもあるんですよね!? あれ、何か納得している自分がいる……というか、力強いなカガリさん!! 父親の事より今のこの状況の方がよっぽどショックだよ!! 僕の鍛えた期間は何なんだったんだぁぁぁぁ」
必死に泣き叫び抵抗するもカガリにズルズルと引きずられ、部屋を後にした。その際、視線をわしに遣し目力で止めてくれと必死に懇願するシンジ君から、そっと視線を外してしまった。
何故なら……泣き叫んでいるのに最後までバナナを鼻に詰めている姿が面白すぎて直視出来なかったからだ。
すまない、シンジ君。
そう心で謝りながらわしは残されたバナナに手を掛けるのだった。
次回、ネタ、誕生
次回もサービス、サービス……バナナ二百五十万本分のポテンシャル。