主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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すいません、予告と違い、ナイトレイドのメンバーとの交流の話になります。
この頃はセリューとの話ばかりでしたので。


第17話

 この頃の主水は、充実した日々を送っていた。

 変わらず警備隊隊長のタカナには、ネチネチと嫌味や、愚痴を言われるのは、変わりない警備隊のお馴染みの光景となっていた。

まあ主水にとっては日常茶飯事のことなので、右から左へといった具合にスルーして日々を過ごしていた。

そして、勤務時間であろうと、時間があれば、セリューと共に森に行き、修行をしていた。

 ナイトレイドの敵となるであろうセリューを鍛えるのには、問題はありそうだが、それでも主水はどんどん強くなっていく、セリューの成長を喜んでいた。

 修行相手となるエイプマンとの切磋琢磨により、セリューは、今では、ザンク程度なら帝具を使用されなければ、片手で捻られるぐらいにまで成長していた。

 そんな中で今日は貴重な休日であり、またナジェンダに呼び出されたので、ナイトレイドのアジトに顔を出していた。

 入ってすぐの広間に、真剣な表情で本を読み込むシェーレの姿が。

「主水さん。おはようございます」

主水が現れたことに気づいたシェーレは、本から顔をあげると、いつも通りのノンビリした口調で挨拶する。

「おう、おはようございます。ってそんな時間じゃねえよな。さっき昼飯食ったじゃねえか」

「そうでしたっけ」

シェーレのノンビリというか、独自のペースに乗せられる(巻き込まれる)主水、中々の難敵である。

「何真剣に読んでんだ」

「え~と何でしたっけ?」

こちらまで釣られて笑顔になってしまいそうな、朗らかな笑顔。

殺伐とした稼業に属している人間には、到底見えない。

「『天然を直す100の方法』か、天然を気にしてんのか?」

「はい。私、殺し以外じゃ役にたたないので…」

シェーレの顔に影がさす。どうやら彼女が抱えている一番の悩みらしい。

「シェーレはナイトレイドで十分役にたってるぜ。誰よりもな。この裏稼業は殺伐とした世界でよ、精神病んだり、悩みを抱えて苦しんだ後に、死んじまうやつもたくさんいる。だがな、このナイトレイドには、そんな暗い感じねえよな。お前は無意識かも知れねえが、皆の癒しになってんだよ。一抹の清涼剤みたいにな。自信を持っていいぜ。」

「主水さん…」

暗かったシェーレの表情に明るさが戻る。目頭は潤んでいるが、悩みが吹っ切れたように、清々しい笑顔にまでなっている。

「それによ、天然も悪くねえよ。演技で昼行灯装っているやつなんかより、よっぽど信頼できるからな」

主水は自虐めいた言葉に苦笑する。

「主水さん……」

シェーレは掛ける言葉が見つからなかった。

主水にも影がさす。主水が見せた初めての本音だったのかもしれない。

「悪い邪魔したな。じゃあな」

「主水さんありがとうございました」

後ろ手に手を上げて去っていく主水に、シェーレは深く頭を下げていた。

―――――

(早くナジェンダの所に行かないとな)

主水が廊下を歩いていると修練場から、勇ましい声が聞こえてくる。

稽古でもしてるのかと、廊下から主水が覗いてみると、見てはいけない光景が。

半裸の男(ブラート)と、半裸の少年(タツミ)が、手取り足取り絡みあっていた。流れる汗、荒い息遣いがまた生々しい。

(やべえもん見ちまった)

主水は気づかれる前に、その場を離脱しようと試みる。が

三人は瞬間的に目があってしまった。

時が凍りつき、時間が停止する。(誰かさんの奥の手のように)

三人の間に微妙にいや~な空気が流れる。

「邪魔してすまねえ。俺は消えるから仲良く楽しんでくれ」

主水は走り去る。

「主水さん、誤解なんだよーーー!」

「主水の旦那、焼きもち妬かせちまったかな。モテる男は辛いぜ」

地面に手をついて叫ぶタツミと、頬を染めて爽やかな笑顔を浮かべるブラートがそこに残された。

三人の関係がおかしくなった時だった。

―――――

(やべえ世界見せられたぜ。あの二人ができていたとはな)

誤解しまくった主水が、ナジェンダの部屋に向かって更に廊下を歩いていると、前から機嫌がよさそうなアカメが歩いてくる。

「おうアカメ。なんか嬉しそうだな」

「うん。とってもいい肉がたくさん手に入った」

喜色満面、至福の笑みを浮かべるアカメ。

「そうか良かったな」

「うん。今日は主水も肉付くし食べていってね」

「ああ、アカメの飯は旨いからな。楽しみにしてるぜ」

主水はアカメと別れると、ナジェンダの部屋の前に辿り着いた。

「入るぜ」

「ああ」

ほぼツーカーである。

ナジェンダの部屋に入ると、いつみても、綺麗に整理整頓されている。ナジェンダの几帳面な一面が見て取れる。

「よく来てくれたな主水」

笑顔で出迎えるナジェンダ。

こりゃあ何かあるなと考える主水。

「で、今日は何のようだ?」

「用がなくては呼んではならないのか?」

悪戯っ子のような笑みを浮かべるナジェンダ。シェーレと違って、こちらもまた強敵である。

「冗談はさておき。我らナイトレイドに大きな依頼が入ってな」

「それに出ればいいのか?」

「いや違う」

首を横に振るナジェンダ。訝しがる主水にナジェンダは続ける。

「今度のターゲットは大物のチブルというやつなんだが。得た情報によると、その日は、お前たち帝都警備隊が護りを固めるらしい」

そこまでナジェンダが言った時、主水は全て悟った。

南町奉行所に勤めていた時にもよくしていたことを。

「護りの配置を探りゃあいいんだな」

「話が早くて助かるよ」

ナジェンダは不適な笑みを浮かべる。

主水にしかできないことである。

「じゃあ、分かり次第、陣容、配置、人数、危険箇所まとめて知らせる。またラバックに渡しゃあいいか?」

「ああ。ただできれば、その情報を持ってアジトに来てほしい。詳しい内容までは、レポートだけでは把握しづらいしな」

ナジェンダのもっともな、意見ではあるが、主水はすぐには即答できなかった。

「そうしたいのは山々なんだが、最近は、警備隊を抜けるのが難しくなっちまったんだよ。新しい警備隊隊長に目をつけられててな……」

顔をしかめる主水。

頭の中では、つい先日、主水の隠密行動を見事に察知し、ドヤ顔を浮かべているタカナの姿が浮かんでいた。

「そうか。分かった無理はするな。重要な情報を得られるだけでも、被害を減らすことができる。では通常通りラバックにつなぎを取ってくれ」

「分かった」

主水とナジェンダは、作戦を話終えると、茶を飲みながら、何気ない雑談を楽しんだ。

―――――

(結構長くなっちまったな。いい匂いも漂ってくるし、飯か)

主水が廊下に差し掛かると、足が自然と止まる。

修練場に美しい虫の音が静かに響き、見るものを魅了する見事な満月が輝いていた。

(久しぶりにゆったりと月を見たな)

主水にも備わっている、日本人特有の風流心が充たされかけていると、

「主水ーーー!」

というかしましい声が。

(風流が分からねえやつだな)

主水はため息を吐きながら振り向いた。

「なんだピンク」

「ピンクって言うな!」

走ってきたのは、ピンク色のツインテールを揺らすマインであった。

「飯か?」

「違うわよ!あんたシェーレに何したのよ。泣いてたわよ」

話はしたが、泣くような話かと首を傾げていると、

「何かが吹っ切れたような顔をして、嬉しそうに泣いてたの。話を聞くとあんたの名前が出たから、少し話を聞きたくてね」

「大したことじゃねえよ」

「あんたには大したことなくても、シェーレにとっては重要なことだったのよ」

マインはそう言うと、主水に背を向ける。

「大事な親友のシェーレの悩みを解消してくれて、ありがとね」

と小さな声で呟いた。面と向かって言うのが照れくさかったのだろう、僅かに見えた、満月に照らされた頬がうっすらと赤らんでいた。

「プッ、お前らしくもねえな。飯いくぞ」

去り際に、マインの頭をグシャグシャと撫でる主水。

「笑うなー!それと子供扱いするなー!」

声では怒りながらも、満更ではない表情で、主水を追いかけるマイン。

 一時期の平穏で、平和な時が流れていた。

しかし、その平和も、僅な一時でしかないのを、主水も薄々と感じ取っていた。

 


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