月明かりの照らす中、まるで、舞台に上がるように現れた左京亮。
きらびやかに輝く裃や、風情を醸し出す満月をも霞ませる程の、妖艶な美しさを感じさせる容貌を持つ。
誰もが魅了される程のものであるのに、魅了されるどころか、誰もが気圧されていた。
それは、この男左京亮から、底知れぬ力を感じたことと、その笑みから、今まで見たこともない、ただならぬ狂気を感じ取ったためである。
「おっ、ロリコンデブと、ビッチとDQN は死んだか」
まるで、舞台上から観衆を見回すように、辺りに視線を巡らせ、ワイルドハントの仲間の変わり果てた姿を見つけると、楽しげに呟いた。
事も無げに。
しかし、その呟きから、真意を読み取れないイェーガーズの面々、主にセリューは震撼させられていた。
ワイルドハントの、左京亮の仲間のエンシンとチャンプを殺したのは自分たちであるからだ。
「つまらねえ奴らだったな。まあいいか。おいイェーガーズ。ここは俺に任せて帰んな」
「えっ!!」
左京亮の言葉に動きが止まる。
それは左京亮を敵に回すことにならなかった安堵と、困惑からだった。
「不思議そうな顔してんな。俺がワイルドハントの一員だから、敵討ちに来たと思ってんなら、とんだ勘違いだ。俺はこんなゴミのような奴ら仲間とも思ってないからな。ここに来たのは、俺が出世するために、皇帝の悩みの種になってるナイトレイドをぶっ殺しに来たからだ」
左京亮は、肉食獣のような獰猛な瞳で、ナイトレイドに視線を送る。ターゲットをロックオンするかのように。
「帰すわけないでしょ……」
誰ともなく、発せられる、冷ややかで、怒りの込められた呟きが、辺りに静かに響く。
「シェーレの仇はここで討つ!!」
マインは、怒りに染まった眼差しで、クロメを睨み付けると、パンプキンを構え、照準をさだめ、引き金に指を添える。
クロメも応戦するように、八房を構え、シェーレとナタラにも同様に構えさせる。
「分け前が減るだろうが!!」
左京亮の透き通るような声の怒号が飛ぶと同時に、降り下ろされた薙刀が、地を裂き、砂煙を巻き上げる。
「二度は言わねえよ。さっさと帰んな。さもなくば、お前たちもまとめて相手してやることになるぞ」
凍てつくような殺気が込められた視線が、左京亮が本気で自分たちをも相手にするというのを、雄弁に語っていた。
それを察したクロメ、セリュー、ランを担いだメズは砂煙が舞う中を、走り抜け、その場を退避した。
「やっと邪魔者は消えたな。上首尾じゃ。これでナイトレイドをぶっ潰した功績は俺一人のものになる」
砂煙が晴れると、左京亮は、巨大な薙刀を肩に担ぎ、ナイトレイド五人の前に立ち塞がった。
「さあ、かかって来いっつうの!!」
「ワイルドハントの一人ならターゲットに変わりはない!葬る!!」
左京亮の言葉に呼応するかのように、アカメが走り出す。
紫電の輝きを放つ、村雨を鞘から抜き、闇を切り裂きながら、間合いを瞬時に詰め、低い態勢からのびあがるように、逆袈裟に切り上げる。
「おおっと」
左京亮は、大きく仰け反りながらアカメの一刀をかわす。
「まだだ!」
アカメはかわされた刃を返し、返す刀で袈裟懸けに切り下ろすが、崩れた態勢のまま左足を軸に反時計回りに360度回転し、一刀をかわすと、その回転の勢いのまま、薙刀を突きだした。
「くっ」
アカメは即座に身を翻し横に避けるが、薙刀はアカメのスレスレを過ぎ去り、掠めた黒髪がハラリと舞う。
「良くかわしたな。第二刃はどうだ?」
左京亮はそのまま刃をアカメに向け、薙ぐ。
瞬時に引き戻した刀で薙刀を受け、つばぜり合いに持ち込むが、やはり力では左京亮には勝てず、そのまま薙刀と刃を交えたまま、下方に押し下げられる。
左京亮は、刃をアカメに向け、村雨の峰を滑らせ、切りつける。
「くっ!」
薙刀はのけ反るように避けたアカメの左頬に切れ目を入れる。
崩れた態勢にさらされたアカメは、追撃を恐れたが、左京亮はフッと不適な笑みを浮かべると、身を屈める。
間髪入れず、空を切るレオーネの拳。
「外しただと!」
「気配を感じてな」
左京亮は視線を地面に向けたまま、手元に戻していた薙刀を後方に引く。
「がはっ!!」
薙刀の束がレオーネの鳩尾を的確に突き、体が浮く。
左京亮は舞うように立ち上がり様に、くるくると薙刀を一回転させる。
「!!」
鳩尾を突かれ、痛みに苛まれながら、宙を浮くレオーネに再度激痛が走る。
眼前に自分の右腕が鮮血を撒き散らしながら、宙を舞っていた。
「次は首を舞わすか」
レオーネに向けた左京亮の顔におぞましい笑みが浮かぶ。
命の危機をまざまざと感じるレオーネ。
しかし、
「葬る!!」
態勢を立て直したアカメが、村雨を降り下ろす。
左京亮は、レオーネに体を向けていたため、完全に隙をついた形になる。
しかし、左京亮は軽く体を左に傾け、過ぎ去る村雨を薙刀の下部で受け止め、傾け瞬時に流し、その流れから、前方に出ながら反時計回りに回転し、薙刀の峰でアカメを薙いだ。
「がはっ」
アカメは腹部を薙がれ吹き飛ぶ。
「よくも二人に」
背後から迫っていたタツミが、槍で突く。
左京亮は、裾を翻し、槍の柄を掴むと、左足を一歩引き、軸足とすると、タツミを振り回し、レオーネを巻き込んで弾き飛ばした。
「ぐふっ」
二人はもつれながら揉んどりうって地面を転がっていった。
吹き飛ばされたアカメは、宙で反転し、木に着地すると、木を蹴り、左京亮に肉薄し、横凪ぎに切り裂いた----------はずだった。
「手応えがない!?」
目の前には両断された左京亮があるにも関わらず、その手に斬った手応えがまるで無かったのだ。
「惜しかったな。おまえが斬ったのは俺の残像だ」
すぐわきから聞こえる声。
「な------」
「一人確保」
左京亮は、上げていた左腕を下げると、薙刀の束が、アカメの背を突き、地面に叩きつけた。
「生きた奴一人確保しときゃあいいだろ」
左京亮は、束で押さえ込み、地面に叩きつけられ、動きが止まったアカメに視線を向け、口許を軽くあげる。
「あとは、皆殺------------はっ!!」
左京亮は、振り返り様に、薙刀を一閃した。
「弾かれた」
闇に、軌跡を刻み、はなたれた弾丸が、薙刀により弾かれ、上空に消えていった。
刹那、周囲の空間の雰囲気がガラリと変わる。
重力が増えたかのような圧迫感、心の底から沸き上がってくる恐怖、肌が焼けつく程の緊張感が、左京亮の体から溢れだし、場を満たしていた。
「おもしれぇことしてくれんじゃねえか-------------」
今までの嬉しそうな表情は消え、怒りに表情を歪めた左京亮が立っていた。
射撃したマインは、場の雰囲気に飲まれ、動けないでいる。
「あーあ、種子島かよ。嫌なこと思いだしちまったじゃねえか………死ねよ」
今までのほとんど最初の位置から離れずに戦っていた左京亮が、一般人からしたら消えたように見えるほどのスピードで走り出した。
「マインには触れるんじゃねえ!!」
左京亮の前に、タツミが割って入る。
自分の彼女を守る為に。
しかし、左京亮はそんなタツミを嘲笑うように、軽々と突きだされる槍を右腕で振り払い、流れでタツミの顔面を鷲掴みにし、持ち上げると、勢いよく後頭部から地面に叩きつけた。
「ぐはあっ」
「邪魔するんじゃねえよ」
地面にめり込んだタツミに吐き捨てると、再び地面を蹴り、マインに詰め寄る。
「来るなあっ!」
マインは左京亮にパンプキンを放つが、全て薙刀で弾かれる。
「死~~ねっ」
「ひっ」
瞬間的に間合いに入り込んだ左京亮は、大きく振りかぶった薙刀を降り下ろした。