姉を狙うクロメと傀儡とされて操られるシェーレ、アカメとクロメを親友シェーレの仇と狙うマインが闇の中で熾烈に対峙していた。
共に姉を、妹を思っての戦いではあるが、思想の違いから戦いの幕が切って落とされた。
姉のアカメは、本当の意味で妹のクロメを救おうと願うが、妹のクロメは死んでいった仲間のことを思い、又、姉のアカメとどんな形になろうとも、永遠に寄り添いたいと願い、姉妹の思いは重なることなく決裂したことが、またマインのクロメに対する因縁が複雑に絡み合った結果が戦いによる決着に至るのであった。
序盤は一進一退を繰り返し、どちらも一歩もひけをとらなかったが、次第に戦況が変わってきた。
数としては二対二であり、戦力的にもほぼ互角となる。
しかし、傀儡となるシェーレは、クロメが操ることで戦闘をこなすため、実質クロメ一人対アカメ、マインの二人という構図になる。
故に、集中力がもっていた序盤は見た目的には拮抗した戦いを行えていたが、時間の経過と共にその差が如実に表れ始めたのである。
「シェーレ!」
一直線にクロメに放たれた弾丸の前にシェーレは立ち塞がり、エクスタスで弾く。
「私の親友を絶対に赦さない!!」
マインはエクスタスの射程にも構わず踏み込む。
シェーレを使い攻撃を防いだことが、マインの怒りに火を付けた格好となった。
さらには、マイン独自の戦法故に。
「シェーレ殺って」
シェーレはどす黒く闇に染まった眼でかつての親友をとらえ、容赦なくエクスタスの刃を重ね合わせた。
「シェーレ、私が何年あなたとパートナーを組んでたと思ってるのよ」
マインは、屈みエクスタスの切断を避ける。
マインの言葉通りその戦いを見続けていたからこそ、目を瞑ってもシェーレの攻撃なら避けきる自信があったのだ。
「私があなたをその呪いから解き放ってみせる」
マインは、一筋の涙で頬を濡らしつつ、パンプキンの引き金を引き、シェーレに向けた銃口から眩い、呪いを穿つ一撃を放った。
「あ……り…が…とう……マイ…ン」
眩い光の中で在りし日の笑顔を浮かべたシェーレが呟いた。
巨大な光が闇夜を切り裂き再び辺りに闇が戻った時には、シェーレだった者はその場に存在しなくなっていた。
「シェーレエエエェェェッッ!!」
闇夜にマインの慟哭が響き渡った。
悔しさ、怒りではなく、純粋に哀しみ一色の響きであった。
「クロメえええぇぇっっ!!」
マインの泣き崩れる側を駆け抜けアカメがクロメに切りかかる。
シェーレが巨大なパンプキンの咆哮によりかきけされたことと、その威力、眩さに一瞬の隙が出来、避けることの出来ない一閃が目の前に迫っていた。
「クロメは殺させない!!」
「えっ!」
アカメの村雨が突如として割ってはいった黒い影によって阻まれていた。
「させない!!」
「ぐっ!」
黒い影が村雨を掴み、アカメの腹に一撃を入れ、アカメは体をくの字に曲げ吹き飛んだ。
「ウェイブ!?」
「大丈夫かクロメ!」
不思議そうに問いかけるクロメと、それに答えるウェイブ。
クロメの問いかけには驚きだけではなく、喜びの色もわずかに垣間見えたため、ウェイブは良い方向に進めるのではと望みを抱いた直後だった。
「なんで来たのウェイブ!」
「………」
望みは儚く散った。
しかし、それも予想の範疇でしかない。
「決まってるだろ。クロメを連れ戻すためだ!姉妹での殺しあいなんてさせない」
クロメの両肩を掴み、自分の思いの丈を、本音をクロメにぶつけた。
めったに見せない力強いウェイブに一瞬の呆然としたが、クロメも強い覚悟をもっての行動ゆえ折れることはない。
「ウェイブがそう言ってくれるのは本当に嬉しい。でもね一一」
クロメはウェイブをグランシャリオ越しに見つめ言の葉を紡ぐ。
「この戦いだけは辞められない。死んでいった仲間に対しても顔向けできない」
普段のクロメと違い力強い眼差しと答えに、ウェイブも言葉をなくし、たじろぐ。
「必ず戻ってくるからここで私の覚悟を見届けて。絶対に帰ってくるから」
クロメは闇を照らすような晴れ渡る笑顔をウェイブに送り、アカメに振り向いた。
「お姉ちゃん。一対一で勝負をつけよう」
一拍の間をおいて闇の中の赤い瞳がマインに向かった。
「あとは私一人でいい?」
クロメをひたすらシェーレの仇と追っていたマインに懇願するように了解を求める。
自分一人で決めて良いものではない、しがらみにからめとられたマインの了承なければ、マインは呪縛から解き放たれることはないのだから。
「いいわよ……私の願いはシェーレを解放してあげることで、目的は果たせたから」
涙声ではあるが、憑き物がとれたような表情をアカメは闇の中でとらえた。
「…ありがとう…」
アカメはマインに頭を下げた後クロメに向き直る。
「決着をつけよう。お姉ちゃん…」
「そうだねクロメ…」
二人の間に夜風が吹き抜ける。
二人の黒髪がゆっくりと風に靡き、ゆっくりと動きを止める一一一刹那
二人の黒い影が闇の中で交錯し、駆け抜けた。
「うっ」
闇の中に鮮やかな血飛沫が枚散る。
まるで、桜の花弁が舞い散るように………
視界が黒く、宵闇よりも黒く染まっていく。
「お姉ちゃんに勝ったんだ!もう永遠に離さない。いつも私の側にいて」
フラフラと立ち上がったクロメはアカメを見下ろすような位地に陣取りそして、
「永久に一緒だよ」
「ぐっ!!」
八房がアカメの背に突き立てられた。
血溜まりが広がると同時に、アカメの瞳から光が失われ、闇が湧き出すように広がった。
ユラリと立ち上がったアカメは既に誰もが知っていたアカメではなくなっていた。
「それがクロメが望んだことなのか…」
「うんそうだよ。お姉ちゃんが私の元に戻ってきたお祝いにカッコいいところ見せてよ」
アカメは静かに滑るように進み呆然と両ひざをつくマインの首をはねた。
「お帰りお姉ちゃん」
「……………」
◇◆◇◆◇◆
「やったねお姉ちゃんを騙していたナジェンダを殺したよ」
「……………」
◇◆◇◆◇◆
「やっぱり最高の姉妹だね私たち。二人でちょうど一万人殺したよ」
「……………」
◇◆◇◆◇◆
「何で答えてくれないの………」
分かっていた。
八房で自分の物にしても、それは生前のそれとは違う。
ただの、入れ物、器に過ぎないことを。
私は、入れ物や器が欲しかったんじゃない。
意思ある、答えてくれるものが、愛してくれるものが欲しかったんだ。
気づいくのが遅すぎた………………
◇◆◇◆◇◆
「……ロ…メ………ク…ロメ……クロメ」
「う………ん…」
目の前にアカメと今にも涙を流さんとした悲痛な表情を浮かべたウェイブがクロメを覗き込んでいた。
「良かった…」
視界にはゆっくりと傷口から広がる梵字のような呪毒が回る証が浮かんでいるが、出た言葉は喜びの言葉であった。
「お姉ちゃんが生きてて良かった」
ボロボロと涙を溢しながら喜びの声をもらし続ける。
「クロメ……クロメ…」
アカメも堪えてきたものが決壊するかのように涙を絶え間なく溢す。
辛い運命を受け入れ、乗り越える。
強い思いも感情を、肉親の情を乗り越えることはできなかった。
たった二人の家族であり、辛い運命も共に乗り越えてきたのだから。
「私やっと分かったの。私がしてきたことが酷かったことを……だからごめんなさい」
誰にともなく謝罪の言葉が涙と共に漏れた。
呪毒がゆっくりと広がっていく。
あらゆる毒に対する耐性がついているため、回るスピードはゆっくりだが、確実に死へのカウントダウンは進んでいく。
「………俺のわがままだが、二人にさせてくれ………」
ウェイブは悲痛に顔を歪め、影を落としつつアカメに懇願する。
最後の一時を過ごさせてほしい。
家族を差し置いて言って良いことではないと知りつつも、願わざるには居られなかった。
「……」
アカメは黙って頷くとマインを伴い闇に姿を消した。
「ありがとう……」
ウェイブはクロメを抱き上げると、絶望に向かうように闇の中に消えていった。
生存か死か。アニメと漫画ともに違うパターンなので悩みぬき、生存で二種類、死で二種類考えましたが、アカメ原本ではなく、仕事人ベースになりました。