主水(もんど)が突く!   作:寅好き

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更新まで空いた上にかなり文章量が少なくなり申し訳ありません。
期末テストが終われば文章量はきっと増えると思います。


第106話

 ゆらりと立ち上がったブドーは雰囲気が一転していた。

 それまでは冷静に立ち回りを行っていたが、今は昔、怒りにうち震えた雷神のような様相に様変わりしていた。

 髪が天を指すように立ち上がり、瞳は血走り、帝具アドラメレクから発せられる雷がブドーを取り巻きまるで雷の鎧を纏うかのような出で立ちになっていた。

◇◆◇◆◇◆

「ヤバイぞイェーガーズ。やつはまだ生きてる。それになんかとんでもない雰囲気が!!」

「ああ分かってる。天閉あれを使え。あの間合いならば使える」

「分かった」

ナイトレイドの命運をも握りうるある仕掛け。

天閉は懐に忍ばせていたリモコンのような物を取りだしボタンを押した。

カチッという無機質な音が辺りに響く。

天閉と主水は静かに仕掛けが始動するのを待つが全く動くそぶりすら見えない。

「………おい?なにも起きないようだが!?」

「嘘だろ」

天閉は青ざめ呆然とリモコンを見つめていた。

◆◇◆◇◆◇

「この私にこれほどのダメージを与える気概称賛に値する」

ブドーの起き上がりざまの第一声は敵であるナイトレイドへの称賛の言葉であった。

今まで幾度の戦いに身を置いてきたブドーであったが、かつてこれほどまでに苦しめられたことなどなかったため、本音をもってナイトレイドを称えたのだ。

それは古来からの武人としての潔さを感じさせた。

 しかし、次の瞬間ブドーの表情は一変した。

「故に解せぬ、許せぬ。なぜその気概を我が主に逆らうために使うのか、反乱軍にいるのかが。私は強い怒りを憤りを感じている。それは我が帝具アドラメレクも同じである!!」

ブドーは大気を揺るがすほどに怒気を放ちながら吠える。

「何をしようとしてるのよ」

ブドーの様相に危険性を感じ取ったマインが、一時アカメの援護を止め、ブドーの妨害をすべくパンプキンを放つ。

「フンッ!」

「えっ!?」

パンプキンの砲口から放たれた精神からのエネルギー弾だが、ブドーはそれを右腕の一振りで弾き飛ばした。

そして、高らかに天に向けて両手をあげ、叫んだ。

「雷帝招来!!」

ブドーの叫びに呼応するかのように青かった空に暗雲が立ち込め、稲光が雲間を走る。

無数に走る雷が一点に集約し、刹那轟音を響かせ氷の牢獄に落ちた。

「皆避けろ」

轟音にかき消されることのないよう、有らん限りの声で指示を飛ばすナジェンダ。

「ボスもだよ」

レオーネは左手にナジェンダを、右手にマインを抱えて走り出す。

 天を覆う氷は一瞬にして蒸発し、無数に雷で生成された光の柱が乱立するような光景が出来上がる。

 正に神の裁きと思えるような自然現象をも操る攻撃にもナイトレイドは狼狽える暇さえ与えられない。

 なぜなら、雷は一撃必殺の威力なのは明白であるため、皆は雷の降り注ぐ合間を縫うように駆け巡り、紙一重で雷を避けなくてはならないからだ。

「ハハハハ、さすがタツミだ。あのブドーを本気にさせるとは」

降り注ぐ雷をも見えなくなるほどの感動でエスデスはうち震えていた。

戦闘力ではエスデスと比肩し、冷静沈着なブドーに本気を出させるほどの戦いを演じたことが、まるで我がことのように嬉しく、降り注ぐ雷さえも些細なこととなっていたのだ。

 暗雲が消え、静寂が戻った場には、無数のクレーターと、赤く溶け溶岩と化した大地が無数に広がっていた。

「皆大丈夫か」

「なんとか」

「大丈夫だ」

ナジェンダの問い掛けに口々に答える仲間たち。

あの雷の猛攻をなんとか凌ぎきっており、ナジェンダもわずかに胸を撫で下ろした。

「アカメとマインは引き続きエスデスを頼む。ブドーは俺が倒す」

タツミはブドーに向けて走り出し、その勢いに任せて右腕を振り抜いた。

「ぐぬっ」

「なっ!」

ブドーの巨体が大きく揺らぐ。

まともにタツミの拳がブドーを捉えたのだ。

今までであれば経験則と極限まで研ぎ澄まされた武術で物理攻撃を悉く捌いてきたブドーにまともに攻撃が通ったのだ。

 しかし、それはブドーの戦いかたが変わったことを意味していた。

「なめるな!」

左手でタツミの腕を取ると右腕を振り抜く。

「ぐはっ!」

雷を纏った拳がタツミを捉える。

「まだだ!」

タツミの腹部にめり込んだまま、アドラメレクの杭が突き出る。

「ごはっ!!」

インクルシオの外装を物ともせず打ち抜くアドラメレク。

タツミはそのまま吹き飛び氷柱に叩きつけられた。

ブドーは戦いかたを「肉を切らせて骨を断つ」に変えていた。

自分はどれだけ傷ついてもナイトレイドだけは殲滅するという強い使命感からの変更。

「ブドー!」

「はっ」

「がっ」

迫っていたレオーネの拳もブドーを捉えるが、ブドーは揺るぐこともなくカウンター気味に腹部に強烈な一撃を加える。

レオーネの体はくの字に曲がり、吐血し、既に意識を手放していたが、ブドーは攻撃の手を緩めない。

「くらえ」

レオーネの危機にナジェンダも鉄の拳を全力で放つ。

しかし、ブドーは軽く受け止める。

「ナジェンダお前には失望したぞ」

鉄の拳とナジェンダがワイヤーで繋がっていることを把握していたためそのまま振り回しナジェンダをも氷柱に叩きつけた。

ナジェンダが氷柱に叩きつけられるのを見届けることなく振り向くと、浮いた状態のレオーネの背に腕を組合せ叩きつける。

「………」

骨が砕ける嫌な音と共に断末魔をあげることすらなくレオーネは地面にめり込み動かなくなった。

「姐さんにブドーオオオオオッ!!」

「未だに立つか……来いナイトレイドオオオオオッ!!」

もう立つことはないと判断していたタツミが立ち上がったことに僅かに眉間に皺を寄せるブドーだが、即座に反転しタツミを迎え撃つ。

 レオーネを葬ったブドーに対する激しい怒りか、もしくはインクルシオに潜在する戦闘本能かが作用したのか、もう限界を超えているはずのタツミが猛獣のように襲いかかった。

ーーーーー

「すまんなアカメ。タツミを見ているとどうも猛りがおさめられなくてな」

「なっ!?」

瞬き一つの間にエスデスの顔が目の前にあった。

今まではアカメとの戦い自体を楽しんでいたためアカメの強さに合わせて力を落として戦っていた。

しかし、タツミの強さを見せつけられたエスデスはタツミとの戦いを欲する思いと戦闘を欲する思いから、少し戦闘力を上げたのだった。

「させないわ」

アカメの構えが整わないという危機を救うべく放たれたパンプキンの攻撃を軽く体を傾けかわすと、細剣が軌跡を描く。

「くっ」

マインの攻撃により出来た僅かな間に体勢を整えたアカメは村雨で受け止めるが、その威力が範疇を超えたものであり、そのまま体は宙を舞った。

「次にはタツミが控えている。悪いが終わらせてもらうぞアカメ」

アカメの背後を取ったエスデスは、口許を上げつつ細剣を振りおろす。

絶体絶命と思われた。

しかし細剣がエスデスによって振るわれる一瞬の隙をつき眼前に氷柱が倒れてくる。

アカメをエスデスから引き離し、まるで攻撃を加えさせないように。

「何がうっ!?」

地面に倒れ崩れ飛び散る氷片と舞い上がる土煙の中、突如として現れた刃を脊髄反射の域で細剣で防ぎ、後方に飛び間合いを取る。

パラパラと氷片が落ち、砂煙が晴れると地面に倒れこんだアカメの前に立ちはだかるマフラーを目深にかける主水の姿があった。

 

 


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