主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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 ただでさえ文章が劣化している上での苦手な戦闘描写なのでお見苦しい点が多いですがよろしくお願いします。


剛剣対剛拳

 熱気で風景が揺らめく中、両雄が雌雄を決するべく一歩一緒に確実に歩みを進めていく。

 コロウカンに配属された帝都の兵士と革命軍のメンバーは固唾を飲んで見守るしかできない。

 帝国のブドー、革命軍の朝右衛門共に両軍の切り札であり、人間業という領域を遥かに超越した存在であり、成り行きを見守るしかできないのである。

 確かに、両軍に帝具持ちの猛者も存在はしてはいるが、この二人の前では束になったとて歩みを阻むことすら出来はしないだろう。

 緊張感を帯びた静寂に包まれる中、二人の足音のみが周辺にこだまする。

 両者が対峙するまでに、どれ程の時間が経過したのだろうか、あまりにも長く感じはするが、それが実際はどれ程のことなのかを調べる余裕すら持つことができない緊迫感は凄まじいものであり、金縛りにあっているとも形容できるだろう。

 そのような中、二人は歩みを止めた。

 お互い目視で全ての挙動を見通せる位置に対峙するだけで、両軍が息をのんだ。

 

「貴様が革命軍最強の山田朝右衛門か」

 

「左様。私が山田朝右衛門だ。お前が帝国が二大将軍の1人ブドー将軍か」

 

「そうだ、俺がブドーだ」

 

 共にこの距離で無くとも既にその一連のやり取りからおおよその検討がついていた上でのやり取り。

 しかし、共に武人気質の二人であるがゆえの死合いを行う前段階としての確認である。

 

「噂に聞いてはいたが、我が帝具アドラメレクの一撃を僅か一太刀で消し去るその剛剣ぶりには驚かされたぞ……だからこそ許せん!何故その力を我が帝国の陛下のために使おうとしないのか!悪鬼外道の元で振るおうとするのがだ!!」

 

 ブドーの天にも届く程の怒号に呼応するかのごとく、黒い雷雲が天を覆い、周辺に雷が降り注ぐ。

 ブドーの怒りの具合を表すかのように。

 

「お前に確固たる信念があるように、私にも確固たる信念がある。故に、その信念は交わることはない」

 

 朝右衛門は、ブドーと対称的に静かにそう答えると肥後拵えの太刀の束に手を掛け僅かに腰を下ろし前傾姿勢を取る。

 

「初めて見た……」

 

 革命軍のリーダーは無意識のうちに呟いていた。

 驚きは二点から。

 一点目は、朝右衛門は普段は白鞘の太刀を用いていた。しかし、今回は白鞘ではなく、基本的な拵えの太刀を用いていたこと。

 おそらく、今回の戦いは熾烈なものとなり、耐久力には秀でない白鞘では耐えられないものとなると考えてのことであろう。

 二点目として、今まで朝右衛門は、戦いの際には、構えを取ることなく自然体で帯から抜いた白鞘の太刀を左手に持つという姿勢から戦闘に入っていた。

基本的に太刀を鞘から抜くことなく、相手の攻撃をいなし、相手の隙を生み出し、そこで鞘から抜刀し、一刀の元に切り伏せるといった、首切りの仕事の一貫から生み出された朝右衛門特有の構えである。

 しかし、今回は、太刀を帯びに挿した状態で左手は鞘に、右手は束にという隙のない構えを取っているのだ。

 その初めて朝右衛門が見せる構えが、相手のブドーが予断を赦さない相手であることを雄弁に物語っていた。

 

「死して己の愚かさを悔いるがよい!!」

 

 天にむかい咆哮を轟かすブドーに一本の雷が舞い降りた。

耳を裂くほどの轟音と、地を砕く衝撃、大地を揺るかす地響き、網膜を焼くほどの閃光に、そして、吹き荒れる殺気に、帝国、革命軍関係なくバタバタと倒れ失神するもの、意識はなんとか保ちつつも失禁するものが多数現れる。

 

「長い人類の戦いの中でも屈指の戦いになるでしょう。貴女たちも武に生きるのならば見ておきなさい」

 

「「はい……」」

 

 最後尾に陣取っていたタカナや、レチェリー、スピアも最前列にやって来ていた。

 ただ、タカナ以外の二人は青ざめ、恐怖に体の震えが止まらない状態にあり、タカナの答えに一言返事を返すだけでも儘ならない状態である。

 

 ブドーも腕をひき力を貯める。

身体中から雷が迸り、引いた右こぶしに収束していく。依然として耳をつんざくような破裂音と、目映い閃光が溢れている。

その姿は鬼神のごとき荒々しくも、神々しい姿であり、誰もが畏怖するものである。

 そのように荒々しい構えのブドーに対し、自然と同化するように静かに構えを取る朝右衛門。

 剛拳と、剛剣同じ域に立ちながらも、真逆の構えとなっていた。

 力をためた状態から朝右衛門とブドーは共に鋭く見据えつつゆっくりとアシーネ運び間合いを厳正し合う。

 アドラメレクという帝具の構造から、ブドーは接近戦の場合は朝右衛門よりも間合いを詰めなくてはならないが、遠距離に持ち込めば遠距離攻撃がない朝右衛門に対し圧倒的に優位に立てる。

 しかし、距離を取ることはしなかった。

武人として接近戦を望んだこと、遠距離攻撃は朝右衛門相手に通じることもなく、無駄に電気を失うことになること。そしてなにより朝右衛門の闘気がそれをさせなかったのもある。

 構えを崩すことなく間合いをジリジリと探り会う両者の足が止まる。

 辺りを荒野独特の突風が吹き抜ける、刹那両者が地を蹴った。

 朝右衛門は鯉口を切り神速の一刀、ブドーは引き絞ったアドラメレクの雷を纏った一撃を。

 共に目視はかなわない。

 ともに交わったのを知るのは音と衝撃でのみ。

触れ合った瞬間轟音と衝撃波が発生し、辺りに点在する岩石を粉砕し、盾を構え、戦いに際し万全の準備をしていた革命軍の兵士達も吹き飛んだ。

 対峙する両者は、緩めることなく、打ち合う。

 初めは熾烈に打ち合っていたが、次第にブドーの拳が宙をきるようになり、朝右衛門の太刀がブドーの鎧を掠め始める。

 

「ぬうっ……おのれえええっ!!」

 

怒りにより振りが大きくなる。

 これが、相手が自分より格下であれば、冷静に対応できたであろう、しかし、相手が同等の朝右衛門であるがゆえ、冷静さを維持することが難しくなっていた。

 逆に朝右衛門は常に冷静に、摺り足により最小限の動きで拳を避け続け、的確に攻撃を加え続ける。

 

「裁きだっっ!!」

 

ブドーは仰け反る程に腕を引き、朝右衛門に拳を振り下ろした。

 朝右衛門は、僅かに眉を潜めると、即座に間合いを取る。

 ブドーの振り下ろした拳は朝右衛門が先程までいた場に突き刺さり、拳を起点に円形に地面が吹き飛び、雷が迸った。

 

「外したか」

 

 ブドーは、砂塵が落ちる拳を見て呟いた。

青い鎧には無数に刀傷が残ってはいるが、朝右衛門が踏み込んでいなかったために、深手にはなってはいない。

 一方の朝右衛門は、頬に僅かに切れ目がついた以外は傷を負ってはいなかった。

戦いの序盤ということで無理をせずに距離を取りつつ戦いを行ったためでもある。

 再びブドーは構えを取り、朝右衛門はゆっくりと、流れるような動きで太刀を肩に担ぎ大上段の構えを取る。

首切り役人の首を落とす際の特有な構えである。

 

「ふっ、そういうことか」

 

ブドーは僅かに笑みを浮かべる。

朝右衛門の意図を読み取ったためである。

 ブドーは腕を引く構えから、片腕を顔の前に、片腕を下段に構える。一種異様な構えではあるが、その意図は見えない。

 朝右衛門は表情を変えず、踏み込んだ。

とても摺り足とは思えない速さで瞬時にブドーとの間合いを詰め、太刀を振り下ろした。

 その一刀は先程までの攻撃が霞むほどのもので、まさしく剛剣。

なにもかもを切り裂く鬼神のごとき一刀。

 

「くっ!?」

 

しかし、その剣閃は大きくブドーの身体からそれる。あらざる力に介在されたように。

 

「俺のアドラメレクは金属を引き寄せることもできてな。まあ、一瞬ではあるが」

 

ブドーの拳が初めて朝右衛門を捕らえる。

朝右衛門は左手を捨てて、守りに入る。

 

「ぐっ……」

 

バキッという何かが折れる音がこだまし、朝右衛門の左腕が力なく垂れ下がり、さらに朝右衛門の身体を電気が走る。

 

「うおおおおっ!ブドー将軍の勝ちだっ!!」

 

後方のコロウカンか、大歓声が沸き上がる。片腕を失った時点で勝負が決まったと帝国軍の兵士は沸き立ったのだ。

 

「これで終わりだ!」

 

ブドーも勝機を得たと、今まで以上に雷を拳に纏わせ、轟音を轟かせ振り下ろす。

 

「なっ!?」

 

動きを止めたと思われた朝右衛門は下段に位置した刀を返し、束を掴んでいた右手を逆手にし、切り抜けた。

 

「がはっっ!!」

 

ブドーの腹部に一閃が走り、血液が吹き出した。

辺りは静まり返っていた。それは帝国軍も、革命軍も同じだった。

まったく現状を把握、いや理解できないためだ。

 

「おのれどういうことだ」

 

地面に片膝をつき、ブドーは呻いた。

こんなはずではなかった。

雷が身体を走り、拘束したはずだったと。

 

「ああ、瞬時に太刀を地面に刺し、雷をにがすことができた」

 

疑問に答えるように、朝右衛門はブドーの疑問に答える。

 

「左手を失ってのこの威力の攻撃は…」

 

「逆手逆袈裟切り」

 

朝右衛門は、遠く虚空を見上げ呟いた。

朝右衛門が東方で、知己の剣術師範の秘技として一度見せてもらったものを体得したある意味奥の手の一つだった。

 

「油断した」

 

悔しそうに歯噛みすると、足を震えさせながらもブドーは立ち上がった。

 朝右衛門も分かってはいた、本来逆手逆袈裟切りは両手で行う技であり、片手では、威力はあろうとも、ブドークラスの敵では一撃で倒すことはできないと。

 大きな一撃を受けたブドーと、左手を失った朝右衛門は再び向かい合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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