主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第73話

「死~~ね」

「ひっ」

仄かな月光を浴び、冷たく光る薙刀が

降り下ろされる。

その速度は尋常ならざるものであるが、マインの瞳には、それがスローモーションのように見えていた。

そんな最中頭に浮かぶのは、(死にたくない!死ぬわけにはいかない!!)という強い思い。

(まだシェーレの仇を討てていないのに)

脳裏を過る亡き親友の笑顔。

(やっとタツミと恋人になれたのに)

マインの前で笑顔で手を差し出すタツミ。

強い『生』への執着。

しかし、それを嘲笑うかのように、無機質な冷たい刃がマインの儚い願いを断ち切りにかかる。

辺りに何かを打ち付けるような、耳をつんざく程の衝撃音と、爆風のごとき衝撃波が吹き荒れ、辺りの木々をざわめかす。

「おいおい、ただの木偶の坊だとおもっていたのによ。俺の一撃を止めやがるとはな」

「……これが俺の使命だからな」

今まで戦闘を観察するかのように見ていたスサノオが、左京亮の一撃をマインの前に立ちはだかり止めていた。

一撃の強さから、薙刀の刃が、僅かにスサノオの得物に切れ目を入れ、さらには、スサノオの両足は地面にめり込み亀裂を周囲に走らせはしていたが、耐えきっていた。

生物型帝具としての並外れた力故に成し遂げられたことだった。

「皆ここは俺に任せて逃げろ!一斉にかかっても、まだこいつには勝てない!!」

スサノオは声を張り上げて仲間に告げる。

意識がある、レオーネ、ラバック、マインは、一様に顔をしかめはするが、迅速に行動に移す。

スサノオの意思を無駄にしないためにも。

レオーネは、自分の腕と地に伏せたアカメを、ラバックとマインは、地面にめり込んだタツミを両側から抱えて。

「俺がみすみす逃がすと思っているのか?」

武器を交えながら、眉間にシワを寄せて、苛立ちの表情を浮かべ問い掛ける左京亮。

「ああ、倒すことはかなわずとも------------フンッ!」

渾身の力でスサノオは薙刀をかちあげ、得物を引き、豪快に突いた。

風を纏いながら穿たれたスサノオの得物は、空を切る。

ただし、スサノオの手には確かな重みが。

「何!?」

スサノオには珍しく気持ちを顔に表し、カッと目を見開く。

視線の先には、突きだされた得物の鋒を掴み、逆立ち状態の左京亮が。

「おらよ!」

アクロバットな態勢から、薙刀を握った左手を振り抜くと、避けることが出来ないスサノオの首が一刀のもとに両断され、地面に落ちた。

「一人目ぇ!逃がすかよ!」

左京亮は、右手で宙に飛び上がると、宙で一回転して、着地し、ナイトレイドの追撃を試みて地面を蹴る。しかし、

「おっと、マジかよ!?」

左京亮は、脊髄反射的な速度で、即座に、薙刀を両手で掲げ、唐突に繰り出された攻撃を受け止める。

目の前で起きた非現実的な光景に、薙刀を両手で掲げ、防御の態勢を取ったまま崩すことなく、驚嘆の声を上げる。

体の司令塔たる首が無い状態から、スサノオが得物を振り抜き、左京亮を薙刀ごと弾き、進行を止めたからだ。

「何で動けるんだよ。いやまてよ、確か…………」

スサノオから間合いを取り、記憶を手繰り寄せる。

いつぞやシュラに渡された帝具図鑑のある頁に記載されていた、項目『生物型帝具』が頭に浮かぶ。

「ハァッ!お前は帝具だったのか」

左京亮は理解いったと笑みを浮かべ、首を拾いあげ、繋げるスサノオに問い掛けた。

「ああ、俺は生物型の帝具だ」

断面に首を置くと、直ぐに再生され、元に戻った状態で、答える。

「まさか帝具だから身代わりになったのか。くだらねえ」

左京亮は、興ざめだと言わんばかりに、吐き捨てる。

「俺の犠牲で皆が助かるなら安いものだ」

左京亮の言葉に真っ向から反対するスサノオ。

その表情は真剣そのもので。

「しょうがねえな。冥土の土産に俺が、姉貴の死から学んだことを教えてやるよ。構えな!」

スサノオが構えを取った刹那、一陣の風がスサノオの頬を仰ぎ、直後左京亮が、薙刀を地面に突き立てる、ズンという大きな音がこだまし、水面を揺らす波紋のように、薙刀が刺さった場から円上に空気が震動する。

すると、スサノオに衝撃が走る。

唐突に、スサノオの両腕が液体を流しながら滑り落ち、地面に落ちたのだ。

(いつ切られたんだ!!)

スサノオが滑り落ちる自分の腕を見て、初めて切り落とされたことに気づいた時には、左京亮の右腕が、自分の胸に深々と突き刺さっていた。

「死ぬは-----------」

左京亮は、スサノオの胸から腕を引き抜く。

その手には、白く丸いものが、

「負け」

言葉を発した直後、握られていた白く丸い、スサノオの核が音をたてて砕け散った。

「帝具人形にも命かあるのかは疑問だがな」

「左京亮様」

闇を照らす満月を遠くを見るように見上げ、首を左右にふり、ほぐしながら、左京亮が手を払っていると、音もなく現れた男衆が声をかける。

「なんだ」

「この者たちはどうすればよいですか。ビッチは辛うじて生きているようですが」

男衆が、バラバラの肉片と化したエンシンと、胸から血を流したコスミナに軽く視線を向ける。

「性欲だけじゃなく、生命力も相当なもんだな。帝具は回収して、ビッチはドロテアの所に持っていけ。なんかの材料にはなるだろ」

「はい」

男衆は、コスミナを肩に担ぎ、チャンプ、エンシン、コスミナの帝具を回収し、闇に姿を消した。

「これからも俺の昇進と楽しみのために、せいぜい生き残れよナイトレイド」

口許を愉快そうに歪めると、左京亮は

「哀れお菊の物語~」

しみじみと口ずさみつつ闇に消えていった。

 

 

 

 




テスト期間とはいえ、今までで一番短い文章になったことをお詫びします。

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