主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第15話

 日が落ち、辺りの外灯に火が灯る。

明かりに照らされた幾多の血を吸ったザンクの刃は、妖艶なオーラを醸し出している。

「愉快、愉快。まさか帝具使いと戦えるなんてな」

ザンクはまるでこれからの戦いを楽しむかのように、セリューに話しかける。

セリューはザンクの話に答えることない。

だが、視線はザンクから一瞬も外すことなく、駆けつけた副隊長や警備隊員に

「タカナ隊長を連れて逃げてください。私とコロでザンクを倒しますから」

と頼んだ。

これから、ザンクと帝具を使用した戦いとなる。

帝具使い同士が戦えば、どちらか一人は必ず死ぬ。それほどの戦いに帝具を持たない者が巻き込まれれば、まず助かることはない、と判断したためである。

「……分かった。ザンクは君に頼むしかないか…すまない。頼んだよ…」

「はい、任せてください」

副隊長としたら苦渋の判断ではあった。

しかし、自分たちが残ることで、セリューの足を引っ張りかねないと言うのが、セリューの頼みに従う一番の理由であった。

「私は残りますよ。そして、危なくなったら迷わず手を出させてもらいますから」

主水の言葉に笑顔でセリューは頷くと、

「行くよコロ!悲しみを止めるため、食いちぎれ!」

コロは体勢を低くし、そのまま、地面が抉れる程の踏み込みでザンクに肉薄する。

「素晴らしい。楽しい戦いになりそうだ」

ザンクはにやけながら、コロの怒涛の攻撃を、避けたり、剣でいなし、隙が生じると斬激を繰り出す、この繰り返しである。

しかし、生物型の帝具の強み、痛みを感じることもなく、しかも、再生するので、攻撃を恐れることなく、猛攻を仕掛ける。

「厄介だな」

ザンクが下がった瞬間、

「トンファガン!」セリューがザンクの死角となっていた、コロの影から飛び出し、トンファガンを放つ。

「愉快、愉快、中々のコンビネーション」

しかし、余裕の笑みを浮かべながら、二本の剣で飛び交う弾を漏らすことなく、切り落とす。

「今よコロ!」

弾を切ることに集中しているザンクにコロは鋭い牙が並ぶ口を開けて、食いちぎるように襲いかかった。抜群のコンビネーション。相手の動きを片方が止め、残る片方が仕留める。長い間相棒として共に戦ってきた、セリューとコロだからこそできる戦いだった。

そして、これで決まったとセリューは思った。

しかし、ザンクは予期していたかのように、体を半身にして反らしコロの突撃を避け、頭上を通過するコロに剣を突き上げた。

飛びかかった勢いが合わさることにより、コロの腹部は深く抉られ倒れる。

深傷のため即座の再生とはいかず、動きが止まる。

「嘘でしょ!」

セリューの表情に驚愕の色が滲む。

今までこのコンビネーションで死ななかった敵はいなかったからだ。

「そう言えば言ってなかったな。この俺の帝具スペクテッドは、未来視ができてな、ほとんどの攻撃が俺の前には無意味なんだ」

「未来視ができても私とコロのコンビネーションがあれば」

セリューは悔しげに答えるが、ザンクは嘲笑うかのように口角を上げる。

「愉快、愉快。お前は、俺がこの生物帝具を倒せないと思っていると思うが、甘いぞ。スペクテッドには、透視能力もある…つまり」

ザンクの言いたいことを悟り、セリューの表情が青ざめる。

「生物型帝具の唯一の弱点、コアの位置も一目瞭然だ」

ザンクはコロを凝視すると下卑た笑みを浮かべる。

「そこにあるのか」

「コロ逃げて!!」

セリューが叫んだ。

今のままでは、コロまで私の元からいなくなってしまう。もうこんな思いはしたくない。

セリューの本音が出た時だった。

「安心していいぞ」

ザンクはいつの間にか、コロではなく、セリューの眼前に迫っていた。

セリューの気がコロに向いている隙に間合いをつめたのだ。

「!!」

「俺は帝具のコアなんかより、人間の首が欲しくてな。つまり、その恐怖に歪んだ首をコレクションに加えたいんだ!!」

交差に構えた凶刃が闇とセリューの首を切り裂く―――寸前のことだった。

一つの影が、ザンクとセリューの間に割り込んだ。

「いいかげんにしとけよドブネズミ!」

ドスの効いた、冷めきった声で、割り込んだ主水は、縦に構えたアレスターで剣を受け止めながら、射抜くような視線を向け呟いた。

ザンクは主水の突然の出現と、身も凍る程の圧力に狼狽する。

しかし、底知れない恐怖に体が金縛りにあったように、動かず相対しながら冷や汗を流すしかない。。

 主水は鍔迫り合いの状態から、アレスターを振りきると、ザンクの巨体が後方に飛んだ。

「後は私に任せてください。セリューさんもよく頑張りましたが、なにぶん今回は帝具の相性が悪かった。落ち込む必要はありませんよ」

先ほどとはうってかわって優しい声、優しい視線で慰めるように、話す主水。

(いつからここまで甘くなったんだ俺は…)

そうは思うが、あまり嫌な気分ではなかった。

今まで子供がいなかった主水にも、手のかかる大きな娘ができ、父性が出てきたのかもしれない。

主水は前を向くと、一転して、眼光が鋭くなる。

「安心しなザンク、これが裏(の仕事)なら、いたぶって、刃の痛みを味わわせて殺すが、これは表(の仕事)だ、プライドを砕いて、捕縛してやるぜ」

主水はセリューには聞こえないように、静かにザンクに宣言する。

「お前からは、俺と同じ臭いがする。たくさんの血の臭いだ。お前にも聞こえるのではないか、この手で始末してきた人間の、怨嗟の声が…」

どこか焦点が定まっていない瞳で馴れ馴れしく話しかける。

「はっ、聞こえねえよそんなもん。ただな、聞こえたとしても、俺達はそれをも背負う覚悟をもってこの稼業に足突っ込んだんだ。お前も同じ道に踏みこんでんだ、最後まで責任もって背負っていくんだな。あと僅かな命だろうが」

主水はアレスターを晴眼に構える。

「ああぁぁぁあぁあ!俺の悩みを分かち合える者が現れたと思ったんだが!!悲しいねえ!」

形振り構わず突っ込んで来るザンク、そこから熾烈な攻防戦に入る。

二人の武器が闇に煌めき、武器通しが触れあう度に火花が飛び、甲高い金属音が幾重にも、鳴り響く。

ザンクが攻撃を加えていたかと思えば、いつの間にか主水が攻撃を繰り出している。

どちらも、一歩も引かない拮抗した戦いだと、背後で見ていたセリューは、手に汗握って祈るような気持ちで戦いの成り行きを見守った。

「俺には未来視がある絶対に負けん!!」

計り知れないスピードで繰り出される斬激と共に叫ぶザンク。

主水は依然として涼しい顔で攻防をこなす。

一瞬のようでありながら、長くも感じる熾烈な攻防戦。のはずだった―――その時、主水は疲れたような顔をしてザンクに問いかけた。

「てめえが今後取れる選択肢は三つだ。一つ!」

「ぬうっ!」

「このまま温い戦いを繰り広げて、おめえの武器が破壊されて、俺に捕縛されるか。二つ!」

「ぐっ!!」

「少しペースを上げて、未来視でも対応できないスピードで蹴散らされ、捕縛されるか。三つ!」

「がっ!」

「俺の避けようがねえ奥の手を身をもってくらうか」

鋭かった眼光がさらに鋭さを増し、それと共に、のし掛かるような威圧感に苛まれる。

「ヒッ!!」

ザンクは今までに感じたことのない、底知れね恐怖を味わい、バックステップを踏み、間合いを取る。

(なんなんだ今の感覚は。今まで感じたことがないものだったぞ。ここはこれで戦うしかない)

ザンクは、目を見開き、帝具の最後の能力を使用する。

主水の視野が揺らぎ、目の前のザンクの姿が変わった。

(なんだ俺は夢でも見ているのか)

主水は目の前に現れた姿に呆気に取られた。

「帝具スペクテッドの能力。幻視だ。見るものの一番大事なものを見せる。対象者は一人だが、その効果は絶大だ。お前に大事な者を攻撃できるか!!」

幻視にかかった瞬間、ザンクは勝ちを確信した。

今まで幻視にかかり、それを振り払い攻撃してきたものは一人もいなく、皆首だけになったからだ。

「ったく、まだ俺には未練があったってのかよ。我ながら女々しいぜ」

主水は呆れたように呟くと、刀から、小柄を抜き、振り上げ、左足に突き刺した。

「!!」

「!!」

ザンクとセリューは息を飲んだ。

小柄が突き刺さった部分から、血液が舞い、足元に血溜まりを作る。

「へへっ、てめえのお陰でまだ俺には未練があったことを知ることができたぜ。感謝する。感謝ついでに、俺の奥の手を見せてやるよ」

主水は右足で地面を踏み込み、瞬時に間合いをつめる。

「奥の手――――」

◇◆◇◆◇◆

「大丈夫主水君」

ザンクが大の字に地に横たわる傍ら、主水は足をセリューに治療されていた。

「こんなものは、唾つけときゃなんとかなりますよ」

笑い飛ばすように、主水は話す。

「ダメだよ。怪我を甘くみたら。後で大変なことになっても知らないよ!」

「い、痛いです」

力いっぱい閉められた包帯に顔を歪ませる主水。

それを見て、セリューは笑うが、次には目を落として、懺悔するかのように呟いた。

「私がザンクを倒していれば、主水君は怪我をしなかったんだよね」

「いえ、それは――」

「違わないよね。私はまだまだ力が足りない。大事な人を護っていく力が……」

悔しそうに、拳を握り締めるセリューに掛ける言葉が見つからず、迷っていると。

「主水君!私を強くしてください。今日の主水君の戦いを見て、主水君がとんでもなく強いということが分かったの。お願いします」

セリューは頭を下げた。

大事なものを傷つけたくない、護りたい、真剣な思いが伝わってくる。

実際上主水は裏の仕事仲間以外には力を見せることを、自分の中で戒めていた。

しかし、今の真剣なセリューを見て、心が揺らいだ。

そして、条件付きでセリューを教えることとした。

主水がセリューの熱意に折れた形だ。

「分かりました。セリューさんが大事な者を護れるようになるぐらいまでは、稽古をつけてあげますよ。ただ」

セリューは一旦は喜んだが、続きがあることに、緊張した面持ちで聞いている。

「私の強さについては誰にも言わないと約束してください」

セリューは安心してため息をつく。

もっと無理難題を言われるのでは、と心配していたのだ。

「そんなことなら絶対に守るよ。エヘヘ、二人だけの秘密だね」

顔を赤らめ、照れながらセリューは話すが、

(裏の仲間は皆知っているんだがな)

と思いつつも、

「そうですね」

と主水は笑い返すのであった。




今回は奥の手は省略しましたが、しっかり案はできています。
ザンク位では、まだ描写するに値しないなと思い省略しました。

それと、下手すると明日は更新出来ないかもしれません。出来る限りの頑張りますが、出来なかった場合はお許しください。

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