主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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第11話

 仕事を終えた後に、レオーネがタツミを気に入り、アジトに連れて帰ったようだ。

 貴族の少女を斬った時に、こちらに来ることを覚悟していたために、仲間入りはスムーズに進むのではないだろうか。

そして、そんな中で、主水は、川辺で釣りをたしなんでいた。

 主水自身釣りが趣味でもあり、釣った魚は食べれるという実益つきなのだから、ある意味一石二鳥だ。

「見たことねえ魚ばっかだな」

主水は釣った魚を入れている、魚籠を覗いて呟く。

川釣りということで、アユやイワナ、アマゴ等を期待していたのだが、化け物の様にデカイ魚やら、どう見ても海水魚だろと思える魚ばかりであった。

 そうであっても、釣り自体が好きな主水は静かに釣りを満喫していた。

 鳥の囀ずりや、川のせせらぎを聞き、しばらく、長閑で、和やかな時間を過ごしていると、誰かが川原にやって来る。

「その足音と気配は……アカメか」

主水は振り向かずに茶目っ気たっぷりに言い当てようとする。

「正解。ここいい?」

「ああ、いいぞ。ってなんだそれ!!」

近づいてきたアカメの影があまりにも大きい為に、振り向くと、驚くべき光景が。

小柄なアカメが、自分の大きさを遥かに越える鳥を担いでいた。

「エビルバード」

アカメは質問に簡潔に一言で答え、集めた薪に火をつけ始める。

「エビルバードと言えば、村一つ潰すっていう特級危険種じゃなかったか」

主水は以前警備隊の書庫で見た、危険種図鑑に掲載されていたのを思いだし、記憶を掘り起こすように声に出して呟いた。

ちなみに特級危険種とは、危険種の区分上、上から二番目に危険とされる危険種で、一番危険な超級の次に危険なものとされている。

「そう。美味しいよ。主水も食べる?」

食に煩いアカメがまさかくれるというとは思っていなかったので、少し面食らった主水であるが、こちらも返さなくてはと思い。

「じゃあありがたく頂くな。でお返しに、今日釣った魚やるよ」

主水が提案すると、アカメは本当に嬉しそうに、目を輝かせていた。

仕事の時とのギャップに、主水は、驚きながらも、和み自然と笑みを浮かべていた。

「この魚なんだが」魚籠から体長1メートル程の魚を取り出す。

「これはコウガマグロ。警戒心が強くて、美味しい魚」

嬉しそうに眺めている。本当に食べるのが好きなようだ。

「悪いが、お前が調理してくれ。俺は料理はからっきしでな。メザシを焼くぐらいしかできん」

「メザシ?」

話の流れから料理名だと悟ったアカメが聞き返す。

食べ物には本当に貪欲である。

「この世界にはなかったな。まあ似たようなもんがあったら食わせてやるよ」

「うん!」

さらに目を輝かせるアカメを見て、期待させてしまったが、実物を見たら落ち込むだろうなと、少し罪悪感を感じる主水であった。

 パチパチと火にくべられた薪が音を立て燃えていく。

 脇には一本の棒で串刺しにされたコウガマグロと、エビルバードが。

 火で焼くだけというあまりにもシンプルな調理。料理と呼べる類いではないのは確かだ。

 薪が燃える音だけが鳴り、静寂が訪れる中で、アカメが唐突に口を開いた。

「主水はどうしてこの稼業を始めたの?」

アカメの表情はいたって真面目なので、いきなりな質問ではあるが、何かあるのだろうと考え、主水もはぐらかすことなく答えることにする。

「俺が奉行所、ここでいやあ警備隊に配属された時は、今と違って正義感に燃えていた。しかし、社会の真実を知っちまったんだ。金や権力にものをいわせて、あこぎで汚ねえことをするってな。で、俺はどこにもぶつけようがねえ怒りを覚えやる気を失った。そんな時だった。俺が以前勤めていた所で知り合った、念仏の鉄、想像しやすく言うと男版のレオーネみてえなやつ、それと棺桶の錠、ブラートみてえなやつの二人と悪人を斬る、この稼業に足を踏み入れたんだ。最初は、今までぶつける場がなかった怒りを悪人にぶつけることが主な始まりだった。それが始まりで、何度か解散や解体を味わいながらも、何故か気がつくとこの稼業に戻っているって感じで、今回もナイトレイドに加入したってとこだ。だからお前たちみてえな大層な目標などはなかった」

主水は昔を懐かしむように、遠くを見ながら話した。

その表情はどこか寂しげな、哀愁を秘めたものだった。

 その主水の話を静かに聞いていたアカメは、どこか言いにくそうに再び口を開く。

「主水は……仲間を………失ったことはあるの?」

主水は問いかけるアカメを見て、この問いこそがアカメが一番知りたがっていることだと理解した。

故に、主水にとっても話しやすいものではなく、そして、あまり触れられたくないことだが、仕事人の先輩として話すことにする。言葉を選びながら、慎重に。

「ああ、この稼業をやってりゃあ当然経験することだ」

主水が発した『当然』という言葉に少々反応をしながら、アカメは伏し目がちに聞いている。

「俺の仲間も今まで何人も死んできた。この稼業をやってりゃあいつ死んでもおかしくねえと、覚悟はしていたが、誰かが死ぬたびに、やりきれねえ思いをいつも抱えていた」

「主水でもそうだったの」

「ああ」

アカメは自分をどんな冷血漢と見ていたんだと、少しショックを受けた主水である。

「で続きだが、そんな思いをしたくなくて、仲間との距離を置いた時もあったな。また、俺はこの稼業を甘く見てるやつや、実を見ずに理想論ばかり語るやつには厳しく接するようになった。まあ死んで欲しくねえからな」

主水は少し照れながら最後の方は話す。

アカメも少し微笑んだ。僅かでも心が安らいだなら良かったと思いながら、更に続ける。

「ってことで、俺は、恨まれようが、疎まれようが、うざがられようが、仲間入りしたからには新入りには厳しく接していく。お前は新入りには優しくしてやってくれ」

「ありがと主水…」

顔を伏せたまま、アカメはポツリと呟いた、しばらく余韻に浸るのかと思っていた矢先に。

「主水って何歳なの?若く見えるのに、話からしたら結構な歳みたいだけど」

適切な突っ込みに主水はすぐには返せない。

実際の年齢は、見た目とは違いかなりの高齢。

だが、若返っているとは言えない。若返ったなどという非科学的なことなど信じられるはずはないからだ。

「まあ若くはねえな、多分ボスよりは若いと思うが、30歳前後ぐらいだ」

自分の歳すら断言できない情けなさを耐え苦笑いを浮かべ困ったように語る。

その刹那、言い様のない、威圧感と圧迫感が背後から主水に襲いかかる。

「私は20代だ!!」

頭に訪れる衝撃。

突如背後に訪れていたナジェンダが、ひきつった笑顔を浮かべ、主水の脳天に、鋼の鉄拳を降り下ろしていた。

 そんな微笑ましい?やりとりをしていると、タツミを引き連れたレオーネが。

「ここに皆固まっていたのか。でも珍しいな主水の旦那とアカメが一緒にいるなんて」

「ん」

「ありがと」

アカメから手渡されたエビルバードの肉を頬張るレオーネ。こちらもアカメと同様に食には貪欲だ。

「まあこんなこともあるだろ」

主水もアカメから肉を受け取り頬張りながらレオーネに答える。

「で、レオーネ。タツミに全メンバーの面通しはさせたのか」

「道中説明したし、ここで全員に会ったことになるよ」

「そうか。もう覚悟は決めているようだが、形だけはとっとかなくてはな。レオーネ全員集めてくれ」

ということで、ナイトレイド全員の前で入隊の意識確認が形なりに行われることとなった。

―――――

 しんと静まり返る執務室に、ナイトレイドのメンバーが一同に集まった。

 タツミは緊張した顔をしているが、仲間達は然程気にしてはいない。

「ではタツミよ。我らナイトレイドに加わるか?」

問い掛けられたタツミは一回、二回と深呼吸をすると、大きな声で宣言した。

「ああ加入する。話を聞いたらなんか正義の味方みたいだからな」

一瞬の静寂の後に笑い出す仲間達。

しかし、主水はあからさまに不機嫌な顔をして、大きく舌打ちをする。

「小僧勘違いすんじゃねえ。どんな御大層な理由や大義名分があろうと、殺しは、殺しだ。それが正義になるはずがねえだろうが」

主水は荒々しい口調で、タツミの発言を一刀両断する。

タツミは主水のただならぬ威圧感に気圧され黙りこくっている。

皆は一様に主水の言う正論に頷いている。

「そうですね。勘違いしてました。すいません。俺をナイトレイドに加入させてください」

素直に自分の非を認め、めげずに頭を下げるタツミにナジェンダも笑顔で頷き。

「ようこそナイトレイドヘ」

と迎え入れた。

 


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