主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第116話

「どうやら勘違いしてるらしいな……」

 

 静かに澄んだ声色が辺りに響く。

一般的な場でその声を聞けば聞き惚れるほどの美しい声色である。

 しかし、その声色には、感覚的なことではあるが、端々に底知れぬ恐ろしさを含んでいた。

 また、その声色に含まれているものと同様に左京亮の纏う雰囲気は、僅か前とは一変し、まるで空間が軋み、やけつくほどの殺気を放つのものとなっていた。

 辺りに林立する木々はまるで左京亮の殺気におののくかのように枝葉をゆらし、叫び声を上げるようにざわめいた。

 それは、アカメたちも程度に差はあれど例外なく同じ状況である。

 シュザンを、コスミナを、改造を施された男たちを葬り、さらにはドロテアを死地に追い込み、残るはお荷物のドロテアを小脇に抱えた左京亮のみという完全に優勢な状況。

 しかし、その優勢さも辺りが軋みやけつくほどの殺気を放つ左京亮の前では感じられなくなっていた。

 攻勢に撃って出ようと回りを囲んでいたアカメたちにも緊張が走り、帝具を持つ手にも汗を握る状態となっている。

 

(なんて圧力だ……)

 

 ジリジリと地を踏み締めつつ間合いを詰めていたアカメの足も、まるで楔を打ち込まれたかのように動きを止めていた。

 

「少しばかり立場ってものを教えてやるよ」

 

 右手に持つ巨大な薙刀がゆらめき束が地を穿つ。

突き刺さった部分を起点に辺りに亀裂が入り、粉塵が舞い上がり、それが戦闘開始の合図となる。

 

「私が………!!」

 

 左京亮に向けパンプキンを放とうと試みたマインの動きが止まる。

 

「ひっ!」

 

 体が震え、硬直したかのように体が言うことを聞かなくなる。

 マインの先には射抜くような鋭く冷たい視線を放つ左京亮の姿が。

 マインの脳裏に以前左京亮に詰め寄られ長刀の一刀のもとに切り伏せられかけたあの恐怖が甦ったのだ。

一度刻みつけられた恐怖は拭いさることはできない。

それを左京亮は上手く利用したのだ。

 

「マイン!!」

 

 アカメの声が届くまもなく、左京亮は薙刀を振りかぶり音もなく一踏みで薙刀がマインに届く間合いに入る。

 

「マインには絶対ニ触れサセねぇ!」

 

マインに攻撃はさせないと、タツミが背後から左京亮に迫り、少し遅れてアカメも前方から斬りかかる。

二人から挟まれ攻撃をされる側に立たされる左京亮だが、余裕の笑みを浮かべている。

 

「上から物を言ってくれるじゃないか」

 

左京亮は袖をはためかせ振り返り様に巨大な薙刀で後方を薙ぎ払う。

 轟音と突風を轟かせタツミを薙ぐ。

 金属と金属がぶつかり合う轟音が響きタツミが後方にずり下がる。

 長刀が振るわれたことすら認識出来ないほどの次元を超えた速さのため、ノインテーターで防ぐ間もなく斬りつけられたが、その体に大きな傷はない。

あるのは薙刀とのぶつかり合いにより生じた僅かな傷のみである。

 

「固くなったもんだ」

 

 ボソッと呟いた左京亮は見惚れるほどの足さばきで前方に進みつつ体を反転させる。

 反転した左京亮の眼前をアカメの村雨が紫電の軌跡を刻み通り過ぎる。

 

「まだだ」

 

アカメは村雨を返し切り上げる。

 

「おっと」

 

「ぐっ」

 

体を後ろに反らしかわすと前傾姿勢になるアカメを蹴り上げる。

 左京亮の足が弧を描き、そのまま蹴り上げムーンサルトを決める。

 アカメは咄嗟に村雨を下げその柄で蹴りを受け止めるが上空に吹き飛んだ。

 

「世界が回る~」

 

脇に抱えられたドロテアが目を回すが気にする素振りもない左京亮。

全く思い遣りは見られず戦いに興じている。

 

「よっ」

 

 ムーンサルトを決め着地した地点はタツミの前であった。

 

「このヤロウ!」

 

 タツミは挑発されたこととマインに斬りかかろうとしたことにいきり立ち、左京亮に襲い掛かる。

 ノインテーターは間を取って戦えるがその速度では左京亮には当たらない。

当然のごとく左京亮に攻撃を当てるためには速度が要求される。

 故にタツミはノインテーターをしまい速度で勝る拳で戦うことにした。

 荒々しく振るわれる左右の連打を左京亮は流れるような足さばきと体さばきでかわしきり左京亮にはノーダメージ。

 同様に、タツミもその都度、合間合間に薙刀で斬撃を放たれるが、その生前の超級危険種の外甲と化しているインクルシオは傷つけられることもなくノーダメージであった。

 

「やはり固いな。ならば……」

 

 大きめにバックステップを踏み間を取った左京亮は薙刀を地面に突き立て手放す。

 既に眼前に迫っていたタツミは大きく振りかぶり、溜めていた力を開放し爆音を轟かせつつ拳を放った。

 打撃を当てた左京亮が揺らぎ靄のように消える。

 

「残念だったな」

 

タツミの動きが止まる。

なぜ自分の横から左京亮の声が聞こえるのか理解出来なかったからだ。

タツミの側面に現れた左京亮は足場をかため、タツミの脇腹に宛がうように軽く手を当てた。

 

「落ちな!」

 

左京亮を中心に空気が振動し、何かがタツミの体を吹き抜け、タツミの背後の木々を揺らし、葉を散らした。

 

「グハッ」

 

タツミは理解出来なかった。

なぜ自分は崩れていくのか。

左京亮に攻撃を加えたはずなのになぜ手応えもなく、且つ左京亮は倒れないのか。

疑問を頭に浮かべつつタツミをそのままその場に倒れ付した。

 

「俺は逃げるんじゃない。俺がお前らを見逃してやるんだよ」

 

 左京亮は倒れ付したタツミの足を持つと動きを止めたマインと、地に足をつけ息をついているアカメに投げつつ言葉を放った。

 

「生かしてやったんだ。精々俺の思惑通りに動いてくれよ。ああそれと、オッサンによろしく言っといてくれよ。じゃあな」

 

左京亮は巨大な薙刀を引き抜き担ぐと、踵を返し笑い声を轟かせその場を後にした。

 

 

「なあ左京亮」

 

「なんだ」

 

「あのタツミを倒した技は……」

 

おずおずと聞くドロテアの言葉の先を読み、口許に笑みを称えると軽く頷き言葉を継いだ。

 

「ああ、シュラが使ってた発勁とか言う技だ。ヤツが練習しているのを目にしてな軽く見よう見まねでしてみたら出来たんだ。内部に直接ダメージを加えられるっていうんでな使ってみた」

 

「見よう見まねか。シュラは自慢げに『俺は天才だから一年で会得したぜ』って言っておったぞ」

 

「ヤツは凡人だったからなぁ。まあこれを俺に教えたって功績だけは誇っていいと思うがな」

 

ドロテアは茶化して話す左京亮を半目でジトッとした目で呆れたように見ていると、一転真面目な表情で左京亮は繋げた。

 

「しかし、あれだけ固くなったあの小僧に物理的に殴ってダメージを与えたって言う雷オヤジは化け物だな」

 

前の決戦でブドーが近接戦闘に於いてタツミを拳で追い詰めていたという話を宮殿の所々で耳にしていたからこそ溢した感想であった。

 

「確かにのぉ。お主が薙刀で倒すことを諦めたほどの装甲になっておったほどじゃからなぁ。お主の障害になりえんか?」

 

「ハハハ、まあな。だが、やつの忠信を利用した俺の策に嵌まれば五体満足では居られないだろうからその時に寝首をかくさ」

 

不適な笑みを浮かべると左京亮は足を早めた。

 

「ああ、それとな」

 

「なんじゃ?」

 

何か言いにくそうにドロテアに声をかける左京亮と、無垢な?表情で問い返すドロテア。

 

「厚化粧の若作りが一度解けたからか線香臭いぞ」

 

「なっ、なんじゃとおおっ。妾が線香臭いじゃとぉっ。なんたる侮辱じゃ。妾は高価な香水も使っておるし、妾自身も良い香りに決まっておろうが」

 

 本来はかなりの高齢であるが、年を取ることを怖れ錬金術と帝具の力により若さを維持していたドロテアは、その筋の話に過剰に反応する帰来があった。

 それが原因となってコスミナを作ったのだった。

コスミナを最強にすることにより誰にも反抗させずに錬金術と帝具により生気を徴収し永遠に若さを持続させることを夢としていたのだ。

 全てを知った上である意味面白がって左京亮は話を振ったのだ。

 

「そうは言ってもな………」

 

「うぬぬぬぬ。あの話は無かったことにするぞっ」

 

「このロリババア」

 

「ロ、ロ、ロリババアじゃと……お主は言ってはならんことを口にしたのじゃぞ」

 

「知らねえな。本当のことだしよ」

 

ドロテアが一方的に憤り左京亮は軽く流しつつ、帝都に向かって走っていた。

 

 

 




 次回から原作13巻に入ります。
ヤバイ、オリジナルの結末まで視野に入れないといけないところまで来てしまった。

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