今までの半分程しか文字数はありませんが、勘を取り戻すまでしばらくこれぐらいの文字数でよろしくお願いします。
闇の中で交錯し合う無数の影、交錯し合う度に響き渡る金属と金属の奏でる甲高い音、音が響くと同時に辺りを一瞬照らす火花。
交渉が決裂した結果がもたらした姉妹と、その妹を親友の仇と狙う復讐者、屍と化すことにより隷属させられし者達により凄絶な命のやり取りが繰り広げられていた。
「どうしてこんなことになっちまったんだよ……」
予想はしていた。
しかし、最悪の状況に進展してしまったことにより、底無し沼に沈むようなもうどうにもならないような感覚に襲われる。
眼前のどのように進んでも血みどろの道しかない現実をまざまざと見せつけられ、呆然とするウェイブであった。
しかし、先程の主水とのやり取りから、覚悟を新たにしていたために、即座に立て直し、その運命の糸が複雑に絡み合う戦いの中に踏み込む決意を固め、再度グランシャリオを身に纏った。
「待ってろよクロメ!絶対にお前は殺させはしない。お前に俺はどんなに怨まれようとも、必ず止める!!」
ウェイブは血みどろの戦場の真っ只中に突っ込んで行った。
◆◇◆◇◆◇
帝都の中心部にある皇帝が住む宮殿は東院、西院、そして中央の皇帝の居と三つに別れているが、今東院が8割方崩壊した状態に陥っていた。
豪華なだけでなく、幾多の戦禍をも測定し、真っ只中にあろうとも主を守りきるほどの強固さも秘めていたはずであるのに、人外の力をもった二人が戦いを行うと、まるで赤子の手を捻るが如く容易く崩れていった。
その様相は、まるでその場で超級危険種が集団で死闘を繰り広げるが如く凄惨な状態になっている。
建物はほぼ塵芥と化し、運良く所々残っている宮殿の壁や床だったものなどには、未だに美しい装飾が残っているのは皮肉にさえ思えてくる。
「まさか手負いの身でここまでやるたぁ思わなかったな。役不足ってのは訂正しないとなぁ」
髪を振り乱し、眼を血走らす左京亮は、裃をボロボロにしまるで荒れ狂う獣のような様相で、普段の優雅でたおやかな姿は微塵も感じさせないものとなっていた。
(こいつ、私とここまで戦って息もきらせず、傷がすでにふさがりかけているとは。いかんな面白くなってきたな)
一方のエスデスも、左京亮同様に戦闘により服は汚れ、ボロボロになってはいるが、傷は二、三ヶ所と全く戦いには支障をきたさない状態である。
序盤の戦闘中は、怒りのみで戦いを繰り広げていたが、生粋の戦闘狂の血が騒ぎ始めたのだろう、うっすらと愉しげに口許に笑みを湛え始め、体からは冷気が吹き出し、辺りを凍結させ始めた。
「楽しくなってきたな。エスデス将軍よぉ!」
「ふんっ。不覚にも楽しく感じ始めている私が憎らしいがな」
冷気で青白く変わり果てた世界で二人は同時に口角を上げた。
共に戦いにおいては比肩するものがなく、主水とブドーという例外はいるが、退屈を感じていた中で、実力白仲する者に会えたのだ、謀略や怒りを超越して楽しさを感じてもおかしくはない状態であった。
「第二ラウンド行くか?」
「ああ、次こそその首もらい受けるぞ」
「やってみな!」
同時に前傾姿勢で体勢を低くし、左京亮は巨大な薙刀を肩に担ぎ、エスデスは細剣を引き臨戦体勢を整えた。
瓦礫がパラパラと落ちると共に二人の蹴り足を中心に地に亀裂が走ったその刹那。
「やめなさい!!何をしているんですか!?」
血相を変えてはいるが、両手に肉を抱えたオネスト大臣が大声で二人を止めに入った。
「なんだ大臣。貴様も踊りに来たか」
「エスデス将軍ここは皇帝陛下の宮殿なんですぞ。また戦時下であり、その力は迫り来るその時に備えておいてもらわなくては。左京亮あなたもですぞ」
口調は穏やかであっても、眉間にしわがよりその怒りは隠しきれてはいなかった。
肉を頬張ることでなんとか抑えている状態なのだろう。
「ちっ、興が冷めた。次まで命は取っといてやる」
エスデスは細剣を腰の鞘に納めると、つまらなそうに吐き捨て、踵を返す。
氷のような青い髪を靡かせ、カツカツと足音をたてて冷風を纏い去っていった。
エスデスの去った後には氷柱が無数に突き出していた。
「普段冷静なあなたらしくありませんね左京亮」
エスデスの去った後、オネストは肉を食い契りつつ左京亮に振り返り、苦言を呈す。
窘めるような口調で。
「あれほどまでに私を熱くさせてくれる女性とは思いませんでしたよ」
動じることもなく、オネストに答える左京亮。戦闘中に振り乱していた髪は整えられ、血走っていた瞳も妖艶なものに戻り、口調も丁寧なものに様変わりしていた。
「帝国最強の二大将軍ですからな。私の大事な手駒の一つですので。あまりお痛が過ぎるのも考えものですぞ」
「悪い笑顔ですね。お怒りの様子だったのはその理由ではなく、将来的に自分の居城になる宮殿を壊されたからではないのですか」
狸と狐の化かしあい。
意味ありげな含み笑いを浮かべる二人は不気味な印象を誰しもが受けるものだった。
「オネスト様かような所に来られたために埃が」
「!」
「どうかいたしましたか?」
「なんでもないですよ。感謝します。では、私もこの後の大事な局面が待っていますので」
オネストは悪い笑みを浮かべるとそそくさと場を後にした。
「フフフ」
去っていくオネストの背が見えなくなると、左京亮は堪えきれなくなったように笑い声を漏らした。
なんとも愉快だといったように。
「たった1日でこれほど上手く事が運ぶとは重畳、重畳。フフフフフ」
口角があがり三日月のようになるほど満足気な表情を浮かべ呟く。戦い中とは違った快感に酔いしれるかのように手で顔を覆いつつ。
「全てが俺の掌中で踊っている。では、このまま国取りと行きますか」
左京亮は薙刀を肩に担ぐと宮殿の中に消えていった。