+サイド今はレイの元おじい+
わしが拘束されたこの日、冥王星よりまくろすが帰還したそうだ。おーぶのテレビ局もこの話題を仕切に取り上げている。
なぜ、拘束されているのにテレビが見られるのかといえば、人道的な対応なのか、綺麗に装飾が施された庁舎の一室で、これまた豪勢な椅子に座り、アスハ氏が入れてくれた、多分高級な紅茶を飲みながら、凄い薄型テレビでニュースを見ているからだ。当然、横にはアスハ氏が優雅に紅茶を飲んでいる。
彼女は愛すべき馬鹿だとわしは思う。いくら人道的とはいえ、旗から見たらこれは招かれて楽しくお茶をする友達関係のようだ。
「マクロスか、異性人の船だって噂だが本当なのか?」
「今の人類にわーぷ技術は作れない」
「なんだと! あの船にはワープ技術が搭載されているのか!?」
「それの暴走で冥王星に行ったらしい」
「他者の技術を無闇に使うからそうなるんだな!」
「きっと、事情があったはず」
「外敵に襲われたとか?」
「多分」
「お前、詳しいんだな」
「アスハ氏よりは」
「おい、さっきからアスハ氏って言うけどな。それは氏名であって名前じゃないぞ! 私の名はカガリだ!!」
「カガリ氏」
「氏はいらぁぁん!!」
「カガリさん」
「まあ良いだろう、そうだ、お前の名前は?」
「綾波レイ」
「確か日本は逆だったな、つまりレイだな!!」
「そう」
「よし、今からお前をレイと呼ぶぞ!! 反論は認めないからな!!」
レイ、レイ、と嬉しそうにわしの名前を言葉にしている事から、カガリさんはあまり友達がいないと思う。
その後、高級そうに見える箱からくっきーが出され、食べているところを見ながら満足そうにしているカガリさんと無心に食べるわしはまったりとした時を過ごすのだった。
「何で容疑者とまったり過ごしているんだ、あたしは!!」
今頃気づいたのかそう叫んだカガリさんの口元には夕食に出されたヒラメ料理に付属するソースが付着していた。今、わしは庁舎からカガリさんの屋敷に招かれたのかもしれないが、一応移され、大きなテーブルで高級料理を堪能している状態だ。
とっても美味しく頂いています、ヒラメの焼き料理。心の中で感謝の言葉を述べて口には無心に料理を運ぶ。
「おい!! レイの料理を下げさせろ!! これから尋問を行う!!」
(そんな、その言葉は聞きたくなかった。こんな美味しい料理が食べられないなんて酷すぎる!!)
「……酷い」
「待て、尋問は食事の後にする。ゆっくり食べさせてやれ!」
「食後にお茶が飲みたい」
「尋問する時は紅茶を出してやろう!」
「デザートも欲しくなる」
「お、それはいいな。南国から取り寄せたフルーツがあるぞ」
「……バナナ好き」
「あたしはマンゴーが好きだぞ」
「楽しみ」
「そうだな! この後の尋問が楽しみだな!」
こうしてこの日は楽しく食事を取り、談話室のような場所で南国気分を味わいながらフカフカのベッドで就寝するのだった。ちなみにカガリさんは友達とお泊まりがしたいということで客室の二台あるベッドの一つで眠っている。
「てっ!! 何故に容疑者と一緒に寝ているんだ、あたしは!!」
「うるさい」
「あ、すまない、って違うだろう!! 尋問が出来ないではないか!!」
「寝不足は肌に悪い」
「うっ、それは駄目だな、こんなあたしでも女の子だからな…よし寝よう!!」
そう言ってカガリさんはベッドに入って眠りだした。数分もしないうちに寝息が聞こえてくる。
ここまでさせて思うのも何だが……ちょろいな、カガリさん!!
わしは明日の朝食を楽しみにして眠りにつくのだった。
+サイド 碇シンジ+
冥王星からようやく戻ってきた僕たちは休む暇も無く部隊を三つに分けて人類の敵に対処することになった。
エヴァ組は異世界の戦艦ゴラオンに搭乗して北東支部に帰還することになった。数時間もしないうちに日本の北東支部に到着すると今度はエヴァ各機体のメンテナンスと強化武装を施すため、第二新東京市のネルフ本部に向かうことになった。
「もうすぐ、ネルフに帰れるんだ」
考え深く呟いた僕の言葉を新しく仲間になったアスカが聞いていたらしい。声を掛けてきた。
「随分嬉しそうじゃない、馬鹿シンジ。もうすぐ愛しのファーストに会えるからかしら?」
「なっ……」
図星を指され、僕はきっと顔を赤くしているはずだ。そんな僕をアスカはニヤニヤした表情で見てくる。
「そんなに可愛い子なんだ、まっ、あたしには負けると思うけど、資料を見た限りでは顔のつくりは悪くなかったわ」
「レイさんはそんなんじゃないよ、どっちかって言うとお姉さんかな?」
「同い年なのにさん付けなわけ?」
「まあ、中身はオッサンぽいところがあるから」
「なにそれ、そんなのに会いたいわけ?」
そう言われると、素直に会いたいと述べられないお年頃、察して欲しいがアスカに期待するのは無駄だと思うので頷くだけに留めた。
出発する時の怒りはもう心の何処にも存在しない。まさか、あの後冥王星まで行くとは思わず、レイさんは間に合わなかった。それが少し寂しいと思った時点で怒りはなくなっていた。ただ、無性に会いたかったのを覚えている。そんな僕よりリュウセイさんはレイさんと合流できなかった事に酷くショックを受けていたようだ。旗から見たら、イングラム少佐が裏切った時よりもショックを受けていたように見えたのは気のせいではない。むしろ、棒で殴られ、バナナを買わしてくれなかった事に酷くご立腹で裏切った直後にバナナの仕返しとばかりに少佐の乗る機体をボコボコにしていたような気がする。少佐が退散する時、酷く焦った声で、もう合体できるんじゃね? とか言っていたがどんな意味だろう。ミサトさんなどはその言葉の真意を考えるために会議まで開いたほどだが、詳細は分からずじまいだ。
「残念だけど、レイは今ネルフにいないわよ」
「え!?」
驚愕の真実と共に声を掛けてきたのは我らがお姉さん的立場にして寝相が悪いらしい、ミサトさんだ。
「なんか、司令直々に命令が下されて外国にいるらしいわ。私ですら詳細を教えてもらえなかったからきっと諜報部扱いね」
酷くショックを受け、肩を下げる僕を見てミサトさんが苦笑する。逆にアスカは眉を潜めていた。
「諜報部って、ファーストは特殊な訓練でも受けていたわけ?」
「そんなはずは無いんだけど、あの子だったらありえそうで怖いわ」
「だったら無謀じゃないの……あたしたちはパイロットだけをやればいいのに」
後半は小さくてアスカには聞こえなかったようだ。
「あら、レイはパイロットもちゃんとやっていたようよ。私たちが冥王星に行っていた頃に現れた第八使徒を一人で倒したみたい」
その言葉にアスカと僕は驚いた。それは当然で。
「ちょっと、リツコが言ってたじゃない、使徒は私たちの方に現れるって!!」
「そうですよ、レイさんがいなかったら今頃地球は誰も住んでいなかったかもしれないんですよ!!」
「ホントよ、あの泣き黒子、何がロンドベルは使徒を引き寄せる鈴になるよ、全然、引き寄せてないじゃない。これだから下手な男に泣かされる羽目になるのよ。あいつ昔から駄目男に弱いところがあってね、大学の時なんか、男のために借金を六十万もして――」
「これ以上昔話をするなら、こちらも控えてる手札をこの子達に見せるけどいいのかしら?」
「げっ、リツコ……様、お早いお帰りで、本部の方はどうでしたか?」
青筋をはっきりと浮かべた、赤木さんが持っていた書類を引き千切らんばかりに力を込めながら歩いてくるのを青い顔したミサトさんが出迎える。
「あんたの付き合ってきた男が皆彼に似ている話でもしましょうか?」
「勘弁してください、リツコ様!!」
「高級料亭、高級フランス料理」
「すべて奢りますとも」
赤木さんは書類の持つ手を緩めた。どうやら話はついたようだ。次に赤木さんは苦笑を浮かべて僕たちの方を見た。
「今回ばかりは釈明のしようもないわ。MAGIの予想などでロンドベルに使徒が集まる可能性が高いことから発言したけど、あくまで予想は予想でしかなかった」
「でも、レイさんがいてくれたから良かったじゃないですか」
フォローの意味も込めて僕が言えば、赤木さんは複雑な表情に変わった。
「素直に嬉しいと思えないのはあの子だからでしょうね」
「リツコもファーストが苦手なのね」
「今後、合流したらアスカも会うことになるだろうけど覚悟しておきなさい。あの子に常識は通用しないわ。人の心を抉る一言を述べるわ、私たちの常識とはかなりずれてるから」
ミサトさんが皮肉げな笑みでアスカに告げれば、僕を見て嫌そうな顔をしながら日本にはろくなのがいなのね、とか言ってきた。それって、僕も入っているのかな。
おかしい、最初の出会いはそこまで悪くなかった気がするんだけど。ただ、薄情なレイさんのことで苛々していたから笑みに出ていただけだと思いたい。そう言えば二号機に乗る時、僕を乗せるはずだったのに初号機に乗ってくれって懇願されたっけ、僕は唯、レイさんの薄情ぶりを一時間淡々と口にしていただけなのに。
言っておくけど僕はレイさんと違って普通だよ。うん、最近、豹馬さんと会えば必ず怯えられるけど普通だ。え、何でそんな顔をするのさ、アスカ。え、気にするなって? なら、そうするよ。
まあ、でもそうか、レイさんの零号機も改修されて僕らと合流するんだ。そう思うとあの辛かった冥王星の旅が報われるような気がした。あれ、こう思ってしまう僕ってレイさんに少し依存しているのかもしれない。気をつけないと駄目だな。
自分をそう叱咤していると赤木さんが口を挟んできた。
「ちょっと待って、今回の使徒の件で合流の話は無かった事になったわ。今後は不測の事態に備えてレイはネルフに常駐することになった……の…」
あれ? どうしたんですか、皆さん。僕から視線を外して体を震わせるなんて風邪でも引いたんですか? 駄目ですよ、この部隊は体が資本なんですから。それにこれから行かなければならないでしょ? どこって、本部に決まっているじゃないですか、僕の一応遺伝子上のマダチに会いに行くでしょう。え? 武装強化とシンクロ率検査のためだって? 何ぬかしているんですか、同じ事ですよ。
最近僕、エヴァを動かすのはイメージ力が大事だって気づいて色々な格闘術やら戦闘術、果ては暗殺術を習っているんですよね。誰にって、この部隊には教えを請える人物が沢山いるじゃないですか。結構力もついてきてタッパも良くなったと思うんですよ。だから、
「だから、あのサングラスを血の海に叩きつける事も可能ですよね」
そう言い切って、僕は歩き出した。目指すはあの趣味の悪い司令室だ。
聞いてください、レイさん、僕は自分の父親と話せそうです。僕の想いを、僕の願いを伝えられそうです。突っ込み以外では口下手な僕でも話せる言語があると分かったんです。
人類だけではなく異性人にも異世界人にも、使徒にすら届く万能言語、太古の昔からある最古の語源。
その名も肉体言語って言うんです。知っていましたか? レイさん。
その後、僕の行くてを阻む、第九使徒が現れたんだけど、もちろん言語をもって撃退、その足で司令室に行ったんだ。
けれど、残念ながら父はどこかに出かけたようでいなかった。だから仕方なくメッセージを残す事にする。
司令室にあったあの机を真っ二つに割っておいた。意味は父が勝手に考えるんじゃないかな。
僕は頑張って今日も生きています。だから、レイさんも元気でいると嬉しいです。そしてすぐにでも合流してくれるともっと嬉しいです。
司令室に不在だった、ゲンドウは過去を思い出しながら船の旅と洒落込んでいた。
次回 再開の価値は
次回もサービス、サービス……こんなんどうでしょう?