EBA 一番と四番の子供達   作:アルポリス

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 こちらの作品は読み手によっては不快に思われるかもしれません。もし、そう感じた場合、即刻、目をそらして忘却の彼方へ投げ飛ばしてください。


αの章
こんにちは、新世界


 皆さん、はじめまして、こんにちは、こんばんは、おはようございます、おやすみなさいは違うかのぅ。ちょっと、混乱しているのかもしれん。

 

 うむ、改めまして自己紹介を行いたいと思います。

 

 私の名前は綾森波尾《あやもりなみお》先月満八十八を迎えました。ええ、迎えましたとも…なのに、なのに、神様仏様、私が何をしたのですか、ちょっとこの年で孫に教えてもらったアニメにはまってしまったのがいけなかったのですか、年甲斐も無くそれらの関連商品を年金で買ってしまったのがいけなかったのですか、その中で特にゲームにはまってしまい、ボケ防止に良いという理由で私生活を省みずのめり込んでしまったからですか、それでもこれは酷いと思うのです。最愛の妻には二年前先立たれ、九十四で大往生でしたが、アニメとゲームという活力でようやく心の区切りを着けた矢先、これは無いでしょう。もしも、これが本当に神様の仕打ちならば恨みます。

 

 

 

 

 申し遅れました、私、元、綾森波尾、八十八歳。

 

 静かにお迎えを待つことなど糞食らえ、この年でアニメやゲームを嗜むお茶目な老人だったはずなのですが、ある朝起きたら、体が軽くて驚き、当にお迎えが来たのかと思ったものの、何か違うような気がして知らない殺風景の部屋をウロウロ徘徊、ようやっと、洗面台を見つけ鏡を覗き込めば今度こそ危うくお迎えが来てしまうかと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、綾波レイ 十四歳。

 

 

 エバなる巨人に乗って使徒なる化け物や同じ人類と戦う、最初の子供になってしまいましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ××年××月 

 

 

 元おじい、起動実験するの巻

 

 

 

 今日も元気にお仕事日和! などと申しましてもこの体、もとい表情がちっとも言う事を聞いてくれないのです。

 

 私は日課として朝起きたら無理やりにでも笑うようにしているのですが、一度それを鏡の前で試したら何とも不気味な光景が映し出されてしまいました。

 

「あっはっはっはっは」

 

 どこからどう見ても無表情、静かなる事山の如しなり。これは恐怖の何者でもない光景でしたとも。この体の年齢で腰を抜かすところでしたわ。

 

 とにかくこの一件から鏡の前で行うのは、やめることにしました。ただし、行為自体をやめることはしません、日課は日課ですから(キリッ

 

 さて、一応女子ですから体臭が気になるもの。私自身ではなく周囲への配慮でシャワーを浴びるとしましょう。言っておきますが、自身の体に欲情などは致しません。私は妻一筋です(キリッ

 

 浴び終えたら、次は着替えです。前の体の時の名残か何時も裸でうろついてしまうのですが、一人暮らしなので構わないでしょう。もう一度言います、しません(キリッ

 

 着替えに関してはどこかの学生服なのでしょう、その制服が沢山ありました。むしろ、それしかありません。レイちゃんはお洒落などに興味が無かったのかもしれませんね。

 

着替え終えたら殺風景な部屋に似つかわしくない卓袱台、何故かベッドと収納タンスとこれが設置されていた、に座り熱いお茶を飲むことで一日の始まりを実感できます。

 

 そして改めて理解するのです。

 

(この家で目覚めて一週間、やはり夢ではないのじゃな)

「夢…ではない」

 

 そうなのです、言葉に関しても言う事を聞いてくれないのです。かなりはしょられてしまうので現状を一週間前に出会った(私の主観では)あの男に伝えることも出来なさそうなのです。まあ、そのおかげで未だに周囲の人間にはばれていないのですが、現状どちらが良いか判断がつきかねる状態です。

 

 これからのことを考えつつ、お茶を啜っていると携帯電話の着信音が鳴り出すので少し混乱してしまいました。

 

 心を落ち着かせ、震える指で応答ボタンを押せば、先ほど言った通り一週間前に対峙したあの色眼鏡男からの着信です。

 

(もしもし)

「ハイ」

 

『レイか、一時間後に本部まで来るように』

 

(了解じゃ、私に何をさせるつもりじゃ)

「分かりました……」

 

『遅れるな』

 

「ちくしょうっ」

 

『!!!』

 

(おや、今一瞬思い通りに声が出せたような)

 

『レイ、どうした』

 

(おお、すみませんな、実は――)

「ごめんなさい……」

 

『体調が悪いのなら延期も考慮するが』

 

「神は死んだ!!」

 

『レイ、本当にどうした』

 

「何でもありません、一時間後に」

 

 そう言って私は携帯を強制的に切りました。

 

 どうやら何かの拍子に限定的でありますが私は声を表に出せるようです。しかし、どんな状況で出せるのか理解できない現状、色々試行錯誤していこうと思います。

 

 取り敢えずは、今から家を出て散歩しながら本部に行くことにしますか。はてさて、この先私はどうなるのでしょう。

 

 八割の不安と、二割の高揚感が私の心を占めているようです。

 

 

 何故、不安だけじゃ無いか、何を隠そうこの私、孫から教わり年甲斐も無くはまってしまったアニメがこの新世紀エバンゲリオンなのです。だからでしょうか、かつての子供の頃に次の日が配給日だったかのようにわくわくしているのですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 

 

 一週間、この第三新東京市で過ごしてみましたが何度見ても近代化の町並みに感嘆を覚えますな、つい、興味本位で立ち止まって眺めてしまうのも無理ないと思うのです、私が前に住んでいたところは田舎だったのですからね、都会に着たらおのぼりさんになるのも無理ありません。

 

 だから仕方が無かったのですよ、そんな呆れなくてもいいではないですか、皆さん。予定より、一時間遅れてしまっても……。

 

「レイ、遅れてくるのなら連絡ぐらいしなさい」

 

 確か、作戦参謀の葛城さんが渋い顔で言ってきました。

 

 そんな心配したような顔で言われてしまうと素直に謝るしかないじゃないですか。他の皆さんも安どの表情を浮かべていますからレイちゃんは案外愛されているのかもしれませんね。

 

(申し訳ない)

「……ごめんなさい」

 

「何か不測の事態でも起きたのかしら?」

 

 淡い笑みを浮かべて問いながらも、もるもっとを観察するような視線を送ってくるのは泣き黒子が特徴の赤木リツコ博士です。

 

 そのような目で見られて何を話せばよいのやら。

 

「………」

 

「何かあるなら言いなさい。この実験は万全の状態で行わなければならないの、あなたの勝手で、皆の努力を無駄にするつもり?」

 

(不躾な視線じゃ、そんなんじゃと綺麗な顔がすぐに崩れてしまうぞ)

「……若作り」

 

「それはどういう意味で取ればいいのかしら?」

 

 喧嘩を売っているのかしらと言いながら口の端をぴくぴくさせる赤木さん。

 

 うむ、言う事を聞かないにしてもこれはまずいの、ここは謝るに限る。

 

(申し訳ない、意思疎通が残念ながら取れないようじゃ)

「……残念」

 

 本当に残念です、どうしてそこだけはっきりと告げるのですか。こんなことを言われれば、赤木さんはきっと。

 

「どうやら私はすべての意味で母と同じ道を歩むのね」

 

 額に青筋を走らせ、手をボキボキと鳴らす赤木さんを葛城さんや、分厚い黒縁眼鏡をかけた、確か…ド忘れしてしもうたが、ナントかさんが羽交い絞めにして止めてくれたことによって事なきを得たようです。この体でお迎えが来るのは早すぎると言うもの。

 

 

 

 

 

 場が落ち着いたところで不貞腐れた赤木さんから説明がなされました。

 

 今回は、アニメでほんの少し描かれた、レイちゃん、つまり私のエバンゲリオン零戦の起動実験を行うようです。

 

 早速、私は葛城さんに連れられ、更衣室で着替えることになりました。

 

 白い首から下だけの全身タイツを身に纏うのに四苦八苦していれば、親切にも葛城さんが手伝ってくれます。しかし、その顔が若干、呆れ顔なのが気になりますがね。

 

 いやだって、このような全身タイツは生まれてこの方着たことが無いのですよ、だから仕方が無いじゃないですか。

 

 え? 全身タイツじゃない? だったら何だって言うんですか、ぷらぐ…横文字は弱いんですよ、全身タイツでいいじゃないですか、私、アニメは全体の流れを見ていただけで細かい部分の名称は分からないんです。さっきだって長髪のナントカさんの名前が分からず、挨拶されても一言返しただけなんですよ。失礼とは思いましたが、このレイちゃんは普段からそういう感じでいたのか特に気にされませんでしたけど、中の私としては人間挨拶を返すのが基本だと思っているので心情的に辛いものがあります。

 

「だから、レイ、これはプラグスーツというものよ」

 

「…全身タイツ」

 

「違うわよ、全身タイツなら頭まで被らなければいけないでしょう?」

 

「首から下の……全身タイツ」

 

「全然上手くないわよ!!」

 

「ぷらぐ全身タイツ」

 

「惜しいと思ってしまった私、恥ずかしい!!」

 

 内心で言い訳がましい言葉を述べていてこんなやり取りがあったことなど知る好も無く、気づいた時には葛城さんが、もう全身タイツでいいわよと慈愛に満ちた顔で言っている場面でした。もしかしたら諦めたのかもしれません。

 

 

 

 

 本当に心と体が結びつかないんですね、トホホ。

 

 

 




 如何でしたでしょうか、これが始まりとなります。




 更なる遅筆となりますがよろしくお願いします。

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