+サイドアウト+
戦場は火山付近ということで民家などは殆ど無い地形であった。零号機改はその場に到着するとそこいら散らばる武器ボックスの中からパレットライフル左手に専用マグナムを取り出して装備した。
その様はまるで試作型ロボダイのようだとモニターで見ていた同志は興奮の歓声を上げる。それもそのはず、本来特殊装甲の塗装は青のはずだったのにも関わらず、今は濃いダークグリーンに様変わり、両肩のウェポンラッグは過去案では縦に伸びるタイプであったが、試作型ロボダインのようにウイングのような形状のものが後ろに伸びていた。後ろに伸びたそこには使徒感知センサー付き誘導ミサイル弾二百五十発が搭載。両肩を合わせて五百発、搭乗者の意思一つで撃つ数を決められる。自爆の恐れをすべてATフィールドという盾に賭けた武装だ。ウイングは取り外し可能でその時応じて別のウイング、ニードル高速連射搭載型と交代可能という凡庸制も持ち合わせている。左腕には着脱可能な申し訳程度の盾が搭載されていた。これは一応ロボダインでは盾の役割を担っていたが役に立ったことは一度としてない。そこで零号機改では盾自体にプログレッシブナイフに使われる超振動発生装置を搭載、盾の表面上を振動させ物理的なものを粉砕して防御、盾を突き出して突撃すればそれだけで強力な武器となるように仕立て上げた。それだけでなく盾の裏側には特性合金で編みこまれたロープが巻かれており凡庸制も高い。当然、自動で巻き戻せるようになっている。足元に関して過去案では触れておらずそのままになるはずだったが、今回ロボダインの隠し武器をヒントに足元にも小型のウェポンラックを搭載することになった。見た目ロングブーツのような形状の中には本来肩に搭載するはずだったプログレッシブナイフを二本搭載、両足で四本、このプログレッシブナイフは開発部が無駄な中二根性で作り上げた新型で、二本の柄と柄の先端を合わせて上下両刃のプログレッシブ暗器になるのだ。足のウェポンラッグも着脱可能である。
そして何より変わり果てたのが頭部の部分であった。モノアイは変わらずともその色は血のようなダークレッドの色に変えられ、目から下の部分を覆い隠す装甲と同じ色の仮面が装着された。
なにより、額の部分には直線状の角が取り付けられているのだ。これには完成された零号機改を見て開発班、整備班は興奮の一途を辿ったほどだ。初号機が神話で語られるユニコーンのような角ならば、零号機改はただ天を目指すという意思を思わせる角である。
火口からマグマが噴出してその乗じて黒い幻影が飛び出した。そしてそれは上空を悠々と飛行し始めた。
見た目は腕の付いたヒラメのような形状であるが、その皮膚はマグマでも平然と泳げることからとても強固であると予測される。
様子見の如く零号機改はパレットライフルを上空で飛行する使徒に撃ち込んだ。当然、相手のATフィールドで無駄玉になるが、使徒の標的が零号機に定められた。
速度を上げて突進してくる。零号機改はマグナムを撃つことで牽制しながら僅かな動作で突進を回避しながらライフルを容赦なく発射した。中和の範囲だったのかATフィールドを貫き、銃弾は使徒の皮膚に全弾着弾するも一ミリも傷を残すことはなかった。
『やはり、予想通り堅いですね。それに上空の飛行も厄介だ』
参謀からの通信にレイは声を出さず頷いた。向こうも返答を求めていないのか淡々と告げる。
『戦闘開始から三分、N2爆雷投下まで三十分を切りました。本来パイロットにはこの事を告げてはならないよう命令されていたのですが、同志の心意気のため、伝えることにしました。余裕はないとは言え時間はまだあります、威力の高い射撃武器を選択して戦闘を行うようにしましょう』
通信が切られ、レイは力強く操縦桿を握った。
空のライフルとマグナムをその場に捨てて零号機は走り出す。それに追随するかのように使徒が低空飛行で追いかけてきた。付近の森に無造作に置かれていた武器ボックスを開けたところで後ろから使徒が迫ってきた。仕方なく武器を取るのを中断して左腕を横に構えて突き出して盾の機能を作動させた。振動により淡い光に包まれた盾の表面上に使徒の頭部が激突、ナイフで刺したときのような金きり音と火花が散る中、押し付けてくる力と押し出そうとする力の拮抗で地面が抉れて行く。押し合いが数十秒続いた頃、使徒は突撃を諦めたのか零号機の横を通り抜けて上空に飛翔した。だが、そこ見逃すレイではなかった。
「背後ががら空き」
ボックスの中にある武器を取る格好で肩にあるウェポンラックを開いた。
「全弾発射」
声と共に肩に詰まれたミサイルが轟音を上げて勢いよく飛び出した。そのミサイルは使徒が飛び去った斜線軸から若干ずれていたるにも関わらず、物凄い速度で対象を追いかけていった。
打ち終えたレイの元に通信が入る。
『MAGIのパターン解析による追撃プロトコルは正常に作動しているようですね。あのミサイルには予め予測されたパターンをプログラムされていますから対象以外に行くことはありません。ただし、敵はATフィールドを持っていますので着弾してもどのくらいの威力になるかは予測不能です』
「こちらも追撃を開始」
通信を終えて零号機は武器ボックスからスナイパーライフルを取り出し構えた。ミサイルから逃げるように右往左往する使徒へ標準を合わせた。
「目標を真ん中に合わせて引き金を引く」
撃ち出されたビームは使徒の寸前を通り過ぎ去った。
作戦本部にてモニターを眺めていた開発班と整備班は明らかな落胆の声を上げる。しかし、参謀の若い男は笑み浮かべ深く頷いた。
「流石です」
モニターに映し出されていたのはビームを前方に打たれ飛行を止めた使徒にミサイル郡が飛び込んでいく様だった。落胆から一気に歓声が上がった。モニターでは数多のミサイル郡に晒された使徒に対してスナイパーライフルを無慈悲に撃ちながら次の武器ボックスに向かう零号機の姿が映し出され、作戦本部は更に盛り上がっていく。
「そのボックスにあるものがこの中で一番の威力ですよ」
参謀が通信を入れると零号機は撃ちつくした銃を放り投げてボックスから先ごろ第五使徒に使われたポジトロンスナイパーライフルの部品を取り出して素早く組み立て構えた。残念ながらあの時の威力ほどではないが、それでも十分使徒に対して効果的だというMAGIのお墨付きだ。
爆煙に包まれて見えない使徒など関係なしに撃ち出された極太のビームは対象に被弾、貫いたとばかりに光の筋が空に突き進む軌跡を描いた。
作戦本部でモニターを眺めていた参謀が息を飲む。両班の誰もが結果知りたいのか前のめりになるようにモニターを凝視していた。
直後、光の十字が空を満たすと作戦本部はこれ以上ないぐらいの歓声が響き渡った。
作戦本部に戻ってきたレイを皆が祝福の言葉を持って迎えた。代表で若い参謀が口を開く。
「勝利の宴、私たちのポケットマネーで場所を貸し切りにしますか?」
それに対して通信からレイの静かな口調が響き渡る。
『宴の会場は私の名義でねるふの会場を押さえて』
「それは構いませんが、どうしてネルフで行うのですか?」
『会場には大規模スクリーンを設置して欲しい』
レイの要望に首を傾げた参謀は一応、両班に確認を求めた。すると、二つ返事で了承を得られ、それをレイに伝えた。
『勝利の宴に…頑張って零戦を創り作戦を立ててくれた皆さんにプレゼント』
「同志よ、何を頂けるのですか?」
『ろぼだいんえーす、りめいく版の全話と、ろぼだいん作者自らが声を出した幻の次回予告付き』
通信からもたらされた答えに一瞬静けさが支配する作戦本部、次の瞬間、割れんばかりの喝采やら奇声やらが響き渡れば、それは使徒を倒したときとは比べ物にならないほどの凄さだった。
こうして撤収作業は迅速の速さをもって終わらせ、使徒撃破の疲れなど何のそのという状態で会場入り、その日は夜通しロボダインエース主題歌『君の裏拳に恋を、あなたの延髄蹴りに愛を』が会場に流れていたという。余談だが、その会場には何故かゲンドウが生り物顔で居座って人知れず映像を見て涙を流していたという。どうやらこのネルフにはまだ見ぬ多くの同志がいるようだ。
特務機関ネルフ、トップを含め、数多のロボダインエースファンが仕事をする職場の採用内容にはロボダインが深く関わっているのではないかという噂がこの先立つことだろう。
><><><><><><><><
ジオフロントの司令室にてゲンドウとコウゾウは将棋を指していた。
「やれやれ、死海文書に欠番と記されていた第八使徒が現れたとなると委員会やゼーレが黙ってはいないぞ」
「………」
「それに本部の初被害が、まさか身内から出るとは思わなかったな」
「………」
「お前、レイの祝勝会に行ったらしいな」
ゲンドウが僅かに肩を震わせた。
「話は聞いているのか。将棋に熱が入りすぎて無視されているのかと思ったぞ」
「問題ない」
「それは将棋のことか、レイに関することか……王手角取り」
「くっ…問題……ない」
「泣きそうな声を出しても待ったは無しだ」
「…………グスッ」
「弱いな」
将棋も精神も、とまでは泣きそうな、元教え子泥棒には言えなかった。武士の情けである。仕方なくコウゾウは新品のハンカチを差し出して落ち着かせ、将棋は止めることにした。
落ち着きを見せたゲンドウは先ほどの弱弱しい態度とは打って変わって椅子に座って何時ものスタイルを決め込む。何時も見ているはずのその姿に何故かコウゾウはイラッときた。語ろうとしているゲンドウを見て、そのスタイルでなければ真面目に話も出来んのかという気持ちだ。
「今冥王星にいるあの男から、あれが送られてくれば計画など何時でも修復出来る」
「なるほど、黒き月の民の祖には白き月の民の祖というわけか」
「あれは我々の希望であり、何者にも勝る武器となる代物だ」
「ゼーレ、BF団。あの独立部隊も、か。しかし、あの部隊はこの世界の命運を司る担い手だ。敵にするのは厄介だぞ」
「問題ない。零号機にリリスの魂があるのが分かったのだ。レイの出向を特務機関権限で解除させる」
「これ以上、彼らに切り札を預けない為か?」
「………」
「まさか、最近この職場で頻繁に聞く同志うんぬんを手元に置いておきたいとか抜かすんじゃないだろうな?」
「………」
「そう言えば、うちにいる整備班や開発班の連中は今出向中のメンバーよりも質の高い奴らばかりだったはずだ。何故、初号機のために出向させなかった?」
「………グスッ」
「お前、素直すぎるし、何よりメンタルが弱すぎだ。息子の方がまだ強いぞ」
「グスッ…私は…いい父親じゃ…ないから…問題…無い」
「レイの変わりようは納得できたが、お前の変わりようもまさか中身が違うからとか抜かすなよ」
「ユイ……人が怖い、助けて、愛している」
「ああ、昔から焦ると彼女に助けを求めるところは変わらないな、お前は」
こうして司令室では毒舌を吐きまくるダンディーと妻に助けを求めるマダオという光景がこれから三時間も続くのだが幸いにそれを見たものはいなかったという。
仮に見られていたとしても諜報部によって消される事だろう。
元おじいの存在が世界に小さな波紋を残す。そしてそれは更なる混迷を迎えることになる。
次回タイトル 原作のかたち 剥離のかたち
次の回もサービス、サービス……石とか投げられるかも。