主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第16話

 主水は焦っていた。朝寝坊をしてしまい、また上司のタカナにグチグチと嫌味を言われるのは必定であったためだ。。

ネチネチとオカマ口調で、今まで幾度も嫌味を言われた。すでに、慣れていると言えなくもないが、朝一番に言われるのは、さすがに勘弁してほしいと主水が思っていた。

警備隊隊舎に足音を忍ばせ入ると、入ってすぐの、広い集会場に多くの影が。

主水がそっと覗くと、勤めている全ての隊員が集められ、臨時の朝礼が行われているようであった。

 主水さらに足音を忍ばせ、気配も消し、そーっと隊員の中に紛れ込む。

 注目されている方を見ると、壇上にタカナに表彰されるセリューが。

セリューは、微妙な顔をして、苦笑いを浮かべながら表彰状をもらっていた。

 この表彰は、首斬りザンクを捕らえただけでなく、帝具スペクテッドを無傷で取り返したことに対するものである。

これも、ザンクを捕縛したのは、主水ではなく、セリューとコロが二人で捕まえたということに、主水とセリューが話合い、決め、そのように報告したためである。

表彰状をセリューに渡し終えた後、タカナは振り返り、指を指し言放った。

「遅れてきた中村さんも、セリューさんを見習ってくださいね!」

(俺の隠密行動は完璧だったはず)

驚くべきことに、タカナは主水が隊員に紛れ込んでいるのを、察知していたらしい。

したり顔で指を指すタカナに対し、主水は驚きが隠せなかった。

その二人をよそに、事実を知っているセリューは居づらそうな表情をしているが、冷静さを取り戻した主水は、気にしなくていいですよ、と目配せをした後、タカナに

「はい。この中村主水もセリューさんを見習いたいと思います」

と言う、だが、それだけで終わらせる主水ではない。

「怯えたタカナ様を、助けられるように精進したいと思います」

タカナは、顔色を変え、たじろぐ。どうにかポーカーフェイスをしようとするができていなかった。

「な、な、中村さん。何を言っているのです。私はびびってなんかいませんよ。靴ひもがほどけていたので、結んだ後にザンクを捕まえようと思っていたのですよ!」

タカナは一方的にいい放つと、咳払いをしながら壇上を足早に去っていった。

(ざまあ見やがれ)

してやったりと思っている主水の所にセリューがやって来る。

「本当に良かったの?」

タカナと主水のやり取りを見ていたために、再びこれで良かったのか疑問に思ったらしい。

「これでいいんですよ。昼行灯の警備隊員中村主水でね」

セリューの頭に手を当てながら、笑顔で諭す。

小さな子供を大人が諭すように。

「分かった。で主水君……」

キョロキョロと、周りの目を気にしていることから、言いたいことに気づく。

「中村主水とセリュー·ユビキタス、二人で市中の巡回に言って参ります」

主水はセリューの手を握ると、警備隊隊舎を後にした。

ついてくるコロは不満顔であったのは言うまでもない。

―――――

「どこに行くの?」

警備隊隊舎を出てから、かれこれ一時間ほど経っていた。

すでに帝都の大門を通り、外に出ていた。

巡回と称しながら、帝都外であるため、セリューがどこに行くのか聞きたくなっても仕方がない。

「一緒に修行をしつつ、人助けをしようと思いまして」

「修行だけじゃなく、人助けもできるの」

セリューの目が輝いた。まさにセリューにしたら、したいことを二つもできる、一石二鳥の、願ってもない提案である。

「ええできますよ。今回は実践で鍛え、セリューさんがもう少し強くなったら私がつけてあげますよ」

主水の言葉に少し、肩を落としガッカリするセリュー。

主水に直接手取り足取り指導してもらえると思っていたらしい。

なんやかんや話ながら歩いていると、帝都から遠く離れた、薄暗く、不気味な広大な森の中に二人はいた。

まだ昼間のはずなのに、大きな木々に日の光は遮られ、薄暗く、ジメジメと湿度の高めな森である。

「この森には危険レベルが高い危険種が数多く潜んでいます。今でもたまに、帝都への行商に、仕方なくここを通る商人がいるのですが、ほぼここの危険種に襲われ命を落とします。あれを見てください」

主水が指を指した先には、白骨化した遺体が幾つか転がっている。

「危険種に襲われ喰われたのです。この森の危険種は強いので、修行にはもってこいなんですよ、ほら修行相手があちらからやって来ました」

主水の鋭くなった視線の先には、二メートルを遥かに超える、巨大な大猿が。

太い毛に覆われ、筋骨隆々で、涎が垂れる口許には、鋭い牙がところ狭しと並んでいる。

「いきなり特級危険種のエイプマンか、あの貫禄からいくとボスか…」

主水がどうしようかと思案していると、

「コロ!!」

というセリューの呼び掛けに呼応するかのように、コロの体が膨れ上がる。

しかし、それでも目の前のエイプマンよりも大きさは劣っている。

主水は思考の海から脱すると、セリューの元に歩みよる。

「主水君、私とコロはいつでも行けるよ」

二人とも既に臨戦体勢に入っている。

「セリューさん、コロは使わず一人でエイプマンを倒してください」

「!!」

無理難題である。

特級危険種というだけでも、危険なのに、そのボス格、確実にセリューには荷が重い話である。

「大丈夫です。以前オーガ隊長との組み手を見せてもらいましたが、大変すばらしいものでした。ただ一点目についたのは、力が入りすぎていることです。力が入りすぎると、全く力が伝わりません。剣術でも同じですが、打撃を撃ち込むその一瞬に全力を込めてください」

以前セリューの組み手を見た時に感じたこと。

全力で悪を潰すという、ある意味オーガなどの刷り込みによって、いつも力がガチガチに入ったまま、攻撃を繰り出していた。

あれでは、消費が激しいだけでなく、力が全く伝わらず、威力がでないのだ。

剣術でも基本なのだが、ゆったりと力を入れず構えて、打ち込む際に、手の内を絞って力を入れる、全てに於て同じだと考えたのである。

「あともう一つ。重火器は牽制のみに使ってください。トンファーガンであれば、打撃を主に、射撃は牽制で」

「なんか、今日の主水君厳しい。でも、私は強くなりたいから頑張るよ」

セリューは弱気になるどころか、やる気が出たようだ。

 セリューは地面を蹴り、飛び出した。

意表をつかれた、エイプマンは迎撃することができず、まともにセリューの拳を受けた。

しかし、衝撃を弱める緩衝材となる剛毛と、厚い筋肉にダメージは通らない。

(長い間してきたことを、いきなり止めろといっても無理か)

セリューは頭では分かっていても、体はいつもの癖と、エイプマンを見て、全力で打ち込まないと打撃が通らないと、脳が判断した結果、力が入ったまま攻撃にいっていた。

エイプマンはセリューの攻撃が効かないことを、喜び、

「キキー!」

という奇声と共に丸太のような腕を降り下ろした。

セリューは踊るような身のこなしで避ける。

セリューの横を通過した拳が、地面を抉る。

(これを一発でもくらったら)

危機意識が、更にセリューに力を入れさせる。

避けた流れで、地面に刺さったままの腕に回し蹴りを入れるが、やはり、微動だにしない。

喜色満面でエイプマンは腕を地面から引き抜くと、体格に似合わぬスピードで、木に登ったかと思うと、木から木へ飛び移り、そのまま木を蹴る。蹴られた木はへし折れ、エイプマンはついた勢いのままセリューに体当たりを仕掛ける。

セリューも負けず劣らず動きを読み、見事にかわすが、砲弾のようにエイプマンは着弾すると、まるで爆風のような衝撃波が巻き起こり、近くにいた身軽なセリューは吹き飛ばされた。

 勢いよく吹き飛ばされたセリューが大木に叩きつけられる寸前、何かがセリューを抱き止める。

「ありがとう、コロ」

安心したように感謝を述べるセリューに、コロも満足げに頷く。

コロは主水に制止させられていたとはいえ、セリューを助けたくてウズウズしていたのだ。

「セリューさん。まだ肩に力が入っていますよ」

歩みよってきた主水が、セリューの両肩に手を置く。

「でも、あのエイプマンには私の攻撃じゃ……」

自身喪失といった感じで俯くセリュー。

「今まで鍛練してきた自分を信じて、打ち込む際に全力を込めて一発入れてください。あのエイプマンは体全体で地面につきささった際に、その衝撃で今は動けませんから」

「分かったよ」

セリューは立ち上がると、動きが鈍っているエイプマンに突っ込む。

一瞬で懐に潜り込んだセリューは、ゆったりした構えから、鳩尾に、正拳突きを繰り出した。

剛毛もかき分け、筋肉さえも、セリューの拳を止めることはできず、深々とめり込んだ。

「グオッ!」

断末魔を残し、くの字に折れ曲がった体は、音をたてて地面に倒れた。

(今まで攻撃が効いてなく、エイプマンが油断していたとはいえ、良く頑張りました)

主水は心の中で称賛した。

「やったよ主水君、コロ」

ピョンピョンと跳ねながらコロと踊るように喜ぶセリュー。

「よく頑張りました。では帰りましょうか」

「えっ!?まだあのエイプマンは生きてるよ」

事前の話では、エイプマンを倒すという話だったはず、と聞き返すセリュー。

「今他のエイプマンたちは遠巻きにボスがやられる所を見ていました。しばらくは静かになるでしょう。それと、あのエイプマンにはこれからもセリューさんの訓練相手になってほしいので、今回は放っておきましょう」

エイプマンは賢い種族なので、今日の負けを糧に、より強くなっていくと、主水は考えていた。

それに、今日の勝利はあくまでエイプマンの油断が招いた、運のよいものであった。

完全に勝てるようになるまで続けようと考えていたのだ。

セリューも頷くと、三人は走って帝都に戻っていった。

 タカナに、主水がどこに行っていたのかと、叱られたのはまた別の話である。




結構無理矢理な話ですが、お目こぼし頂けるとありがたく思います。
次回はまた原作に戻りアカメファンのトラウマ回、に近づいていきます。
本当は主水とシェーレとの交流も描きたかったのですが、あまり想像ができなくて。
意見が頂けたら、少し考えたいとも思いますが。

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