主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第30話

 ナイトレイドのアジトでは、ブラートの死に対する悲しみを振り払うべく、鍛練に身を置くタツミとラバック、そしてその鍛練に手を貸すアカメとレオーネとシェーレ、その鍛練を見守るマインが集まっていた。

 少しでも強く、ブラートの強さに1日でも早く追い付けるように、見守っていてくれるだろうブラートを安心させられる程の力を得られるようにと、汗を流している。

「皆ここにいたのか」

コートを羽織り、大きな荷物を背負ったナジェンダがそこにいた。

その様相からして、どこかへ出掛ける前であるらしい。

「ボスはどこかへ出掛けるんですか?」

シェーレから受け取ったタオルで汗を拭きながら、問うタツミ。

「ああ、お前が回収してくれた帝具を革命軍本部に持って行く所だ」

ナジェンダは荷物が入っているリュックから、軽々と、ベルヴァークをひょいと取り出す。

「あの重いベルヴァークを軽々と!!ボスすげえ!!」

「元、帝国の将軍だからな」

ナジェンダを見て、タツミとラバックがコソコソと話す。

ナジェンダはその様子を見て、自慢気にベルヴァークで一振り、二振りと素振りをし、照れたような笑顔を浮かべている。

ナジェンダでも、人に褒められるのは嬉しいらしい。

「話を戻すが」

ナジェンダは照れ隠しもあるのか、ゴホンと咳払いをし、話を戻す。

「今日私が本部へ行く目的は帝具を届けるのがメインだが、メンバーの補充も兼ねている」

ナジェンダは暗に言わずに済ませているが、誰もが、ブラートを失ったことが起因していると理解していた。

ナイトレイドの中でも屈指の戦闘力を誇るブラートを失ったのだ、新たなメンバーを補充するのも必然的な流れである。

「まあ、即戦力となると期待は薄いがな」

「…俺が弱かったばかりに……ごめん…」

俯き伏し目がちになりながら、タツミは呟く。

ブラートが死んだことを未だに自分の責任だと、負い目に感じていたためだ。

ナジェンダは煙草を吸うのを止め、目を瞑りながら、慰めるようにタツミに語りかける。

「お前が戦った三獣士は帝国最強の攻撃力を持つエスデスの側近だ。その三獣士を全て撃破した上に帝具まで回収してきた。さらには、船の乗客を救い、三獣士と戦い死ぬことになるはずだった者も救うことになったんだ。お前は誇っていい!よくやっているんだ!」

「…ボス……」

ナジェンダの温かい言葉に、涙を溢すタツミ。

押さえてきたものが、涙として溢れた。

「黙っていようと思ったんだけど、前にブラートが言っていたよ。『タツミは素質がある。俺がこれからも鍛えてやれば、必ず俺を超えるぜ。楽しみだ』って笑いながらな」

レオーネは限りなく広がる、青空を見てそうタツミに話すと、励ますようにポンと肩に手をおいた。

タツミは黙して、俯いた まま、拳を握り締めた。

雨が降っているように、地面は涙で濡れた。

「自分を誇れ。そして生き残り、ブラートを超える男になってみせろ」

ナジェンダはその言葉を残し、革命軍の本部に向かった。

◇◆◇◆◇◆

 主水は変ないや、濃い同僚達に囲まれて、頭を悩ましていた。

「はい、どうぞ」

「ああ、すまねえな」

スッと自然に出された茶を、流れのままに受けとる。

(おっ茶柱が!……沈んだまま上がってこなくなった……か…)

湯気が立つ緑茶を見て、落ち着いたのちに、主水はハッとした。

この常識はずれな面々の中で誰が、気を効かせ、流麗な動作で自然に、また受け入れやすく茶を出してくれたのかと。

「!!」

振り返り見た主水は、目を見張った。

一応当たりをつけて、常識人に見える、ウェイブか、ラン辺りを想像していたが、そこに立っていたのは、マスクを被った上半身裸の、あの男だった。

「ゴメンネ。入ってきてくれた時に、黙ったままで。私人見知りで、緊張しちゃって。でもね見てみると、私が一番の年長者みたいだから、直していかないといけないわね。帝具使いの同僚になったんだから、仲良くやっていきましょ。私は、焼却部隊から来たボルスです」

主水と横に座るウェイブに自己紹介をするボルス。

(焼却部隊か……掃除屋みたいなものか)

主水達に仕事人は、仕置きした的をその場に残しておくことが出来ない場合に、秘密裏に片付けてくれる死体処理の専門家、掃除屋を使っていた。そして、焼却という言葉から、その掃除屋が頭に浮かんでいた。

 また別の位置からは、探るような視線を、オカマ博士、スタイリッシュがボルスに投げ掛けていた。

(焼却部隊…人も何もかも焼き尽くすというスタイリッシュな部隊…納得のルックスね。好みじゃないけど)

様々な思惑が渦巻く中、何者かが、カツカツと足音をたて、室内に入ってきた。

「ん……マジかよ!!」

主水は絶句した。

入ってきたのは、流れるような青い髪を腰まで伸ばし、白い制服を着て、仮面を被った、不審者だった。

(おいおい、どこからどう見ても、エスデスじゃねえか。あれで誰にもバレていないと思っているのか!)

主水が困惑していると、

ウェイブがスッと立ち上がり、エスデスに歩みよる。

「もしかして、あんたもここに呼ばれた同僚か」

疑うことなく気さくに話し掛けるウェイブ。

「やめろウェイ――」

ウェイブを止めるべく、制止しようとする主水だが、時既に遅し。

何故か、強烈な蹴りを受け吹っ飛んできたウェイブの巻き添えをくい、二人して壁にまで吹き飛び、仲良く床に転がった。

「賊には殺し屋もいる。常に警戒は怠るな!」

流れるような体捌き反転すると、ランに蹴りを、幾多も放つが、全てかわしきる。

(いい反応だ)

エスデスが頷いていると、背後から迫る影が、

「よくも主水君に」

腕を引き、貯めた力を爆発させ放つ。

螺旋を描きながら放たれる、コークスクリューブロー。

(中々いい攻撃だ)

必要最小限の動きで、エスデスはセリューの攻撃を避け、コロを虫を払うかのように、振り払う。

セリューの腕は、勢いそのまま床に突き刺ささり、刺さった腕を中心に、部屋全体に亀裂が走る。

「攻撃力は素晴らしいが、殺気により、かわすのは容易いぞ」

話の隙をつき、刀の鯉口に指をかけ、刀を抜き放ち、一閃するクロメ。

「ふざけられても、こちらは加減出来ない」

割れた仮面のしたには、うっすら笑みを浮かべた、エスデスが。

「それが帝具八房か…流石の斬れ味だな…」

パラパラと崩れ落ちていく、仮面。

「エスデス将軍!!」

現になる素顔に皆驚きが隠せない。

「イテテテ、巻き込んじゃってすいません。主水さん」

「いや構わねえよ」

(にしても、誰も気付いちゃいねえとはな)

主水も腰についた埃りを払いながら立ち上がる。

(同僚だけじゃなく、上司までこれじゃ、先が思いやられるぜ)

これからの苦労が思いやられて、深いため息を吐く主水であった。

 その後、エスデスから七人全員に、黒い背広が支給され、皆それを着用した。

 この世界に来て、初めて背広を見た主水が、ボルスとウェイブに手伝ってもらい、背広を着たのは、秘密の話である。

(狭っ苦しくて着なれねえな)

揺ったりとした、着物と違い、体にピッタリとフィットする背広に違和感を覚えながらも、宮殿内を颯爽と歩くエスデスや皆に続く主水。

「今から我々は陛下と謁見する。その後にパーティーだ」

「い、いきなり陛下と!」

「初日から随分と飛ばしたスケジュールですね」

陛下との謁見と言う言葉に、たじろぐウェイブとラン。

(陛下ってえのは、将軍か天皇ってところか)

ウェイブとランの驚きを見て、そう考える主水。

陛下という言葉を聞いたのも今回が初めてだからである。

「緊張するね主水君」

「そうですね」

(その陛下も今後の的になるかも知れねえから、しっかりと見とかないとな)

別の意味で注意深く見ておこうと思った主水である。

「厄介ごとは早く終わらせるに限る」

エスデスはさも当然のことのように話す。

陛下との謁見を厄介ごとと言えるのはエスデスぐらいだろうと、思うメンバー達。

「あのエスデス様。あたしたちのチーム名は決まっているのでしょうか?」

スタイリッシュの問いに、待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべて、エスデスは宣言した。

「我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織…故に、特殊警察イェーガーズだ」

ここに、エスデスを筆頭とした、特殊警察イェーガーズが発足した。

 


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