主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第47話

 エスデス側が盗賊集団を蹂躙していた頃、ナジェンダ率いるナイトレイドの全メンバーと、クロメ、クロメの帝具〈八房〉により呼び起こされた8体の死人、ボルスが大乱戦を繰り広げていた。

ウェイブは奇襲を受け、クロメを庇ったため遥か彼方に飛ばされ、スタイリッシュは戦闘が始まる頃には、「ウフフッ」という笑い声を残し姿を消していた。

 一番の大太刀回りを行っていたのは、シェーレ、スサノオと超級危険種の屍デスタグールとの戦いであった。

デスタグールが放つ咆哮や打撃を、暗殺モードに移行し、瞳を鋭くし見据えたシェーレが舞を舞うように紙一重でかわしていく。

ただ、桁外れの攻撃力や、広範囲の攻撃が激しく、防戦一方なのも事実であった。

「スサノオさん、どうして何もしないのですか?」

腕組みをして首を捻るスサノオに、大きく間合いを取りながら尋ねるシェーレ。

その質問には、何もしてくれないスサノオに対する批判も僅かだが込められている。

「シェーレ、やつの胸を見ろ!」

スサノオは徐に指を指す。

「出っぱりがありますが」

「そうだ!あれのせいで……左右非対称なんだ!!」

「……」

拳を握り締め力説するスサノオを、シェーレは呆れたように半目で見ていた。

「それが気になって何も出来ないと?」

「ああ、そうだ」

さも当然だというように主張するスサノオに、シェーレは軽くため息を吐き、「少し待っていてください」と言うと、デスタグールに向けて走り出した。

左右に華麗にステップを踏み、相手の狙いを撹乱し、懐に飛び込むと、デスタグールの骨をかけ登る。

動きに撹乱され戸惑っているデスタグールの左胸の出っぱりに辿り着く。シェーレの瞳が怪しく光り、帝具〈エクスタス〉がシャキンと音を立てた。

刹那、非対称の証たる骨の破片が地に落ちる。

「よくやったシェーレ!」

スサノオが歓喜の雄叫びを上げ、地を踏みしめ、地面を抉りながら走り出した。

間近のシェーレを振り払うことに夢中になっていて、スサノオに気づかないデスタグールの足元に詰め寄ったスサノオは、得物で足を薙いだ。

砕けはしないが、足を掬われたデスタグールは大きく体勢を崩す。

「今だシェーレ!」

「はい」

空中から舞い降り、大地に着地すると、再び地を蹴り、シェーレは舞い上がる。

体勢を崩され、デスタグールの頭部がシェーレの眼前に迫る。

シェーレは無表情でエクスタスを開く。

二つの刃が閃めき、重なり一つの刃になった時、デスタグールの脛椎が断ち切られ、頭部が落ちていった。

一方で、シェーレは成し遂げてくれるだろうと、待ち受けていたスサノオは、重力により速度を上げ落ちてくる巨大な頭部 を獲物で穿った。

頭部に存在した、亀裂を寸分たがわず撃ち抜かれたことにより、頭部全体に亀裂が走り、崩れながら微塵に砕かれていく。

枚散る欠片が陽光に照らされ輝く中に、シェーレとスサノオの勇姿があった。

「見事だシェーレ、スサノオ」

嘗ての同僚ロクゴウの〈八房〉による呪縛を断ち切ったナジェンダが、既にそこに現れ、二人に拍手を送った。

(まさか超級危険種を二人で倒してしまうとはな)

ナジェンダはスサノオの奥の手で強大な力を持つデスタグールを倒そうと考えていた。しかし、その想定は良い方向で裏切られ、その戦果にナジェンダは満足していた。

「戦いが終わって直ぐで悪いが、シェーレ、タツミが危うい。助けに行ってくれ」

「はい」

ナジェンダの指示を受け、シェーレは踵を返し走り出した。

「シェーレ」

「はい?」

突然ナジェンダに呼び止められたシェーレは返事をし、振り返りながらも、何故呼ばれたかは分からず首を傾げる。

「いやなんでもない…行ってくれ…」

「はい」

再び走り出したシェーレの背を、ナジェンダは不安げに見つめていた。

「どうしたんだナジェンダ?」

ナジェンダの傍らに来ていたスサノオがナジェンダに問い掛ける。

「何故か言い知れぬ不安をシェーレに感じてな…まあ杞憂であるとは思うが…」

嫌な予感を振り切るようにかぶりを振ると、ナジェンダとスサノオも標的をクロメにし、向かって行った。

―――――

「つ、強い!」

タツミは帝具〈インクルシオ〉を纏い、エイプマンとヘンターの二人を相手にしていた。

ただ、すでにインクルシオも二人の攻撃によりボロボロになっていた。

「そのエイプマンは強いよ。帝都近郊にある暗い森の中にいたんだけどね、手に入れるのに丸一日かかったから。他のエイプマンなんか霞むほど強かったんだ。戦闘力だけなら超級危険種並みだよ」

からからと笑いながら自慢するようにクロメは答えた。

嘗てそのエイプマンはセリューの修行相手であり、お互いに競いあい、高めあったあのエイプマンであった。

ヘンターのトリッキーな動きに翻弄された所でエイプマンの強大な攻撃を打ち込まれる。

そのパターンでタツミは何もすることが出来ず、為されるままに、痛めつけられていた。

「殺、殺、殺、殺、殺す!」

地を滑るように迫り来るヘンターを迎え撃つようにタツミが拳を放つ。

しかし、ヘンターはタツミの拳が当たる直前に、まるで重力を無視したようにフワッと舞い上がる。

舞い上がったヘンター影に隠れながら迫っていたエイプマンが、空を切ったタツミの拳を受け止めた。

エイプマンは不適な笑みを浮かべると、腕をそのまま掴み、地面に叩きつける。

「ガハッ!」

地面にめり込んだタツミに、宙から舞い降りたヘンターが、馬乗りになるようにのし掛かり、巨大なバタフライナイフのような得物で首を落としにかかる。

「死、死、死、死ね」

「させません!」

エクスタスがヘンターのナイフを弾く。

ヘンターもタツミから降り、再び地を滑るように後退り、間合いを取る。

「大丈夫タツミ」

「シェーレ、助かったよ」

ニッコリと微笑むシェーレに、タツミも素直に感謝を示す。

「私があの仮面を倒します。タツミはあの猿をお願いします」

「おう!」

シェーレとタツミは背中合わせになる。互いの体温は二人を勇気づける。二人は共に口許を緩めると互いの敵に走り出した。

依然としてヘンターは不規則な動きでシェーレを撹乱する。

鋭い視線で静かにヘンターの動きを見つめ、変則的に繰り出される攻撃はエクスタスで受け流し、稀に斬撃を交える。

(確かに動きは変則的ですが、反射神経は鈍い)

シェーレは、戦闘に関しては、類い稀なる力を備えていた。

まるで戦闘マシンとも形容出来るほどの冷静な判断力、桁外れの反射神経、的確に相手を捕らえる眼力。

ただし、それは一人で戦う場合に限られる。

元来の優しい性格が災いして、仲間との共闘の場合は、仲間を気にかけるあまり、集中力が落ち、その戦闘力を遺憾無く発揮することが出来なかったのだ。

故に、今回のように一対一の戦いであり、タツミの力を信用している今なら、帝具の力も相まってその戦闘力は飛躍的に上がるのだった。

ヘンターはゆらゆらと揺れるような、変則的な動きでエクスタスの斬撃をかわそうとするが、タツミと違い容赦のない鋭さとエグさを持つシェーレの斬撃に追い詰められ始める。

「私は殺しについては容赦ないですよ。だって、これしか私は役にたたないんですから」

シェーレの斬撃は繰り出される毎に正確さを増し、また威力もそれに比例するように増大していく。

「そろそろ終わりにしましょう」

ヘンターの耳元で囁かれる、冷えきった声による『死の宣告』、屍のヘンターが理解しないまま、シェーレが通り過ぎると、首と胴体が離れ離れになった。

吹き出る血液を浴びなから、シェーレは無表情で動かなくなったヘンターに一瞥を向けると、タツミの戦いを見て頷いた後その場を後にした。

 タツミはエイプマンとの一騎討ちになったことにより、冷静にエイプマンの攻撃を避けていた。

一発一発の威力はでかいが、直線的な攻撃が多数を占めていたからだ。

そのため、攻撃を避けてはカウンター気味に槍で切りつけていた。

「死体にはそんな攻撃効かないよ。心臓を貫かれても大丈夫だしね」

まるで助言でもするかのようにクロメがタツミに話しかける。

「そんなことは分かってる。動きを確かめていただけだ!」

タツミは槍を地面に突き刺すと、大地を強く蹴った。

「これで終わりだ」

怒涛のラッシュを放ち、フィニッシュに渾身の力を込めた一撃を打ち込んだ。

拳はエイプマンの顔面を砕き、戦いは終息した。

「シェーレ終わったね」

タツミは背後で戦っていたはずのシェーレに声をかけたが、すでにその場にシェーレの姿はなかった。

「どこに行ったんだ。まあシェーレなら大丈夫だろう」

タツミは自己完結し、クロメの元に向かった。

―――――

 ボルスと戦っていたアカメとレオーネだったが、一番の障害であった、ボディーガードのウォールの動きを止め、更にレオーネがボルスの帝具〈ルビガンテ〉を破壊した為勝負は決したように思われていた。

(帝具は壊されちゃったし、打つ手はなくなっちゃった。ならば…)

「奥の手発動」

ボルスは賭けに出た。

既に帝具が壊れた今、奥の手は使えない。

しかし、どんなことがあっても任務はやり遂げなくてはならない。

ボルスの強い責任感が命を懸けた、最後の賭けを選んでいた。

「破壊する」

ボルスは覚悟を決めて帝具の自爆スイッチを押した。

光輝いた帝具は一瞬の有余の後に、辺り一面を破壊し、焼き付くし、その吹き荒れる爆風は、全てを凪ぎ払った。

後に残されたのは、爆心地を中心に半径数百メートルに渡るクレーターのみであった。

◇◆◇◆◇◆

「なんとか逃げ切ったみたい…」

ボルスは生きていた。

アカメとレオーネが光輝く帝具に気をとられ、ウォールの盾を用意していた隙をついて、逃げ切ったのだ。

初めは責任を果たすために、アカメ共々自爆するつもりだった。

しかし、『死』を目前にした時、不意に家族の姿が頭を過った。

(こんな所で死ぬわけにはいかない!帰るべき場所が、待っている家族がいる!!)

今まで嫌なことであろうと、頭で理不尽なことと理解していたことであっても、自分を殺し、忠実に言われたことを成し遂げてきたボルスが、初めて自分を優先した時であった。

「ウォールさんには悪いことをしちゃった……クロメちゃん……無事だといいけど」

俯くボルスの脳裏に、今度は、仲間の姿が浮かんでいた。

自分の家族の元以外の居場所。

自分の過去を話しても、批判することなく、認め、仲良くしてくれた仲間達。

「また…皆で……一緒にご飯食べたいな……」

ボルスの口から無意識に発せられた呟きは、後の出来事を案じするかのごとき言葉であった。

暫く、満身創痍の体を叱咤するように、歩みを進めているそのような頃合いであった。

「一かけ、二かけ、三かけて…仕掛けて、殺して、日が暮れて…」

どこか焦燥や悲哀を感じさせる、聞き覚えのある声が、風に乗り聞こえてくる。

何故だか分からないが、聞き入ってしまっていたボルスが、我に立ち返り、俯いていた顔を上げると、声の主が、一本ポツリと立つ木に寄り添うように夕陽に型どられた影を作り、ひっそりと佇んでいた。

 

 




最後の風に乗って聞こえてきた台詞ですが、必殺ファンの人しか分からないものです。
申し訳ありません。

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