「いったいイェーガーズの旦那はなにをしてるんだ。取り返しのつかない事になっちまうぞ」
戦いが激しくなることを音や辺りに舞う砂塵などから感じ取り、状況把握と自分の使命を果たすために戦いが見える位置まで近寄っていた。
何も起こっていないときならば二大将軍に気づかれかねないが、今戦いに身をおいているなかならば、気づくこともないだろうと自分に言い聞かせてのことである。
そして戦いの現状が把握出来たことにより焦りが大きくなっていた。
◇◆◇◆◇◆
「消し炭と化せ!ナイトレイドォォォォッッ!!」
ブドーの突き出した両腕から雷が轟くようなけたたましいスパーク音が響き、刹那蒼黒く収束された雷弾が放たれる。
雷を撒き散らし辺りのものを融解しつつ三人に迫る雷弾。
「引き付けて私が相殺する!」
マインがパンプキンを構えるが、額からは大粒の冷や汗が。
パンプキンは危機的な状況であれば、あるほど威力が上がる。
しかし、目の前に迫る雷弾は、自分の想像できるものを遥かに超えた圧力、威圧感のため、限りなく自分に近づいた所で撃たないといけない。
そのために、僅かに恐怖に体が震えていた。
自分がミスした瞬間全滅する。
明確な恐怖だった。
「マイン!!」
「えっ!?」
待ち望んでいた自分を勇気づけてくれる声だった。
声と共に現れた黒い影がマイン含めた三人の前に立ちはだかる。
「皆は俺が護る!!絶対にやらせねぇぇぇっっ!!」
白銀のマントをはためかせたタツミが雷弾を受け止めた。
「ウオオォォォ!」
受け止めている掌が焼けつき、さらには
その勢いに地を抉りつつ押されるタツミ。
(インクルシオ。お前の体はまだ生きてるんだろ?どれだけ苦しくても、痛くても構わない。限界まで力を、皆を護れる力を……帝国という不条理に打ち勝つ力をーーーーー俺に寄越せ!!)
インクルシオから溢れるほどの力が溢れタツミに流れ込む。
生き物のような禍々しいほどの力の奔流がタツミの中に吸い込まれるように流れ込んで行く様は、傍目に見ても寒気を催すほどのものである。
力が限界まで引き上げられたインクルシオは、今までの白く騎士然とした姿ではなく、まるで真逆の禍々しさ溢れる生前の竜種たる骨ばった刺々しい姿に変貌していた。
その力を示すかのようにタツミは背筋を使い雷弾を下から持ち上げるように上体を反らし雷弾を上空にはねあげたのだ。
雷弾は氷の天井を突き破り上空に舞い上がりはじけた。
「タツミなんで!!エスデスの相手は!アカメはどうしたのよ!」
本音を言えばマインは自分達を助けてくれたことが嬉しかった。
そのままタツミに抱きつきたかった。
しかし、自分達は今大事な戦いに身を置いている。
私情を挟めばそれだけで全滅の憂き目にあうかもしれない。
そのため、自分の感情を押し込めてタツミに問い掛けた。
「アカメがこちらに行くようにいったんだ。あとマインには頼みがある。アカメを援護してやってくれ」
「分かったーーーーーーーーーーーありがとう」
「おう!!」
頬を染めて小声で礼を言うマインに勇気付けられるタツミであった。
そして、さらに決意する。
ーーーーーーどんなことがあろうとも俺が皆を護る!!俺のために皆は命を賭けてくれたのだからと。
「まさかあれを避けるとはな。見事だ」
「いまだ!」
自分の攻撃を上手く逸らしたことに嘆息をもらしたブドーの隙をつきレオーネが背後をつく。
レオーネ得意の接近戦に持ち込むが、ブドーは的確にレオーネの連打を裁き続ける。
(私(獣)の反応速度についてくるのか)
「姐さん合わせてくれ!」
「ああ」
タツミがレオーネを相手するブドーの背面をつき、挟み撃ちを狙う。
「つけあがるなあああぁぁ!」
ブドーが吠える、地鳴りとともにブドーの体から円上に雷が迸り、二人の体を走り動きを拘束し激痛を与える。
「うおおぉぉぉ!」
「なぜ動ける!」
雷にうたれたことにより動けるはずがないと思われた所に、それを物ともせず攻撃を仕掛けてくるタツミに驚きが隠せないブドー。
(あの進化で雷にも耐性がついたというのか)
インクルシオの恐るべき進化。
さらにそれだけには留まらない。
「うっ」
速度も以前のそれとは違っていた。
(進化とはこれほどのものだったということか)
「ならばこれならどうだ」
タツミのストレートを右腕で受け止め流すと、左手で掌呈を打ち込みタツミの猛攻を止める、足場を固め僅かに両手で天を仰ぐ。
「耐性以上のもので消し飛ばす!雷撃に沈め!!」
轟雷が鳴り響き巨体な雷が落ちた。
まるで神が裁きを下すかのような天からの一撃。
雷が落ちた部分は大きく抉れクレーターが出来、黒く焼け焦げ一部は赤く融解していた。
「はぁはぁ……まさか……」
「僅かな予備動作で気づけたんだ。雷が来るってな!」
「ぬわっ」
背に担いでいたことらも強化された槍によりブドーの背は甲冑ごと大きく斬られ血渋きをあげ巨体が大きな音をたてて倒れこんだ。
ーーーー
「はっ!」
「剣筋がやはり変わっているがもう把握したぞ」
アカメの村雨による斬撃を大きめな間合いを取りつつかわすエスデス。
一撃必殺の村雨の能力を警戒してのことである。
「今度はこちらから行くぞ」
アカメの村雨を縦に構え受け止め、そのまま振り切り弾き飛ばす。
地面に着地しながらも勢いは殺しきれず後退させられ、体勢の整わないアカメに瞬時に肉薄するエスデス。
エスデスは振り上げた細剣を降り下ろすことなく、バックステップを踏み後ずさる。
刹那通り過ぎるパンプキンの射撃。
(これだけはなれていてもこの威力か。避けるのが良策か)
横目にパンプキンの位置を把握していると、すでにアカメが間合いに入っていた。
「大した連係だな」
「同じ釜の飯を食べ続けている」
「そうか」
嬉しそうに笑みを浮かべると間合いを作るべく強引に細剣を振り切った。
◆◇◆◇◆◇
「マジかよ。あの二人を相手に押し始めた。
タツミの急激な成長により形勢が逆転し始めていることに天閉の中で余裕が生まれ始めた時だった。
「悪い遅れた」
「イェーガーズ!遅れすぎた!」
姿を現した主水に文句をたれる天閉。
だが、それも今の余裕が成せるわざだった。
「どうしたんだよ?」
「まあ少しあってな」
主水は軽く虚空を見つめた。
◇◆◇◆◇◆
(なんで薬が効かねえんだ)
黙々と食べ続けるクロメを頭を抱えかねない様子で見つめる主水。
そんな時だった。
「やっぱり主水君ここにいた」
「すごいなセリューの言っていた通りじゃないか」
セリューとウェイブが走りよってきた。
セリューが今の時間ならここの店にいるだろうと読んで巡回を終えたのちにウェイブとやって来たのだ。
これが悪化する膠着状態の解消に貢献することになる。
(地獄に仏とはこのことだ。ウェイブ手ぇ貸してもらうぞ)
「二人ともよく来ましたね。これでも食べたら」
主水は手のつけられていないケーキを取ると、三人の死角において薬をもったものをウェイブに、薬をもっていないものをセリューに手渡した。
「おっ美味しそうですね」
「うん。とてもおいしい」
「そうか。じゃあいただきますね」
クロメのオススメということでウェイブは一口ケーキを口に入れた。
「…………」
ウェイブの手が止まり、そのまま瞳を閉じ眠りについた。
(しめた)
軽く笑みを浮かべる横で、
「ウェイブどうしたの?」
「急に寝ちゃった。疲れてたのかなぁ」
心配するクロメと、ウェイブを不思議そうに見つめるセリュー。
純粋な二人なので主水を疑うことすらしないことに、主水は僅かに良心の呵責を覚えるが、僅かな時間も無駄にできない切迫した状況なのでことを進める。
「クロメさん、セリューさん。どうやらウェイブは疲れがたまっているみたいなんで二人で部屋まで運んでくれませんか」
「うん」
クロメはウェイブの肩を担ぎ歩き出す。
すでに皿は空になっている。
「私は主水君を見張らないと」
笑顔で主水を見上げるセリュー。
主水と一緒にいたいのか、はたまた主水のサボりを監督するという使命感かは分からない。
「セリューさんも二人についていってあげてください」
「えっ二人だけでも大丈夫だと思うけど」
「それがダメなんです……セリューさんがいなくては」
顔をしかめ演技に入る主水。
「どういうこと」
と食いつくセリュー。
「ウェイブはスタイリッシュに貞操を狙われているんです」
「えっドクターに。でもウェイブもドクターも男だよ」
混乱したように疑問を呈するセリュー。
純粋なセリューには男と男といわれてもピンとこないらしい。
腐女子なら大喜びするような話ではあるが。
「そういう特殊な超級危険種のような者もいるんです。その人物を止められるのはセリューさんしかいないんです」
主水は真剣な眼差しでセリューの瞳を見つめた。
「ドクターを止められるのは私だけ」
「はい」
主水に見つめられて頬を染めるセリューは、しばし考えたのち頷いた。
「うん。私がドクターを止めなくちゃダメだよね。行ってくるね」
セリューはコロを引き摺りながら去っていった。
(なんだこの感覚は)
セリューの小さくなっていく背をなぜか感慨深く感じられた主水は軽く首を捻るが、ふっきって天閉のまつ戦場へ向かった。
◆◇◆◇◆◇
「どうしたんだ?」
「いやなんでもない。で、状況はどうなってる」
「見てみろよ。ナイトレイドが優勢だぜ。俺のあれを使わなくても良いぐらいにな」
天閉の指差す氷の牢獄ないでの戦いを見通す主水。
確かに天閉の言うように優勢に見えるーー表面上は。
「天閉。直ぐにあれを使えるように用意しろ」
「はっ?なに言ってるんだよ」
表情が苦々しいものに変わり、低い声で伝える主水。
その変わりように問いただす天閉。
「あれは優勢に見えるだけだ。直ぐに情勢は急転する」
鋭い視線の先で怒髪天を指すという形容が正しいであろうブドーがゆらりと立ち上がる様があった。
再び戦いに動きが出始めていた。