これからも精進していきたいと思います。
「で、レオーネお前が気になると言っていたやつだが、どんなやつだった?話してくれ」
とある一室でナイトレイドの巨乳の女性と、片腕が義手となっている女性は椅子に腰掛け、机を挟み話していた。その雰囲気は、重々しいものではなく、和やかなものである。
「素質は完璧です!!」
レオーネは興奮ぎみに話す。
「ほう、お前にそこまで言わせるとな」
義手の女性はレオーネの言葉に微かに笑みを浮かべる。
「それはどのようなことから判断したんだ?」
「凄かったんだよボス。私が朝から見張っていたんだが、終始気づいているみたいいや、気づいていた」
一般的には尾行が気付かれたというのは、恥ずべきものであり、人に話すことではない。しかし、レオーネはさも嬉しそうに、そして、自慢話をするかのように誇らしげに話した。
「ほう、お前の尾行を察しているとはやるな」
ボスと呼ばれた女性もレオーネと同様に嬉しそうな笑みを浮かべ、レオーネに先を話すように促す。
「ああ、気づいていると分かってもついていったんだが、普段はだらけたような感じなんだが、時折見せる洞察力と戦闘力は目を見張る物があったんだ」
「洞察力と戦闘力については前の報告にもあったな」
ボスは机の上にうず高く積まれたレポートの山に手を伸ばし、いくつかのレポートに目を通した後、頷いて一つのレポートを開いた。
「あったあった、これだ。この報告によると、洞察力で言えば、インクルシオを纏ったブラートを看破したというものだな。で、戦闘力については、暗闇でしかも至近距離という中でマインの射撃を的確に弾き、アカメさえ赤子の手を捻るがごとくいなしたというあれか?どちらも危険種レベルのものだな」
ボスと呼ばれた女性は、感嘆しながらも、義手をキリキリ、キリキリとならしながら、それはもう嬉しそうに話す。
「ああ、それもそうだが、今回もそれ以上の洞察力と戦闘力を見せたんだが、それ以上にナイトレイドにとっての収穫があった」
「それは?」
ボスの口角が自然と上がる。
「やつが悪人を斬ったんだ。躊躇なくね」
「躊躇なくか。私たちに必要なスキルを備えているな」
腕を組み納得したようにボスは頷く。
「そして、今回見た洞察力の凄さは、依頼人の言葉に潜む矛盾を見つけ、自ら真実を導きだしたこと」
「裏を取るのに役立つ能力だな」
「私もそう思う。そして肝心の戦闘力だが」
レオーネは一端区切り、間を置く。早く言いたいのだが、わざわざ溜め、その戦闘を一言で表した。
「見えなかった」
「見えなかった?」
レオーネが自慢気に話すことに訝しげにボスは聞き返す。何を言っているのか分からないという風ではなく、驚き聞き返したという感じだ。
「ターゲットの前にいたと思ったら、いつの間にか後ろを取り、直後ターゲットの心臓を刀で貫いていたんだ」
「お前が見失うとはな、面白い」
ボスは喜び椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がると、ポールに掛けてあるコートを手に取る。
「ボス?」
「少し出掛けてくる。それほどの逸材ならば、自ら会っておきたいからな」
レオーネが見たボスの後ろ姿は、遊園地に向かう子供のようにワクワクして嬉しそうなものだった。
◇◆◇◆◇◆
(気が重いな)
主水は警備隊への出仕前から足取りそして気分が重かった。
何故か?それは昨日のことが起因する。
(ついつい熱くなりセリューさんに厳しめに対応してしまった)
彼女に対しての思い入れが強いからこそ、主水は厳しく突き放したように対応してしまったのだ。
以前仕事人として働いていた時も、甘ったれた考えをしていた若い仕事人には鉄拳制裁をしたこともしばしばあった。しかしながら、その若い仕事人は男であったので良かったが、今回は女性であり、直接的ではないものも、精神的に傷つけてしまったのではないかと考えていた。確かに、どのように対応すれば良いのか、迷ったのも事実ではあるのだが。
(今日から少し間をおくか)
主水がそのような判断を下した時だった。
「おはよー主水君」
「!」
主水が振り返るといつもと変わらず、朗らかな笑顔を浮かべたセリューが立っていた。
「お、おはようございます」
「うん。ねぇ一緒に隊舎に行こ」
「はい」
誘われるままに主水はセリューと共に隊舎へ向かう。
セリューは変わりないようには感じるが、二人の間には沈黙が支配していた。
(お、重い…)
姑や嫁、筆頭同心の上司に、どんなに嫌味を言われようが、どんなにいびられようが、どんなに蔑んだ視線を叩きつけられようが、全く動じる気配すらなかったあの主水が、根を上げそうになったのだ。そんな折り
「ね、ねえ主水君」
セリューが手を組み合わせモジモジしながら主水に話しかけた。
振り返ることはしなかったので、表情をうかがい知ることはできない。
「な、なんでしょうか?」
どもってしまう主水、それほど主水も緊張していた。多分裏の仕事をするときよりも緊張していたのではないだろうか。
話しかけられ少し間が置かれた後だった。
「昨日はゴメンね」
セリューが徐に口を開いた。いたって口調は落ち着いたものだった。
「い、いえ」
主水はその一言を返すのが精一杯だった。
「あのね主水君」
セリューが突如主水に向き直った。その頬は僅かに朱に染まっている。
「私嬉しかったの」
「へ?」
いきなり予想外の答え。ただでさえ四苦八苦している所に投擲された難解な問いかけ。
どのように返そうか考えあぐねている中で、さらにセリューは続ける。
「あの時はたしかにショックだった。でもね、主水君が本気で叱ってくれたから私は悪人にならなくてすんだ。それに――」
少しの間が置かれる。セリューは一回、二回と深呼吸をし、覚悟を決めたように続ける。
「今まで、あんなに私を思って叱ってくれたのは大好きだったパパだけだったの――だからかな。あのときの主水君がパパのように感じたの」
予想の遥か斜め上の告白。先の先のさらに先を読む棋士であっても予想できないであろう答え。
主水も剣を交える時は、何手も先を考え組み上げるが、ことここに至っては思考が手詰まりの状態だった。
「パパが帰ってきたみたいでほんとうに嬉しかった。だから、これからも私が間違いを起こしそうだったら、また昨日みたいに叱ってほしいの。それだけじゃなく甘えさせてもほしいけど………いいかな」
後半はモニョモニョとうつむき恥ずかしそうに告げたセリューだが、話し終わった後は、真っ直ぐに潤んだ瞳で真剣に主水を見つめていた。顔だけでなく、耳まで朱に染めて。
「分かりました。いいですよ」
真剣に話してくれたセリューに答えない訳にはいかなかった。
(俺も甘くなったもんだ)
と思いながらも、主水も自然と笑顔になっていた。今まで子供がいたことはないのに、手のかかる娘ができてしまった主水であった。
「やったー。じゃあ行こ!」
主水の手を掴み嬉しそうに走り出すセリュー。
ただそれを恨めしそうにコロが見ていたことを二人は知らなかった。
―――――
「やっと長かった1日も終わったな」
主水は日が落ち暗くなった街灯すらない脇道を、月光を道標に、肩を揉みながら歩いていた。
あれほど朝は重かった足取りも、今は仕事で疲れてはいるが軽かった。
大きな懸案事項が解決したからだ。
しかし、主水にはもう一つ解決しなくてはならないものがあった。
「ここには人がいない。姿を現したらどうだ?」
主水は徐に足を止めると、何かに語りだした。
「フッ、レオーネの言っていた通りだね。まさか私の気配も感じとるとは」
闇の中からとても愉快そうに、笑いながらレオーネにボスと呼ばれていた女性が音もなく姿を現した。
「昨日は巨乳の姉ちゃん。そして今日はあんた。いったいあんたは何者なんだ」
億劫そうに振り返った主水は、その態度とは違い、鋭い目付きで逃がさんとばかりに問いかけた。
「自己紹介させてもらおうかね。私はナジェンダ。ナイトレイドのボスをしているものだ」
「ナイトレイドのボスがわざわざ俺に何の用があるんだ?」
依然として主水は気を緩めることなく、ナジェンダの一挙手一投足を見守る。
歴戦の将であるはずのナジェンダでさえ、主水の圧倒的で叩きつけられるような、今まで相対したことがない程の威圧感に気圧され、口は渇き、額に汗が流れる。
「家のレオーネがあんたを気に入ったって言ってね。それに私もレオーネの報告であんたに興味を持ったから、自ら会いに来たんだ」
ナジェンダは偽りなく真実を語る。
元々嘘をつくつもりもなかったために、戸惑う様子もなく、淡々と語ったナジェンダに、嘘はないと見切ったため、主水も少しばかり誠意を感じ、警戒心も僅ながら緩和させた。
「でわざわざ自分の目で見てどう感じたんだ?」
「さらに、お前が欲しくなった」
ナジェンダの瞳に力がこもったのを主水は見逃さなかった。
「買いかぶりじゃないか?」
「私はこれでも結構な目利きでね。外したことはないんだ」
ナジェンダは自信満々でそう言うと、手を主水に差しだし
「私たちナイトレイドの仲間に加わらないか」
本題を切り出した。
なぜこんなセリューになってしまったのだろうか。
主水を主人公にする以上シリアスに行こうと思っていたのに、思春期の男女のようなやり取り。20代と大分年上なのにかわいいセリューがいけないんだ。ということで。
次回はできればシリアスでいきます。