EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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続きです。


第2話

 今、操縦席なう。

 

 いやはや、孫が教えてくれた言葉で現状をお伝えしようと思い、使っては見たもののお恥ずかしながら意味がよくわかっていない状態でして、これであっているのですよね?

 

 あ、合っているのですか、ありがとうございます、伊吹マヤさん。

 

 そんなわけで、これからエバンゲリオン零戦の起動実験が開始されます。私、少しドキドキですよ。アニメで見ていた操縦席と同じです、感動ものです、孫に自慢したい!!

 

 

 

 

〈これより、エヴァンゲリオン零号機起動シークエスを開始します〉

 

 

 

 

 

 

 通信が流れてきて、思わず首を傾げてしまいました。あれ、この巨人はエバンゲリオン零戦ですよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 

 オペレーターの伊吹マヤはエントリープラグ内にいるレイの映像を見ていた。自分の横に座るのは尊敬してやまない先輩、赤木リツコが青筋を未だに浮かべて座っているのだが、そのギスギスした空間に怯え、少し、この席に座るのが嫌だった。

 

「まったく、あの小娘、一週間前はまだ生まれたての赤ん坊のようだったのにどこであんな言葉を覚えたのかしら。ったく、私はまだ20代だってのぅ、確かに化粧の乗りが、あれ、こんなんだったかしら? もう少し頑張れるでしょ私のお肌ちゃん、なんて思ったこともしばしばだし、徹夜明けなんかは誰にも見せられないかもしれないけれど、あの小娘が言う若作りなんて一切していないわ。あの小娘、ほんと忌々しいわね」

 

 マヤは撤回する、すごく嫌だった。

 

 そこに疲れた顔をした作戦参謀、葛城ミサトがやってくる。この人はマヤにとって尊敬に値しない。同じ女性として少し不潔に思うくらいだ。何が不潔かについてマヤは口を閉ざすが。

 

「ちょっと、リツコ。あの子どうしちゃったの?」

 

「そもそも、十四歳の洟垂れ小娘の分際で……ん? なんのことよ?」

 

「あの子よ、あの子、レイのことに決まってるでしょ」

 

「また、何かしたの? あのお小便小娘」

 

 おがついても不潔です!! と内心で思ったマヤ。ミサトは深いため息を吐いて肯定する。

 

「あの子、何度言ってもプラグスーツを全身タイツだって言うのよ」

 

「はあ?」

 

 リツコ同様、口には出さないがマヤも同時に首を傾げた。意味が分からない。

 

「だ・か・ら、あの子の着ているスーツを私が何度もプラグスーツだって言ってるのに全身タイツだと言い張るの、仕舞にはどこか誇らしげにプラグ全身タイツだって言うものだから直すのを諦めちゃったわ」

 

 げんなりした様子のミサトに日頃、不潔だと思っているマヤも同情を禁じえない。逆にリツコは何かを考えている様子だ。もしかしたら、可笑しくなったレイの原因を追究しているのかもしれない。何しろ、マヤにとって彼女は尊敬どころか崇拝の息まで達している先輩なのだから。

 

「そうね、そうなったらエヴァのコックピットもエントリー全身タイツになるのかしら」

 

 マヤは思った、先ほどの思考を今すぐ溝川に捨ててしまいたいと。

 

「私、嫌よ、号令でエントリー全身タイツなんて言うの」

 

 本当に嫌そうな顔でミサトが言った。

 

「でも少し、面白くないかしら。想像してみて、碇司令が言うのよ、エントリー全身タイツの射出を急げって……ぶふっ」

 

「ぶふっ」

 

 机を叩いてげらげら笑っている先輩方をマヤは汚物を見るような目で眺めているとレイが映る映像の方から小さな声が聞こえてきた。プラグ内の通信装置が高性能すぎてレイの独り言を拾ったのだ。

 

『……なう』

 

 それでも声が小さすぎるのか、よく聞こえない。マヤは汚物から目を放して映像の方に耳を傾けた。

 

『操縦席なう』

 

 うん? マヤは内心でそう思った。

 

『操縦席なう?』

 

 何故に疑問系なのか、マヤこそ疑問である。

 

『……操縦席ない?』

 

 何故そこで、間違うのか。マヤの疑問は膨らむばかりだ。

 

『操縦席……なう』

 

 心なしか、声に自信が無い。そこでようやくマヤは気づいた。パソコンで操作してプラグ内との通信を可能にすると彼女に自信を持ってと言った。

 

『……ありがとう、マヤさん』

 

 お礼だけに留まらず、名前まで覚えられていてマヤの心はキュンっとする。普段同期の日向マコトは黒縁眼鏡、青葉シゲルは長髪と見た目だけで呼ばれており、マヤ自身も何かしらの見た目で呼ばれると思っていたのにも関わらず、不意打ち気味で名前を呼ばれ、子供を生んだ覚えも無いのに母性本能をダイレクトに刺激された。今なら、どんな不潔なことに対しても慈愛と母性で許せるような気がする、マヤであった。

 

 未だにゲラゲラ笑う先輩二人とそんな二人を先ほどとは打って変わって母親のような目で見守るオペレーターがいるこのカオス空間が一瞬にして引き締まる。

 

 サングラスをかけた男、碇ゲンドウと初老でありながら、綾森波尾も嫉妬するぐらいダンディーな男、冬月コウゾウが部屋に入ってきた。そして席にゲンドウが座るとその横に立つコウゾウ、お馴染み、司令室での定位置が完成だ。

 

「始めろ」

 

 ゲンドウの渋い声がかかると、先ほどまでゲンドウの痴態を想像して笑っていたリツコが真面目腐った顔で実験の説明を行う。隣に立つ、ミサトも歴戦の司令官のようなキリッとした顔つきで状況を見守る。そのギャップが可笑しくてマヤは口を手元に当てて笑いを堪えるのに必死だ。運がいいのか司令官、副司令官か共にいちオペレーターの表情に見向きもしなかったようだ。

 

 説明も架橋に入ってきたようだ。今実験の懸念事案がリツコによってもたらされた。

 

「ただ、搭乗者の精神に少し不安が残ります」

 

「どの程度だ?」

 

 手を眼前で組んだお馴染みの格好でゲンドウが問う。

 

「……未知数とだけ」

 

「構わん、予定が押している、始めろ」

 

「最悪の場合、パイロットが使用不可になる可能性がありますが?」

 

「次の週には予備もくる、問題ない」

 

 ゲンドウがそう言い捨てれば、リツコは僅かに頬を上気させ、ミサトは苦虫を噛み潰したような顔、マヤに至っては、それは不味いだろうというぐらい目を吊り上げ、自分の働く場所のトップを射殺さんばかりに睨みつけていた。これも運がよく、見られることは無かったが。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、波尾が見ていたアニメでも少量しか語られていない起動実験の開始であった。

 




まだ始まらないというお話。

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